万華鏡
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第四十八話 文化祭の準備その四
「無茶ばかりなのよね」
「何かヒトラーみたいだよな」
美優はこの独裁者の名前も出した、言うまでもなくスターリンと並ぶ二十世紀最大、最悪と言ってよいかも知れない独裁者だ。
「アイディアが突拍子もないってな」
「指導力もあるしね」
「流石にチョビ髭も軍服もないけれどな」
「差別とかもしないし」
ついでに言えばヒトラーは実は結構背があった、一七五あったとも一七二だったとも言われているが当時のドイツ人の平均位は普通にあった。
「人間としてはいい人だけれど」
「色々とねえ」
「癖が強いっていうか」
「ちょっと、いい過ぎよ」
ここで部長が五人のところにぬっと出て来た、小柄な為五人の間から出て来た形になったのだ。
「私はね、そういうね」
「褒められることはでしたね」
「苦手でしたね」
「ええ、そうよ」
その通りだというのだ。
「差別しないとかね、指導力あるとかね」
「そう言われるとですか」
「駄目なんですね」
「褒められるの苦手なのよ」
童顔を赤くさせての言葉だ。
「どうにも」
「何か自慢はいつもされてますけれど」
「それでもなんですね」
「そう、褒められるのは駄目なの」
それはだ、どうしてもだというのだ。
「だから褒めないの、いいわね」
「普通人は褒められて伸びますよ」
琴乃は首を捻りながら部長にこう返した。
「けれど部長さんは違うんですか」
「恥ずかしいのよ」
それはかえってだというのだ。
「どうしてもね」
「そうですか」
「よくね、うちのお父さんとお母さんにも褒めてもらうけれど」
どうやらそうした親らしい、けなすより褒める教育方針だというのだ。
「駄目なのよ」
「ううん、そうですか」
「よく言われることって子供の頃から抵抗あって」
それは子供の頃からだというのだ。
「苦手なのよね」
「別に皮肉とか嫌味じゃないですけれど」
「それでもですか」
「褒められることはですか」
「どうしてもなんですか」
「そう、苦手だからね」
それでだというのだ。
「褒めることはしないでね、私がいるところではね」
「わかりました、それじゃあ」
「もうしないです」
「そうしてね、まあ文化祭はね」
その時はだ、どうするかというのだった。
「気合入れていくわよ」
「はい、それじゃあ」
「衣装もですね」
「歌も目立ってこそよ」
まずはそこからだというのだ、部長は元の顔になっていた。そのうえで堂々と宣言したのだ。
部活はこの日も順調だった、しかし通常の部活が中断される時は間違いなく近付いていた。そして遂にだった。
その日が来た、その日は朝からだった。
皆慌ただしい、授業もよそに皆文化祭の用意に入っている、店の装飾に使うものを作る為の木材なり紙なり絵の具なりが運ばれてくる。
衣装も食材も飲料もだ、そして。
酒とつまみがどんどん持ち込まれる、琴乃は軽音楽部の部室に自分が買って来たビーフジャーキーを置いてこう言うのだった。
「いよいよね」
「ああ、だよな」
美優はゴーヤだ、それを置いて琴乃に応える。二人の前には四リットルのペットボトルに入れられた焼酎が何本もある。
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