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久遠の神話

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第六十話 嵐の前その四

「思いきりな、集まってるんだよ」
「だからモルツか」
「ここはな。そうなんだよ」
「そうか、モルツか」
「そういう場所だよ。俺的には最高な場所だよ」
「確かにいい場所だな。熱気は人のものも馬のものもいい」
 広瀬は中田の傍まで来た。
「だからな」
「だよな。それでだけれどな」
 中田は微笑を消した、そのうえで広瀬に問うた。
「あんたが今ここに来た理由は何だい?」
「闘いに来たと思うか」
「それにしては気がないな」
 闘気、それがだというのだ。
「落ち着いてるな」
「戦うのは日曜だ」
 今ではない、広瀬は中田の問いはこの言葉で否定した。
「その時だからな」
「じゃあ何で来たんだい?」
「挨拶かな」
 広瀬は少しシニカルな笑みになって言った。
「それでだな」
「最後の戦いの前にか」
「そんなところだ。君とこうして話をするのも僅かだ」
「だよな。あんたは倒されるからな」
「君にか」
「他の十一人全員倒してやるよ」
 広瀬も含めて、そうだというのだ。
「俺がな」
「言うものだな。君が俺を倒すか」
「全員な。ただ出来るだけ命は奪わないからな」
 ここでは中田はふとこうした考えも見せた。
「あんたも戦線離脱で済ませるからな」
「そうか。俺もだ」
「あんたもか」
「君と話をするのは最後になるが」
「剣士としてだよな」
「命まで奪うつもりはない」
 それはだというのだ。
「人の命に興味はない」
「お互いそうだってんだな」
「俺は確かに望みを手に入れる」
 このことは絶対のことだ、広瀬にしてもだ。
 だがそれでもだと、中田に顔を向けてそして言うのだ。
「しかし他人の命はだ」
「どうでもいいよな」
「そうだ、君も殺すつもりはない」 
 勝ち生き残る、それは考えていてもだった。
 命を積極的に奪う考えはない、だから今中田にも言っていくのだ。
「必要とあれば違うがな」
「その場合はか」
「しかし俺はあくまで生き残ることを考えている」
「だから俺の命もなんだな」
「どうでもいい」 
 究極的に言えばそうだというのだ。
「生きようが死のうがな」
「つまり俺が剣士だからだな」
「そういうことだ、剣士ならば戦い」
 そしてだというのだ。
「勝ちそして生き残る」
「望みを適える為にな」
「君が今戦いから降りるならいい」
 広瀬は中田の目を見て告げた。
「それだけ戦う相手が減るからな」
「言うねえ、去れってか」
「そうだ、どうする」
「その答えはもうわかってると思うがね」
 中田は目も口元も笑わせて言った、左の口元を。 
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