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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第六五幕 「反省会」

 
前書き
今年の本編一発目。 

 
前回のあらすじ:誰がチョロいって?


「一夏、俺がいいって言うまで“零拍子”封印!」
「えぇぇーー!?」
「えーじゃない。とっとと帰りなさい・・・帰れー!!」
「帰りませんよ!ちゃんと理由を話してくださいよジョウさん!零拍子使えなかったら俺はどうやって箒に勝つって言うんですか!?」

そもそも一夏に伝言があると部屋に呼び出してきたのはジョウ自身。呼ばれていきなり自分の奥義を封印され、はいそうですかと大人しく従う訳がない。食いつく一夏を強烈なでこピン黙らせたジョウは、溜息をつきながら痛みで悶絶する一夏を見る。

「試合VTRは見させてもらった。ハッキリ言うが、お前の零拍子はダメだ」
「・・・へ?ダメって・・・?」
「そもそもだ」

言葉を区切ったジョウは部屋のモニターに映る一夏と箒の試合の一部―――丁度一夏がケリを振らったシーンを指さして説明する。

「零拍子ってのは極限まで研ぎ澄ました集中力で思考を無理やり加速させる・・・一種のトランス状態になることなんだよ。それに加えてその加速状態にも着いてこれるだけの経験を積んだ肉体の二つがあってこの零拍子による絶対先制行動は成立するんだ。ここまではいいか?」
「えっと、良く分かんないことが解りました」
「・・・もういい、お前に期待した俺が馬鹿だった。続けるぞ・・・絶対先制攻撃を防ぐには純粋な経験則や反応速度、先読み技能その他もろもろ必要になるが、完全に対応できるのは同じ原理の技のみだ。今回の場合は零拍子だな」
「・・・零拍子って零拍子以外にも防ぐ手あったんですか?」
「俺は防げたが?」
「ジョウさん基準は当てになりません!」

事も無げに答えるジョウに一夏はもう何度目になるか分からない大声で突っ込んだ。普段はこの部屋にユウもいるのであまり騒がしくできないのだが、生憎彼は入院中なのでいない。
アメコミのミュータント相手に素手で勝てそうな男を基準にしたら、100メートル走のタイム4秒がデフォの世界になってしまう。そこは大いに議論の余地があるだろう。ついでに言うとジョウが体験した初の零拍子を使った相手は恐らく千冬(せかいさいきょう)なので余計に当てにならない。
・・・そこで釈然としない顔をされても駄目なものは駄目です。

「まぁそこはいったん置いておく。つまり俺が言いたいのは、零拍子と零拍子がぶつかった場合2人の差は零拍子なしの状態と同一・・・拮抗状態にならなきゃおかしい訳だ。言いたいこと分かる?」
「つまり、俺が零拍子を使ったのに箒にあっさり返されたのは、俺の零拍子が不完全だからだと?」
「良くできました、なーんて言わねえぞ?」

ジョウはやれやれと肩をすくめた。一夏は確かに集中力によるトランス状態では「零の領域」に至っているのだろう。だが、その領域に至るまでに自然と身についているはずの「経験」がごっそり抜けているのだ。経験とは単純な知識だけではない。体に染みついた咄嗟の動きなどの行動記憶も含めて本来あるべき過程がすっぽ抜けてしまっていると言えばいいか。
師である柳韻(りゅういん)さんもさぞ困ったことだろう。本来長い時間を掛けて得れば完成しているはずの零拍子が、天性のバトルセンスによって片方の要素だけ習得してしまったのだから。

つまり一夏は――最初から零拍子を習得できてなかったことになる。5,6年間も完成していたものと思っていた奥義がまさかの不完全だったという事実がひどくショックだったのか、一夏はそのままがっくりと肩を落として項垂れた。そしてVTRを見ただけでそこまで理解できたジョウとの見識の差が追い打ちをかけ、真っ白に燃え尽きたボクサーの顔になっている。

「もう分かったろう。付け焼刃の零拍子なんぞ使っても箒ちゃんには勝てねえし、そんな不完全な奥義に体が慣れちまったら余計完成から遠のく。よって禁止!!異議は?」
「・・・ありません」

どこからどう見ても未熟者な一夏に反論の余地などあるはずもなかった。



= = =



「佐藤さん、もう十分っす。後は整備班に任せて休んでください」
「ん、わかった」

後輩にさん付けするのも変だと思いながらも何となくさん付けで呼んだ声に、盛大にぶっ壊れたスラスター類の修理を手伝っていた佐藤の手が止まる。試合終了後に「自分が壊したから」と言って修理の手伝いを申し出てきたことに、最初整備班は反対した。理由は二つ、一つは佐藤が作業に加わっても整備に不慣れな1年生など作業の邪魔になりかねない事。もう一つは佐藤が碌に休まず一直線でここに来たことだ。
ISの操縦には多大な集中力が必要になる。IS操縦者が最も怪我をするのはISから降りた直後というのはIS界隈では有名な話だ。難色を示した整備班だったが、佐藤に「そんなに疲れてないし、派手に壊したものを放って休むわけにはいかない」と頼み込まれ、こちらの指示に従うという条件付きで渋々承諾した。

しかし、優秀な人間とはいるものである。佐藤は最初こそ比較的簡単な整備作業を任されていたが、数分もすると慣れてきたのか猛スピードで仕事を消化し始めたのだ。結果として佐藤の手伝いは段々グレードアップしていき、当初の予定より10分修理作業時間が短縮された。

(そういう所も含めて天才って奴なんっすかね・・・)

整備班の一人――左近夕貴(さこんゆうき)は心の中でそうぼやく。
先ほどまでの佐藤の戦いぶりは、整備班も休憩時間の間にモニターしていた。つい数か月前まで一般の学校に通っていたとは思えないほどに華麗な機動。大胆かつ繊細な射撃。ずば抜けた判断力と決断力。どれも他の生徒とは一線を画すものだった。真剣そのものの顔で整備を進める佐藤の横顔はどこか凛々しさを感じさせ、自然と周囲の注目を集めていた。

学園内では特別美人の部類に入らない顔立ちの少女はしかし、現在は注目の的になっている。量産機で専用機を翻弄し、世界に4人しかいない男性操縦に背中を任せられた才女。正に「選ばれた人間」と言えるだろう。

うらやましいな、と夕貴は思った。
彼女は学園2年生の整備課に所属している。整備課に所属する生徒は大体2種類いて、最初からIS開発などの進路を目指している生徒と、操縦者としてやっていく自信がなくより競争率の低い道を選んだ生徒の2種に分けられる。
操縦者志願は将来テストパイロットか軍人、もしくはIS学園の教員となる。しかしISコアの数が限られている以上、採用される操縦者の人数も当然限られてくる。操縦者一本は茨の道と言ってもいい。比べてIS整備士はまだ世界的に数が多くないこともあって大体の生徒はどこかしらに需要が存在する。何よりIS自体世界最先端の工学技術で作られているため、IS以外のモノ作り分野に多くの道があるのだ。だから将来に不安がある生徒の多くが妥協の道を辿る。

夕貴もそんな人間の一人だ。更識楯無を筆頭とするトップランカー達に追いすがるだけの実力がなく、無難な道を行くことに決めた、ある種堅実な生徒である。実際2年生で整備班に参加できる人間はそれなりの実力を求められるので、整備課の中でも優秀な部類に入る自負もあった。

しかし、整備という仕事は華が無い日陰者の仕事だ。無論自分の整備したISが立派に空を飛んでいる姿を見ると労働の実感は得られるし、そのISが華々しく活躍している様を見るのも非常に喜ばしく思う。でも、それでもやっぱり思うのだ。「私もあそこで脚光を浴びてみたい」と。この道を選んでしまった自分にとって、あの少女の背中は余りにも眩し過ぎた。

そんな思いを胸の奥に隠しつつも見つめていた佐藤の背中がゆらり、と体勢を崩す。
あ、と思った時には手にしていた工具を放り出して彼女に駆け寄っていた。後ろ向きに倒れる華奢な体を作業油で汚れた手で何とか受け止める。整備課で足腰をそれなりに鍛えている恩恵か、将又佐藤が軽いのか(女としては羨ましい限りだ)すんなりと転倒を防ぐことが出来た。

「あれ、まずったなぁ・・・すいません、急に体を動かしたせいでちょっと立ち眩んじゃったみたいです」

恥ずかしそうにはにかむ佐藤の顔に一瞬見入った。なんて可愛らしく笑うのだろう、と。こうして見てみれば先ほどまでの凛々しさや戦闘での勇ましさは鳴りを潜め、一人の等身大の女の子なんだと実感させられた。と同時に「後輩相手に何考えてるんだ」と少しだけ自分が恥ずかしくなり、照れを隠すようにもっともらしい事を言う。

「いや、分かるっすよ。作業してっと知らず知らずのうちに平衡感覚が崩れたり血流悪くなってたりするもんっす」
「休めって言われたのに・・・IS壊して迷惑かけた挙句先輩にも迷惑かけて・・・はぁ、駄目ですね私」
「だ、駄目なんかじゃないっす!」

駄目なんかじゃない。最新鋭の高性能IS相手に最後まであきらめず食いついたのはたとえ負けたとしても賞賛に値する。それだけでなく壊したISの修理を率先して手伝うこともだ。壊したISを放り出して謝りもしない操縦者だっている中でこれだけ手伝ってくれたことには、現場の全員が報われる思いだった。そんな行動が駄目なんてことはない。何より、これで駄目なら自分は何なのだという不安の様なものがこみ上げて、つい声を荒げてしまった。

大声を出したせいか、それとも佐藤が倒れたせいか、周囲の目線は自分たちに集中している。佐藤自身もポカンとこちらを見上げていた。「しまった」と後悔するも時すでに遅し、完全に周囲が自分の言葉の続きを待っている。目立ってしまう事に少なくない羞恥と謎のプレッシャーを感じつつもなんとか思いを言葉にした。

「・・・整備士はISを見れば操縦者の事が大体わかるっす。あのラファールはスラスター周りは吹っ飛んじまいましたが、パーツや冷却系の摩耗の仕方を見ればどんな機動をしてたかもわかるっす。あのラファールは壊れないように、負荷がかかりすぎないようにすごい丁寧に操縦されたってすぐ分かったっすよ」

無理な機動をすればバランスを崩し脚部の装甲がぶつかり傷が付く。排熱量が多すぎれば冷却系の摩耗度も格段に上がるし、ヘタクソに限って無理にISを振り回すからフレームのジョイントが歪んで異音を立てることだってある。佐藤のラファールには調べた限り、それが無かった。念入りに整備され、操縦者がベストパフォーマンスを発揮できるように調整したISを大事にしてくれるのならば、それは整備士と操縦者の関係の理想形と言って過言ではない。

「整備士にとってこれだけ嬉しい事は無いんっすよ?だからもうちょい自分に自信を持ってください。修理の手伝い、本当に助かりました」

唖然とした表情の佐藤に言い聞かせるように、自分でも少し驚くほどすらすらと私は伝えた。
・・・何臭い事を言ってるんだろう。周囲の沈黙が痛い。佐藤は驚いたような顔をしているが、「何言ってるか分かんないです」とか返されたら私の心は確実に折れると思う。やや遅れて、佐藤が口を開いた。

「ぁ・・・っと、はい。私も色々ありがとうございました。また先輩の世話になるかもしれませんけど・・・その時は、よろしくお願いします」

そう言って佐藤はまたはにかむ。―――畜生、可愛い後輩っすね。
そんなこと言われたらもう嫉妬とか羨ましいとか言えないじゃないっすか。
嫌とか絶対言えないっす。佐藤は悪い子っすね・・・


「YURIIIIIII・・・」
「薄い本の素材って別に男じゃなくても何の問題もない訳で、だからこの光景を見てキマシな本の素材に出来ると写真を撮った私は何も悪くないわよね?」
「私たちがキマシタワーを建設してるのはどう考えても左近が悪い」
「お前らはちょっと黙るっす!!あと後輩をどーじんのネタにすんなぁぁぁ!!!」
「あ、私そっちの趣味は無いんで・・・」
「とか言っても実は?実は?」
「ないですから!」

・・・やっぱりこの学園の生徒は何所か頭がおかしい所があるな、とおかしい存在筆頭の佐藤さんは思うのであった。 
 

 
後書き
左近夕貴(さこんゆうき)
整備士志願。戦闘訓練の成績は芳しくないが工学、メンテ方面では高い実力を発揮する。
髪形は茶髪のベリーショート。身長は標準的。人がいいためちょくちょく同級生にからかわれる。
小麦色の肌と標準的な女性より多めな筋肉は一種の肉体美を感じさせる・・・とは彼女の友人の談。 
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