乱世の確率事象改変
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~幕間~ いたずらと甘いモノと
なんなのだこの状況は。
「秋斗さん助けて! 私一人じゃ抑えられないの!」
桃香に抱きかかえられ目を回している朱里。
「徐晃、何をしに来たのかしら?」
この状況の中俺を威圧する曹操。
「あわわ……」
曹操に抱きかかえられて真っ赤になっている雛里。
「なんて羨ましい……」
歯軋りしながら雛里を睨む猫耳フードの茶髪の女の子、荀彧。
俺は会議で疲れているだろうからと差し入れに来たはずだったんだが。ここは百合の園か。
「失礼した。どうやらお邪魔なようだ」
そう言ってすっと天幕から出ようとするが、
「秋斗さん待ってぇ~~!」
桃香の叫び声が響いたので振り返ることにした。再度確認してもやはり状況は変わらない。
「……説明を頼む、桃香」
この軍師会議の状況はなんなのか。
最近、本隊の場所に近づくにつれ多く、そして長くなる会議に皆疲れているだろうと差し入れを思いついたのが今日。
「えーっと、男の人には言いにくいんだけど……」
「私が説明してあげましょう徐晃。詳しく、ね」
いたずら好きの小悪魔のような笑みを浮かべて俺に言う。
百合は対象外だから大丈夫。耐えるさ。
†
「では、会議をはじめましゅ、はわわ!」
この子は緊張しているのかいつも噛む。そこが愛らしいのだけれど。
「はぁ、諸葛亮。今日の司会はあなたなんだからしっかりしなさいよ」
桂花はこの子達と知り合ってからお姉さん風をふかせるようになった。閨ではあんなに可愛いのに。
「す、すみましぇん」
「緊張することはないわ諸葛亮。あなたの才は桂花だって認めているもの。大きく構えていなさい」
私が褒めた事で桂花が少し照れている。あとでたんといじめないと。
「は、はい。しょれでは会議を……はわわ」
変わらずに噛んでしまい、結局先を続けられずに俯いてしまった。
ダメな子ね。戦の前にそれではしまらない。ああ、いいことを思いついた。
「諸葛亮、少しこちらに来なさい」
声を掛けると不思議そうにとてとてと近寄ってくる愛らしい姿。抱き上げて膝の上に乗せて抱きしめる。
「本当にダメな子。こうすれば緊張がほぐれるでしょう? あなたのそういう姿は愛らしいけれど、今は凛々しい軍師の姿が見たいわ」
耳元で囁くと強張る身体、熱くなる体温、そして口からはわはわと漏らして慌てている。前にいる劉備と鳳統は私の突然の行動に茫然としていた。桂花は……妬いているのでしょうね、顔が真っ赤だわ。
「あら、余計緊張してしまったかしら?」
「はわわ、いけましぇん会議中にこんな……」
「なんならこのまま会議をしても構わないのだけれど……それとも私の事嫌い?」
続けて囁き、耳に息を吹きかけてから軽く太ももを撫でつける。
「はわっ、しょ、しょれは」
さらに息が荒くなる諸葛亮にゾクゾクと嗜虐心が刺激されてきた。やはり初物をいじめるのはたまらないわね。
「そ、そそ、曹操さん! いけません!」
いつの間に近づいたのか諸葛亮をいじめることに集中しすぎてほっておいた劉備がばっと取り上げてくる。見ると諸葛亮は目を回してしまっていた。
「あら、嫉妬したのかしら劉備」
「してません!」
「桂花」
「はい、華琳様ぁ!」
満面の笑みで近寄ってくる桂花だったが掌を向けて制する。
いい返事ね桂花。でもまだダメよ。
「膝が寂しくなったわ。鳳統を連れてきてくれるかしら?」
「な!?」
「あわわ!」
「諸葛亮が目を回してしまったのだから落ち着くまで鳳統が司会をしてくれるのでしょう? あなたたち義勇軍側の献策を聞いてる間に諸葛亮は劉備が起こすでしょうし、それに鳳統は諸葛亮が出来なかったこともできるはずよ?」
さらりと対抗心を煽ってみた。この子は諸葛亮に少し対抗心を持っているようだから。
そう言うと桂花は打ちひしがれた顔でわたわたと慌てふためく鳳統を連れてきた。どうしたらいいのか分からず戸惑っていた鳳統を膝の上に優しく乗せる。劉備はまた茫然としていた。
「いい子ね。あなたも緊張しているようだからほぐさないと――」
「会議中に失礼するよ」
†
「――と言うのが事のあらましよ」
よくわかった。曹操が全面的に悪いじゃないか。朱里は犠牲になったのだ。
「で? 会議の邪魔をするに足る理由を説明しなさい」
ギラリと目を光らせて邪魔するなというように強い口調で曹操が命じてきた。
しかしこのまま続けるつもりか。それはまずいな。雛里も目を回しかねん。
「会議の差し入れを作って来たのですが。曹操殿、戯れを続けるのなら差し入れができませんね」
そう言うとばっとこちらに向かってきた雛里。曹操は少し不機嫌になってしまった。
「雛里、お前も簡単に流されるな」
「あわわ、ごめんなさい」
しゅんと謝る雛里になでなでしたくなるがどうにか我慢した。曹操の気持ちもわからんでもない。むしろ凄くわかる。だが一線を越えるのはいただけないな。
「そう。それは私の舌を満足させられるようなものなのかしら?」
「必ず。幽州の最高級でございますので」
聞いた途端、雛里が顔を輝かせる。好きだもんなこれ。レシピと材料店長にちょっとだけ貰っておいてよかった。
朱里が甘い匂いに誘われて起きたようで、うーんと目を擦りながら身体を起こし、
「はわわ! 秋斗さん、何故ここに!?」
俺がここにいる事に仰天していた。
「会議の差し入れだ。大丈夫か、朱里? 桃香もご苦労様」
「うう、ホント辛かった……」
「まあこれ一緒に食べて元気出せよ」
そう言って机の上に皿を並べてケーキを置き、シロップを垂らす。材料足りなくてプチパンケーキみたいになったが。
「へぇ、見たこともない甘味ね」
「ええ、幽州のとある店の限定商品なので」
実はホットケーキは店での隠しメニューになっていたりする。店長が条件を設定していて、それを越えた人にしか食べさせないとか。
星と雛里、牡丹くらいしか食べているのを見たことがないが。俺は味の確認と銘打って何度も食べているのは当然内緒だ。
「えぇ!? 私食べたことない!」
「私もです。雛里ちゃんは……あるみたいだね」
「あわわ……」
「華琳様! この男の作った物など危険です!」
「そう、桂花。ではあなたが一番に食べてみなさい」
びくりとしてこちらを睨む荀彧。俺が何をした。ちくしょうめ、食べて驚け!
曹操に言われては仕方なかったのか恐る恐る口に入れた――
「ふわぁ……」
――瞬間、顔が明るくなる。こいつ堕ちたな、ホットケーキの魔力に。
「桂花? 感想を述べなさい」
「っ! その……この世のものとは思えない……おいしさでした」
店長の特殊材料は現代のホットケーキの数倍のおいしさを出せるからなぁ。
「……では私達も頂きましょう」
そう言って行儀よく切り分け口に運ぶ。雛里はすでにもふもふと幸せそうに食べていた。
朱里も桃香も口に入れた。
「「「っ!!」」」
その表情は驚愕、桃香と朱里も堕ちたな。曹操は最初こそ止まったが無言で食べ進めている。
それから全員が食べ終わるのを待つこと幾分。
「ごちそうさま。徐晃?」
何でしょうかね。ダメだしならどんとこいだ。店長みたく作れるわけがないので少しへたってしまったし……
「なんでしょう?」
「これの作り方を教えなさい」
「教えられません」
そんな曹操の命令を即答、拒絶する。
「……何故かしら?」
「友の店の限定商品なので広まると被害がでますから」
「なら内密に作るだけならいい、と?」
「それでもできません」
「へぇ……」
言葉と共に強烈な殺気が漏れてちくちくと肌を突き刺す。あまりの様子に朱里と雛里は震えてしまっていた。
「ちょっとあんた! 華琳様がおっしゃっているのに何よ!」
口ではそう言っているが自分ももっと食べたいという期待の色が透けて見えているぞ荀彧。
「というか無理なんです」
「は?」
「作り方は分かります、しかし材料が特殊でして、それは友しか知りませんし教えてくれないでしょう」
事実だ。あの店長しかこの膨らし粉の作り方は知らないし、他の材料についてもどうしたらここまでおいしくなるのか分からないのだから。
「その店の名は?」
「超高級料理飯店『娘娘』、の支店の『娘仲』です。」
朱里と桃香がびっくりしている。支店でもかなり高いからなあそこは。曹操は店の名前を耳に挟んだ事があるのか一瞬目を見開き、すぐにすっと目を細めた。
「……わかった。それなら仕方ないわ。ではその蜜はどうかしら?」
なんとメープルシロップだけ別物として扱ってきた。すぐに答えることが出来ずいると、曹操は勝ち誇った笑みでにやりと笑う。
これは明らかに俺のミスだ。もう言い訳は通用しないだろう。
「……大量生産はできません」
「内密にすると約束しましょう」
やはり、すでに確定させられていた。もはや教えるしかないらしい。
「誰にも教えることも見せることもしないと約束できるなら」
「いいでしょう。後で書簡にして渡しなさい」
「ではその代わりに、一つ」
「……言ってみなさい」
「もしあなたの街に友の店の支店ができたなら、支援して頂きたい」
これくらいはいいだろう。それと、先日の件の借りも返せるはず。あれは過不足の無いモノだと夏侯淵達が証明してしまい、曹操にも報告が言っているだろう。なら俺の心一つで貸し借りの有無が成立する。
「……どの程度の?」
「本店店主が来ることが必ずあるでしょうからその時店主にホットケーキと伝えてください。後その店で一度食事していただければ。その後はあなた次第です」
「ふふ、おもしろい。受けましょう。それと……おもしろい余興をくれたようだから貸しは帳消しにしてあげるわ。あれはこちらとしても損はほとんど無い」
「ありがとうございます。では後程、先ほどのような戯れが行われなければ書簡にて注意書きと共にお渡しいたします。雛里も朱里も桃香も会議がんばれよ」
さらっと言い切り、交渉をしだした俺たちに呆気にとられていた三人に声をかけその場を後にする。
これであの店長も後々楽になるだろう。会議の百合百合しい熱も冷めたしな。
曹操は貸しは無しとし、先手を打って器を示しに来たのか。食えない人だ。さらにこれ以上俺が返すかどうかも同時に試している。まあ、踏み倒すというより店長の存在だけで十分な返しになると後々気付くだろうから問題は無いが。
その後、会議は滞りなく行えたと報告を聞いた俺は、安堵と共に書いていた楓蜜の書簡を兵に届けるよう指示してから、次の戦に備え寝るのだった。
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