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26歳会社員をSAOにぶち込んで見た。

作者:憑唄
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第五話 DeadWars

 
前書き
ソードアート・オンラインの二次創作、第五話となります。 よろしくお願いします。今回ただ単に家を買うだけの話だったのですが、前回四話で説明した通り絵描きがテスト期間中だったため、アップが非常に遅れました。 そのため、今回ギャンブル要素をくっつけた息抜き回となっております。 というか本編で釣りしてたんだから結構戦闘に関係ないスキルって多いんじゃないかと小一時間(ry。玖渚の見た目のモチーフはたまたまStrawberry Crisis!を聞いていたため岡崎夢美にしてもらいました。 今回色々と実験した結果非常に長い内容になっておりますが、よろしくお願いします。 

 

「完全な制御というのは人一人が賄うにはあまりにも不十分すぎることである」
 手の持つ槍を眺めながら、凛とした表情の女性はそう口にした。
「重ねて言葉にしよう。 AIと言えど、人ならざるもののの脅威というのは古来より最も人が恐れるものである」
 そう口に出し、その手に持った槍をくるくると回しながら地面へと突き刺す。
「ならば、人ならざるものを一体でも、少しでも、制御できれば、人を狩るのは容易い」
 誰に説明するわけでもなく、一人そんな言葉を発する彼女は、冷ややかな笑みを浮かべながら、背後を振り向く。
 そこには、一組の男女がいた。
 カップルなのか、なんなのかはわからないが、二人で笑い合っていた。
 とても幸せそうだった。 まるで周りが見えていないほど、どうでもいい世間話に花を咲かせながら。
 角砂糖のように、甘い甘い雰囲気。
 しかし、そこに。
「グォアアアアァアアアアアアアァアアアアアアア!!!!!!!」
 耳を劈くような咆哮と共に、一体のモンスターが現れた。
 女は男の背後に回り、男は武器を構える。
 よほど自信があるのだろう、男は大丈夫などと、女をなだめている。
 しかし、現実はアニメではない。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアゥ!!!!」
 そこに、二体目のモンスターが『偶然』現れた。
 少し動揺する男。 しかし、女が居る手前、その体勢を崩すことがない。
「ギュアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ゴォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」
「グォァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」
 そこに並んで3体の大型モンスターが、またしても『偶然』現れた。
「う、うあ……!?」
 流石にこれには驚きを隠せず、男は転移結晶を取り出すべく、アイテムストレージを開こうとする。
 しかし、それは遅すぎた。
 合計五体のモンスターによる一斉攻撃。
 女はあまりの恐怖に硬直したまま、そのまま消えていく。
 それを目にした男は言葉にならない悲鳴を上げながら逃げようとするも。
 五体の大型モンスターを前にして、逃げれるわけがなかった。
 あっという間に周りを固められ、あっけなく殴り殺される。
 男女が消えたその場には、五体の大型モンスター。
 それらはターゲットが消えたことで、各々バラバラに散っていった。
「人は他人の不幸を見ることで安心感が持てる。 ああはなりたくない。 ああ、自分じゃなくてよかった、と。
他人の不幸は蜜の味、というが、これはこれは……」
 手に持った槍を地面から引き抜き、両手でそれを愛おしそうに握ると。
「幸せから不幸へと変わる瞬間を見るのは、やめられない。 これは最早麻薬だ」
 そう言って、女は恍惚に浸る表情で体を震わせる。
「人の脳より発せられる脳内モルヒネことβエンドルフィンはモルヒネの6.5倍と言われているが。
最早これはそれ以上、SAOにおいて最も極上の贅沢だ」
 息を荒くしながら、女性は片手で表情を隠すように顔を覆う。
 隠れたその表情の奥では、恍惚の笑みを浮かべていた。
「私は幸せだ! 誰よりも幸せ者だ! このザサーダ! SAOの誰よりも幸せものだ!
だがしかし、幸せとは継続しなければ意味がない。 幸せとは常に苦労して手に入れるものだ。
SAOを買った時もそうだった。 徹夜で並び、大金を出して手に入れた。 結果、私は最高のゲームを手に入れた。
OLだった時の私とは大違いだ。 私は今、人生で、この世で、一番輝いている!」
 まるで狂ったように叫び散らす、彼女、ザサーダは、軽い息切れを起こしながら、顔を覆っていた手をどかし、手に持った槍を両手で愛おしそうに抱いた。
「では、継続しよう。 幸せになるための労力。 モンスタープレイヤーキラー、通称MPKを……!」
 そう言って、彼女は下準備にかかる。
 己の手を汚さず、己を穢さず、合法的に人を殺せる、最悪の殺人方法を。




――――――



 5月下旬。
 俺達、ディラックは無気力感の中にいた。
 5月冒頭のボス討伐戦で、同じく参戦していた軍こと『アインクラッド解放軍』のやつらが大打撃を受けた。
 あんまり気に入らないやつばかりだったが、目の前で死なれると、やはりクるものがある。
 まぁその後からは普通に犠牲者無しで26層までクリアできたが……。
 ウチのギルメンは全員無事だったが、天乃も桜花もここ数日は珍しく大人しい。
 レイカにしても最近は宿に篭って食っちゃ寝のニート生活をしてる。
 そんなに篭るなら家でも買えばいいのにな……。
 あれ10Mくらい出せばそれなりの買えるんだろ。
 天乃とレイカが4Mくらい持ってたはずだし、桜花だって2Mくらいあるだろ。
 俺? 俺は武器の強化と素材集めで500kくらいしかねぇよ。
 いやしかし、金が無いのはまずい。
 食材でも集めてどっかで売り払うか……。
 それか……。
 一人、頼れるやつはいる。
 そういうのに詳しいやつが……。
 しかしまぁ、仕方ない。
 会うために、俺は渋々と町を出てフィールドへと出る。
 あとは、ソイツにメッセージを送信するだけだ。
『今来れるか?』っと。
 そんなメッセージを飛ばして待つこと2,3分。
 ソイツは俺の前に颯爽と姿を現した。
 相変わらずオレンジカーソルのその幼女。
「よう! 私に用事とは、よほど金がほしいと見たぜ!」
 泥棒こと、玖渚である。
 なんだかんだであの後、ギルメンには内緒でフレンド登録をしておいたのだ。
 こいつは犯罪者ではあるが、根は腐ってない。
 正々堂々デュエルで決めるところも、ある意味潔い。
 しかも泥棒をやってるだけあって金の扱いに関しては超一流だ。
「ああ、金がない。 手持ちが500kしかない。 家を買うためには大金が必要なんだよ」
 俺がそう言うと、玖渚はゲラゲラと腹を抱えて笑った。
「500k!? 攻略組様が何してんの? kとMを見間違えてるんじゃねぇー?
私は今所持金500Mだけどねー!」
 相変わらずとんでもないインフレ起こしてる金持ちだが……。
 その大半は泥棒で取ったもんで出来た黒い金なんだろう。
「いや、マジなんだよ。 それでどうにか手っ取り早く金を手に入れたいんだが……」
 俺がそう言うと、玖渚はニタニタと怪しい笑みを浮かべた後。
「よしよし。 よかろう。 フレンドのよしみで特別にタダでいい場所を教えようじゃないか。
ただし、増えるかどうかは運次第」
 運次第……?
「どういうことだ? 上手い狩場じゃないのか?」
 俺がそう口に出すと、玖渚はフルフルと顔を横に振った後、何かを企んだような悪い笑みを浮かべながらアイテムストレージをイジると。
 目の前に、1つのアイテムを出した。
「狩場で稼ぐなんてのは所詮1Mまでの世界。 法外な大金を得たいなら、何処の世界でもこれさ」
 そのアイテムは、俺も知ってるし、持ってる。
 だからこそ、嫌な予感もしていた。
「おいおい……まさか……」
 次にコイツが言う言葉がそうでないと心の中で祈りながら、その言葉を聞いた。
「ギャンブル! トランプによるポーカー、大富豪。 そして、オリジナルルールの、デッドウォーズだ!」
 で、デッドウォーズ……!?
「なんだそれ……」
 俺がそう言うと、玖渚はニヤりと笑った後。
「とりあえず来てみなよ。 夜中限定で十二層のフィールド内の安全エリアで行われてるんだ。
まぁ今夜迎えに来たげるから、十二層の宿でもとって夜まで寝てれば?」
 それだけ言って、玖渚はその場から姿を消す。
 ……ギャンブル、か。
 まさかこんなゲーム内でそんなことをするはめになるとは思わなかった。
 確かにリアルで俺はパチスロとかはやってたけどさー。
 ああ、思い出すと若干やりたくはなるんだよな……。
 アドリブでやってART入って上乗せ来た時とか激アツリーチかかった時のあの感覚。
 この世界じゃ経験してねぇな……。
 そういうのも含めれば……一度息抜き程度にやるのも悪くはないかもしれない。
 そうと決まれば、十二層の宿を取らないとな。
 っと、その前にギルメンに今夜はソロやるから付いてくるなってメッセ送っておくか……。
 まぁ今無気力感に苛まれてるギルメンなら着いてこないんだろうけどな。
 そんなことを思いながらもメッセージを送る。
 あとは、夜を待つだけだ。




――――――





 夜10時、宿でゴロゴロしていた俺に玖渚からメッセージが入る。
 呼び出されるまま宿から出てフィールドに行くと、玖渚が待っていた。
「さて、行くかい。 金とトランプは持ってるよね?」
「ああ、大丈夫だ、問題無い」
 どっかのゲームPVでえのっちを英単語表記にしたようなやつが喋ったような言葉で返す。
 あれ、これ死亡フラグじゃね?
 しかし、当然と言えば当然だが、玖渚はそのネタがわからなかったらしく、普通にそのまま案内を始めた。
 ……これがジェネレーションギャップか!
 まぁ2022年、いや年明けたから2023年か。
 あのネタ2011年くらいのネタだからな。
 当時学生だった俺と比べればコイツは最悪生まれてないか1歳とかそんなもんだろうし……。
 あの時代はよかった、あの時代に戻りたい……。
 今はどうだ、あの時代と比べて……。
 終わらない不景気に無能の総理、上がらない給料に消費税問題。
 泣けてくるぜ……。
 これ以上消費税上がったら本当に死んじゃうよ。
 そんな感慨深いことを考えながら玖渚に着いて行くうちに、フィールド内にある安全地帯の前まで来た。
 安全地帯は洞窟になっていて、中では明かりが灯っている。
 しかし、その洞窟の前には門番が……!
「はい、名前とレベル、所属ギルドを教えてねー」
 門番の俺よりちょい下くらいの歳の優男の兄ちゃんが俺らに対してそんな言葉を投げかける。
 あれか、身分証明しないと入れないってことか。
「玖渚、レベル40、所属ギルドは無し!」
「アルス、レベル42、所属ギルドはディラックだ」
 自己紹介を済んで思う、玖渚ってレベル40だったのか……。
 一度もステータスなんか聞いたことないからわからなかった。
「おおう、レベルが高いのが来たな。 頼むから中で暴れるなんてことをしてくれるなよ。
中は圏内だが、転移結晶使用不可能エリアになってるから気をつけろよ」
 それだけ告げられ、中へと入れられる。
 すると、そこには、ホールが広がっていた。
 幾つかの机と椅子が並べられ、各々がトランプでゲームをしている。
 普通のトランプと違うところは……、机の横にはオレンジカーソルの人間とグリーンの人間が挟まるようにしていて、勝負を見ている。
 不正などの禁止の抑止力なのだろうか。
 その中でも、眼につくものが1つ。
 一番奥の机にある、大きな机で行われているトランプゲーム。
「玖渚、あれは……?」
 俺がそれを指差しながら聞くと、玖渚はいやらしい笑みを浮かべながら。
「あれが、さっき説明した、デッドウォーズ……超高レートトランプだ!」
 そんなことを、ケラケラと笑いながら言い放った!
「デッドウォーズ……!?」
「まぁまぁ、見てればわかるって」
 そんなことを言う玖渚に引かれ、机の横まで移動させられる。
 そこで、初めてギャラリーとして勝負を目の当たりにした。
 ……なんだ、これ?
 プレイヤーの右側に存在するのは裏向きにされたトランプの山。
 そして、プレイヤー同士の真ん中に、その山の上から引かれたカードが出される。
 今出されたのは、片方がハートの7、もう片方がクラブのジャック。
 すると、ハートの7はクラブのジャックを出した方のプレイヤーの手元へと移り、山札の上に表表示で置かれた。
「ぐ、何故だ……何故……!?」
 ハートの7を出した方のプレイヤーの男性はカタカタと震えながら、山札に手を置く。
 対して、クラブのジャックを出した方の女性は、冷ややかな笑みを浮かべている。
「さて、バトルだ」
 女性のその言葉と共に再び互いの山札からカードが出される。
 男性の方はクラブのキング。
 対して女性は、スペードの1。
「があっ!?」
 男性が悔しそうにそう口にした瞬間、クラブのキングとスペードの1は女性の捨て札の方へと置かれた。
 見ると、男性の方の捨て札は殆ど存在せず、女性の方の捨て札はかなりの量が溜まっていた。
 そして、次の勝負。
 男性のクラブのジャックに対して、女性のハートのクイーン。
 再び捨て札が女性に回収されたその瞬間。
「勝負あり!」
 机についていた審判であろう人物がそう叫ぶと同時に、勝敗が決した。
 まだ山札は残っているのに……何故だ?
 疑問に思っていると、プレイヤーは互いに捨て札を目の前に並べ始める。
 男性の方は合計で8枚。
 対して、女性の方は合計で20枚。
 そこで気づく。
「もしかしてこのゲーム、捨て札が先に20枚になった方が勝ちなんじゃないか……?」
 確かめるように玖渚に聞くと、玖渚はピンポン、とリズムよく答えた。
「そう、このデッドウォーズ。 相手より先に捨て札が20枚になった瞬間勝負は決まる。
そして……ここからがデッドウォーズのデッドたるところ……!」
 玖渚がそう口にした瞬間、それぞれのプレイヤーが口を開いた。
「……36」
 男性がそう口にすると、女性は。
「123。 差異は87。 ボーナス換算の四捨五入で90ね」
 そんな数値を口に出した。
 何のことかと思っていると、場に出ているカードを見て、なんとなく納得した。
 なるほど、捨て札のカードを全部足した数が今の数なのか。
 で、この数は何に使われるのだろうと思っていた瞬間。
 男性は、真っ青になり、その場で叫んだ。
「ない! そんな90Mなんかない! 今手持ちは10Mだけだ!」
 9、90Mだと……!?
 いや、手持ちが10Mってのもすげぇけど……。
 まさか、その最後に言った差異ってやつ、1につき1Mなのか……!?
 イカれてやがる……コイツは……!
 俺があまりの高レートに驚いていると、目の前の女性と男性はしばし何か交渉した後。
「まず、有り金だけはもらうわ。 残りの80M分は……」
 女性はそこでニタ、と笑うと。
「処刑係の人、お願いね」
 そう言って、机の隣に立っていたオレンジカーソルの男に話しかけた。
 すると、オレンジカーソルのその男は無言で頷いた後。 二度手を打つ。
 その直後、洞窟の奥で待機していたオレンジカーソルが何人か集まり、敗北した男性を囲った。
「ひ……ひぃぃいいいいいいい!!!!!!」
 男性のその叫びと共に、彼らはその男性を連れて、何処かへ行ってしまう。
 その後、その男性がここへ戻ってくることはなかった。
「……あれ、何されるんだ?」
 玖渚にそんな質問を投げかけると、玖渚はおちゃらけたように肩をすくめながら口を開けた。
「ああ、制裁だよ。 少しの間拘束されて、その後、1Mの負けにつき貫通武器を1本刺されるんだよ。
ここは圏内だから死にはしないけど、フィールドに出たら一気に削られるからね。
さっきの人は80点だから80本さされてフィールドに出されるわけ。
あとはその死に様を見世物にして一部の物好きから金取るんだ。
女の人の場合だと貫通武器刺した状態で脅して身包み剥いでコード解除して闇市行きだね」
 ……ま、マジかよ……。
「一応聞いておくが、フィールドに出た時点で武器抜くのは……?」
「ああ、アリだよ。 まぁ、全部抜き終わる前にHPが0になることが多いけど」
 まぁ、そうだよなぁ……。
 さっきみたいに80本も刺されたら……どう足掻いても死ぬ。
 まさに、デッドウォーズってわけだ……。
 しかし、一つわかることがある。
 今、目の前の残っているこの女性。
 コイツに勝てば、最低でも10Mは保障されてる。
 対して俺は手持ちが500k。
 勝てば間違いなくプラスになる。
 しかし、負ければ……。
 ほぼ間違いなく、死……!
 リスクがでかすぎる……!
「さて、アルス、やる?」
 横で飄々と玖渚がそんなことを聞いてくるが。
「いや……今日はやめておく。 まぁ、そのあたりのポーカーでもやってるさ……」
 それだけ言い残して、レートが低そうなポーカーの台へと座り、ポーカーを始めることにした。
 時折、横目で挑戦者が女性に敗れていくデッドウォーズを見ながら……。



 結論だけ言えば、女性は俺が見ていた一晩は無敗で、合計100M近くを巻き上げていた。
 挑戦者は最初の一人以外は手持ちがあったようでしっかりと払っていたため、死傷者は出ていなかった。
 あ、因みに俺はポーカーでボロ負けした。
 唯一フルハウスが揃ったが、レートが低い時に勝ったもんでプラスが少なく、残りの試合で保険になった程度だった。
 よって、俺の手持ちは見事に500kから10kになったのだ!
 ……チクショウ……。
 しかし、お陰で、わかってきた。
 あのデッドウォーズの仕組み、カラクリが……!



 その後も俺は金もないのに同じギルドの天乃からコルを借りたりして毎晩ホールへと通い、デッドウォーズを見学した。
 まず、見ていてわかったデッドウォーズのルールを始めに説明する。
 基本的に元はトランプの『戦争』というゲームだ。
 ジョーカーを抜いた52枚のトランプを互いにランダムに別け、それらを山札にする。
 互いに山札の一番上から一枚引いたカードを場に出し、数が高い方が勝ち。
 強さの順はA>K>Q>J>10>......>2と言った感じだ。
 勝った方は相手のカードを取って勝った札と共に捨て札となり、自分の山札の前に置く。
 山札が無くなった時点で捨て札が多かった方の勝ち、というのが元のゲームだ。
 デッドウォーズはそれにアレンジを加えたもので。
 まず52枚ということは変わらないが、ゲームで使用するのはそこから6枚引いた46枚のみだ。
 6枚はランダムに引かれるためわからない。
 残った46枚の中から、それぞれのプレイヤーにA、K、Qの3枚が始めに配られ、残りの40枚はシャッフル。
 そして20枚づつ互いに分配される。
 分配されたカードを並び替え、己の山札を作る。
 あとは作られた山札から通常の戦争と同じようにカードを出し合って競い合う。
 そして、どちらかの捨て札が20枚になった時点で終了。
 つまりどちらかが10勝した時点で終わりだ。
 捨て札を場に並べ、それぞれの捨て札の数を計算する。
 2~Kまではその数字の計算だが、Aのみは14点と計算。
 相手とのカードの差が10枚以上ある場合はボーナスが発生し、点数の四捨五入が可能となる。
 あくまでも四捨五入は任意で、例えば72とかの場合、70に下がるためやらなくてもいい。
 罰ゲーム云々は置いて、まぁ大体はこんなルールだ。
 少し考えれば、最初に強いカードを置けば大体勝てるだろ、と思うだろうが。
 実はそんなに甘くない。
 例えばこちらがQを出したとする。
 相手がKを出して負けた場合。
 こちらの負けはQの12+Kの13で25点だ。
 一気に差異が広がる可能性が非常に高い。
 そのため、相手との心理の読み合いが肝だ。
 例えばこちらがKを出したところで、相手が2を出した場合、こちらは15点のプラスにしかならない。
 その逆も然りだ。
 元々最強候補のA、K、Qはトランプに4枚づつしか存在せず、しかも各1枚づつは必ずどちらの山札にも配られるため、実質最大で3枚づつしか持てない。
 もしA3、K3、Q3の最高の状態だったとしても、最大で9勝。
 ゲーム終了までには一勝足りない。
 さらにその状態だと大きい点数のカードがこちらが持っているため、相手から奪える点数の期待値は低い。
 しかも相手がA、K、Qで勝った場合、逆転される可能性も十二分にありえる。
 運の要素も強いが、読み合いが大事だ……。
 余談だが、デッドウォーズであの女性に勝った人間を一人以外見たことがない。
 一見すると、あの女性が読みが凄まじいということになるが……。
 そんなことはありえない。
 唯一勝った人間のアイツは……恐らく、グルだ……!
 どうやってあの監視を掻い潜ったかは知らないが、なんらかのイカサマをして勝っている。
 しかし、そのイカサマを見抜けない。
 どう見ても、普通にゲームをしているようにしか見えない。
 しかし、イカサマを行うならば、タイミングは一つ。
 こちらが山札を組んでいる最中だ。
 山札の中身さえ認知すれば、山札が格段に組みやすくなるからな。
 というかほぼ勝ったも同然だろう。
 だからこそ、必勝法は……相手がこちらの山札を認知する前に、山札を組み終えること……!
 しかしそれは難しい。
 高速で組み上げたとしても、結局読みが浅くなる上に相手に多少は山札を見せることになる。
 そうなると……。
 配られた後に裏側のままシャッフルして山札とする運否天賦に賭けるしか……。
 いや、危険だ、自殺行為だ。
 そんな運否天賦で勝てるほど優しくないはず……。
 くそ……どうすれば……。
 そんなことを思いながら、目の前のポーカーに集中する。
 とりあえず俺の今の手札にはスリーカードが揃ってる。
 残り2枚が揃えばフルハウス……。
 そう思った瞬間、隣から罵声が聞こえてきた。
「馬鹿な! なんでだ! ありえないだろ!」
 叫んだのは隣のテーブルにいた20台の男性。
 わなわなと体を震わせながら場を見ている。
 見ると、そいつの手元にはストレートフラッシュが揃えられていた。
 どんな激運だ、とか思っていると。
 そいつの前のやつは、ニタニタと笑いながら、手札をオープンする。
 そこには……。
 ロイヤルストレートフラッシュ……!
 マジかよ……。
 こんなもんただの奇跡だろ……。
 そう思ったのは、間違いだった。
 ニタニタと笑っている男は、落ち着いた様子で、それでいて、ハッキリと口を開けた。
「ありえない? 何を言っている。 そもそも、こうなるようにイカサマをしたのはアンタだろう。
俺はアンタがイカサマをするのは知っていた。 だから、ただ利用させてもらっただけ。
次の手番、アンタが揃えるはずだったカードを、俺が今揃えただけさ……!」
 イカサマ……!? 審判がいるこの場で、コイツも……!?
 いや、違う、驚くべきことはそこじゃない。
 利用させてもらっただけ……イカサマを、利用……!?
 そこで、頭の中の歯車が音を立てて合わさった。
 そうか……利用……!
 デッドウォーズで配られるトランプは46枚で、除外されるトランプは6枚だから……。
 ああっ……! そういうことか……!
 俺は、忘れていた。
 ここはSAOだ……なら、あれは……十分に可能なんだ……!
 こうしちゃいられない!
 策はもう整った、後は実行するだけだ!
「悪い! 兄ちゃん達、俺抜けるわ! ああ、今回の負けで賭けた10k、置いておくから!」
「お、おう?」
「なんだなんだ、どうしたどうした?」
 動揺する台をそのままにし、早足でホールから出る。
 やるなら……明日だ!
 俺は早速、玖渚とギルドメンバー、さらにフレンドへメッセージを飛ばし、明日への準備を進めることにした。





 6月初め。
 ついにこの日がやってきた。
 夜10時、俺は玖渚、さらにギルドのメンバーの一人。
 天乃が紹介して入ったクーレイトというやつと共にここに来ていた。
 クーレイトは現実では俳優だったらしく、あんまり売れてはいなかったらしいが……。
 兎に角その容姿は完璧に近い男だ。
 名前の由来はクール&グレイトから来ているらしい。
 コミュ力もやたらと高く、すぐに仲良くなれた。
 しかもレベルも高レベルでPTにおいては仲間を第一として行動してくれるいいやつだ。
 ギルド内で信用も高く、しかも……。
「なぁアルス君。 本当に俺が貸した50Mをこんなところで使うのか……?」
 とんでもない金持ちでもある。
 ただしこの金は元々一層にある児童施設のような場所に寄付するためのものらしい。
 何処までもいいやつなんだが、そのいい人っぷりから、常に周りから引っ張りだこであまりギルドに顔を出せないのが難点か。
 しかし、軍資金はこれで揃った。
 天乃、桜花、レイカ、そして残りのギルドメンバーのガンマさんやフレンド達から借りて俺の所持金は今100Mだ。
 もちろんクーレイトに顔を利かせてもらったっていうのもあるんだが……。
 これで俺は破産どころか、最悪ギルメンからPKされちまう。
 もう負けられない、背水の陣だ。
 ああ、久々にきやがったぜ……この感覚。
 心の奥底から湧き上がってくる、この興奮!
「アルス、兎に角、成功した場合の報酬金はよろしくねー」
 隣でそう口にする玖渚は、意地の悪い笑みを浮かべる。
 コイツを連れてきたのも理由がある……。
 というか、コイツと、クーレイトが、今回のキーマンだ……!
 俺はホールへと足を踏み入れ、一直線に、女性が待つ、デッドウォーズの場へと行く。
 机の前に着くと、俺は、所持していた金をアイテムレジストリから出し、女性に見せ付ける。
「勝負だ。スキルで見ればわかると思うが、ここに100Mある」
 俺のその言葉に、女性は冷ややかな笑みを浮かべた後。
「いいわ……いつもホールで私を見ていたお馬鹿さん。 私のカラクリは見抜けたかしら?」
 そんなことを、ヌケヌケと口にした。
 コイツ……わかってたのか……!
 だが、ここで挑発に乗る必要はない……!
 俺は、笑みを返し、金をレジストリに仕舞い、席へと着く。
「吠え面かいてろよ……! 俺には十分算段がついてるんだ……!」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
 たった、それだけの短いやり取りの後、机の隣にいたジャッジが、スキルでトランプをシャッフルし、ランダムに6枚抜き出す。
 残った46枚からそれぞれA、K、Qを俺と女性に渡し、残った40枚を再びシャッフル。
 その後、俺達の元へと配った。
 配られたカードを画面上にデジタル表示する。
 見たところ強いカードは……。
 Aが合計2枚、Kが1枚、Qが3枚、Jが2枚、10が1枚、9が4枚、8が2枚……。
 決して悪くない手札だ。
 弱いカードは2が3枚、4が1枚、5が1枚か……。
 6,7は恐らくあっちの手にあるとして……。
 Kが最悪あっちに3枚あるのは厳しい。
 あったらまず使ってくるだろう。
 どちらにしろ1敗は避けられない。
 その1敗の時、ダメージをいかに少なくするかだ……。
 ここは、組む時に3枚もある2をどこかに組み込むべきだな。
 ……まず一番初め、もしくは2番目が確実か。
 恐らくあっちもこっちにQが3枚来てることは知ってるはず。
 そうなると、あっちはKで潰しに来るはずだ。
 10が3枚あっちにあるってのも、まず使ってくるはず。
 しかし恐らくあっちもどこかで負けることがあるのは承知しているはずだ。
 そこを狙う。
 バランスを考えるなら……2でうまくKを潰し、Qで10を潰す。
 これが理想……!
 そうなると、2は3枚組み込むことはもう必須。
 仮に失敗しても、2で負けても痛くないからな。
 Aが2、Kが1、Qが3、2が3、Jが2で11枚。
 延長したとして、そこに4と5を上手く組み込むとしよう。
 このあたりも保険だ。
 使わないと予想される10、9、8は一番下に置く。
 ……よし、これで決定。
 俺は出来たデッキを、山札として、場に置く。
 すると、あっちもその後、デッキを山札として場に置いた。
 その瞬間に、俺の策の一つが発動する!
 山札の一番上のカードを、山札の一番下へと差し込んだ。
「……!?」
 まさかの俺の動作に、相手は少しだけ動揺した。
 やはり……な!
「何驚いてんだよ。 いいから、さっさと始めようぜ……!」
 そう言って、俺はとっとと山札の上のカードを場に置いた。
 これで完成。
 もし相手がなんらかのガン行為をして、俺の山札の順を知っているとしたら、それに対応した山札を組んでくるはずだ。
 だから、山札を組んだ後、一番上のカードを一番下へと置けば……。
 一気に相手の手口は崩壊する。
 それどころか、もうあとは自動。
 相手が対応したはずのカードが、総崩れ。
 それどころか、こっちが逆に相手に対応した山札になるんだからな……!
「……っ!」
 女性はギリと歯を食いしばった後、カードを出す。
 一戦目、こちらはA、そして相手はK。
 そうだろう……!
 俺はこうするために、あえて山札の一番上をQにしたんだからな……!
 Qを1枚失うことになったが、それでもこの勝ちはでかい。
 一気に27ポイントのアドバンテージを得ることが出来た。
「さぁさぁ行くぜ! 俺の快進撃!」
 山札から出されるカードは、もちろん2!
 ここで相手はこれに対して強いカードを使ってくることはねぇだろう。
 どうせ3とか……!
 そう思って、場に出されたカードを見ると……10。
「じ、10……!?」
 俺が驚いていると、女性は食いしばった歯をゆっくりと開けた後。
 邪悪な笑みを俺へと見せてきた。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふ! なるほど、素晴らしい手ね! イカサマを前提としたイカサマ封じ……。
けど、甘いわよ。 そんな浅知恵を使ってきたやつが、今までいなかったと思う?」
 そう言って、女性はカードを回収した後、山札からカードを出す。
 出されたカードは……A!
 嘘……だろ……!?
 俺が出したカードは、Q……。
 なんで、なんで……なんで、俺がQを出すとわかったんだ!?
 頭の中で無数に浮かぶ疑問に、女性はゆっくりと口を開いた。
「甘すぎね……! 全てが甘々! トランプとは、常に相手の2手、3手先を読むものよ……!」
 その言葉に、俺は身震いを覚える。
 コイツは……ヤバい。
 一気に点数が逆転になったどころじゃない。
 対抗策に対する、対抗策があったってことなのかよ……!
 こうなると……。
「クソ!」
 俺は懲りずに山札からカードを出すと、女性も山札からカードを出した。
 俺が出したのはA、相手が出したのは3。
 ……読まれてる!
 今回は勝ったが……これで俺にはAがもう無い。
 それに対して、あっちはAをもう1枚持っている可能性がある。
 まだKだって、2枚ある可能性が……!
 ゾクゾクと、音を立てて背筋が凍る。
 負ける……負ける……負ける!?
「ふふ、清算まで、楽しみにしてることね……!」
 女性のその言葉が、俺には、悪魔の囁きに聞こえた。


 終了後。
 先に20枚溜まったのは、当然女性で。
 俺も運よく、8枚は溜めることに成功したが……。
 Aが2枚、Kが1、3が1、Qが1、Jが1、4が2。
 対してあっちにはAが1枚、Kが3枚、Qが2枚、Jが3枚、10が2枚……。
 Aの1枚は除外されてたようだが……。
 この時点で、俺の負けだ……。
「72点……」
 俺がそう呟くと、女性は冷ややかな笑みで。
「153点! ボーナスは使わないで、差異81Mね」
 そんな言葉を放った。
 100M以上にはならなかったとは言え、払えば残金19M……。
 大負けだ……!
 しかし……想定してなかったわけじゃない!
 こうなることは、わかっていた……!
「ああ、払う、払うが……一つ言っておく」
 俺はアイテムレジストリから金を取り出しながら、隣にいたオレンジカーソルのジャッジへと視線をやった。
「勝負を続行させてくれ。 代償として、俺に81M分の貫通武器を刺してもいい!」
 俺がそう口にした瞬間、ホールがどよめき、目の前の女性が驚いたような顔をした。
「……正気? アンタ、フィールドに出たら死ぬのよ?」
「上等だ。 ここはSAO、デスゲーム。 ここに閉じ込められた時から腹は括ってる」
 俺がそう口にすると、女性はしばし考えた後。
「……いいわ。 受けてあげる。 ただし、81本は突き刺さってもらうわよ!」
 その言葉と共に、オレンジカーソルが俺を囲み。
 次々と、俺の背中に貫通武器を突き刺していった。
 小さいものだとピックから、でかいものだと槍まで、大小様々だ。
 トゲゾーになった気分だ……。
 服の耐久値が減ってるが、今回別にいらない装備を着込んできてよかった。
 耐久値もまだまだたっぷりある、次の勝負中に全裸になるってことはねぇだろう。
「さて、トゲゾーになったところで、ラウンド2と行くか……!」
 俺がそう啖呵を切ると、女性は暫く俺を見た後。
 心底楽しそうな顔で、口を開けた。
「気に入ったわ、アナタ。 名前は? 私はスユア。 トップギャンブラーの、スユア!」
「……アルス。 ギルド、ディラックの、アルスだ!」
 互いに名乗りを上げたその瞬間。
 再び、ジャッジによってトランプがシャッフルされる。
 さぁ、こっからだ。
 俺はスユアの背後で場を見ているクーレイトに、目配せした。



―――――



 目の前の男はあまりにも馬鹿馬鹿しい。
 私に勝てることなどありはしないのに。
 このトップギャンブラーのスユア、現実でも、ゲームでも敗北は無い。
 思えばいつもそうだった。
 初めてギャンブルというものを認知したのは小学生の頃。
 友達が誘ってきた大富豪でのことだ。
 ローカルルールが多かったそのゲームで、攻略法を見抜いてしまったのだ。
 このゲームは、2とジョーカーを所有したものが勝つ。
 手札がルールによっては8と2とジョーカー、そして適当な数を1つだけで構成すれば負けない。
 そんな当たり前のことに気づいた瞬間。
 私の中で何かが変わった。
 あえて1番初めに負けて、カードをシャッフルする役を取る。
 後はシャッフルした後、上手く自分にカードが回るように細工する。
 ただ、これだけで、私は勝てた。
 友達がまともにいなくても、やってはいけないことをやっている背徳感と、勝利の快感。
 これが、もう忘れられなくて、何度も何度も、イカサマを繰り返した。
 友達からはバレずに「ナツキちゃんは運が強いね!」なんて言われた。
 バレずに適度に負けたのが項を成したらしい。
 中学生に入ってからは、賭けギャンブルは加速した。
 父親から教わった麻雀で、只管イカサマを研究した。
 燕返し、キャタピラ、ぶっこ抜きは当たり前。
 常に満貫以上で勝ち、父親の知り合いや親戚から小遣いを荒稼ぎした。
 全自動卓でも関係ない。
 初めから握っておけば、それらは回避できるのだから。
 敗北は計算された敗北で、勝利は仕組まれた完成された勝利。
 高校生になってからもそれは変わらず。
 大学を出て、二十歳を過ぎても、私は未だに完全な敗北を知らなかった。
 ただ、当時ゲームにハマっていた私は、SAOを買って、このデスゲームに放り込まれた。
 初めは驚きや戸惑いがあったが、そんなのは一週間で吹っ切れた。
 逆に、このゲームに存在するスキルの存在。
 そして、階層が上がると開放されたトランプの存在で、劇的に変化した。
 今まで無名だったプレイヤーの私が、ギャンブルで、一気にトップまで上り詰めた。
 誰も勝てない、絶対の存在、それが私、スユアだ。
 まぁ、とは言えイカサマのネタを開けば簡単なものだ。
 初めに配られるA,K,Q。
 これら3枚に関しては何の小細工もしない。
 問題は、配られる時。
 わずかながら、透過スキルが使える瞬間がある。
 もちろんバグなのだろうが、これを利用して、自分の山札と相手の山札を認識する。
 スキルを発動したエフェクトも理論コードを利用した方法でかなり控えめにした。
 一見するとわからないだろう。
 相手の山札がわかったところで、次に追跡スキルの使用だ。
 相手のA、K、Qに追跡スキルでマークをつけておく。
 仮に相手がシャッフルしたところで、私の視界からはその位置が丸わかりだ。
 そしてここが重要。
 相手の山札と私の山札がわかれば、除外された6枚の内容もわかる。
 今回は……K、6,7,4,2、9が除外されたようだ。
 ここで重要なのは、K。
 幸い、私の山札にKは2枚ある。
 Aも2枚存在しているので、相手のAには山札にある一番弱いカード、2を当てておく。
 追跡スキルの応用で、ターゲット自動追尾スキルがある。
 もちろん、一部のスキルを上げないと出てこない派生スキルなのだが……。
 これで相手のAには予め2を当てると、あら不思議。
 システムが勝手にKを敵、2を武器と誤認して勝手に順番が変わるのだ。
 これで先ほどやられた山札のズラしにも対応できる。
 あとは、このSAOならではの、メッセージシステム。
 私とグルになっているやつが、目の前の男、アルスの背後でギャラリーをやっている。
 山札を並び替えている時の情報を、メッセージとして私に送ってきている。
 並び替えている時は追跡スキルでマークしたもの以外はわからないのが難点なのだが、これでそれもクリアできる。
 あとは追跡スキルと自動追尾スキルを両立させてカードを対応させれば……。
 これで完成。
 相手が何をしようが、山札が勝手に入れ替わる。
 難点なのは、一番上のカードはズラしに対応できなくなる、ということ。
 だからさっき、1敗の負けを許してしまった。
 今回はそれに対応して、1番上のカードはAで固定する。
 どうせあちらはKが1枚。
 Aは一枚あれば事足りる。
 相手がズラそうがなんだろうが、初めの一敗はこれで無い。
 せいぜい無駄なカードを消費すればいい……!
 相手の山札が終わったところで、私はメッセージとスキルを駆使してすぐに山札を組み上げる。
 さぁ、これで終わり……!
 さよならアルス、貴方の命運もここまでよ……!
「「バトル!」」
 互いの山札の一番上から、カードを場に出す!
 私は当然、A……!
 そして相手は……A……!?
 相打ち……!?
 ……考えた、と言ったところね。
 まぁ14点失うのは痛いけれど、仕方ない犠牲だわ。
「面白いことをしてくれるわね……!」
 私がそう挑発を交えて口に出すと、目の前のアルスは、口元を歪ませた。
「まぁまぁ、見てろよ。 面白くなるのは、こっからだぜ……!」
 ……コイツの余裕は、なんなの?
 81本も刺さって、ウニみたいな状態だってのに。
 冷や汗をかきながらも、消えないその闘志は……何!?
 苛々するわ……、その余裕。
 まぁいい、どうせ、すぐに殺してあげる。
 私は、私の手を汚さずに、貴方を串刺しにして、現実からも永久追放してあげる!
「2枚目行くわよ……!」
 山札から、カードを引き、場に出す。
 確か相手はQを出すはず……!
 だから、こっちはKを出す……!
 出したその瞬間。
 途方も無い違和感に、襲われた。
 私の出したカードが、Kじゃない……?
 嘘だ、ありえない。
 なんでここでJを出してるの……!?
 相手は当然、Q。
「くくく! もらっておくぜ!」
 アルスはしたり顔で、場にあるカードを回収していく。
 なんで……!?
 いや、ここで戸惑ってもしょうがない。
 次、次があるのよ……!
 次は正面場、K!
 ここで、私はAを出す!
 山札から引かれて出たカードは……。
 何故か、Q……!?
 なんで、私がいつ、Qを……。
 いや、違う、このQは……!
 さっき、私が出そうとしたQだ……!
 アルスのKは、当たり前のように出てくる。
「おいおい、どうした……鳩がデザートイーグル食らったような顔してるぜ……!」
「……それを言うなら、豆鉄砲でしょ? マルイのモデルガンでも買ってれば……!?」
 そう、強がっては見たもののこれは非常にまずい。
 何故かはしらないけれど、自動追尾スキルが上手く発動してない。
 それどころか、さっきのJ……何処から出たのか……!?
 今回……何かがおかしい!
 絶対だったスキルによる勝利が……!
 く……次っ!
 次は、相手がA……だから、ここは2が……!
 そう思って、相手が出たカードを確認すると、2……!?
 なんで、ここで2が……。
 私の山札から出たのは、A……!
 ここで、気がついた。
 ああっ……もしかして……!
 私の山札が、ズレてる……!?
 さっきのJから、その後が、1枚づつズレてるっていうの……!?
 なんで、なんでっ……!?
 それに、相手が出すカードが、完全に違う……!
 読み間違い? それとも、自動追尾の失敗……マーキングミス!?
 アルスの背後にいる、私の仲間は……!?
 そう思い、顔を上げると。
 そこに、私の仲間はおらず。
 変わりに、いつもこのホールに来ている少女が舌を出してこちらを見ていた……!
 あれは……確か、玖渚とかいう泥棒!
 私の仲間を、一体どうしたっていうの……!?
 さっきまで、メッセージを送ってきていたのに……。
 ふと、視界にメッセージが現れる。
 他人には見えないタイプの、所謂wisメッセージだ。
 そこに書かれていたのは……。
【いつから私がザサーダだと錯覚していた?】
 ザサーダというのは、私の仲間の名前……!
 じゃあ一体、これは誰……!?
 宛先に、眼をやると……玖渚!?
 嘘……さっきまで、確かにザサーダから……。
 ふと、履歴が見える。
 そこには、宛先が、さっきまでの勝負中、玖渚から送られてきたものになっていた。
 まさか……!
 勝負中に来るメッセージは、ザサーダのものだと思い込んでいた、私の隙をついたの……!?
 やられた……!
 これじゃあ、相手の山札の大半はわからない。
 でも、追跡スキルをつけていたA、K、Qについては……!?
 そう思って捨て札へと眼をやると……。
 違うカードに、マーキングがついている。
 なんで……!?
 そう思った直後、背後から、小声が聞こえた。
「お嬢さん、マーキング行為はやるものではないですよ。 それを過信する余り、真実が見えなくなってしまう。
例えば、私が貴方にかけたターゲット変更スキルにすら気づかないほど、貴方の眼は衰えていたようですね」
 ……変更スキル……っ!
 私が、それを使ってると過程して、使ってきたっていうの……!?
 そうか……それなら、辻褄が合う。
 一戦目、私が果たしてそのスキルを使っているかを見て、二戦目の今、ここで仕掛けてきた……!
 あくまでも一戦目は、捨て試合だったって話ね……!
 やられた……。
 ただ、それだけを思って、山札からカードを出していく。
 結果は、惨敗。
 先にアルスの捨て札に20枚溜まり、清算へと入る。
 私の捨て札はわずか4枚。
「26……」
「166! ボーナスで四捨五入して170だ!」
 差異は144……ボロ負け……!
 さっきのを含めると、合計で61Mの敗北……。
 破産はしないけど……痛い負けだ。
「……やられたわ。 よくぞ、見抜いたわね」
 私は渋々とアルスへと144Mを渡しながら呟くと、アルスは意地の悪い笑みを見せて。
「やったのは、俺じゃなくお前の後ろにいるクーレイトと、俺の後ろにいる玖渚だ。
まぁ、あそこまで上手くいくとは思わなかったけどな」
 そう言って、アルスは立ち上がる。
「さて、とっととこの背中のトゲゾーを抜いてもらうか。 このままじゃ全裸になっちまうぜ」
 彼がそう口にすると、周りからオレンジカーソルのジャッジ達が集まり、背中に刺さっていた武器を全て抜いた。
 その瞬間、ホールから歓声が上がる。
「すげぇぞ! 兄ちゃん、あのスユアを倒すなんてよ!」
「おい! 今勝った金で勝負しようぜ! 俺の得意なポーカーで!」
「逃げんなよ! 大富豪で青天井やるぞ!」
 次々と投げかけられる言葉に。
「あ~、いやいや、どーもどーも。 この金は自分らのギルドの家買うために必要なわけで……。
というかこっちは命がけだったんですよ! マジで!」
 アルスは社会人らしく、腰を折りながら解釈をしていた。
 こう見ると、さっきの勝負とのギャップが凄まじい。
 ……面白いわね。
 玖渚、クーレイト、そしてアルス……。
 この子達のようなチームワークがあれば、イカサマして勝たなくたって、面白いのかな……。




―――――



 翌日、25層の宿。
 俺達ディラックは、天乃の一室へと集まっていた。
「はい、朝礼しまーす……じゃなかった、社会人の時の癖がついちまってるな……」
 天乃がそう言ってボリボリと頭を掻くと、その場で笑いが起こる。
 まぁ、気持ちはわからんでもないけどな。
 というかこいつ中間管理職だったのか……。
「とりあえずね。 なんと、天下のアルスと、クーレイト君が10Mを入手してくれました!
現実に換算すると1千万! これは凄い額だね! そして、何よりも……!」
 そこで天乃は区切り、部屋のドアを開ける。
 そこから、一人の人物が、部屋へと入る。
「ギルドに新人でーす! スユアさんって言うんだけど、なんと、この人がギルドの家のために100Mを投資してくれました!
現実に換算すると一億! たぶん俺が一生頑張っても稼げない額です。 はいみなさん拍手ー!」
 俺は拍手をしながら、スユアに視線をやる。
 スユアは、少しだけテレながらも、まんざらでもない顔をしていた。
 そう……あの勝負の後。
 スユアが、俺とクーレイトにギルドの申請をしてきたのだ。
 もちろん俺はギルマスじゃないからその場ですぐに、とは行かなかったが、天乃に連絡して早速入れてもらった。
 家を買うために稼いでいた、という話をしたら案外簡単に投資してくれたのだ。
 何でも、著金額を含めると200M以上はあるらしい……。
 何人も破滅へ追いやり、殺してきたやつだが、それで嫌うってのも大人気ない。
 罪を背負って生きていくって言ってるんだから、あまり気にしないでやろう。
「えー、さらに新人がいますが、圏内に入れないので今度紹介します。
とりあえずまぁ、皆さん仲良くしてください! あとギルドのホームになる家は20層あたりの馬鹿でかい家を買おうと思っています。
というかあれ家と呼ぶにはでかすぎるんですが、まぁ、まぁ、追々決めたら見せるのでそれまでは宿で我慢してください。 宿代は出します。
因みに俺のポケットマネーです」
 そんな天乃の言葉に、一同で笑いが起きる。
 つくづく舌が回るやつだぜ、天乃。
 コイツをギルマスにしたのは間違いじゃなかった。
 さっき言ってたさらにいる新人ってのは……言うまでも無く玖渚だ。
 オレンジカーソルが入るという異例の事態だが、俺と天乃、クーレイトの3人で相談して決めたから問題ない。
 桜花あたりがゴネそうだが、まぁレイカとスユアが宥めてくれるだろう。
 ガンマさんに関しては、クーレイトがいれば後はどうでもいいらしいしな。
 そんなこんなで、俺達の家を巡る一大イベントは、なんとかどうにか、幕を閉じたのだった。 
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