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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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反董卓の章
  第13話 「なぁにを騒いでおるかぁ! 喝ぁつ!」

 
前書き
先日のつぶやきにある通り、書く時間がありません。
途中ですけど、今回はこれだけです。

まあ、それでも今見たら8000字越えてるみたいですが…… 

 




  ―― other side 汜水関 ――




「偵察と伝令、ですって?」

 汜水関が陥落した翌日の昼頃。

 やっと鎮火した汜水関の大扉の前で、袁紹は二人の人物と会っていた。
 会っていた、というのは少し語弊がある。

 道中で押しかけてきたのだ。

「はい! 私の軍は騎馬兵……しかも千程度の軍です。この先の虎牢関ではまともな戦働きも出来ないと思います。ですが、その機動力を活かした偵察や伝令でしたら、誰よりも負けない速度でお役に立てるかと!」
「……まあ、噂に聞く涼州馬ですものね。確かに関攻めに加われないですし……」

 袁紹が呟きつつ、その人物を見る。
 その人物――馬岱が、膝をついたまま頭を下げた。

「遅参した上、このまま何も出来ずにいるのは武門の恥辱! ですので、今は少しでも総大将サマのお役に立ちたいと思う次第です! いかがでしょうか!?」
「私からもお願いします、袁紹さん。どの道、北や南に陽動させている諸侯との連絡も必要だと思うんです」

 馬岱の横にいたのは劉備だった。
 彼女も馬岱同様、袁紹に膝をつき、頭を下げている。

「……まあ、そうですわね。いいですわよ。それじゃあ、偵察を兼ねて北と南の状況を調べてきてくださいましね」
「ありがとうございます!」

 袁紹の言葉に、馬岱が頭を下げる。
 だが、そこに劉備が待ったをかけた。

「あ、袁紹さん。その伝令なんだけど……これから虎牢関攻めになるでしょ? その前に、北と南の陽動部隊に関を攻撃するように命令してもらえませんか?」
「陽動部隊に? そんなことをすれば陽動部隊の偽兵がバレてしまうんじゃありませんの?」
「それは大丈夫じゃないかなぁ? 旗と案山子の陣で、千程度の残存兵に多めの糧食を炊かせたりすれば、そこにまだ後続があるって思わせられるし。諸侯も無理に落とすんじゃなくて、一当すればいいだけだから」
「……つまり、ちょっかいをかけるだけ、ということですの? それになんの意味が?」

 袁紹の言葉に、劉備は何かを思い出すように首を傾げる。

「えっと……まず、汜水関を落としたことで、虎牢関に残る董卓軍が、こちらが本命だと北や南の関から兵を集めようとする可能性があるから。それを防ぐためにも、三方面作戦だという疑いを相手に持たせる必要があると思うんですよ」
「…………ふむ」
「これで北や南が動けば、汜水関こそが囮で、実は北と南が本命かもしれないって疑心暗鬼にさせることが出来ると思うの。そうすれば、迂闊に虎牢関に兵を集められないでしょ?」
「……なるほど。確かにそうですわね」
「その上で虎牢関を落とせば、北と南へは後背から挟撃もできるし。多分それを恐れて、北と南の関の兵は逃げ出すか降伏するかもしれないでしょ? 仮に洛陽へ戻ろうとするなら、間に合うなら挟撃、間に合わないなら陽動していた諸侯と合流して、洛陽での決戦もできるし」
「……いいですわね。その案、いただきますわ! すぐに命令書を出しましょう。馬岱さんは、それを持って伝令に行っていただけるかしら?」
「御意ですー!」

 馬岱は、了承の言葉ともに頭を下げる。
 そして下げた頭を少しだけ横にずらして劉備を見て、ニヤリと笑った。 
 劉備もそれを見て、軽く頷く。

「命令書はすぐに唐周さんに書かせましょう……唐周さん、いいですわね?」
「……ハッ」

 唐周と呼ばれた文官は、頭を下げつつ劉備を見る。
 その眼光に憎しみの光が見えて、劉備は驚きつつも目を逸らした。

(え? なにかな、あの人。すんごくこっち睨んでいる気がするんだけど……全然知らない人だよ!?)

 劉備にとって見れば、全く面識のない人物である。
 何故にそんなに睨まれるのか、とんと記憶になかった。

「用件はそれだけですの? でしたらわたくしは、鹵獲物資の検閲がありますから行きますわよ?」
「あ、はい! お手数をお掛けしました」
「唐周さん、後は任せますわね。お~ほっほっほっほ!」

 書状の作成や伝令内容などを部下に一任し、自らは汜水関の関へと入っていく。
 本来であれば後回しにするべきことが逆であるが、それが袁紹の袁紹たる所以であった。

「さて……馬伯瞻殿ですな。すぐに書状を(したた)めましょう。それを持って伝令……ということですな」
「あ、はい! お願いします!」
「ふむ……まあいいでしょう。くれぐれも……寄り道などせぬように」
「ギクッ!? あ、はい! もちろんですよ!?」

 唐周の言葉に、若干上擦りながらも答える馬岱。
 唐周は胡乱げな視線で馬岱を見た後、『一刻後に大天幕へ出頭してください』と言い残して、一人陣へと戻っていった。

「ふ~あっぶなかったぁ。たんぽぽ、バレたのかと思ったよ」
「馬岱ちゃん……お願いだから、伝令に出るまで言動には注意してね?」
「あ、はい。ごめんなさい、桃香姉様!」
「………………」

 はあ、と溜め息を吐く劉備。

「馬岱ちゃん……言われたでしょ? この件が片付けるまではお互いの真名禁止だって」
「あ~……ご、ごめんなさい。つい、嬉しくて……」
「……はあ。(ぼそ)たんぽぽちゃんの役割は重要なんだからね? 気をつけてね?」
「はい! 任せて下さい、とう……りゅーび姉様!」
「わかってない……わかってないよ、馬岱ちゃん……」

 劉備は、頭を抱えるように首を落とす。
 それとは対照的に、頬を染めてにこやかに笑う馬岱。

 全ては昨夜の出来事からだった。




  ―― 盾二 side ――




 ――話は少し遡る。

 ………………
 えーと……

「あーうん。じゃあ、俺は飯食って一眠りしようかな……」
「は! あ、いや、あの! ご、ご主人様!? 何故いきなり距離を取ろうとするんですか!? というか、は、離して、離して下さい、馬岱殿!?」
「そんな、お姉様……たんぽぽの事は、たんぽぽって呼んで下さい…………ポッ」
「い、イヤイヤイヤ! ポッてなんだ! わ、わわわわわわ、私にはそういう趣味はないぞ!」

 あー……うん。
 まあ、人を好きになるのに理由はいらないとか、いろいろ言われるわけで……

「はあ……思ったとおりになったな。愛紗よ、お主も罪な女よ」
「な、なななななぜだ!? 私が何を言ったというのだ!? せ、星、どうにかしてくれ!」
「無理、だ。お主はもう少し、己の言動にも気をつけたほうが良いと思うぞ? 梁州でも、お主を慕うおなごは多いのだからな」
「……へ?」

 愛紗はきょとんとして星を見ている。
 そういえば、愛紗って女性ウケしそうな立ち居振る舞いだよな。
 男装の麗人……いや、男装はしてないけど。

 美髪公なんて言われていて、その毅然とした態度と振る舞いに、男性のみならず女性からの人気も高いとは聞いていた。
 まあ、ウチの将だと、鈴々と星と馬正になるし。

 鈴々は、その容姿と立ち居振る舞いから、子供を持つ親御さんに人気がある。
 馬正は、厳格な意思と行動に奥様層や、一緒に働く若い男に頼りになる親父という認識で人気があった。
 星は……まあ、若い女性が多少その神秘的な雰囲気に人気があるとはいえ、普段の素行が悪いからなぁ。

 そして愛紗は第一軍の将にして、州牧劉備の右腕と自他共に認められている。
 この四人の中で、誰がアイドル並みに人気があるかといえば……必然的にそうなるというわけで。

「以前立ち寄った曹操の陣営も、それはそれは百合百合しい場所ではあったが……お主、気をつけろよ? 曹操殿と出会ったらきっと誘惑……もとい、勧誘されるぞ?」
「そこでどうして曹操が……? というか、義勇軍時代にすでに勧誘はされたが、断ったぞ? 私が仕えるのは桃香様のみだ…………ええい、馬岱! いい加減に離れぬか!」

 そういや曹操に初めて会った時、愛紗になにか言っていたのを割って入ったんだけど……
 史実でも曹操って、関羽に執心していた記憶があるな。

 まあ、史実では優秀な将として欲したのだろうけど……この世界じゃ女性だしなぁ。
 ……百合、ねえ。

「史実の方で、曹操が関羽を欲したのが、実は衆道目的だったなんて……いやいやいや。考えたら歴史ファンに殺される気がする……」
「……なにやら、承服しかねるわけのわからないことを言っておられる気がするのですが。ご主人様……」

 いや、そんな目で睨まれてもな……
 とりあえず足元で頬ずりする馬岱を、なんとかした方がいいと思うぞ?

「貴様! どこを触っているのだ!」
「やぁん、お姉様! いじわる」

 ……もう、敬語でなくて罵倒になっているな。

「はわわわわ……こ、これがやおいちの対局にある、百合ですか……」
「あわわわわ……べ、勉強になるね、朱里ちゃん」

 ………………

「あー愛紗……教育上、よろしくないから、やるなら外で……」
「な・に・も! やりませんっ!」
「……ここまで焦った愛紗を見るのは、すんごく久しぶりなのだ」

 そういや鈴々が持ってきた食事が冷めてしまいそうだ。
 このカオスな状況……普段なら、馬正がまとめてくれるんだけどなぁ。
 そろそろ合流してもいいはずなんだが……

 そう思った矢先、一人の人物が天幕へと入ってきた。

「なぁにを騒いでおるかぁ! 喝ぁつ!」
「きゃっ!?」

 おお!
 噂をすればなんとやらだ!

「馬正! 来たか!」

 俺が寝台から起き上がると、天幕に入ってきた人物は膝を折って俺に拝礼する。

「馬仁義、補給任務を終え、ただ今着陣いたしました! 先ほど主がお倒れになったと聞きましたが……その様子では大丈夫なようですな」
「いや、馬正が来てくれて嬉しい! これでこのカオスが収まる!」
「は?」

 馬正は訝しんだ後、周囲をぐるりと見回して嘆息した。

「……主よ。もう少し、女性の扱いを学びなされ。多数の女性をまとめるのも、主の仕事ですぞ?」
「なにそれ、俺ハーレムなんて知らないし!? そういう気も全くないんだけど……まあ、それはともかく助かった」

 一刀がいない今、男で頼りになるのは馬正一人だもんな。
 ほんと、安心感が違うよ。

「はあ……雲長殿。慕う方を無碍にしてはいけませぬ。そちらのお嬢さんも、今は落ち着かれよ。雲長殿ならば逃げはしますまい」
「あ……うむ。す、すまぬ、仁義殿」
「あ……はい。すいませんでした。お姉様もごめんなさい……たんぽぽ、変に興奮していたみたいで」

 馬正の一言で、カオスな雰囲気が収まる。
 すごいな、馬正。

「ふう……助かった。これでやっと話が進められる……って、桃香? 君もいい加減目を覚ませ?」

 俺の横で、顔を真っ赤にして絶句していた桃香が、ようやく我に返る。

「え? あ、ご、ごめんね。私、こういうのって初めてで……ちょっとドキドキしちゃった」
「わかったから……さて、馬正も来たことだし、今後のことを話すとしよう。馬正、周囲は大丈夫か?」
「はい。細作が潜り込まぬよう、厳重に警戒するようにあらためて申し伝えました。雛里殿の細作も周囲を見張っております」
「よし……」

 俺は、寝台に座りなおして、衣服を整えた。

「では、今後だが……雛里、彼女を連れてきてくれ」
「御意、です」

 雛里がとてとてと天幕を出て行く。

「董卓……董仲穎殿を助け出す基本方針は変わらない。作戦の第一段階であった汜水関の単独陥落は成した。これで袁紹はこちらを疑いはすまい」
「……元々、我らは董卓殿と親交が深い分、疑われても仕方ない状況でしたからな」
「ああ。劉表の爺さんのお陰でうまいこと隠れ蓑になっているとはいえ……あからさまに戦闘に消極的ならば、のちに難癖付けられる可能性が高かっただろう」

 そういう意味もあって、劉表の爺さんと一緒に参陣するように手配したわけだがな。

「えっと……劉表って荊州牧の人ですよね? 仲いいんですか?」
「……そういえば馬岱殿は、遅参だから知らないんだったな。梁州は荊州と益州との三州同盟を組んでいる。荊州牧の劉表が代表だ。だから劉表が連合参加することで、俺達も参加せざるをえないわけだ」
「あ、それでりゅーび様は……」
「あはは。もう桃香でいいよ、馬岱ちゃん。翠ちゃん同様、貴方も仲間だしね」

 その言葉に、皆が真名を預けあう。
 俺にも馬岱の真名、たんぽぽを預けてくれた。

 俺に対しては、多少しょうがなく、だったが。
 ……まあ、泣かせたしな。

「話を戻そう。汜水関に『置いておいた』金品の確認で、袁紹は出発を明後日にしたんだな?」
「うん。明日の昼には消火が終わって入れるよっていったら、そう言ってたよ」
「よし……ならば時間が稼げたな。順調だ」
「……え? 金品って……あれ、桃香姉様たちが置いたんですか!?」

 馬岱――たんぽぽが驚く。

「ああ。汜水関の大扉の消火する振りをして、細作に汜水関内部を調べさせた。糧食や資材は多いが、金品が若干少なかったのでな。足止めさせるためにも少し割り増しさせておいた」
「な、なんでそこまでして……」

 たんぽぽが呆れたように呟く。
 まあ、ちょっと理由があってな。

「今はともかく、連合を足止めする時間がほしいんだよ。その間にたんぽぽにはやってもらいたいことがあるんだ」
「たんぽぽに……?」
「ああ。だから君を試した。さっきは本当にすまなかったな」
「……もう、いいです。董卓さんを助けるためってことなら、たんぽぽだってしょうがないと思うし」
「助かるよ……で、だ。たんぽぽには、明日にでも連合を出てほしい」
「ええ!?」

 再度、たんぽぽが驚いた。
 まあ、連合に参加した日に出て行けと言われりゃ、そりゃ驚くか。

「連合を出る理由はこちらで考える。ちゃんと西涼には迷惑かけないようにする」
「……ほんと?」
「ああ。約束しよう。それに……うまくすれば、多分たんぽぽが勲功第一になるかもしれないぞ?」
「――へ?」

 俺の言葉に、鳩が豆鉄砲食らったような顔になるたんぽぽ。
 ははは……こういう時は、翠にそっくりなんだな。

「そのために、俺達はなるべく時間をかけて虎牢関を落とすようにする。虎牢関次第でもあるが……ちゃんと関の防御力に頼ってくれるなら問題ないはずだ」
「……でも、ご主人様。汜水関みたいに将が打って出てきたらどうするの?」

 桃香の不安げな言葉。
 確かにその懸念はある。

 なにしろ、汜水関で関が無力だということを、俺自身が証明してしまった。
 俺が前に出れば、また同じことになるだろうと向こうが警戒して、関の外で決戦を挑んでくる可能性も高い。

「……正直、それがあるからこそ、できるかぎり行軍を遅らせたくてな。だが、行軍を遅らせるのも、あと二、三日が限度だろう。だからできるだけ早く、しかも迅速に事を進める必要がある」
「……それで、たんぽぽになにをしろと?」
「ああ……それは」

 俺が言おうとした時、天幕に雛里が入ってくる。
 その後ろに一人の女性を連れていた。

「彼女と一緒に……先回りして欲しいんだ」
「あ! あんた!」

 たんぽぽが叫ぶ。
 彼女が見知った顔が、そこにいた。

「董仲穎殿のいる、洛陽に」




  ―― 馬岱 side ――




 ――そして時はまた戻る。

 桃香お姉様と別れた後、一刻ほどしてから袁紹の大天幕へと向かう。
 そこであの、やたら目付きの悪い文官の人から伝令の書状と証明の印璽をもらって、自陣へと戻った。

「おかえりなさいませ、姫」
「ただいまっ! 皆準備出来ている?」
「はっ! もちろんでございます!」

 たんぽぽの軍……千の騎馬兵たちがその場に揃っている。
 皆には今朝方、内密にあることを伝えてある。
 その話に、反応は様々だったけど。

 それでも見ている限りは、皆どの顔にも涼州を出た頃よりかは幾分ましな顔になっているように思える。

「うん。じゃあ……あの人達は予定通り?」
「はい。後方にて別働隊で待機中です。谷の出口にて合流できるかと」
「そっか。じゃあ、急いでいこっか。時間はあんまりないしね」

 兵が連れてきたたんぽぽの愛馬。
 翠姉様の麒麟とかには敵わないけど、結構疾く走るたんぽぽの相棒。

 その愛馬に跨って、槍を掲げる。

「じゃあ、いくよ! 馬岱隊、しゅっぱ――」
「おーい。どこいくんだぁ?」
「あらららら……な、なんだよ、もう」

 たんぽぽがカッコよく決めようとしてたのに!

 声をした方を見ると、白い馬が疾走ってくる。
 乗っている人は……確か公孫賛とかいう人だった。

「えっと……公孫賛さんですよね?」
「ああ……そんなに急いでどこ行くんだ?」
「え? あー……偵察と伝令です。公孫賛さんは、どうしてここに?」
「私か? いやぁ……どうせ私ら後曲だろ? 暇してるんじゃないかと思って、一緒に馬駆けにでも誘おうと思ったんだけど」

 そういって公孫賛は、頬をポリポリ搔いている。
 なんだかなぁ……この人、そんなに暇なの?

「ごめんなさい。袁紹様から北と南の部隊への伝令と、周辺の偵察を任されているんです。ですので、又の機会にしてもらえますか?」
「そっか……邪魔してごめんな。それにしても本初のやつ、偵察なら私の騎馬部隊も使えっての。このままじゃ何のために参加したんだか……」

 公孫賛は愚痴をたんぽぽにいってくる。
 えっと……言っていいのかな?

「そりゃあ、公孫賛さんは劉虞の代理で参加されているんですよね? そんな人に前線に立たせるのは、普通はしないんじゃないかと……でも、なんで公孫賛さんは、劉虞の代理なんかに?」
「ん? ああ……劉虞は今、中原の復興で手一杯でな。それなのに本初に泣きつかれてな。書状の証明も出したし、正当性を求めるためにも出兵してほしいっていわれたんだと。でも、今中原を離れられない……だから私に泣きついたってわけだ」
「えっと……大丈夫なんですか?」
「? なにがだ?」

 えっ……本当に気付いてないの?
 自分が騙されてるってこと……本当に?
 たんぽぽにだってわかることだよ?

「……あの、劉虞の噂って涼州にも届いているんですけど。それはご存知ですよね?」
「ん? ああ……虐殺の件だろ? あのあと劉虞は心を入れ替えて中原の復興に励んでいるんだよ。私も最初は疑ったんだけどな。でも、私財を投げ打って復興させているし、その後の様子を見ても本当に心を入れ替えたらしいから……」
「え? あの……本気で信じているんですか? だって……」
「へ?」

 公孫賛はきょとんとした目で、たんぽぽを見てくる。
 ……言ったほうがいいのかな?
 でも、いくらなんでも……

「あの、たんぽぽ達、遅参したんですけど。その理由が集合場所を間違っていて、鄴にまで行っちゃったからなんです」
「ありゃま。まあ、涼州からだと、こっちの地理は不慣れだもんな」
「それでその、そこで噂を聞いたんですけど……」
「噂?」

 ほ、本当に知らないのかな……
 どうしよう……でも事実だし、言ったほうがいいよ、ね?

「あの、ですね……劉虞、また虐殺しているみたいですよ」
「……………………え?」

 公孫賛が固まる。
 本当に知らなかったようだ。
 あや~……たんぽぽ、余計なこと言ったかなぁ?

「ほ、ほんとかどうかは知らないですよ? 鄴に来ていた商人の話なんですけど……古くから仕える家臣たちが自分の名を騙って民を虐殺した、ってことで、ほとんどの家臣を斬首したそうです。しかも、その家臣たちは商人たちに賄賂をもらっていたとして、さらに商人たちを捕縛しはじめたので逃げてきたと……」
「………………え?」

 たんぽぽの言葉に、固まったままで首を傾げる公孫賛。
 ああ……これ、きっと頭が追いついてないんだ。

 衝撃的な言葉を告げられた時、人は思考が固まって動けなくなるって韓遂おじさまが言ってたっけ。

「……姫、そろそろ急ぎませぬと」
「あっ……ええと。たんぽぽが知ったのは五日前だから! もし噂が間違っていたらごめんなさい! たんぽぽいくね!」
「………………」

 たんぽぽの言葉が聞こえたかどうか。
 公孫賛は馬の上で身じろぎもしていない。

 悪いこといったかなぁ……?
 でも、さすがに言えなかったこともあるんだけど。

 劉虞は袁紹と取引をして、邪魔な公孫賛を領地から遠ざけるために、宦官の書いた書状の保証人になったってことを。
 そして公孫賛を自分の代理として連合に参加させる間に、私財を売り払って揃えた傭兵で、北平を攻め取ろうと画策しているらしいということを。

 たんぽぽは馬を疾走らせながら、もう一度だけ振り返って公孫賛を見る。
 けれど、公孫賛はその姿が見えなくなるまで、その場所を微動だにしなかった。
 
 

 
後書き
白蓮さんの七難八苦が始まりました。
プロット通りとはいえ、可哀想に……

ちなみにこの回だけはサブタイトルがありました。
「悪事千里を走る」ですw

全部盾二のせいですね、はい。 
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