とある星の力を使いし者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第129話
二人の拳を受けた男はそのまま後ろに倒れる。
麻生は自分の拳に視線を注ぐ。
(殴ったと思ったのに、拳に手ごたえはなかった。
なのに、あの男は後ろに倒れた。)
自分の拳から上条に視線を移す。
その視線の先は上条の右手、幻想殺しだ。
後ろに倒れた男はゆっくりと立ち上がる。
唇の端から、血が流れていた。
それを拭いながら、男は言う。
「さすがは幻想殺しだな。
こちらの法則なぞ無視してきやがるか。」
そう言いながら、地面に唾を吐く。
その唾には血が混ざっている。
どうやら、上条の拳があの男に通り、口の中を切ったようだ。
麻生は男の言葉を聞いて、考える。
(こちらの法則?)
麻生が考えている間に、男は言葉を続ける。
「あいつらがそれを切り札の一つとして考えるのも納得だな。
しかし、よくやるよな。
下手をすれば、自分達の存在をも壊される可能性があるのにな。」
「お前、俺の幻想殺しについて何か知っているのか?」
「まぁ、学園都市の統括理事長よりかは知っているつもりだがな。」
その時、強い風が吹き荒れる。
その風は男のローブを後ろへとやる。
男の素顔を見た麻生と上条は息を呑んだ。
見た目は二〇代後半あたりか。
青い髪色で麻生より少し短髪だ。
眼の色は金色と此処まではどこにでも居そうな男性だろう。
ただ、その男には普通の男性にはないものがあった。
それは傷痕だっだ。
いや、火傷の痕という表現の方が正しいだろう。
顔の中心に×印の大きな火傷ができていた。
男は二人が驚いている表情を見て、その痕を指でなぞりながら言う。
「驚いたか。
これはなただの火傷の痕じゃない。
俺の復讐を忘れないための、いわば誓いのようなものだ。」
そう言うと、男は二人に背を向ける。
「お前、どこに行く!?」
「最初に言った筈だ、俺はお前の実力を知りに来たんだってな。
それは充分に分かったから、もう此処にいる意味はない。」
「お前になくても、俺は用があるんだよ!」
そう言って、上条は拳を再び握り締め、男に向かって走り出す。
拳を男の顔面に向かって突き出す。
だが、男はそれを右手で受け止めると、そのまま空いている左手で上条の顔面を殴り返す。
上条はそのまま後ろに倒れる。
「さっきはお前のその右手に興味があったから、わざと殴られたが、二度は殴らせんよ。」
男の周囲に風が集まると、男はゆっくりと宙に浮いていく。
「最後にお前に警告をしといてやる。
その約束とかは、さっさと忘れる事だな。
それがお前の邪魔をしている。
ただでさえ、扱えきれていない能力の重荷になるぞ。」
(こいつ、俺がこの能力を完全に扱えていない事を知っている。)
「そんなんじゃあ、幹部おろか並の魔術師に勝つ事すらできないぞ。
それと最後にもう一つ。
俺はあいつらとは違う。
次にあいつらと俺を一括りにしたら、お前が星の守護者でも関係なく殺すからな。」
その言葉を最後に男は風を纏って、どこかへ飛び去って行った。
麻生は男が飛び去った所をじっと見つめていると、突然視界が揺らぐ。
そのままゆっくりと、地面に倒れていく。
(そう言えば、傷はそのままだったな。
血も流しすぎたし、これって不味くないか?)
周囲には結界を張ってある。
人払いも兼ねているので人が来るには、予め結界に与えた魔力が無くなるまでだろう。
そんな事を考えながら、少しずつ意識が遠くなっていく。
倒れそうになる麻生を誰かが、支える。
遠くなっていく意識の中、麻生は自分を支えた人物に視線を向ける。
「だ、大丈夫ですか!
しっかりしてください!」
それは五和だった。
五和は慌てた表情をしながら、麻生に呼びかける。
「そんな・・耳元で・・・・騒ぐな。」
「良かった、まだ意識はあるみたいですね。
すぐに治療魔術を。」
「いや・・・それより、この結界を」
「今、建宮さんが結界を解除しに行っています。
もうすぐ、結界が解けるはずです。」
「なら・・・・救急車を呼べ。
この傷は・・魔術では治らない。」
麻生はその言葉を言って、意識を失うのだった。
次に目が覚めると、麻生は見慣れない天井が一番に眼に入った。
それも天井は絶えず動いている。
周りを見ると、看護婦や医者が麻生の身体に包帯などを巻きながら、話し合っていた。
内容を簡単に説明すると、麻生の傷の具合などを話している。
そこで自分が担架に乗っている事に気がつく。
魔術で治らないのなら、医療技術で治してもらうしかない。
現にあのスラム街での傷は、カエル顔の医者の所で、治療してもらう事ができた。
(どういう原理かは知らないが、医療技術なら傷を治す事ができるみたいだな。)
と言っても、病院は手術などは例外だが、基本的に自然治癒を高めて、傷を治す。
(自然治癒で治る事が分かっただけでも、よしとするか。)
そう思い、眼を瞑り、後は医者に任せようとした時、横から麻生の肩を軽く叩かれる。
閉じた目を再び明け、その肩を叩いた人物を見る。
「すいません、貴方様にお電話が。」
そう言って、電話を差し出してくる。
麻生は電話を受け取り、耳に当てる。
「傷の具合はどうだい?」
声の主はカエル顔の医者だ。
「鎮痛剤が効いて、今は痛みはない。」
「それはよかったね?」
「というか、どうして俺が怪我しているのを知っているんだ?」
「その病院は学園都市協力派の病院でね?
学園都市の生徒が運ばれたら連絡が来るようになっているんだよ?」
「ふ~ん、それであんたが直々にこっちに来てくれるのか?」
「何で、そんな面倒な事をしないといけないのかね?
逆だよ?
君が、いや正確には君達がこっちに戻ってくるんだよ?」
麻生は一瞬、自分の耳を疑った。
「どういう事だ?」
「だから、いくら協力派の施設とはいえ、能力者の身体を調べさせる訳にはいかないんだよ?」
「俺は無能力者だが。」
「時間割り(カリキュラム)を受けているから関係ないね?」
「じゃあ何か、お前は何十時間もかけて怪我人の俺を飛行機で運ぶつもりか。」
「それは安心してもいいよ?
学園都市製の超音速旅客機が停まっているはずだから。
それを使えば、一時間ちょっとでつくかな?」
「お前は俺を殺すつもりか?」
「大丈夫、死ななければ僕が治してあげるから?」
麻生は言葉が出なかった。
いや、何を言ってもこれは覆せないだろう。
麻生は大きくため息を吐いて、こう言った。
「地獄に落ちろ。」
返事を聞かずに、通話を切る。
それに合わせて、麻生を運んでいた担架は急に進路を変える。
運ばれながら、麻生はもう一度ため息を吐いた。
(結局、何の休息にもならなかったな。)
どこまでも緑の草原が広がる平野。
その平野に一人の男が立っていた。
青い髪の短髪に金色の眼。
そして、顔には大きな×印の火傷があった。
男は静かに、風に揺れる草原の見つめている。
すると、後ろから何かが近づく音がする。
男は振り返りもせずに言う。
「何の用だ?」
「お前が星の守護者と接触したのでな。
感想を聞きに来たんだよ。」
それは猫だった。
猫は男の隣まで歩り、座る。
「それで、どうだった?」
「全然駄目だな。
あれでよく幹部クラスと戦って生きて来れたな。」
「確かに彼の今の実力では、幹部クラスに勝つ事は不可能だろうな。」
「どうして、あいつらはあんな奴を選んだんだ?
あの頃の星の力なら、初代星の守護者を蘇らせる事はできた筈だ。」
男の言葉に猫はこう言った。
「星が人を蘇らせる事はルールに反する。」
「だが、結果的にあいつらはルールを自分から破った。
それが今の現状だ。」
「確かに、彼らは自分で課したルールを自分で破った。
しかし、彼らは・・星は自分達がこうなる事を分かっていて、ルールを破ったんだろう。」
「そうまでして、星は何を考えているんだ?
今のあいつは星の力をほとんど扱えきれていない。」
「私にも何を考えているのかは分からない。
私は自分の与えられた使命を全うするだけだ。
お前もそうだろう。」
猫の言葉に、男は少し面倒くさそうな表情を浮かべながら言う。
「契約は果たす。
だが、契約が終わった時は好きに動かせてもらう。」
「復讐か?」
猫の言葉に男は何も答えない。
それでも猫は言葉を続ける。
「復讐した所で、その先に待っているのは何もない。」
「黙れ。」
男の手にはいつの間にか、拳銃が握られていた。
その銃口を猫に向ける。
「お前に何が分かる。
全てを失った俺の何が。」
男の憎しみの籠った言葉に猫は何も答えなかった。
男は舌打ちをすると、ローブを被り踵を返し、どこかへ立ち去る。
その場に残った猫は、夜空に浮かぶ月をただじっと見つめるのだった。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
ページ上へ戻る