気まぐれな吹雪
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第一章 平凡な日常
43、そうだイタリアに行こう
夏休み。
時が経つのは早すぎるとは思うが、それでも今は夏休みなのだ。
がしかし、要は相も変わらず風紀委員の仕事に追われていた。
去年の秋、体育祭以降に風紀委員長補佐となってしまった彼女は、去年以上の忙しさを見せていた。
そして今日も……
「って、やってられるかぁーーっ!!」
叫んでいた。
「おかしいだろ! なんで毎日毎日こんなに書
類が出てくんだよ! どっからこんなに沸いてくんだよチクショー!!」
「文句言ってる暇があるなら手を動かしなよ」
「うるせーっ! お前も少しは疑問に持てよ!!」
ビシィッと雲雀を指す。
その手は怒りで震えていた。
雲雀はちらと要を見ると、何も言わずに書類へと目を向けた。
そんな彼の態度に、要の何かが切れた。
「いいぜ、上等だ。バックレてやらぁ!」
そして遂に要は、応接室を飛び出した。
テーブルの上にあったチーズケーキをすべてちゃっかりスクールバックに詰め込んでから。
残された雲雀はと言うと、顔を上げて要が出ていったドアを見つめていた。
ペンを走らせていた手も今は止まっている。
十数秒、そのままでいたかと思うと、小さくため息をついてまた仕事に戻った 。
†‡†‡†‡†‡†‡
一方の学校を飛び出した要は、家に帰ってきていた。
学ランは腕章ごと脱ぎ捨てられて床に散らばっている。
ソファに寝転がって突っ伏すと、バタバタと無言で暴れだした。
何をしているのかと聞かれれば、何もしていない。
ただ暴れているだけだ。
と、その時、腕がソファの背もたれの隙間に挟まった。
「……ん? んだこれ」
そこから何やら小さな紙を引っ張り出す。
手書きの地図だった。
拙い字で可愛らしく書かれたそれは、明らかに子供の字であった。
〈僕のおうちだよ。コスモより〉
「コスモ……。そうか、イタリアに行こう」
勢いよく起き上がる。
その時だった。
「え、何? イタリアに行くの?」
「!?」
目の前に現れた銀。
要は思わずそのまま硬直してしまった。
何故かって、今現在、彼女は制服を脱ぎ捨てた状態、つまりは下着(ブラ&パンツ)姿。
銀がその事に気づくまでに約5秒。
「失せろクソ神ィィィィ!!!」
†‡†‡†‡†‡†‡
《まもなく、イタリアに到着いたします。シートベルトを着用して、しばらくお待ちください》
「くぁ~。よく寝た」
エコノミー席でグッと背伸びをする要。
あのあと、銀をフルボッコにしたあげく彼に留守番を押し付けると、スーツケースに着替えを詰め込んでジャージ姿で家を出た。
そのままバイクで空港まで飛ばし、今に至ると。
空港を出ると、コスモの地図を取り出した。
ご丁寧に空港からの道のりが書いてあるのだが、残念なことに、肝心のところが抜けていた。
〈せいなるもりのなかにあるよ〉
「いやいや、聖なる森ってどこだよ」
と言うことである。
取り敢えずは行けるところまで行ってみるが、聖なる森、と言うか森すら全く見当たらない。
仕方なく、近くを歩いていた人を呼び止め、聞いてみることにした。
「Io sono spiacente」
「Cosa è?」
「Questo--.--come dovrebbe andare a bosco?」
「così.Se è corretto, il luogo lungo quale lui camminò da qui come 2? ha un albero di una mela.Se va est diritto da là, arriverà al bosco.」
「Grazie」
ちなみに要は、こんなときのためにしっかりとイタリア語の勉強をしておきました。
もう読み書きはもちろん会話だって楽勝です。
それはさておき。
案内通りに行ってみると、確かにリンゴの木があった。
一本だけぽつーんと寂しく立っている。
そしてなぜか、見覚えがある。
「ってあれ? ここって」
そう、あの少年と出会った場所だ。
細部こそ違うが、何も変わらない。
リンゴの木はずいぶんと大きくなっていた。
「てことは……あいつと出会ったのは10年前ってことか。……あっ!!」
突然、何かを思い出したようにしゃがみこむ要。
木の下や近くの草むらを探す。
しかし、目当てのものは見つからなかった。
それもそうだ。
何せ、あれはあの少年が持ち帰ってしまったのだから。
「仕方、ねぇよな。とにかく今はコスモん所いかねぇとな」
そう言って立ち上がると、要は東に向かって歩き始めた。
聖なる森を目指して。
「クフフ、見つけましたよ」
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