八条学園怪異譚
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第四十八話 薔薇園その六
「カトリックとプロテスタントの戦争よね」
「実際は神聖ローマ帝国内での皇帝と諸侯の内戦だった」
「そこに他国も介入してよね」
「ドイツの国土は崩壊した」
荒廃どころではなかった、三十年の激しい戦争でドイツの人口は千六百万が一千万、一説には六百万か四百万まで減り街も村も破壊されたのだ。内戦に他国が介入した宗教戦争だった、血生臭くなるのも当然か。
「まことに無残な戦争だった」
「ドイツじゃ今でもなの」
「カトリックとプロテスタントは別れている」
三十年戦争から何百年と経っているがだ。
「大体西やオーストリアがカトリックだ」
「それで東がプロテスタントよね」
「いささかモザイクだがそうなっている」
こう話すフランケンだった。
「しかし日本は」
「普通にね、神父さんと牧師さんが一緒の街にいるわよね」
「うちの学園の中も」
今彼等がいる八条学園にしてもだった。
「カトリックの教会とプロテスタントの教会があってね」
「神父さんと牧師さんもいるからね」
「喧嘩もしないしね」
「宗派とかでね」
「それは本当に凄いことだよ」
狼男もそのことを指摘する、今は普通の狼の顔に戻っている。
「イギリスも深刻な宗教対立があったからね」
「うむ、欧州は多くの国がそれを経ている」
フランケンは狼男の言葉にも応えた。
「本当にな」
「何か神様で戦争したり殺し合うのってね」
「本末転倒だとも思うけれど」
二人は日本人の立場から顔を見合わせて話した。
「よくないわよね」
「そんなことをしたら」
「その通りだが中々難しいのだ」
ミイラ男も二人に言う、古代エジプト生まれの彼も。
「まあ我が国も色々と信仰では悶着があったしな」
「何か何処でもあるのね、神様関係の争いって」
「エジプトもなんて」
「不幸にしてそうだ、しかしそうした争いがないことはいいことだ」
ミイラ男は達観した感じで述べた。
「実にな」
「じゃあ今の日本は幸せなのね」
「そうした争いがないだけに」
「いいことだ、それでだ」
「それで?」
「それでっていうと?」
「君達は泉を探しているが」
話題を変えてきた、ミイラ男の今度の話題はそのことについてだった。
「今度の具体的な候補地は何処だ」
「ううんと、柳のところにね」
「桜の木の下もそうよね」
二人は今考えているそうした場所を述べた。
「そうした場所を行こうかなって」
「そう考えてるけれど」
「もう一つ知っているが」
ミイラ男は二人が今行こうと思っている場所を聞いてこう述べた。
「話そうか」
「あれっ、何処なの?」
「その場所って」
「薔薇園だ」
話に出たのは名前を聞いただけで綺麗な場所だった。
「高等部の園芸部のな」
「そういえばうちの園芸部お花大好きだったわ」
「特に薔薇が」
「いつもベルサイユの薔薇とか言ってね」
「文化祭でも薔薇園でローズティーのお店開くって言ってるわね」
そろそろ文化祭の季節だ、園芸部はそれを開くというのだ。
「結構筋肉ムキムキの先輩が多いけれどね」
「お花を愛するのよね」
「いいことではないか」
ドラキュラはその先輩達を褒めるのだった。
「花を愛するのはいいことだ」
「それはそうだけれどね」
「ただギャップが」
筋肉と花、特に薔薇とのギャップがだというのだ。
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