| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百四十六話 闇の仕掛けその四

「本願寺は動きます」
「必ずや」
「織田家に向かうのじゃな」
「左様です」
「そして本願寺が動けばです」
 天海も崇伝も囁いていく、義昭の下にいる二人だけは。
「他の家も動きます」
「して織田家を倒す為に立ち上がります」
「そうか、では余は落ち着いてことの成り行きを見るぞ」
 大人であるが如くだ、義昭は悠然としだした。しかしそれは確かなものではなく実に軽い小さなものだった。
 そしてその軽いままでだ、こう言ったのである。
「このままな」
「そうされて下さい」
「公方様に憂いは無用なものですから」
「わかった。それではじゃ」
 ここまで話してだ、義昭はこう二人に言った。
「これから宴にするか」
「おお、宴ですか」
「それですか」
「そうじゃ、飲むか」
 そうしようかというのだ。
「御主達は仏門だから酒は駄目じゃな」
「いえいえ、般若湯でしたら」
「問題ありませぬ」
 そもそも酒への戒めなぞ最初からない彼等だがそれでもだった。
 一応表の世界の僧のふりをしてだ、そして言うのだった。
「それでは」
「今ではですな」
「うむ、般若湯を出そうぞ」
 義昭は何も気付かないまま応える、そしてだった。
 彼等は三人だけで飲む、だが義昭は全く気付いていなかった。
 闇の中でもこのことが話される、二人の声がこう周りに言う。
「顕如は動きませぬが」
「既に本願寺に潜ませておきました」
「そして織田家にもです」
「どちらにも気付かれずに」
「そうか、ならよい」
 中央の老人の声が二人の言葉に応える。
「後は動かせるだけだな」
「そうです、それだけです」
「最早」
「何処に潜ませた」
 老人の声はその場所についても問うた。
「一体」
「それはそれがしが」
 別の声が応えてきた。
「為しておきました」
「主がか」
「伊勢に」
 その国にだというのだ。
「長島に」
「あの場にか」
「織田信長の喉元に」
 長島は尾張のすぐ側だ、そこにである。
「置いておきました」
「面白い場所に置いたな」
「火を点けるにはよい場所をと思いまして」
 そう考えてだというのだ。
「あの場所にしました」
「ふむ、では数日中にだな」
「はい、仕掛けます」
「ならよい」
 老人の声もこれで納得した感じだった、そしてであった。
 それから数日後伊勢長島においてあることが起こった。ここは元々本願寺の力が強く織田家もこれ程度進出していまし。
 それで彼等も仕掛けずにだ、本願寺の力が強いままだった。
 一向宗の門徒達も穏やかに日々を過ごしている、この日も普通に畑を耕している。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧