魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep14其は抑止の力と戻りて~Advent~
†††Sideなのは†††
ユーノ君に協力してもらって組んだ魔法(集束砲っていうみたい)、スターライトブレイカーを撃った。集束砲は自分の魔力や周囲の魔力を名前の通り集束させて放つ、砲撃の中じゃ最高クラスの魔法って聞いた。魔力をほぼ全部使う魔法だから、もう私には魔力はほとんど残されてない。
「はぁはぁはぁ、あ・・・!」
フェイトちゃんは気を失ってしまったようで、海へと落ちてしまった。気を失ってるあのままじゃ溺れちゃう。だから「フェイトちゃん!」すぐに助けに向かう。真っすぐ海に飛び込んで、沈んでいくフェイトちゃんと“バルディッシュ”を抱えながら海から脱出した。ぐったりしてるフェイトちゃんに「フェイトちゃん」って呼びかける。
「っ・・・ん・・・」
フェイトちゃんが小さく呻いた。気が付いたみたい、よかった。やっぱりちょっとやり過ぎたのかも。でも真剣勝負だから、謝らない・・・うん。
「あ、気付いた、フェイトちゃん? 大丈夫?」
心配して声を掛けると、「・・うん」フェイトちゃんは頷いてくれた。
「私の勝ち、だよね」
「そう、みたいだね」
微笑みかけて一応確認してみると、私から離れたフェイトちゃんは少し辛そうだけど負けを認めてくれた。
≪Put Out≫
フェイトちゃんが負けを認めると、手渡したばかりの“バルディッシュ”が“ジュエルシード”を出した。よかった。これでもうフェイトちゃん達と争わなくて済むんだ。
『よし、なのは。ジュエルシードを確保して、それから彼女を――』
クロノ君からの念話が途中で途切れる。何かあったのかな?って思っていると、急に空が曇りだした。この感じ、フェイトちゃんのお母さん、プレシアさんがフェイトちゃんを攻撃したあの時みたい。
「フェイトちゃん!」
「え・・・?」
フェイトちゃんを庇うために、私はフェイトちゃんの頭上に移動した。
――サンダーレイジO.D.J――
その直後、雷が落ちてきた。もう魔力は空っぽだけど、それでも“レイジングハート”を構えた。
――大いなる雷神の天蓋――
私たちの頭の上に蒼い雷で出来た、クモの巣のようなものが現れた。
「え・・・!?」
「これ、ルシルの魔術・・・!」
私とフェイトちゃんは、そのクモの巣のような雷の(ルシル君の魔術みたい)おかげで無事だったけど、驚いていたその間にフェイトちゃんの“ジュエルシード”が転送されてしまっていた。こうなったらもう私に出来ることはなくなって、シャルちゃん達と合流するためにフェイトちゃんと一緒に地上へと降りた。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
私たちはフェイト達を連れてアースラへと帰艦した。ルシルとフェイトは、簡素な服に着替えた上で手錠をされてしまっている。かつての大英雄の手錠姿が見られるなんておかしな話よね。
「お疲れ様。それから初めまして、フェイトさん、ルシリオン君。この艦アースラの艦長、時空管理局・提督、リンディ・ハラオウンです」
ブリッジに到着すると、リンディ艦長がルシル達の元へと来て挨拶をした。
「魔術師ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードです。と言っても調べているのでしょうが、一応は礼儀ですので」
フェイトは口を閉ざしたままだけれど、ルシルは挨拶を返した。そんなルシル達を横目に私はモニターに意識を向け、現在の状況を確認する。プレシアの拠点へと進攻するアースラの魔導師(武装隊だったかしら?)達。パッと見、なのはやフェイトより弱いかもしれないわ。
「高町なのは。悪いけど、フェイトを別の部屋などに連れて行ってくれないか? 構いませんよね? リンディ艦長」
ルシルはフェイトに母親が逮捕される場面を見させないために、なのはにフェイトを頼んでリンディ艦長に確認する。私が連れて行ってもいいんだけど、ここは正真正銘の子供であるなのはが行くべきだと思うわ。
「待ってルシル。私は大丈夫だから、逃げたくないから」
けれどフェイトはそう言って断る。それと同時に、武装隊がプレシアを包囲して投降する様に呼びかけた。玉座のごとき肘掛け椅子に座るプレシアは肘掛に頬杖をつき、不適な笑みを浮かべて、余裕に満ちている。そんなプレシアの元に数人を残し、残りの武装隊員たちは玉座の先へと調査するために入っていく。
「フェイト・・・ちゃん?」
「わ、私・・・?」
そしてブリッジのモニターに映ったのは、フェイトより少し幼く見えるけど、まったく同じ姿の少女で、水槽のような物の中に浮いていた。その様子になのはとユーノ、フェイトとアルフは驚いている。
「私のアリシアに近寄らないで!」
玉座の間で包囲されていたプレシアは武装隊を瞬時に蹴散らし、すぐさま移動して水槽の前に居た武装隊の何人かを吹き飛ばす。アリシア。それは、あの水槽の中に浮いている少女の名前なのかもしれないわ。
武装隊員たちは、プレシアの今の公務執行妨害を見て構わず攻撃に移った。だけれどプレシアは何とも思わないのか、それを容易く防ぎきった後、手の平を前に差し出した。
「危ない! 防いで!」
リンディ艦長の声がブリッジに響く。けれどその指示は少し遅かった。プレシアの広範囲に放たれた雷撃に、武装隊は成すすべなく瞬時に全滅した。なるほど。あれが大魔導師と謳われた力というわけね。確かにかなり強力な雷撃だわ。リンディ艦長は気を失って倒れ伏している武装隊の送還をエイミィ達スタッフに指示している。
「アリ・・・シア・・・?」
フェイトが呟く。プレシアはゆっくりと水槽へと近付き、手を添えて優しく表面を撫でる。それはまるで、あの少女を優しく撫でるかのような仕草だった。
「もう駄目ね、時間が無いわ。たった10個のロストロギアでは、アルハザードに辿り着けるかはどうか判らないけど・・・」
私は不穏な単語を聞いた。プレシアはまだ何か喋っているし、エイミィも何かしらの説明をしている。だけど、今はあの単語の方が気になる。アルハザード。やはりこの次元世界は、私たちがかつて生きていた世界、みたいね。
此処に来てやっと確信する。何故11柱存在する“界律の守護神テスタメント”の内、私とルシルが呼ばれたのか。
(それは、2人とも、この次元世界の出身だからよ)
次元世界と関連を持つからこその召喚。それだけじゃないわ。前々から思っていた。どうして魔法と魔術に類似点が多くあるのか。それも説明がつく。現代の魔法の基になっているのが、私たちの魔術だからだ。
(でもプレシア、残念だけれどあなたの願いは叶わない。何故なら、アルハザードはすでにルシルの手によって消滅したから)
そう、アルハザードという世界は、天秤の狭間で揺れし者4thテスタメント・ルシリオンによって、すでに宇宙の塵と化してしまっている。
「黙れ!」
ルシルの怒声によって意識を現実に引き戻される。よく聞いていなかったから話についていけないけれど、どうせプレシアがルシルの逆鱗に触れるような発言でもしたのでしょうね。全く、愚かな女だわ。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
フェイトを娘でなく、人としても見ていなかった上にあの暴言。プレシアのフェイトに対する異常なまでの拒絶の態度に、もっと考えていればよかったと、今になって後悔する。あの少女、アリシアを復活させるためだけの、自分の慰みだけの、偽者で人形。
(最後に放った、大嫌い、というフェイトを否定する言葉・・・!)
俺は今まで似たような、さらにはもっと酷い現実を見て聞いてきたが、今回はいつも以上に頭にきた。やはりフェイトにシェフィを重ねているからだろうか? そうじゃない、それはもう吹っ切った。俺はフェイトに笑っていてほしいから、幸せになってほしいから、それを邪魔しようとしているあの女が許せないんだ。
「死者の蘇生? 笑わせる! たかが人間風情が上位種どもの真似事か!? 全ての存在に対して死は、滅びは必然! それを無理やり捻じ曲げようとすれば、世界はそれを許さない! たとえ成功したとしても、蘇生された者は世界の意思によって消されるだけが定め! それすら解からない貴様は二流もいいとこ三流以下だよ、プレシア・テスタロッサ!」
禁呪の1つに指定されている死者蘇生の魔術式。実際それを行った者を見たがあれは酷かった。蘇生した者、された者は世界の意思・“界律”の修正力によって瞬く間に殺された。もちろん、その者たちの魂すら残されずに、だ。もう2度と輪廻転生が出来ないよう徹底的に。
そもそもプレシアは、アリシアの肉体だけを保存している状態だ。アリシアの魂が無い以上、出来るのは姿かたちが同じだけのクローン。言うなれば双子のようなものにしかならない。
『っ!? 前にも言ったけど、世界が私たちに干渉すること――』
「哀れね」
『なに・・・っ!?』
シャルが俺の横に立ち、一言呟いた。モニター越しにプレシアを見るその目は明らかな怒り、呆れ、憐憫、おまけに軽く殺気が混ざっている。
「ジュエルシードを使ってアルハザードへ行く? まったくもって馬鹿馬鹿しい。確かにあなたのアリシアへの想いは本物なのでしょうね。愛する人を取り戻したいって気持ちくらいは、私にも少し理解できる。でもね、あなた個人の意思で世界を滅ぼすような真似だけは許さない。それにルシルが言ったとおり、死者蘇生は奇跡中の奇跡、摂理の冒涜、成功はしないわ。それでもやりたいなら、まずは人間をやめることをお勧めするわ」
シャルがプレシアに向けて静かにそう告げた。誰かを蘇らせたい気持ちは解かると、でもそれは許されないと。シャルのその様子から、シャルの言っていることが真実で事実だとプレシアは理解したようで息を呑んでいる。黙ってしまったシャルを、みんなが見ている。そして、その沈黙を破ったのはプレシアだ。
『どうして、どうして!? 解かるならどうして私の邪魔をするのっ!?』
「言ったでしょう、死者の蘇生は不可能だって。それにジュエルシードを複数発動させれば、世界が滅びかねない。それを邪魔したいのは当然でしょ」
『フフ、ウフフ、アハハ、アハハハハッ! もういいわ、こんなくだらない時間を過ごすのはもう御免よ。あなた達が何と言おうと、私はアリシアと共に全てを取り戻すっ!』
シャルとプレシアの会話は続き、最後にプレシアは壊れたかのように笑い声を上げた。そうしてプレシアとの通信が一方的に切れた。もう形振り構っていないため、急いで止める必要があるな。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
(はぁ。・・・大切な人を生き返らせたい、か・・・)
世界は本当に気まぐれだわ。ときには与え、ときには奪う。それは誰にでも起こりうる有情で非情な真理。それを認めなければ生きてはいけない。けれどプレシアはそれを認めようとしない。それがあまりにも愚かで、悲しかった。私の説得も空しく、プレシアは“ジュエルシード”の強制発動に入るみたいだわ。こうなったら、あとはもう力ずくで止めるまでよ。
「クロノ。私がプレシアを止めてくるから、転送装置の準備お願い。ルシル。あなたはフェイトとアルフの側に居てあげて。その方が良いと思うわ」
「待て、僕も行く! なのは、ユーノ、君たちにも手伝ってもらいたい!」
私はルシルとクロノに声を掛け、“時の庭園”へと行くための1つ目の準備を始める。クロノはなのはとユーノに協力を頼んでいるけれど、連れて行くにはあちらは少し危険だと思うのだけれど。
「う、うん。でもフェイトちゃんが・・・」
なのははフェイトの様子を見て迷っている。でも今はプレシアを優先するのが妥当よ。だから私は、ルシルにフェイト達を任せる、って言ったのだけどね。
「なのは。そこはアルフとルシルに任せなさい。あなたよりずっと長い時間を一緒に過ごしたんだから、あなたよりは適任よ」
「あ・・・うん。アルフさん、ルシリオン君。フェイトちゃんをお願いします」
「「ああ」」
なのはは渋々了承して、ルシル達に返事を聞いてから最後に転送装置へ入り、“時の庭園”へと転送された。
到着直後、私はなのはとユーノとクロノから少し離れて、2つ目の準備を始めた。本来の私に戻るための準備だ。
「契約執行形態、顕現」
私は“界律の守護神テスタメント”の聖衣、外套と仮面と神父服へと変身し、そして純白に輝く葡萄十字、神造兵装・“第三聖典”を武装する。ブリッジでの準備とは、“界律”との精神接続を行い、現状を確認することだった。
――能力値を20%まで使用可能、最大魔力をSSSランクに設定。術式最大ランクをXXランクまで設定、魔力炉の完全正常稼動。“界律の守護神テスタメント”の能力の使用可、第三聖典の使用可。許される能力を以って、世界を滅ぼすに足る青の石を完全に無効化せよ――
契約内容が新たに追加された。“ジュエルシード”による世界消滅の阻止、契約執行方法は独自判断、といったものだった。けれど正直、“テスタメント”の能力が使えるなら魔術師としての能力値や魔力量なんて意味がないわ。あの“力”を扱えるのであれば、私たちに敗北は“絶対殲滅対象”を除いて存在しないもの。
「シャルちゃん、その格好って・・・ルシリオン君と同じやつ、だよね?」
私の格好を見てなのはが聞いてきたから、私は仮面とフードを外して答える。
「ええ、私のもう1つの姿よ。ルシルは漆黒を担い、私は純白を担うの」
その場で一回転して見せる。髪と外套がフワリと浮く。それを見ていたクロノは「お楽しみのところ悪いが、急いでいるんだが・・・」呆れたかのように口を挟んできた。
「判っているわ。さて。アレがプレシアが用意してくれた敵ね」
目の前に現れたのは、甲冑姿の大きな大きな鎧姿の兵隊達。なのはが攻撃の準備に入ると、「待つんだ」とクロノが制止する。さらに私がクロノの前に立って、「あなたも待つのよ」戦闘に入ろうとしていた彼を制止する。
「ここは任せて。なのは達は今後のために魔力を温存しておきなさい」
「え? でもシャルちゃん」
「何を言っている。あれだけの数なら僕も手伝う」
2人がそう言っている間に、「この程度・・!」私は“第三聖典”を振るい、ある能力を使って何十体という兵隊を破壊し尽くした。脆い、脆すぎる。この程度では準備運動にすらならない。その光景に「えっ・・・!?」3人ともその一瞬の攻撃に唖然としている。当然かもしれないわね。ただ十字架を振るっただけで、あれだけの数を殲滅したのだから。
「ほら、急ぐのでしょ?」
「え? あ、ああ!」
そして私たちはクロノを先頭に“時の庭園”、プレシアの待つ部屋を目指して進んだ。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
シャル達が“時の庭園”へと侵入したようだ。俺とアルフはフェイトを医務室へと運び、ベッドに横にさせている。医務室の壁には“時の庭園”で暴れるシャル、それに付いていくなのは達の姿が映るモニターが展開されている。
(フェイト。折れてくれるな。辛いかもしれないが、まだ終わっていいはずはない)
とは言っても、まだこんなに幼い子にはプレシアの暴言は刺激が強すぎた。生気のない瞳をしたフェイトを心配しているアルフのその姿は、使い魔ではなく、フェイトの姉のような存在に見えた。俺はフェイトの心を取り戻すために言葉を選び、口にし始めた。
「フェイト。フェイトは本当にこのままでいいのか? このまま何もせずに、ただここで眠っているか?」
「なっ!? ルシル、あんた・・・!」
アルフがフェイトの側から俺の元へと来て、胸倉を掴み上げてきた。それを甘んじて受けながら言葉を続ける。
「・・・っく、フェイト。高町なのはは言っていたな、まだ始まっていないと。俺も彼女に同意するよ。君の今までは、プレシアの言うままに過ごしてきただけだ。ならば、もうそろそろ自分の思うままに生きてはみないか?」
「・・・私の・・・思うまま?」
フェイトはようやく反応を示したが、未だに瞳に輝きを取り戻してはいない。アルフは俺を降ろして、フェイトの方へと顔を向ける。
「そうだよ、フェイト。自分の意思で自分のしたいことをする。それが人間というものだ。このままプレシアと別れるのは嫌だろ? 確かにあのようなことを言われたけど、まだ終わってはいないんだ。まだ間に合うかもしれない。だから自分の今、心にある想いをぶつけろ。君は、フェイトは間違いなく・・・プレシアの娘なのだから」
「・・・っ! 想いを、ぶつける・・・うん・・・。そう、だよね、まだ私は始めてもいなかったんだ。行こう、アルフ、ルシル。母さんのところに!」
瞳に力が戻ったフェイトは立ち上がるとバリアジャケットへと変身して、力強くそう宣言した。アルフは泣きながら「うん! うん! 行こうフェイト!」とフェイトの腰にしがみつく。フェイトはアルフの頭を撫でながら微笑んだ。
「よし! そうと決まれば行こうか、フェイトファミリー!」
俺は左拳を右手の平にパシンと打ちつける。
「おおっ!!」
「は、恥ずかしいよルシル。アルフも・・・」
アルフはノリノリで右腕を高く上げ、フェイトは頬を少し赤く染めて呟く。フェイトファミリーの出撃も決ったことだ。俺も本来の力を顕現させようか。
「契約執行形態、顕現。及び、第三級断罪執行権限、解凍」
“界律の守護神テスタメント”の聖衣と仮面、そして漆黒に輝くケルト十字型の2m近い錫杖、“第四聖典”を武装する。そして生前から使っている執行権限を第三級に設定。すでに精神接続を終えて、現在の状況は確認してある。
――ジュエルシードの使用による世界消滅の阻止。能力値を18%まで使用可能、、最大魔力をSSSランクに設定。固有魔術を中級まで使用可、ただし威力はSSS設定。魔力炉の完全正常稼動、神々の宝庫、英知の書庫、英雄の居館、聖天の極壁の使用不可。“界律の守護神テスタメント”の能力の使用可、第四聖典の使用可――
ようやく固有術式の使用が可能となった。中級以上は未だに制限されたままだが、それで十分だろう。こうなれば相手が人間である以上、負けはない。唯一の例外として、界律の守護神と対をなす敵である“絶対殲滅対象アポリュオン”には苦戦を強いられるが。
「さぁ行こうか」
そうして俺たちもシャル達に続き“時の庭園”へと向かう。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
意気揚々と“時の庭園”へと乗り込み、兵隊どもを撃滅していっていた私は今、プレシアの元には誰が行くか、クロノと言い争っていた。こんな時まで言い争いなんて馬鹿みたいだけれど、クロノは至って真面目だから始末に負えない。2人して、兵隊どもを片付けながら怒鳴りあっている。大人しく言うことを聞け、チビッ子。
「だから! 私なら何とか出来ると言ってるでしょ!」
「いいや! プレシアの逮捕は執務官である僕の仕事だ! 君はなのは達と駆動炉の停止に向かえ!」
「えっと~、こんなことをしている場合じゃないような~」
「なのは、危ないから下がっていた方がいいよ。シャルの攻撃に巻き込まれたら、ただじゃ済まないような気がするから」
私はクロノを力ずくで黙らせるために兵隊どもへの攻撃を一時やめた。だけど、それがまずかった。なのはとユーノが5体の兵隊どもに囲まれてしまった。
「ああもう! クロノの馬鹿!!」
「僕の所為じゃない!」
すぐさま援護に移ろうとしたその瞬間・・・
「サンダー・・・レイジィィィーーーーッ!」
頭上からフェイトの声と共に降り注ぐ雷撃。その雷撃がなのは達に襲い掛る兵隊どもを撃墜していく。ルシルはちゃんとフェイトの心を取り戻したみたいね。けれど、破壊しても次から次へと小さいものや大きい新手がわんさか出てくる。そして次に聞こえたのが・・・
「罪ある者に・・・汝の慈悲を」
久々に聞くルシルの固有魔術の術式名。降り注ぐのは、蒼く光り輝く十数個の十字架群。標的に当たると同時に十字架は雷撃となって周囲に拡散して、連鎖的に標的たちを殲滅する、ルシルの雷撃系対軍攻性術式だわ。
数十体といた兵隊どもは一瞬の内に消滅した。いつ見ても凄いものだわ。天使の名を冠する中級術式でこの威力。ルシルの生まれた世界、アースガルドの先王たちの名を冠する上級術式はもっと凄いけど。
「フェイトちゃん!」
ルシルやアルフと一緒に姿を見せたフェイトを見て、なのはは嬉しそうに彼女の元へと向かっていく。ルシルは私の元へ降りて来たから「あなたも制限がいくつか解かれたみたいね」と言うと、ルシルは仮面を外した。
「ああ、中級までの術式なら問題なく使えるが、威力は相も変わらずに制限されてる。まぁ、テスタメントの能力が使えるなら、魔術なんてものは必要なくなってしまうが。それより、何故未だにこんなところに居るんだ? てっきりプレシアの元へと辿り着いていたと思ったが・・・」
「ちょっと聞いてくれる? クロノと少し揉めているのよ。誰がプレシアの元へ行き、誰が駆動炉を停止させるかって」
「馬鹿をやっている暇はないぞ。・・・そうだな。フェイト、アルフ、悪いが俺とはここで別行動だ。2人はシャル達と共にプレシアの元へ行ってくれ。俺ひとりで駆動炉を止めてくるから。フェイト、駆動炉の場所を教えてくれ」
ルシルはあっさりと1人で決めて、フェイトに駆動炉の場所を聞いた。フェイトは少し戸惑っていたけれど、ルシルの押しの強さに慣れてしまっているのか、諦めたように場所を教え始めた。
「――となるんだけど・・・。本当に大丈夫・・・?」
「ああ、大丈夫だ、フェイト。すぐに追いつくから」
「・・・うん。早く、戻ってきてねルシル」
「ああ。シャル。高町なのは。クロノ。ユーノ。フェイトとアルフを頼んだぞ」
ルシルは私たちの返事を聞かないまま、駆動炉を目指して飛んでいった。全ての行動が嵐のようなものだ。なのは達は、そんなルシルを見て呆然としたままだった。
「じ、じゃあ、僕たちはプレシアの元へと急ぐぞ!」
置いていかれていたクロノがそう言い、私たちは改めてプレシアの元へと急いだ。
フェイトとアルフの案内でようやく辿り着いた“時の庭園”の最下層。樹の根のような岩石が所狭しと張っている空間にプレシアと、彼女の娘のアリシアが眠るポッドがあった。
「直接会うので初めまして、プレシア・テスタロッサ。あなたの計画を潰しに来た、シャルロッテ・フライハイトよ」
ハッキリとプレシアの邪魔をすると面と向かって宣言する。その言葉にプレシアの表情が怒りに歪む。もはや病的と言ってもいいわね。
「引いてくれ、シャル。・・・時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。プレシア・テスタロッサ。時空管理局艦船アースラへの攻撃。ロストロギア、“ジュエルシード”の違法所持及び使用の罪で逮捕する!」
クロノが私を押しのけ、プレシアの罪状を口にした。痛いっ・・・というか、フェイトの前でそれはダメでしょうが。フェイトはそれを気に留めず、私たちの前に出てプレシアと対峙。そして小さく「母さん・・・」と呟く。アルフとなのはとユーノはそっとフェイトの側に佇んで、事の成り行きを見守っている。
「今さら何の用? 私はアリシアと共に過去と未来を取り戻すのよ。こんなはずじゃなかった世界の全てをねっ!」
その感情もかつての私は抱いたことがある。でもね、それはもう・・・。
「プレシア・テスタロッサ。世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ。いつの時代、いつの世界でもそうさ。こんなはずじゃなかった。こうなるはずだった。でも、1度そういう結果が出てしまった以上、それはもう認めるしかないんだ。こんなはずじゃない現実から逃げるか、立ち向かうかは個人の自由だ。だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい理由は、どこにもありはしない」
クロノはまるで実体験したかのような言葉を口にした。
(へぇ、格好良いじゃないの、クロノ)
それほどまでに一生懸命な姿に私は素直にそう思った。けれどプレシアは聞く耳持たないといった感じで、こちらを睨むばかり。やっぱりダメのようね。プレシアには愛娘アリシアの復活しか頭にないらしいわ。それでもフェイトはさらに一歩を踏み出して、プレシアへと言葉をかける。
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
私はルシルに言われたように、自分の想いを母さんに伝えることにした。今でないと、もう叶わないと思ったから。ゆっくりと言いたいことを考えて、伝わってくれるようにと祈りながら、私は口を開いた。
「母さん。私はあなたに言いたいことがあってここまで来ました」
「言いたいこと? 何か恨み言でもあるの?」
「違います。私は・・・私はフェイト・テスタロッサです。アリシア・テスタロッサじゃありません。あなたにとって、私はただの人形なのかもしれません。アリシアの偽者だって言われても仕方ないです。だけど私は、フェイト・テスタロッサは、あなたに生み出してもらって、育ててもらった・・・あなたの娘と言い続けます!」
それを聞いた母さんは笑い声を上げるけど、私は諦めない。まだ伝えたいことがあるから、だから諦めるわけにはいかない。
「だから何? 今更あなたを娘だと思えというの?」
「あなたがそれを望むなら。望んでくれるなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、あなたを守る。守り続けます。私は、あなたの娘としていたいから!」
言った、言い切った。私は自分の心を出し切った。だから、だからお願い母さん。もうこんなことはやめて。
「・・・くだらないわ。やっぱりあなたは――」
「いい加減にしなさい!」
「なに?」
母さんの冷たい声に私が俯いていると、私の後ろから水色の子がそう叫んだ。ゆっくりと私の隣にまで来て、白い大きな十字架を母さんに向ける。
「いい加減にしなさいと言ったの、聞こえなかった? もう認めなさい。フェイトは間違いなくあなたの娘よ。なにせ実娘のアリシアの遺伝子から何から同じなんでしょ? それってつまり考えようによっては歳の離れた双子といっても過言じゃないのよ。それでもあなたは愛するアリシアの妹を、フェイトを人形扱いするわけ?」
「っ! 妹・・・? アリシアの妹・・・この子が・・・?」
それを聞いた母さんは後ずさりしてアリシアを見る。すごく動揺しているのが判る。でも、この子の言う通りかもしれない。アリシアの双子。遺伝子が同じならそれは・・・クローンであるし双子でも・・・ある。
「そうなことないわ・・・! 私の娘はアリシアだけよ!」
――サンダースフィア――
でもすぐにあの子を睨み付けて、雷撃の魔力弾攻撃をしてきた。私たちに当たる寸前であの子の「この分からず屋が!」そんな怒鳴り声と一緒に、雷撃は何の前触れもなく消滅した。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
フェイトちゃんのお母さんは、フェイトちゃんとシャルちゃんの言葉を聞いても、戻ってはこなかった。
「どうして? どうして解かってくれないの?」
私は知らず知らずそう呟いてしまう。ユーノ君が私の肩に手を乗せて、「なのは」心配してきてくれた。シャルちゃんとフェイトちゃんの言葉に怒ったプレシアさんは、2人に当たるようにして雷の魔力弾を放ってきた。
「この分からず屋が!」
シールドを張ろうとしたところで、私たちの目の前でプレシアさんの攻撃が消えてしまった。シャルちゃんが左手を前に突き出していたから、たぶんシャルちゃんの力なんだと思う。
「・・・もういいわ。あなたと話していても無駄だってことはよぉ~~く判った。仕方がないわよね。クロノ、フェイト。力ずくでプレシアを無力化するけどいいわよね?」
シャルちゃんはクロノ君とフェイトちゃんにそう確認した。シャルちゃん、笑顔だけど目が全然笑ってない。完全に怒ってる。青筋を浮かべてるし。クロノ君はフェイトちゃんを見て溜息ひとつ吐いた後、シャルちゃんに返事をした。
「仕方がない。このままジュエルシードを発動されては堪らないからな。戦闘を許可する。でも出来るだけ穏便に済ましてくれよ、シャル」
「ええ。フェイト。私が防御に回るから、あなたがプレシアを止めなさい。普通は逆だけど、あなたが最後まで親の面倒をみなさい。いいわね?」
「「え?」」
私とフェイトちゃんの声が重なる。それって親子で戦えってこと?
「シャルちゃん、それはダメだよ! フェイトちゃんにそんな、お母さんと戦わせるなんて――」
「大丈夫、やります」
「フェイトちゃん!?」
フェイトちゃんは私の言葉を遮って、お母さんと戦うと告げた。アルフさんもそれには驚いている。シャルちゃんはしっかりフェイトちゃんの目を見つめて、「言っておいてなんだけど、本当にいいのね?」って再確認。
「・・・うん」
フェイトちゃんの決意は固く、それでお母さんが諦めるなら、って眼が語ってる。
「フェイトがそう言うなら、あたしもサポートするよ」
「ああ、僕もサポートに回ろう」
「なのは、ユーノ。2人はどうする?」
アルフさんとクロノ君がそれに付き合うなら、私だってやってやる。私はユーノ君と一緒に頷いて、「手伝います!」フェイトちゃんのお母さんと戦うことを決めた。
・―・―・シャル先生の魔術講座・―・―・
シャル
「あら? 今回も来てくれたのね。ようこそシャル先生の魔術講座へ。
このコーナーの先生、シャルロッテよ」
なのは
「シャルちゃんの助手、なのはです♪」
ユーノ
「生徒のユーノです」
シャル
「さて。今回はゲストがいるから。入っておいで」
ルシル
「失礼するぞ」
なのユー
「あ」
シャル
「今回の話で使用されたのは私の魔術じゃなくて、ルシルのものだから呼んだのよ」
ルシル
「高町なのは。ユーノ・スクライア。そういうことだから少しの間、邪魔をするよ」
なのユー
「あ、はい。よろしくどうぞです」
シャル
「それじゃ挨拶も終わったことだし。早速始めましょうか。
――罪ある者に汝の慈悲を――
――我を運べ汝の蒼翼――
雷撃系対軍中級攻性術式。空から蒼雷で構成された十字架を複数降らせる対空地制圧術式。
対象にその十字架が当たると小さくなって周囲に拡散。さらに広範囲へと向かっていって被害を拡大させる、コード・レミエルね」
ルシル
「レミエルは、空からの襲撃者に効果を発揮する。対空にはもってこいというわけだ」
シャル
「で、ちょっと前から使ってはいたけれど、こうしてルシルをゲストとして迎えられたことで紹介する、ルシルの飛翔術式コード・アンピエル。薄い剣状を12枚を展開するというものね」
ルシル
「剣翼アンピエルは、空戦高速機動の補助の他に、周囲の魔力を吸収して俺の供給する効果もある。使い方はもう1つ。背後から離脱させて12門の砲台としても使える。本作では未使用だがコード・ミカエルという術式がそれだ」
シャル
「ミカエルは怖いわよ。空を自由自在に飛ぶ剣翼砲台。どこから砲撃が放たれるか判らないもの」
ユーノ
「あの、ルシリオンは広域型なのか・・・?」
なのは
「広域型?」
ユーノ
「読んで字のごとくだよ、なのは。広範囲に亘る攻撃魔法を扱う魔導師を、広域型魔導師っていうんだ」
ルシル
「そうだな。どちらかと言えば広域型だな。俺は一対多数戦を得意とするから、有する魔術は広範囲に効果を発揮するものが多い」
シャル
「というわけよ。それじゃ今回はこのあたりでお終いにしましょう。またね」
なのユー
「あ、うん。ばいばーい♪」
ルシル
「なにかぐだぐだだな」
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