ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百二十九話:ポートセルミのモンスターじいさん
「すまない。モンスターじいさんに会いに来たんだが。誰かいないか?」
ヘンリーを先頭に、モンスターじいさんの事務所への階段を降りて。
誰もいないように見える薄暗い事務所の奥に向かって、ヘンリーが呼びかけます。
「おるよ。いま行くゆえ、少々待たれよ」
人の声とガサガサと紙の束を動かすような音がした後に、ややあって奥からじいさんが姿を現し、ヘンリーをじっと眺めてから口を開きます。
「ふむ。見たところ、モンスター使いでは無いようじゃが。何用かの?」
「俺は違うが、連れがそうでな。話を聞きたいって言うんで、付き添って来た」
「ふむ。成る程」
師匠と比べると、随分と落ち着いた感じのじいさんです。
じいさんがヘンリーの肩越しに私を見やり、得心が行ったように頷きます。
「ふむ、聞いとるよ。最近目覚めた、新人じゃの。ドーラ嬢に、連れのヘンリー殿であったか。イナッツ嬢の話では、かなりの素質の持ち主であるとか。仲間のモンスターを見る限り、間違い無いようじゃの」
「恐れ入ります」
話を聞いてたからって、名前まで覚えているとは!
なんだか結構、出来る感じのじいさんですね!
「ふむ。立ち話もなんじゃの。まずは、かけなされ。オラクルベリーとは違い、ここには儂しか居らぬゆえ。儂が淹れるゆえ美味くも無いが、茶でも淹れて参ろう」
「あ。良ければ、私が。ご迷惑でなければですが」
「ふむ。ならば、頼めるかの」
師匠ではありませんが、同じ世界の先輩にあたるわけですからね!
お茶くらい、淹れさせてもらいますとも!
着いてこいとでも言うように歩き出したじいさんに続こうと、前に出ようとした私をすかさずヘンリーが遮ります。
「ちょっと、ヘンリー」
「俺も手伝う」
「……」
十年前は、まともに料理も出来なかったヘンリーですが。
元々器用だっただけあって、十年の間にすっかり上達してまして。
城育ちで舌が肥えてたせいか、素質があったのかなんだか知らないが、どうやっても家庭料理の域を出ない私に対して、なんだかもう次元が違うところに突入してやがりまして。
この人数に茶を淹れるくらい二人でやる程のことでも無いんだが、私が淹れるよりたぶんヘンリーのほうが上手いだけに、断る程でも無い。
……私が下手なんじゃない!
私だって、普通レベルは超えてると思うし!
ヘンリーが、上手すぎるんです!!
「ふむ。ならば、二人とも。こちらじゃて」
私がなんか言う前に、じいさんがヘンリーも含めて誘導してくれます。
部屋の主たるじいさんが認めたのであれば、いよいよ私が断る余地は無いので。
先に進むヘンリーに続いて、事務所の奥のキッチン的な場所に到着します。
「茶葉と道具は、ここじゃ。魔物用には、これを使えばいいじゃろう。茶菓子は、貰い物が丁度あったの。ふむ、これじゃ」
「ありがとうございます。では、後は私たちが」
「ふむ、では任せる。儂はドーラ嬢の連れの魔物たちと、話をさせて貰うゆえ」
「わかりました」
道具類の場所を簡潔に説明してくれた後、じいさんが仲間たちの待つ事務所にいそいそと戻っていきます。
じいさんを見送って、ヘンリーが口を開きます。
「……なんか。オラクルベリーのセクハラじじいとは、かなり雰囲気が違うな」
「そうだね。本当に、魔物が好きそうっていうか。研究熱心なのかな」
「そうだな。……あれなら、心配は無さそうだが。でもまだ油断はするなよ」
「……」
油断って。
だから一体、何をそんなに警戒してるんだ。
そんなことを話しつつ、お茶と茶菓子を準備して。
手分けして、と言ってもモモ用の器とか重そうなのはほとんどヘンリーが持って、申し訳程度に私も茶菓子なんかを持って、事務所に戻ります。
『あ、ドーラちゃん、ヘンリーさん!お帰りー!』
「恐れ入ります、ドーラ様。主を働かせて、臣下たる拙者がこのような」
「ただいま。いいよ、そんなの。私がやるって言ったんだから。モンスターじいさんも、みんなの話を聞きたがってたみたいだし」
お茶淹れるスライムナイトとか、ちょっと想像つかないし。
できるならやるって言ってそうなものだから、さすがにそれはできないんだろう、ピエールは。
私の発言を受けて、モンスターじいさんが目をキラキラさせながら興奮気味に口を開きます。
「うむ!ドーラ嬢の仲間たちは、素晴らしいの!まず、このキラーパンサーのモモ嬢!キラーパンサーが仲間になると言うこと自体、儂の短くは無い人生でも、見るのは愚か聞いたことすらも無かったが!野生のキラーパンサーの思考の単純さと比べ、彼女はあまりにも賢い!この賢いモモ嬢と、未だ目覚めておらなかったとは言え高い素質を持つドーラ嬢が出会い、仲間と出来たこと!モモ嬢の賢さか、ドーラ嬢の素質の高さか。どちらが大きかったのか、或いは双方が揃って初めて成し得たのか。まさに、運命と呼ぶべき事柄じゃの!」
……うっ。
そ、そうか、このじいさんも当然、モンスターと話せるんだろうから。
モンスターじいさんたるもの、当然キラーパンサーくらい、見るくらいは見たことあるよね!
そしたらモモの不自然な賢さにだって、当然に気付いちゃうよね!
そんな私の困惑を知ってか知らないでか、全く慌てずにお茶に口を付けるモモ。
『あ、おいしいー!お茶って初めて飲むかもしれないけど、おいしいんだね!熱さも、これくらいなら大丈夫!ありがとう、ドーラちゃん、ヘンリーさん!』
「う、うん。温度はね、ヘンリーが気を付けてくれたんだ。美味しく飲めるなら、良かった」
……キラーパンサーでも美味しく感じられるとか、キラーパンサーとしては初めて飲むとかは言ってないから。
モモも、前世のことは言わないように、気を付けてはくれてるんだろうけど。
なんだろう、すごくドキドキする……!
モンスターじいさんもお茶を一口飲んで、さらに話を続けます。
「ふむ!美味い茶じゃの!やはりあの不味さは、茶葉のせいでは無かったか!……それはさておき。次にこちらの、ドラゴンキッズのコドラン君!人語を操るドラゴンキッズとは、初めて見たの!」
「え?そうなんですか?」
ドラゴンだからそれくらい余裕でできる的なことを、コドランは言ってた気がするんだが。
確かに野生のドラゴンキッズが話してるのは聞いたことが無いが、邪悪な意思の影響で理性を失ってるとか、敵だからわざわざ話しかけないとか、そんな理由かと思ってたのに。
「……コドラン?そうなの?」
「んー?どーだろーね、他のヤツらのこととか知らねーし。その、ドラゴンキッズ?とか呼ばれてるのも、今知ったし」
「……」
……実はドラゴンキッズじゃないとか、そんなオチ?
ていうか、そもそもドラゴンキッズって何なの?
成体でも小さいからキッズっていう、そういう独立した種なのか、他のなんかの幼体なのか。
そんな私の疑問に答えるように、モンスターじいさんが話を続けます。
「ドラゴンキッズの生態については、よくわかっておらぬところが多くての。寿命の長いドラゴンゆえなのか、なかなか研究が進まぬのじゃ。ドラゴンキッズとひとくくりに呼ばれておるものが、単一の種を指すのかどうかすら、わかっておらぬでの」
え、そんな正体不明なの?ドラゴンキッズって。
そして寿命が長いって、実はコドランももう結構長いこと生きてたり?
「……コドランってさ。今、いくつなの?」
「え?何年生きてるかってこと?……どーだったっけ。数えてねーから、わかんねーや」
「……」
緩いな!
そんな、色々と緩いというか、何となくな感じで生きてるの?
コドランだからなのか、寿命の長いドラゴンからしたら、一般的にどうでもいいことなのか。
研究が進まないって、そういう種族的な性格のせいもあるのでは。
当人たちが気にしてなくて覚えてないから、聞いてもわからないっていう。
コドランにもっと色々聞いてみるべきか、どうせ覚えてないだろうとか考える私の様子には構わず、またモンスターじいさんが言います。
「さらにこちらの、スライムナイトのピエール殿!人間に従うこともあるとは聞いておったが、思考の単純な他の多くの魔物と違い、邪悪な心を祓い、強さを認めさせさえすれば良いというものでは無いでの。忠義を尽くすに値する存在と認めさせれば良いとは言え、言うは易く、行うは難しじゃ。そういった例が過去にあったと聞いてはおったが、実際に見るのは、これも初めてじゃの。驚いたの」
「……そうなんですか?」
え、じゃあさ。
十年前にたまたまピエールに見初めてもらってなかったら、いくら頑張ってもスライムナイトをゲット出来なかった可能性があるってことなの?
私の疑問に答えるように、今度はピエールが口を開きます。
「ドーラ様。他のスライムナイトが気が付く前にドーラ様にお会い出来ましたのは、拙者にとっての幸運にござりました。拙者がおらずとも、いずれ誰かしらがドーラ様の存在に気付き、先を争って従ったことにござりましょう。気付ける力のあった者の中で誰よりも先んじてドーラ様に出逢い、見逃すことも違えることも無く価値に気付き、付き従うお許しを頂けました拙者こそ、スライムナイトで一の幸運に恵まれた者にござります」
「……」
そうだろうか。
確かに、選ばれし血筋と運命の元に生まれたドーラちゃんともなれば、そんなこともあるかもしれないけど。
でも能力さえ高ければとかそんな話じゃ無さそうだし、そんなに上手くいっただろうか。
……だけど。
他はともかく、このピエールが私を選んで、着いてきてくれたことだけは間違い無いんだから。
「……うん。ありがとう、ピエール」
「はっ。ドーラ様が礼を言われるには及びませぬが。有り難き幸せ」
「ふむ。確かにドーラ嬢であれば、望めばいくらも従いそうではあるの。モンスター使いとしての資質の高さとは別に、何かこれはと思わせるものが、あるような。……何じゃろうの、ただのモンスターじいさんの儂には、よくわからんがの。……最後に、スライムのスラリン君じゃが」
最後に、スラリンに目をやるモンスターじいさん。
首を傾げるように揺れる、スラリン。
「ピキー?」
「……スラリン君はの。まあ、スライムじゃからの。どんなに素質が低くとも、モンスター使いなのであれば。スライムすら仲間に出来ないのであれば、それはもうモンスター使いとは呼べぬからのう。まあ、基本中の基本じゃの」
「ピキー」
頷くように揺れる、スラリン。
一人だけ普通みたいなこと言われてるのに、大人だなあ、スラリンは。
「とは言え基本でありながら、将来性の高さは折り紙付きでの。そこまで育てられる力の持ち主はそうはおらぬが、これもドーラ嬢であれば。他には成し得ぬ、最強のスライムに育て上げられるかもしれぬの。頑張れよ、スラリン君」
「ピキー!」
「うん、頑張ろうね、スラリン!最強のスライムに、してあげるからね!」
ていうかみんな普通なつもりで仲間にしてたのに、思ったより普通じゃ無かったとかそっちがおかしいだけだからね!
普通かどうかとか、仲間になっちゃえば別にもう関係無いし!
レベル九十九にだってやればなれるんだから、頑張ろうね、スラリン!
一通り話し終えて満足した様子のモンスターじいさんが、思い出したように聞いてきます。
「む、そうじゃ!儂ばかり話してしまったが、ドーラ嬢は儂に用があって来たのじゃったな?済まぬな、モンスターについて語り出すと止まらぬでのう」
「いえ、興味深いお話でした。私の用事は、モンスターの食事のことなのですが」
モモが入るまで、あんまり気にして無かったんですけどね。
スライムとか見るからに雑食っぽいし、ピエールは見た目が人間に近いし。
ドラゴンだって人より耐性は高そうだから、人間が食べられて彼らが食べられなさそうなものが、あるような気がしなかったというか。
だけどモモは、猫科っぽいからなあ。
前世の世界だと、猫にあげてはいけない食べ物がいくつかあったし。
ネギ類とかチョコとか青魚とか、覚えてる範囲のものは避けて、食後に念のためキアリーかけてみてたけど。
前世の常識がこっちで当てはまるとは限らないし、そもそもモモは猫じゃなくてキラーパンサーだし。
わかるものなら、きちんと確認しておきたい。
本当は食べても大丈夫なのに、勘違いで食べられないとかそれも可哀想だし。
「ふむ。モンスターの食事は、イナッツ嬢が管理しておるでの。それならば儂よりも、彼女に直接聞くが良かろう」
「……えーと」
それは、オラクルベリーに行けってことだろうか。
ルーラも無いこんな世の中じゃ、簡単に行こうと思っても行けないし、あってもヘンリーによってあっちは出入り禁止されてるんですが。
「では、呼んでくるゆえ。手が空いておらねばすぐにとはゆかぬであろうが、何、そうはかからぬであろう」
「え?」
「では、少々待っておられよ」
止める間も聞く間も無くモンスターじいさんが席を立ち、奥へと入って行きます。
「え?……え?」
「……出張。するかもとか言ってたな、イナッツさん。そう言えば」
「……そうだけど。まさか、そんな。いま言って、すぐとか」
混乱する私に、思い出したようにヘンリーが呟きますが。
ルーラも無いのに、まさか、そんなね?
と、思い浮かんだ可能性を現実的な思考で否定する私たちに、奥から明るい声がかけられます。
「ドーラちゃん、ヘンリーくん!お久しぶりね!」
……現実的な思考と言うものは、その世界の常識をきちんと把握して無い限り成り立たないものなのだと、改めて思い知りました。
ページ上へ戻る