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“死なない”では無く“死ねない”男

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話数その12 聞きゃしない

突如、オカルト研究部に現れた男、ライザー・フェニックス。彼はリアス・グレモリーの婚約者らしいが、傍から見ても嫌われている事が分かるほど、嫌悪の表情を向けられていた。しかし当の本人は気付いているのか居ないのか分からない。


 そんな空気の中で中々に白熱した言い合いが続くが、晋は他人の……ましてや自分の目的である静かに暮らすという事を、否定するばかりか邪魔してくる人物の婚約の事など如何でもよく、逃げられないならと“童歌全集”という本を読み始めていた。その本は相変わらず分厚い。


「いい加減にして頂戴ライザー! 以前にも言った通りあなたとは結婚しないわ!」
「ああ、以前にも聞いたよ。だが君のお家事情は意外と切羽詰まってると思うんだが?」
「余計なお世話だわ! 私が次期当主である以上、婿は自分で決めるつもりよ! お父様もお兄様も皆急ぎすぎてるのよ! 当初の話じゃ私が大学を出るまで自由にさせてくれるはずだったじゃない!」
「その通りだリアス、君は基本自由だ。大学に行ってもいいし、眷属も自分で決めていい。だが先の戦争で減ってしまった純血悪魔の血を絶やさないこと、それは悪魔全体の問題だ。だから君のお父さんもサーゼクス様もこの縁談を進めた。この縁談は悪魔社会の未来が懸かっているんだ」
(……五月蠅ぇなぁ……)


 会話の白熱っぷりは中々のもので上昇の一途の身をたどり、下降する気配は一向に見せない。


「これが最後よ、ライザー! 私はあなたと結婚しない!」
「リアス、俺もフェニックス家の看板を背負っているんだ! 名前に泥を塗られるわけにはいかない……いざとなれば、君の下僕を全員焼き尽くしてでも君を冥界に連れて帰るぞ!」


 その声と共に、ライザーは殺意と敵意の籠った火のオーラを纏う。
 黒髪の男子生徒・兵藤一誠は手を震わせており、金髪の外国人女子生徒・アーシア・アルジェントは兵藤の袖にしがみついていた。塔城とイケメン男子生徒・木場祐斗は震えてこそいないものの、臨戦態勢を取ってもおかしくない雰囲気を保ち、グレモリーは赤黒いオーラを纏って何時でもライザーを迎え撃てるようにしている。
 そんな一緒即発の空気の中で、晋は堂々と本を読み続けている。場違いにも程があるが、符のせいで帰るに帰れないのでしょうがないとも言える。……本を読むのを止めるぐらいはした方がいいと思うが。


「お二方とも落ち着いてください。これ以上は私も黙ってみているわけにはいきません。わが主サーゼクス様の名誉のためにも遠慮はいたしません」


 そんな彼等を別の、強烈なプレッシャーが襲う。出所はグレイフィアだった。


「……最強の『女王』と称されるあなたと相対する訳にはいかないな」


 その言葉と主にライザーはオーラを納める。同時にオカルト研究部内に蔓延していた一緒即発の空気も少し収まった。
 それを見たグレイフィアは、一つだけ間をおいた後、話しだす。


「こうなることは皆様重々承知でした。よって最終手段として『レーティングゲーム』をなされてはどうでしょうか? ご存じの通り、本来『レーティングゲーム』は成熟した悪魔しか参加できませんが、今回は非公式のものですのでお嬢様でも参加できます。この場合の多くが―――」
「身内同士、お家同士のいがみ合い。つまりお父様方はゲームで婚約を決めるつもりのようね……何処まで私の生き方をいじれば気が済むのかしら……!!」
(……ざまぁみろ、無駄乳……)


 やはり、そしてなかなかにひどい晋の思考だが、その言葉を口に出さないだけマシかもしれない。 おそらく、彼なりに空気をよんでいるのだろう。


「俺は成熟した悪魔だし公式の経験もある、勝ち星だって多い。それでもやるっていうのか?」
「ええ! あなたを消し飛ばしてあげるわ!!」
「わかった……俺が勝ったら即刻結婚してもらうぞ、リアス」
「ご二人の意志は私グレイフィアが確認させてもらいました。……では、ご両家には私からご報告いたします。後戻りはできません、よろしいですね?」
「ええ」
「ああ」


 お互い頷いた後、ライザーは部室を見渡しグレモリーに問う。


「ところでリアス、ここにいるメンツが君の下僕かい?」
「……そこで本を読んでいる彼は違うけど、そのほかは私の下僕よ」
「ははは! これじゃ話にならないんじゃないか? このメンツでは『雷の巫女』ぐらいしか俺の下僕に対抗できそうにないな」


 そう言うと同時にライザーは指を鳴らし、魔法陣を出現させる。その魔法陣からライザーの時と同様に炎が噴出し、ライザーの眷属と思われる者たちが現れた。


「これが俺の可愛い下僕たちだ」
(……よりによって、女ばっか……)


 そう、メンバー十五人は幼女、少女、女性……晋のいうとおり全員“女”であり、俗に言うはハーレムと言う物を形成していた。その様子を見た兵藤は、文字通り血の涙を流している。


「お、おいリアス……君の下僕が大号泣してるんだが……」
「その子の夢がハーレムなの。だからそれを形にしたあなたに感動してるんだと思うわ」
(……くっだらねぇ……)
「う…きもーい」
「ライザーさま、この人気持ち悪いよぉ」


 尤もな事をライザーの眷属達はいい放つが、その様子を見てライザーは何かを思いついたらしく、にやりと笑った後眷属の一人に歩み寄り――――


「ふ……」
「ん…ぁっ……」


 徐にキスしだした。おまけに胸にまで手をやっている。 それが終わると、それは一人目だと言わんばかりに別の眷属へも同じ事をし出した。 それを何回か行った後、いきなり兵藤の方を向き、ドヤ顔で言い放つ。


「おまえじゃ、こんなことは一生できまい。下級悪魔くん」
「うるせぇっ! 思った事そのまんま言うんじゃねぇ!! ブーステッド・ギアァッ!!」


 赤い光と共に兵藤の左手に真っ赤な籠手が装着される。彼は『Boost!!』という機械音が籠手から聞こえるのと同時に、怒りのままにライザーへと殴りかかる

「やれ、ミラ」
「はい」


 ライザーは見下したような視線を向けた後、眷属の一人に命令を出し、それに答えながらミラと呼ばれた女子が飛び出していく。


(……喰らっちまうな、アレ)


 晋の思考どうり、兵藤はミラの持つ棍の一撃で吹き飛び、壁に叩きつけられた。


「ブーステッド・ギア……確かにその神滅具(ロンギヌス)は凶悪だが、使い手がお前みたいな雑魚じゃ話にならない。こういうのを確か『宝の持ち腐れ』って言うんだったか」


 ライザーは嘲笑うような声色で言うが、気絶してしまっている兵藤は何の言葉も返せない。


「リアス、ゲームまでに10日の時間をやろう。それまでに少しでもそいつを使えるようにした方が面白そうだ」
「……ハンデをくれるって言うの?」
「ハンデ無しで勝てるとでも?」
「……わかったわ、私たちに時間を与えたこと後悔する――――」
「なんなら、そこの人間も加えていいんだぜ? ま、人数合わせにしか無らんだろうがな!」
「え?」
「……は?…」


 唐突に発したライザーの言葉に、グレモリーと晋の眼が丸くなる。がしかし、その提案でグレモリーはある事を思いつく。


(待って……もしかしたらこのレーティング・ゲームに参加させる事で、灰原晋の目的は兎も角正体が掴めるんじゃないかしら……?)
「……あのなぁ……俺は人間なうえ他人―――」
「その言葉、後悔しないわね? ライザー」
「……おい、無駄乳―――」
「はっ! 後悔? 何の事だか分からないが……まぁ、人間がボロボロにされてもいいって事は分かったぜ、リアス」
「……おい、エセホス―――」
「それじゃ、十日後を楽しみにしてるぜ」


 晋の意見など全く聞かず、ライザーとその眷属は去って行った。 呆然とする晋にグレモリーがにっこり微笑んでこう告げた。


「そう言う事だから」
「……如何いうこった……」
「言っておくけれど、コレは貴方にも利があるのよ? このレーティング・ゲームに出てくれたら、私達からのしつこい追及は、もう無しにしてあげるわ」


 即座に断ろうとした晋だったが、グレモリーの提案に黙ってしまう。そして、校門で木場と話した時以上にたっぷりと時間をおいた後、疑い一色の表情でグレモリーに向けて、念を押すように呟いた。


「……本当だな? …もうこれ以上、ダルい事を投げかけて来ないんだな……?」
「ええ、約束するわ」
「……本当に、本当……だな?」
「勿論よ、本当に止めるわ」
「……わかった……コレが終わったら本当に静かな日常に戻させろよ…」


 その一言を言った後、晋は札の貼ってある腕部分を、肩の肉ごと切り落とす。いきなりの自傷行為にグレモリー達は驚き、グレイフィアでさえも表情を変えたが、すぐに肩は再生し元に戻る。 なるほどと言った感じのグレモリー達に対し、グレイフィアは更に驚いたような表情をする。


「……最初からこうすりゃよかった……何で思いつかなかったんだ……」


 ブツブツ呟きながら去っていく晋を、訝しげな表情でグレイフィアは見やる。やがて、彼の姿、気配共に完全に遠ざかってから、グレイフィアはグレモリーに問う。


「リアス・グレモリー様……彼は一体何者なのですか?」
「それは……今回のレーティングゲームで分かるかもしれないわ」


 グレイフィアは静かに頷くと、すぐに魔法陣で去って行った。


「……彼の事も気になるけれど……まずは、自分達の事を優先しないとね」


 そうグレモリーは呟くと、アルジェンとが治療中の、未だ気絶している兵藤の元へと足を進めた。

 
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