我が剣は愛する者の為に
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黙って城の中にいると思いきや
孫策は俺と周瑜の手を引っ張って、中庭を走り回る。
あの英雄孫策と言えど、まだ子供だ。
そんな無茶な遊びとかしないだろう。
多分。
まぁ、何かあってもあの名軍師の周瑜がいるんだ。
「それで、雪蓮。
どこに行こうというんだ?
もう木登りとかは認めないからな。」
とりあえず、一旦止まり孫策がこれから何をするかを聞く。
孫策は少しだけ考え、名案が浮かんだのか笑顔を浮かべて言う。
「木登りとかはもう終わり。
関忠もいることだしね。」
その言葉を聞いて周瑜はほっ、と安堵の息を吐く。
これを見た限り、周瑜は孫策に振り回せれているのがよく分かった。
「だから、外に出て近くの森で釣りをしよう!」
その発言に周瑜安堵の表情だった顔が一気に目を見開いて驚く。
俺もまさかこんな発言をするとは思ってもみなかった。
「雪蓮!
お前は孫堅様にさっき何を言われたか忘れたのか!?」
「う~ん・・・・あんまり覚えていないし大丈夫でしょ。」
「お前はッ!!」
「そんな事より、釣りよ釣り。
竿を持ってこないとね。」
鼻歌を歌いながら、孫策は竿を取りに行く。
俺はそれをただ唖然と見て、周瑜は重いため息を吐いていた。
「すまんな、関忠。」
「ああ、まぁ、気にするな。
いつもああなのか?」
「そうだな、いつもあんな感じだ。
お前が来て、余計に昂っているんだろうな。」
「何か、ごめん。」
「攻めている訳ではない。
あいつが楽しそうにしているのは私も嬉しい。
だが、もうちょっと・・・いや、かなり抑えてほしいが。」
そんな事を言っているが周瑜の表情はそれほど怒っているように見えなかった。
むしろ、少し笑っている。
昔からこうやって二人で遊んでいるからなのか、確かな絆が見えた。
二人で話をしていると、三本の竿を持って孫策がやってきた。
「よぉ~~~し。
それじゃあ、出発!!」
意気揚々と声をあげる。
そんな孫策に周瑜が聞く。
「それで、どうやってこの城から出るつもりだ。
お前が勝手に外出しないように、孫堅様が城の警備の者にお前を見かけたら連れ戻す様に言われているんだぞ。」
さすがは、この子の母親というのか。
しっかりと対策をしている。
「大丈夫よ。
最近、城からの抜け道を見つけたの。」
そう言って、孫策は歩き出す。
周瑜は首を傾げ、俺は黙ってついて行く。
周りの目を気にしながら、歩いていくと詰所に近づいてきた。
周瑜に聞くと、あれは兵達の一時的な休憩室らしい。
一応、城の外に繋がっているらしいのだが、見張りがいて通れないと思う。
「おい、まさかあの中を通るつもりじゃないだろうな。」
「その通り。」
「自分から捕まりに行ってどうする。」
「ところがどっこい。
私が調べたところによると、兵と兵の交代の時に少しだけあの詰所は誰もいなくなるの。
その隙に通るって訳。」
「よく、そんなのを分かったな。」
「日頃、いつも見ていたからね。」
話し合っていると、見張りの交代なのか複数の兵士達が詰所にやってくる。
それを見計らったのか、詰所の中から同じ数の兵士達が出てきた。
孫策はそれを確認すると、少し遠回りして詰所の裏に回り込む。
もちろん、俺達はそれについて行く。
兵士達は雑談が盛り上がっているのか、笑い合いながら話をしている。
その隙に孫策は詰所の扉を開けて、俺達は中に入る。
中には誰もおらず、城の外に通じる扉を開けて外へ出た。
外の見張りがいたが、ちょうど通りかかった馬車の影に隠れながら下町に移動する事ができた。
「やった!!
大成功!!」
孫策は手際よく脱出する事ができて、ガッツポーズをしながら喜んでいる。
対する周瑜は額に手を当てて、ぶつぶつと呟いている。
「はぁぁ、孫堅様に何て言えばいい。
私が止めないといけないのに。」
何だか、周瑜を見ていると少し可哀想になってきた。
俺は声をかけようとしたが、孫策が先に言う。
「ほら、冥琳も諦めなさい。
楽しく釣りでもしましょう!」
「誰のせいだ、誰の。」
「ほら、関忠も。」
「お、おう。」
少し圧倒しつつも、孫策について行き街を出る。
街の近くには森があり、孫策はその森に躊躇わず入って行く。
周瑜は二度目になる重いため息を吐いて、森に入る。
俺は腰にある木刀をいつでも抜刀できるように準備しながら入る。
近くの森とはいえ、何があるか分からない。
周りに警戒しつつ、森の中を歩く三人。
これと言って何か起こった訳でもなく、歩いていると大きな川を見つけた。
「ちょうどいい所に川があったわね。
それじゃあ、餌になるものを使って釣りをしよう!!」
俺達は餌になる何かを採ってきて、針に仕込む。
孫策、俺、周瑜の順に近くの岩に座り、一斉に川に針を投げる。
前の世界では釣りは嗜む程度しかやっていない。
(気長に待つとするか。)
「釣れないかな~♪
釣れないかな~♪」
「はぁ~~~。」
この世界には時計がない。
日の位置などを見て大体の時間を測るくらいしかできない。
日の傾きを見た限り、それほど時間は経っていない筈。
まぁ、10分くらいだろうか。
チラリ、と隣に視線を向けると不機嫌そうな顔をしている孫策がいた。
「何で釣れないの。」
声も不機嫌そうな声でそう言った。
ちなみに、糸は全く反応していない。
そう、ピクリとも動かない。
しかも三人ともだ。
何度か餌が食われているのでは?、と思い引き戻しても餌は食われた痕すらない。
周瑜は孫策の反応を無視して、ぼ~っと糸を見ている。
「もうすぐ食いつくから。」
「それ。
さっき聞いた。」
「あははは・・・・」
苦笑いを浮かべる事しかできない。
「もういい!
釣りは二人に任せて、私は木の実とか探してくる!」
「えっ!?
ちょっ!」
俺が何かを言う前に、孫策は竿を置いてどこかへ行ってしまう。
追い駆けるかどうか、迷っている時に周瑜が言う。
「放っておけ。
すぐに戻ってくるさ。」
「でも、大丈夫なのか?」
「この森は孫堅様と何度か来ている。
だから、迷う事はないだろう。」
と、周瑜が呑気にそんなこと言っていると糸がピクン、と反応した。
「「おっ。」」
次の瞬間には竿が曲がり、引っ張られる。
周瑜は力いっぱい引き上げると、20センチくらいの魚が釣れた。
「ようやく一匹目だな。」
「だな。
おっ、俺の方も来たみたいだ。」
俺の竿にも反応があり、引っ張ってみると周瑜より少し大きめの魚が釣れる。
その後はさっきまでの静けさが嘘のようだった。
バンバン、魚は釣れていき、気がつけば10匹くらい釣れていた。
「これ、食い切れるか?」
「何とかなるだろう。」
魚はもういいので、竿を治し、火の準備をする。
周瑜は魚に木の棒を突き刺し、俺は火の準備をする。
師匠とよく野宿はするので、火の起こし方は分かっていた。
「しかし、孫策遅いな。」
俺は木の板に木の棒を刺してくるくると回して、摩擦熱を起こしながら帰りの遅い孫策の心配をする。
気になっていたのか周瑜も俺の言葉に同意する。
「確かに遅いな。」
その時だった。
「冥琳、関忠!
ちょっと来てみなさいよ!!」
と、森の奥から孫策の声が聞こえた。
俺達は手を止めて、声のする方に向かう。
少し歩くと、孫策の後ろ姿が見えた。
「雪蓮、何をやって・・・・」
周瑜は何かを言おうとしたが、言葉が続かなかった。
後から来た俺は何があったの確認すると、俺も言葉が出なかった。
孫策の前には大きな熊がいた。
大きな熊の前に、孫策は脅えるどころか、こちらを見て手を振っている。
「ねぇねぇ、大きいでしょう!
さっき木の実を採っている時に見つけたの!」
笑顔でこちらに振り向きながら、呑気にそう言う。
心なしか、熊から荒々しい息が聞こえる。
「なぁ、周瑜。」
とりあえず、俺は周瑜に話しかける。
もちろん、左手には木刀を掴み、視線は熊から注意を逸らさずにだ。
「何だ、関忠。」
周瑜の声も何だか固く聞こえる。
おそらく、周瑜もいつでも逃げれるように構えている筈だ。
「あれって、熊だよな。」
「ああ、熊だな。」
「あれって、怒っているよな。」
「ああ、怒っているだろうな。」
「「・・・・・・」」
合図もアイコンタクトもしていないのに、俺達は全く同時に孫策の所に走った。
後書き
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