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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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ナツ、エサになる


「これから2週間、彼と旅行だ。絶対呼ぶなよ。いいな」
「はい」

呼び出され、星霊界に帰る前にアクエリアスはルーシィに念を押す。
素直に返事をしないと自分がどうなるか解っているので、ルーシィは反論せず返事をした。

「お前も早く男つくれ。ま・・・無理か」
「ほっといてよ!」
「ルーシィさん。恋は大切よ」
「・・・僕的には、ルーシィに男が出来ない方がいいんだけどなぁ」

余計な一言を残して帰って行ったアクエリアスにルーシィは思わずツッコみ、ジュビアが呟き、ルーは誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「とにかく・・・」

が、すぐに切り替え、ルーシィは目を向ける。
長髪が1本も残らず、気を失って倒れている暗殺ギルド・髑髏会の三羽鴉(トリニティレイブン)の1人、ヴィダルダス・タカを。

「あたし達が1人やっつけたのよ。ジェラールの思い通りになんかならないわよ」

ばしゃ、と音を立て、ルーシィとジュビアの合体魔法(ユニゾンレイド)によって起こった水の上に倒れ込む。

「うんっ!ルーシィもジュビアもお疲れさま!」

割れた瓦礫の上に腰を下ろし、ルーも満足そうに笑う。

「いいえ・・・倒したのはルーシィさんとルーさんですよ」

2人の言葉にジュビアは謙虚に呟く。
それを聞いたルーはキョトンとした表情を浮かべ、首を傾げた。

「何言ってんの?ジュビア」
「3人で・・・よ」

ルーの言葉に重ねるようにルーシィが言い、ジュビアは驚愕に似た感情で顔を染める。

「あの時『ルーシィ』って叫んだよね。あたしも仲良くなれた気がして嬉しかった」
「えー!ルーシィいいなぁ!じゃあ、僕の事も『ルー』って呼んでよ!」

いい感じな空気をぶち壊しているような、いないような。
相変わらずの空気クラッシャーぶりを発揮しながらも、その表情は空気を読んでいない時とは違う、凄まじい量の幼さを残す優しげな笑顔で。

「『さん』付けなんかしなくていいよ。あたし達、もう仲間じゃない」

ルーシィがそう言うと、ルーは何も言わずに頷いた。
それを聞いたジュビアは――――――




――――涙を、流していた。




「あれ・・・ジュビア・・・目から雨が降ってきました」
「あははっ!面白い表現ね」
「今度ルーシィの小説でも使ってみたら?」
「何でアンタまでそんな事知ってんのよ!」

ルーの言葉に思わずツッコみを入れる。

「それにしても、ものすごい脱力感なんだけど・・・」
「ジュビアもですよ」
「魔力の使い過ぎだね。少し休んだ方がいいよ」











合体魔法(ユニゾンレイド)だと?」

少し欠けたギターの駒が、チェス盤の上で倒れる。
その前には、既に倒されている鍵の駒と水瓶の駒、犬の駒。

「ある僧は合体魔法(ユニゾンレイド)の習得の為に生涯を費やしたが、習得までは至らなかったなんて話もあったのにな・・・」

そう呟くジェラールの口角が、自然と上がっていく。

「偶然とはいえ、やってくれるじゃねーか。小娘といえど、さすがはエルザの仲間といったところか。ククッ」

笑い声を漏らしながら、外を見つめる。

「こちらももう1歩、駒を進めよう」

オレンジ色に輝く夕日が、楽園の塔を照らしていた。







魔法評議会会場、ERA(エラ)

「楽園の塔へのエーテリオン攻撃。賛成票4、反対票5。以上により、エーテリオンの使用は見送りと議決するっス」

クロノの声で、ジークレインは立ち上がる。

「待て!アンタ達はこの状況を、本当に理解しているのか!?」
「見苦しいぞジーク。もう十分に議論した。平和的な解決の道もあるんじゃ」

オーグの言葉も、ジークレインには届かない。

「平和だと?今こうしてくだらねぇ事に時間を費やしてる一方で、歴史は動こうとしている!ジェラールは死者を蘇らそうとしているんだぞ!」

が、そんなジークレインの必死の叫びの説得に、誰かが賛成する訳ではない。
ただ、反対意見が飛び交っていく。
――――――その中で1人、青年は歪んだ笑みを浮かべていた。

「そうは言っても、Rシステムが本当に作動しているかどうかも解らんのが現状だろう」
「攻撃など早すぎる」
「・・・」

唯一、沈黙を破らないウルティア。
そんな彼女を、クロノは口角を吊り上げたまま、見ていた。

「アンタ達は感じねぇのか?」

ジークレインが続ける。

「溢れ出る『負』の魔力。奴が蘇らせようとしている者の恐ろしさを」

その言葉に、反対意見が途切れる。

「何じゃと?」
「ジーク、それは一体・・・」

そしてジークレインは口にした。
魔法界の歴史上、最も凶悪と言われる魔導士の名を。











「黒魔導士、ゼレフ」











その名を聞いた瞬間、評議員8人のうち7人が驚き、ウルティアは特に表情を変えず、クロノは『妹』が時々浮かべる、妖艶で挑発的で少し歪んだ笑みを浮かべた。

「き、貴様・・・今、何と・・・」
「それより、何故そんな事が解るんだ、ジーク!」

様々な声が飛び交う中、『弟』に似たテノールボイスが全ての声を沈黙へと還す。

「そろそろ言っといた方がいいんじゃないっスか?ジークレインさんよォ」

腕を組み、会場の柱にもたれ掛かる様にしてジークレインに目を向けるクロノ。
それを見たジークレインは、ゆっくりと口を開いた。

「いらぬ疑いをかけられたくなかったから黙っていたが、俺はジェラールという人物を知っている。奴のしようとしてる事も」

刹那、会場が一気にざわついた。

「ジーク・・・全てを話せ」










桜色の火を吹く竜と、煌めく深海色の閃光が相手をするのは、名前通りの顔の(フクロウ)
梟の蹴りをナツが左腕で受け止め、その反動で軽く吹き飛ばされる。

「火竜の・・・」

そこから回転し、床に右手を付け――――

「鉤爪!」

容赦なく、炎を纏った蹴りを梟の顔面に決めた。
ナツと梟、両者がほぼ同時に着地する。

「ホウ」
「フン」

深海色の閃光――――ティアは、特に何もしない。
彼女は人の獲物をとるほど愚かじゃない。ナツの獲物はナツの獲物。自分には関係ない。
ティアが動くのは、彼女の本能と信念が一致し、己に己が命令を送った時だけだ。

「ナツと互角!?あの梟やるよ」
「く・・・」
「当然でしょ。相手は暗殺ギルドの特別遊撃部隊・・・人を傷つけ、殺すにはそれなりの実力が必要なの」

ハッピーの言葉にシモンが呻き、ティアはただ淡々と告げる。
感情をこめず、表情も変えず、『他人の戦いは他人の戦い』と、ハッキリとした目で、ナツを見る。

「そろそろ貴様に正義の鉄槌を下してやろう」

そう言うと、梟は背を屈めた。
背中のロケットの勢いが増していく。

「ミサイルホーホホウ!」

叫びと共に、ロケットがナツに向かって飛んだ。

「!」

それを目に映したナツは、ロケットが自分の頭上を通ると同時にその場にかがむ。

「うわっ」

が、ロケットは突如進路を変え、床ギリギリを―――ナツの足元を飛んだ。

「ホウ!」

梟が短く叫び、右掌をロケットに向ける。
すると、ロケットから何かを掴む為の機械的なアームが現れ―――――

「!」

ナツの両肩を―――正確には両腕の肩に1番近い部分を―――掴んだ。

「ぬおおおおおおっ!」

と、同時に、凄まじい音を立ててロケットは飛ぶ。
―――――ナツを掴んだまま。

「ホーホホウ」

腕を組んでそれを見つめる梟。

「くだらない技だが恐ろしい」

怪我をした左胸を押さえ、シモンが呟く。
――――――その『異変』に誰よりも早く気付いたのは

「・・・マズイわね」

ティアだった。

「ま・・・まさか・・・」

続けてハッピーが青い顔を更に青くする。
2人の視線の先にいるのは、機械的なアームに捕まれ、ロケットと共に空を飛ぶナツ。
そのナツの顔色は、徐々に『悪くなっていく』。

「貴様の弱点は解っているぞ、火竜(サラマンダー)

そう。
魔導士としての実力はかなりのモノ、影ではティアも認める魔導士であるナツだが―――

「マズイ!あれは『乗り物』だ!」
「!?」

唯一―――唯一と言っても問題ないであろう―――弱点があった。

「ナツは乗り物に極端に弱いのよ!見ているこっちが驚くくらいにね!」
「何だと!?」

乗り物酔い。
列車・船・魔導四輪・・・この世に存在する乗り物全てが、ナツの弱点だった。
そして運の悪い事に・・・このロケットも、ナツの弱点の対象、乗り物だったのである。

「弱った相手を確実に仕留める!これぞハンティング!」
「・・・弱い者いじめの間違いじゃない?」

ティアの呟く声は無視された。
それと同時に、目をグルグルに回したナツが、パッとアームから落とされる。

「今だ!」

それを見た梟は地を蹴り、勢いよく走り――――――






「キャプチャーホーホホウ!」






くわぁ、と・・・口を大きく開けた。

「!」
「な!」
「はぁ!?」

ハッピー、シモン、ティアは驚く。
梟が大きく口を開いた事に、ではない。
上手くすれば、いや、下手をすれば、いや、確実に、その口には―――――

「!?」

ロケットのせいで酔った、ナツが落ちてくるのだから。

「ナツ!」

珍しく無表情を崩し、少し目を見開いた状態でティアが叫ぶ。

「ちょっ、オイ・・・おおお・・・」

ナツの声が遠くなっていく。
ティア達の意識が遠のいているとか、そういう事ではない。
んごんごと――――――ナツが梟に『呑み込まれていっている』のだ。

「何するんだオマエーーーーー!」

ハッピーが叫ぶと同時に、ごくっとナツの姿は見えなくなる。
梟に、完全に呑み込まれていた。

「丸呑み・・・!?コイツ・・・」
「ウソでしょ・・・ありえないわ・・・」

シモンが驚愕の声を上げ、あのティアでさえ、疑い深い表情で梟を見ている。
・・・まぁ、ティアが誰かを『疑う』のは、日常茶飯事なのだが。

「私は捕食した者の魔力を消化する」

つまり、ナツを捕食する事でナツの魔力を消化し、物を食べた時に栄養を手に入れるとの同じように、ナツの魔力を手に入れようとしているのだ。

「ナツを返せーーーー!」

相棒を呑み込まれて黙っていられる訳が無い。
目に涙を浮かべながら、ハッピーは凄まじい勢いで梟に向かっていく。
梟は振り返ると―――――

「ファイアホーホホウ!」
「ぎゃっ!」

拳から、紅蓮の炎を放った。

「火?オイ!大丈夫か!?」
「消化・・・ナツの魔力を取り込んだんだわ!」

ティアが梟を睨みつける。

「ホホウ」

そう言って戦闘態勢を取る梟には・・・桜色の髪が生えていた。

「こ、これが暗殺ギルドの実力・・・」











「賛成票8、反対票1。以上により、楽園の塔へのエーテリオン攻撃を認可するっス」

クロノの言葉に、反対票を入れたヤジマは溜息をついて頭を振った。

「ヤジマさん・・・納得いかないかもしれんが、ゼレフを蘇らす訳にはいかないのは解りますよネ?」

ジークレインが声を掛けると、ヤジマはジークレインに背を向ける。

「ワスはもう知らんよ・・・責任はちゃんととれるんだろーね?」
「もちろん・・・全ての責任は俺が・・・」

ヤジマの言葉にジークレインが完全に答える前に、ヤジマは振り返った。
くわっ、と、完全なる怒りを顔に映して。

「ワスは言ってるのは命の責任だ!これから失われる命を背負って生きるんだぞ!()ーク!」

その怒りの表情に、ジークレインは全く動じない。

「答えはじきに出ますよ」

そんな2人の近くで、エーテリオン射出の準備が進んでいく。
「1時間後にエーテリオンを射出する!準備にかかれ!」という声を聞きながら、クロノがジークレインに近づいた。

「ジーク」
「・・・クロノか」

同年代のクロノに、少し口元を緩める。
クロノは変わらない笑みを浮かべたまま、すれ違いざまに誰にも聞こえない声で囁いた。









「お前に、よろしくな」









「!?」

お前によろしく。
意味の解らない言葉にジークレインは目を見開き、振り返る。
肘を曲げたまま右手を挙げてヒラヒラと振り、クロノは誰もいない廊下へと歩いていった。

「・・・自分達のやってる事にも気づかねぇたぁ、随分バカな老人共だ」

誰もいない廊下で、小さい声で独り言を呟く。

「ま・・・ジークレインやウルティアも、バカだな」

ニィ、と。
悪人、とまではいかないが、歪んだ笑みを浮かべる。

「自分達のやってる事が、全部無駄だと・・・気づかねぇなんてよ」








「エルザ・・・1番いい駒の片割れを失っちまったなァ」

チェス盤の上に、倒れるドラゴンの駒。

「さぁ・・・どうする?時間が無いぞ。間もなく光が落ちてくる」
 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
何かと裏で動くクロノさん・・・別に悪い人じゃないですよ?
一応は、罪人を捕まえる強行検束部隊の隊長ですからね。
・・・最近、怪しげな動きをするクロノばかり書いていて、一瞬忘れかけてましたが。

感想・批評、お待ちしてます。 
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