魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep10管理局と魔術師~Coalition~
†††Sideシャルロッテ†††
(全く、たとえルシルの固有魔術が制限されているからって、こんなデタラメな複製術式が使えるんだったら卑怯じゃない)
私は心の中で、ルシルに対する制限内容に愚痴を零す。そこまで来ている海水の砲撃。先に受けたダメージの所為で抵抗できない私はルシルを睨みながら、あと少しで私たちを襲うであろう痛みに耐えるために覚悟を決める。
そして私とクロノの眼前に迫った瞬間、砲撃は形を崩して単なる波となった。そうなると当然、「うわっ!」クロノと、「ちょっ、待って!」私は、とんでもない水流に押し流されることになるわけで。なのはとユーノはギリギリ範囲外だったから、溺死なんて最悪の結果にはならなかった。
「・・・もう! 何よこれ!? ふざけるなーーー!」
私は海草塗れになりながらも、なんとか生きていた。が、ムカつく。最後の最後で手を抜かれた気分だわ。いえ、実際そうなのかしら。
「ひ、酷い目に遭った。一体なんだったんだ、あれは!?」
クロノは頭に小さなカニを乗せて、体やデバイスに巻きついた海藻を引き剥がしながら叫んでいる。周囲を見渡すと私たち以外は無人。すでにルシルの姿はどこにもなかった。
「逃げられたか・・・?」
クロノが真剣な顔をして虚空を見つめてそう言っている。それよりいい加減に頭のカニを取りなさい。
(なのはとユーノは・・・?)
まずは2人を確認しないと。私も体に巻きついている海草を剥ぎ取りながら、2人の元へと駆ける。
「なのは! ユーノ!」
倒れている2人の側に屈み、急いで状態を確認する。ただ単に気を失っているだけみたいね・・・。良かった、本当に良かった。
「う・・・ん、シ、シャルちゃん・・・?」
「なのは、大丈夫? どこか変なところとかない?」
「・・・うん、大丈夫。少し体が痛むくらいだから」
なのははそう言って立ち上がる。ユーノの方も「あ、あれ? 僕たち一体どうなって・・・?」目を覚ましたようだわ。ルシルの術式発動直後から記憶がとんでいるみたいね。まぁ、その方が良いかもしれないわ。下手に思い出させて恐怖を抱かせることはしたくないもの。
「どうやらみんな無事のようだな。改めて、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」
「あ、はい。私は高町なのはです。えっと・・・頭の上のカニさんは何なんですか?」
なのはが自己紹介とともに、クロノの頭を指してそう言う。
「カニ? うわっ、と・・・コホン! 何でもない、気にするな」
クロノがカニを掃って海へ放り投げた後、わざとらしく堰をする。というか気付いていなかったの!? 脚とかが頭に突き刺さっていそうだったから気付いているのかと。
「え~と、僕はユーノ・スクライアです」
ユーノが今のクロノを無視して名乗る。ユーノも結構シビアになってきたわよね。
「スクライア? 君がそうか。ジュエルシードのことに関しては、スクライア一族からすでに話を聞いている」
「そ、そうですか。やっぱり・・・」
ユーノがそれを聞いて、表情が少し曇る。
「そして君は? ずいぶんと僕をいいようにしてくれたが・・・」
「そんなに睨まないでもらえる? あの状況だとああするしかなったの。あなたも解かるでしょ?」
クロノが押し黙る。それなり解かってもらえたようね。少し不機嫌そうだけど。とりあえずは私も自己紹介をしておきましょうか。
「私はシャルロッテ・フライハイト。みんなにはシャルと呼ぶように言ってるから、あなたもそう呼んでもらって構わないから」
「判った。シャルでいいんだな。僕のことも、クロノ、と呼んでもらって構わない」
『クロノ、お疲れ様。怪我は無いようね、安心したわ』
うわっと!? え? 何これ? 空中に魔法陣が現れたと思ったら女性の顔が。驚きで目が点になってしまったけれど、冷静になると仕組みが判った。あぁなるほど。一種のモニターのようなものなんだ。へぇ、魔法ってとことん機械的っぽいのね。
「あ、はい。すいません、もう一組の方を逃がしてしまいました」
クロノが映し出されている女性に謝る。どうやらクロノの上司みたいね。それにしては若いわねぇ、いくつなのかしら。
『んんー、ま、大丈夫よ。でね、ちょっと話を聞きたいからそっちの子たちを、アースラにまで案内してあげてくれるかしら』
女性が私たちをアースラってところへと連れてくるように言っている。するとクロノは「了解です、すぐに戻ります」って、即答。
(いやいやいや、勝手に了解しないでちょうだい! 私たちの意思は初めから無視なの?)
上司からの命令だっていうのは解かるわよ、逆らえないっていうのもね。でもだからって「ちょっと待って。私たちの意思は無視なの?」これは黙っていられないわ。
「ん? 悪いが事情を聞きたいんだ。大人しく付いて来てもらえると助かるんだが・・・」
「シャル、管理局が来たからには・・・」
ユーノが私に向かって、クロノに従え、と言外に言ってきた。ああもう、判ったからそんな目で見ないで。言うことを聞くから・・・はぁ。
「判った。でもクロノ。1つ聞いておきたいんだけど」
今の私にとってとても重要な質問があるから、クロノを呼び止める。
「何かな?」
「アースラって、この世界内にあるの?」
そう、これだけはハッキリさせておかないといけない。この世界に呼び出された以上は、許可なくこの世界を出るとどうなってしまうのか判らないからだ。馬鹿みたいなペナルティーを受けて、体をボロボロにされたら堪らないわ。
するとクロノは「いや。高時空内にあるんだが?」と答えた。案の定、この世界の内にはなかった。というか、何よ高時空内って。高位次元内ってこと? どの道世界外なら、私がすることは決まってる。
『第三の力、剣戟の極致に至りし者シャルロッテより界律へ。緊急の事態により契約下世界・“地球”より一時離脱します。離脱の許可を申請します』
――界律より第三の力、剣戟の極致に至りし者シャルロッテへ返答。一時的による離脱の申請を許可する。しかし長期間の離脱は不可とする――
変なペナルティを受けないように離脱許可を出すと、あっさり通された。少し拍子抜けしたけれど、許可が下りたのなら大丈夫でしょう。
「それがどうかしたのか?」
「なんでもないわ。エスコートよろしく、クロノ執務官」
こうして私たちはアースラへと向かった。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「・・・フェイト・・・?」
マンション内の廊下を進み、俺たちの前を行くフェイトに何度目かの呼びかけをする。しかしフェイトは俺に振り返ることも無く「・・・」無言を貫き、ズンズンと歩いていく。無視・・・ですか、そうですか・・・何故ですか? つい、敬語になってしまうほどに、フェイトが放つ空気が重い。
『アルフ、なにかフェイトが怖いんだが。どうしてか判るか?』
公園では普通に接してくれていたというのに、帰ってくると無視を決め込み始めたフェイト。今のフェイトが纏っている雰囲気に軽く恐怖しながら、アルフに助けを求める。
『・・・やっぱり1人で封印に向かったのが原因じゃないかい?』
アルフも今のフェイトに若干恐れを抱いているようだ。肩を竦めてフェイトから少し距離を取っている。
『いや、それは・・・仕方がないことだと思うんだけどな・・・』
フェイトを思っての行為が、逆にフェイトを不機嫌にさせる、か。私は『なにか理不尽だ』と肩を落とす。不条理、理不尽。いかに納得のいかない事も、ここ数千年と繰り返してきて、慣れてきていた。だからいつもの俺ならどうとも思わないはずだが、フェイトにこういう態度を取られると少し傷つく。
『まぁ、その・・・謝れば?』
『・・・何を?』
『勝手に封印に向かってごめんなさいってさ』
本当に理不尽だ。しかしこの空気に耐えるのもそろそろ限界だ。ここは俺が折れるべきなのだろう。深呼吸をして、フェイトの前に回り込む。
「・・・フェイト、勝手にジュエルシードの封印に行ってすまなかった。言い訳を言わしてもらうなら、フェイトのためだったんだ」
寝食を共にする俺たちの部屋へ着き、そのまま私室に入ろうとしていたフェイトへ真摯に謝罪を告げる。するとフェイトがようやく反応してくれた。俯いていた顔を上げ、やっと俺の方を見てくれた。しかし未だに不機嫌そうな表情をしている。フェイトは両手を重ねて胸の上へと持っていく。
「私のため・・・それはすごく嬉しい。けど、でもやっぱり一緒に行きたかった。今回はルシルだけでもなんとかなったけど、前みたいな酷い怪我をするかもしれないんだよ? そうなったら私たちはどうすればいいの?」
フェイトが目の端に涙を浮かべて、そう訴えてくる。まずい、子供に泣かれるのは今も昔も苦手なんだ。
「私たちは仲間なんだよ、だから1人でやろうとしないで」
「ごめん、ごめんフェイト。これからは気を付ける」
心の底から謝ると、ようやくフェイトは俺に笑顔を向けてくれた。
「約束だよ、ルシル」
「ああ、約束だ」
お互い微笑みながらの約束。そしてアルフ、君は何に対して頷きながら泣いている? あぁ、感動しているのか。涙もろいな、君は。っと、さて、ここからは俺の質問タイムだ。
「話は変わるが、フェイト、アルフ、時空管理局とは何だ?」
それから少しの時間、フェイト達から時空管理局の説明をしてもらった。幾多もある次元に点在する、いくつもの世界を一手に管理する組織。“ジュエルシード”のような古代遺産ロストロギアの捜索・管理、世界を渡る犯罪者の逮捕や裁判なども、時空管理局が行っているようだ。
まるで一極支配。だがまぁそういう組織があるからこそ、今の安定した世界があるらしい。それにしても、なるほど次元世界か。実に懐かしい響きだ。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
私たちが案内されたのは、アースラという船名の次空航行艦というもの。なのはが念話でユーノから説明されているのを私も聞いていた。
(それにしても次元世界だなんて。これも縁というものかしら?)
数千年ぶりに懐かしい単語を耳にして、軽く余韻に浸っていると・・・
「あぁ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除しても平気だよ」
クロノがそう言うので、なのはがそれらを解除した。今回、私は戦闘甲冑を身に纏っていないから私服のままだ。それにしても、よく私服でルシルの術式に耐えられたわね。魔術師は、戦闘甲冑を具現化させなくても、常に不可視の魔力の障壁で身を守っている。だから私服のままでもそれなりの防御力を持っているのだけど、ルシルの複製術式にはあまり効果がないはず。
(だというのに、あれだけで済んだ。界律が何らかの干渉をして、ダメージ補正かけているみたいね)
本当に何を企んでいるのか。本気で私にルシルを殺させる気なのかしら。いえ、ルシルはすでに非殺傷設定を取り込んでいるはず、だからこの結果? ちょっと待って、ダメージ補正があるのも事実。
「君も元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」
クロノがユーノに向けて、そう口にする。元の姿。やっぱりユーノはただのフェレットではないわけね。まぁ、当然か。少し考えれば判る。スクライア一族というのが本当にフェレット一族なら、そんな彼らが集団で遺跡発掘なんて出来るわけがない。フェレットが遺跡発掘している様を想像してみる。シュール・・・あ、可愛いかも。
「ああ、そういえばそうですね。ずっとこの姿だから忘れてました」
ユーノの体が発光して、現れたのはなかなかの外見を持つ少年。ふ~ん、それが本来の姿ね~。
「ふぅ、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりかもね」
ユーノがなのはの方に振り向いて微笑んだ。でもなのはは固まってしまっている。ユーノの言葉となのはの表情、もしかしてこれは・・・
「ふえぇぇぇぇっ!?」
やっぱり。なのははユーノのこの姿を見たことがないようだわ。なのはの悲鳴にユーノがたじろいで、「えっと・・・なのは?」って声を掛ける。
「え!? なんで!? ユーノ君って!? ユーノ君って!? えぇぇぇぇ!?」
なのは、それは驚きすぎよ。それよりあなたの声、この艦に響き渡っているんじゃないの? 私はなのはとユーノから完全に意識を逸らし、クロノへ声を掛ける。
「あの2人は放っておいて早く案内してくれる?」
「あ、ああ、こっちだ。君たちも早く付いて来てくれ」
互いの記憶の齟齬を確認している2人を置いて先に進もうとした。
「にゃっ? ちょっと待ってよシャルちゃん、クロノ君!」
「置いて行くなんて酷いじゃないか!」
そう慌てて付いて来るなのはとユーノ。雰囲気からして完全ではないにしても納得はしているよう。何はともあれ、私はこれよりどういった話を聴けるのか、少々楽しみだったりする。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
今までいろんなことに驚いてきたけど、まさかユーノ君が人間の男の子だったなんて思いもしなかった。それにしても、シャルちゃんは全く驚いていない感じだった。
(もしかしてシャルちゃん、ユーノ君が人間だったことを知っていたのかな? もしそうなら何で教えてくれなかったのかな?)
私はクロノ君に案内されながら、チラッとユーノ君を見る。
(私と同い年くらい・・・かな?)
何度も見ていたから、同じように私を見ていたユーノ君と目が合っちゃった。すぐさま視線を前方へと戻す。何だろう、すごく気まずい感じになっちゃった。
「ここだ。艦長、彼女たちを連れてきました」
クロノ君が、扉が自動で開いた部屋へと入っていった。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
クロノに案内され、辿り着いた部屋へとクロノを先頭として入る。目の前に広がったのは、以前本で見たことのある・・・確か、ノダテとかいうものに似た空間だった。何か合わない。もしかしてこの国の習慣みたいなのを勘違いして用意したのかもしれないわね。
「お疲れ様、クロノ。初めまして、このアースラの艦長をしていますリンディ・ハラオウンです。わざわざこのような場所まで来てもらってごめんなさいね」
この部屋の主である女性、リンディがそう口にした。第一印象としてはまぁ良い。部下への労いの言葉と、私たちに対する謝罪の言葉をきちんと口にしたのだから、ただ偉ぶっているだけの人ではないようね。というかハラオウン? リンディとクロノって姉弟なの? 身内が同部隊に居るって・・・おかしはないか。
そこから先は、私やなのはの自己紹介を初めとし、ロストロギアや次元震、次元断層の説明を聞いた。
(次元断層ねぇ。それってラグナロクに少し似ているかも)
ラグナロク。正式名称を対時空間殲滅級攻性魔術と言い、それは禁呪の1つにして原初王オーディンが原初魔術ルーンと共に生み出してしまった最古の術式だ。時間と空間を無視した一方的な破壊の限りを尽くす最凶の魔術。
(次元断層はラグナロクの威力には及ばないけど、世界が滅びる可能性があるなら、私たちのような抑止力が召喚されてもおかしくはない、か)
全く、“界律”もさっさと“ジュエルシード”を片付けろって命令を下せば、瞬時にこの件を終わらせるというのに。何をしているのだか。深く思考に耽っていたので、なのは達の会話をほとんど聞き逃していた。唯一聞き取っていたのが・・・
「これより、ロストロギア・ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」
というリンディ艦長の言葉だった。まぁ、当然な話かしらね。こちらは単なる発掘者に、魔法が使える一般人。そして私は・・・ただの協力者といった位置づけだ。そんな私たちに対して向こうは、こういったことのプロフェッショナル。
(プロと素人では探索能力も違うし、何より組織で動くプロだもの。このまま管理局に任せた方が早く済むでしょうね)
それに正直な話、例えなのはがここで降りても、私はそれで良いと思ってる。だけど2人は納得していないと思うのよね。ユーノは発掘者と“ジュエルシード”をこの世界にばら撒いてしまった、なんていう要らない責任から、なのははフェイトのこと、そして彼女の性格からしての思いから。
「君たちは今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」
さすがにそれは無理な話よね。ここまで関わってしまうと、もう元通りには戻れない。なのはが「あのっ、私たちもジュエルシードを探すの手伝いますっ」とクロノに食い下がる。やはり諦めきれないみたいね。
「次元干渉に関わる事件だ、民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」
「でも!」
「まあ、急に言われても気持ちの整理も出来ないでしょうし、今晩ゆっくり3人で話し合って、それから改めてお話ししましょう。ね?」
リンディ艦長がなのはにそんなことを言った。それは明らかになのは達を管理局側へ協力させるために誘導する発言。たとえそれが故意にではなく天然的な発言だったとしても、よ。
(それも仕方ない、のかしらね。相手にはかなり腕の立つ魔導師フェイト、使い魔アルフ、そしてルシルがいる。ここで私たちをこの件から手を引かせれば、戦力となるのはクロノだけになる)
あの3人を1人で相手をするなんて正直辛いに決まっているし、私だって願い下げだわ。だからこそ、向こうに後れを取らないための戦力が欲しい、とリンディは考えたのでしょう。しかし、一般人に協力要請なんてそう簡単に出来るものじゃない。それゆえの先の発言。
(天然だとしたら彼女、かなり怖いわ・・・)
世界の危機なんて話を聞いた後に一晩考える時間、こんなものを用意されたら考える話は1つ、結論もまた1つとなってしまう。なのはとユーノの自発的による協力の申し出。それが狙いなのでしょうね。
人の上に立つならそれくらいは当たり前だと私は思う(私はしたくないけどね)。この誘いに乗るのも悪くはない、というよりそれしかない。なのはは兎も角、私は嫌でも“ジュエルシード”に関わらないといけないし。
「お心遣いはありがたいですが、このまま引き下がるわけにもいきません。ですので、私たちはそちらに協力させてもらいます」
「・・・」
「な!?」
「「え!?」」
リンディ艦長を除く3人が私の発言に驚いている。
「シャル!? 君は何を言って・・・」
クロノの発言を強い視線で無理矢理止めさせる。
「なら聞くけれど、私たちがこの件から引いた後の戦力はどうするのかしら? 今まではなのはとユーノ、そして私で何とかあの3人と渡り合ってきた。それが今からはクロノひとり、でもないかもしれないけれど、それって結構辛いんじゃないの? 今日は実際ゼフィに負けたしね。これからもあんな常軌を逸した彼を相手に、1人で戦いたいっていうなら仕方ないわ」
「なっ! そ、それは・・・しかし・・!」
言いよどむクロノ。ルシルの強さを思い出してもまだ迷っているようね。ゼフィとまともに戦い合えるのは、この世界だと私しかいない。実際にクロノはルシルを見た。だから、この私の提案を蹴るなんてしないはず。
「それに、なのはとユーノも納得してないでしょ?」
2人に視線を向け、言外に自分の気持ちを告げろと言った。
「わ、私もこのまま終わるのなんて嫌です!」
「僕も最後まで自分の責任を貫きたいです!」
2人はハッキリと自分の気持ちを伝えた。初めから協力させようとしていたリンディ艦長がこれを断るわけがない。
「・・・シャルロッテさんの言う通りなのは違いありません。クロノひとりではあの黒い子たちには勝てないのも確か。判りました。こちらからも協力をお願いします」
「か、かあさ――艦長!?」
決まった。これで途中退場はなくなった。あと、クロノ。今、リンディ艦長のことを、母さん、って言おうとしなかった? うそでしょ。クロノのような大きな(でもないか)子供が居るような女性には見えない。桃子母さんもリンディ艦長も、この世界の母親って若作りがデフォルトなのかしら・・・。
ま、そんなことは横に置いておいて、「なのは、ユーノ、やったわね」と2人に微笑みかけると、「うんっ!」て笑顔を返してくれた。もう、そんなに嬉しそうな顔をして。私も嬉しくなるわよ。
「ですが、条件が2つあります。3名とも身柄を一時、時空管理局の預かりとすること、そしてこちらの指示を守ること、良くって?」
それくらいなら大したことはないはずだわ。万が一のときは破ってしまえいいもの。現場判断、というものね。
「それでいい? なのは、ユーノ」
「あ、うん。私はそれでいいです」
「僕も」
「決まり。では、これで協定は成立ということで。こちらはそれで構いません、リンディ艦長、クロノ執務官」
リンディ艦長とクロノに、承諾の意思を告げる。クロノは渋々認めた感があるけれど、リンディ艦長は満足そうな表情をしている。
「仕方ない。君の言うとおり彼の強さは異常だ。黒い少女の強さは情報が無くて良く判らないが、彼らとまともに戦えるほどの実力を持っているのは、アースラで僕だけだからね。戦力が上がるならそれに越したことはない。それに見たこともない魔法、なのか? 魔法陣は出なかったし、デバイスらしきものも持ってはいなかった。彼には必要以上に気を付けなければならない」
「ええ、そのことに関してはこちらでも調査しています。ですから、あなた達も気付いたことがあれば教えてください」
まぁ、そうよね。魔法ではなく魔術なんだから解からないのも当然だわ。というか、私も魔術を使ってたんだけど、ひょっとして忘れられてない?
『ねぇ、シャル。この人たちに魔術のことを教えないの?』
ユーノが念話を通して言ってくるけれど、う~ん、どうしようかしら?
『教えるくらいなら問題はないわよ・・・ね』
以前召喚された世界では、魔術は秘匿するものとされていたけれど、今の私には関係のない話だしね。よし。今後も管理局と関わり合う予感がするし、先にカードを切っておいて良い関係を築いておこうかしら。
「あれは魔法ではなく魔術。この世界に於ける魔法体系みたいなものです」
「「な・・・っ!?」」
うんうん、案の定2人は驚いているわね。
「ば、馬鹿な!? この世界には魔法技術は存在していないはずだ!」
大きな声で私に怒鳴るクロノ。女の子にそれはないんじゃないかしら? 少しムッとしていると・・・
「シャルロッテさん、詳しくお話を聞かせてもらっても?」
リンディ艦長がクロノを手で制して黙らせ、動揺を隠して聞いてきた。さすがは艦長の肩書きを持つ女性だ。すぐに動揺を隠し、情報の提供を求めてくる。
「いつ魔法体系の有無を調査したかは知りませんが、魔術はすでに滅んでいる技術です。ですからそちらが知らなかったというのも判ります。ですが稀にその技術を扱える者、魔術師がいます。実際に私もそうですし、ね」
「っ・・・!」
とびっきりの笑顔でクロノを見る。フフ、顔を赤くして可愛らしいものだわ。さっきの仕返しよ。女の子に怒鳴るなんて、少しは紳士らしさを学びなさい。
「・・・なるほど、そうですか。確かにあなたの使っていた魔法、いえ魔術はこちらでも確認しています」
「信じるしかない、か。僕たちの使う魔法とは違うのなら、あのデタラメさにも納得がいく」
あぁ、やっぱり簡単に信じてくれるわね。そうなるように定めらているのだからしょうがないけれど。なのははさっきから置いてけぼりをくらっていて、暇そうにしている。ごめん、もう少し我慢して。
「ならもう少し詳しく教えてもらえないか? 彼と戦うときに、少しでも彼の手の内を知っておきたい。魔術師がどのような事が出来るのか、それが判れば対策が立てれるからね」
「実際戦うのは同じ魔術師の私になると思うけれど、知っておいても損はないわ。やれることは魔法と大して変わらないわ。大まかな種類としては、攻性、防性、結界、補助、儀式、禁呪の6つがあるのよ。禁呪以外はそちらと差はないかしら。それに禁呪は誰も使えないし、使わないからどんなのかは知らなくても大丈夫」
リンディ艦長とクロノは、頭の中で反芻しているのか軽く頷く。少し間をおいて続きを話す。
「そして魔術師にはリンカーコアとは違う器官、私たちは魔力炉と呼んでいる器官で魔力の生成、同時に外から魔力を取り入れて融合させて備蓄するのね。そして必要な分だけを使っているの。残りはそのまま溜め込むのだけど」
難しい顔をしているリンディ艦長とクロノとは別になのはが面白い顔をしている。なにか頭の上から湯気のようなモノがシューシューと出ているのが幻視できる。
『えっと、なのは、無理して覚える必要はないから』
『う、うん』
念話でなのはに魔術のことなんて覚えなくて良いと言っておく。知恵熱でも出されて倒れられたら可哀想だもの。すでに手遅れのような気もするけれど。
「大体は判った。少し質問があるんだがいいか?」
クロノが真剣な顔で聞いてくるので、「どうぞ」と応じる。
「まずは1つ目。君もそうだが、電気や炎熱と風?みたいな変換はどういうことなんだ? あそこまで色々なことが出来るとは正直思えないんだが?」
ふ~む、属性のことを聞いてるみたい。
「あれは属性と言って、個人が生まれながらに持つ特性みたいなもの、かしら。閃光、闇黒、炎熱、氷雪、風嵐、雷撃、土石、無属性の8つがあるのよ。普通は1つから2つね。でも極稀に全てを有する魔術師もいる。私もその1人で、ほとんどの属性を操れる」
「属性、か。じゃあ彼も君のように複数の属性を操れると思っても?」
「いいでしょうね、確信は持てないけど」
私は全ての属性を扱え、ルシルもまた全ての属性を扱える。でもここではルシルも全属性を扱えるなんて言えないわ。断言すれば、私とルシルの関係に気付かれる可能性があるから。どの道、おいおいバレていくだろうから、その都度話せばいいはずだわ。
「じゃあ、2つ目。君たちが使っている武器のことだ。妙な魔力を感じるし、突如現れたり消えたりとしているが?」
これはどうしようかかしら? 神器――特に神造兵装や魔造兵装なんて、神様や魔族が創った物です、なんて言っても信じるわけがない。ならもう1つの説明をするのがいいでしょうね。
「あれは神器と言って、魔術師が魔力と術式を籠めて作った特別な物よ。出たり消えたりするのは、術者が自分の魔力で分解したそれを魔力炉に取り込んでいるから、いつでも具現化できるというわけ。個人の容量にもよるけど、多くて4つまでは取り込めるの」
「恐ろしいな、魔術師はそんなことまで出来るのか」
クロノが私を見て、こいつコワッ、みたいな目を向けてくる。失礼な。まぁ否定も出来ないけどね。でもね、デバイスも似たり寄ったりだと思うのよね。アレもなかなか不思議な物よ。
「・・・3つ目だ。彼が桜色の砲撃を撃った時、ユーノが何故なのはの魔法を使えるのか?と驚いていたが・・・?」
「あ! それは私も思ったよ!」
「そうだよ! あれはなのはが組んだ魔法だ! 別の人間がそう簡単に扱えるなんて!」
三種三様の驚き。でもあれは砲撃という魔法なんでしょ? 魔術とは違ってプログラム的な魔法だから、知識があれば使えると思うけど、まぁいいか。
「そうね、おそらく固有能力の力じゃないかしら。あ、固有能力というのは、属性と同じように先天性、生まれつきその者が有するものね」
「つまりは稀少技能のようなものと思ってもいいんだな?」
「あながちそれでも間違いじゃないと思う」
レアスキルに関しては以前ユーノから聞いた時にそう思ったから、それでいいと応えておく。
「君も何か能力があるのか?」
「ん? いいえ、私は持ってないわ。能力だなんて本当に珍しいと言われていたくらいだし」
大戦時に固有能力を持ってる魔術師って、私が知ってるだけでも10人未満だったもの。
「そうか。ならこれで最後だ。魔術師はあと何人いるんだ? そして、君たち魔術師を管理している組織は残っているのか?」
確かに重要な疑問ね。下手をすれば、他のルシルクラスが敵になるとでも思っているのかも。
「さっきも言ったとおり、魔術はもう滅んでいるの。私の家族も使えないし、知っているのはゼフィだけ。当然組織も存在していないのは確認済み」
生前の家族も、この世界に用意された偽りの家族も魔術を使えなかったのは本当よ。だから魔術を使える私をあそこまで・・・いえ、忘れよう。それに、この世界に初めから魔術なんて存在していないのだし。
「判った、ありがとう。やはり彼の相手は、君に任せることになるだろう」
「ええ、初めからそのつもりだから、気にしないで」
その後、リンディ艦長がアースラスタッフとの顔合わせとして、自己紹介と協力云々の話をしてから、一度お開きとなった。そうそう、エイミィというオペレーターは敵に回すと、危険だと本能が訴えていたことを、此処に追記しとくわ。
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