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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  十六章【特務ギルド】

「まさか、貴方がギルドマスターですの!?」

「おいおい、GMがギルマスとかアリかよ!?」

「ティティさんの所属してるギルドって…」

理解できない状況に混乱する3人。
そんな姿を見て、ウォルターはやれやれと首を振る。

「ほらほら、すこし落ち着いて。僕はギルドマスターじゃなくて後見人みたいなものだよ。一応ゲームマスターの僕がギルドマスターできるわけないだろ?」

言葉の最後にちょっとやってみたいけどね、と冗談ぽく付け加えるが、そのるんるんとした瞳は全く冗談には見えない。

「僕達のギルドはこの間のヒトガタ…通称『スサノオ』を討伐する為に作られた『特務ギルド』でね!…あ、ちなみにギルドマスターは『ユーリ』って子が務めてくれているよ」

「特務ギルド?それはまた大層なもの作ったんだな」

「それだけ危険な存在ということだよ。ここ何日かでフロンティア3と4界隈のユーザー達が何度もスサノオの襲撃にあっているようだしね」

「そうなんですか…」

責任を感じうつむく零。
自分があのとき邪魔をしなければという罪の意識が一層に強くなる。

「まぁまぁ、そう落ち込まないでよ!今のところはそんな甚大な被害も出てないしね!」

陽気な様子のウォルターだが、当事者である3人の顔は晴れない。

「うーん、暗いなぁ。…僕がここに来たのはそんな顔させるためじゃないんだけど」

「じゃぁ何のためですの?」

「いい質問だ!」

ビシッと指差しウォルターは満面の笑みを浮かべる。

「実は君たちにもこの特務ギルドへ入ってほしいと思っていてね!本当はもう少し様子を見てからともおもったんだけど、どうやら君たちはマスティフを倒してコアまで採取したそうじゃないか!」

「え、あぁ…まぁ、ウォルター博士からもらったエクステンドのお陰でもあるんですけど…」

いやいや、と言いながらズイッと零へと歩みよりガッシリとその両肩を掴むウォルター。

「それでもだよ!どんなに強いエクステンドを持っていても使いこなせなければ意味はない!君達はしっかり僕の期待にこたえてくれていて嬉しいよっ!」

「はぁ…」

「それにだ!僕ら特務ギルドメンバーのティティ君と接点をもつなんてこれは運命としか思えない!この奇跡とも言える確率は君達への興味をさらに掻き立てるよ!」

次第に興奮しだし、ウォルターはユサユサと力強く零の肩を揺さぶり出し勢いに逆らえず首が前後に揺さぶられる。

「ちょ、ちょっと興奮しすぎではありませんこと!?」

それを見て慌てて止めに入るクラウリー。
すると、我にかえったウォルターはパッと零の肩を離す。

「いやぁ、ごめんごめん!僕の悪い癖でね!」

「ゲホッ…いや、大丈夫ですよ……」

言葉とは裏腹にフラフラとし目の焦点が合わない零。

「大丈夫…かな?」

心配そうに零を支えるティティ。
そのティティの行為に気が付くと、今度は胸の高鳴りから目が回りそうになる。

「おいおいおいっ!本当に大丈夫かよ!?」

「だいっ…ダイジョウブでふ…はな…話を続けてくだはい…」

明らかに大丈夫ではないその有り様に、零の本当の状態に気付いていないウォルターは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

「うーん。本当に申し訳ない…で、えっとなんだっけ?」

「なんだっけ、じゃありませんわよ…。特務ギルドに関してですわ」

GMらしからぬウォルターに呆れ顔のクラウリー。

「あぁ、そうだ!僕らのギルド、名前を『ブラザーフッド』っていうんだけどね!スサノオに関する情報はもちろん、フロンティアを熟知したメンバーからネイティブの特性やエクステンドの有効活用の方法も教えてもらえるし、君たちにとって悪い話ではないと思うんだよ!」

ウォルターの勧誘の言葉にしばらく沈黙し考え込む3人。
悪い話ではない。むしろ零達には好都合な条件で断る理由などなかった。
しかし、その誘いに対し意外にも零達は良い顔をしない。

「まぁ…悪い話ではないわな」

「ですけれど府に落ちませんわ。…ベテランさん方がいらっしゃるのなら私たちなんて必要無いのではなくて?」

そう、フロンティアを熟知しているようなメンバーが揃っているのなら零達のような初心者と大差変わりのない者をわざわざ特務ギルドへ入れるメリットなどないはず。
そして、それとは別に零には別の疑問が浮かんでいた。

…本当に奇跡だったのか?

零が引っ掛かっていたのは、ウォルターの『奇跡のような確率』という言葉。
果たしてティティと偶然出会ったそれは、本当に奇跡のような偶然だったのだろうか?
それとも、その奇跡はウォルターによって仕組まれたことなのか…。

いまだに、零の中からGの『哲二には気を付けろ』の言葉が消えることはない。

もし、あの洞窟にはオンショウが居ると知っていてワザと俺たちを連れて行っていたとしたら…

もし、あの洞窟へ俺たちを連れて行った本当の理由がスサノオを産み出させるためだったとしたら…

もし、ティティと出会った事が奇跡などではなく仕組まれた必然だったとしたら…

もし、この特務ギルドへ誘ってくる理由が俺たちを利用して何か良くない事を計画を実行するためだったとしたら…

そこまで考え、零はその疑念を振り払うように首を振る。

…バカバカしい。第一オンショウを俺たちに見せるメリットもないしスサノオだって産み出したかったなら自分でやった方が手っ取り早いじゃないか。

…それに、ティティさんへ話しかけたのは俺からだし、いくらなんでもそんな確率をどうにかできるとも思えない。

…そう、俺はあのGに言われた言葉で先入観から疑心暗鬼になっていただけだ。実際ウォルター博士は良い人だし、彼が何かを企んでいるとしたら彼の俺たちへの行動はすべて彼自身に何のメリットもない事じゃないか。

考えすぎなのだと今一度自分自身へ言い聞かしウォルターへと目を向けると、零に疑惑の目を向けられていたとも気が付かづに相変わらず陽気な笑顔を浮かべている。

「確かに今の所君たちの力は必要ないよ。…今のところはね」

「どういう意味ですの?」

いいかい、とウォルターはクラウリーへと歩み寄り説明を始める。

「少し真面目に話をするよ。……この事件は僕が引き起こした僕の罪だ。だから僕はこの事件は僕が全力で解決する。正直最初はこれ以上君たちを巻き込もうとは思っていなかったよ…でも、あのオンショウ達を見て今も尚君たちがフロンティアを続けているのは君たちもスサノオの件に関して責任を感じて自分たちで何とかしようと思っているからじゃないのかい?」

「当然だろ…あれはオンショウにトドメを刺し損ねた俺たちの責任だし」

そう言うジャックの方へと顔を向けると、ウォルターはそれは違うと首を振る。

「でも、君たちにもし強くスサノオを倒したいと思う気持ちがあるのならその思いの力を僕に貸してくれないかい?…正直、スサノオの力を測りかねているブラザーフッドのメンバーでは到底討伐が成功するとは思えないんだよ。…だからこそ、あのスサノオと対峙してまだヤツを倒したいと思ってくれているならば…僕に力を貸してくれ」

「私からも…お願い……します」

真面目な顔をするウォルターと、深々と頭を下げるティティ。

「ウォルター博士はともかくとして、なんでティティさんまでそんなに頭を下げますの?」

「私も…フロンティア好きだから……メチャクチャにされたくない…の」

下げた頭をゆっくりと上げたティティのその瞳はなにか強い想いのようなものに満ちている。
それが一体なんなのかは知る由もないが…

「2人とも、どうしますの?」

「俺は別に入ってもかまわねぇよ?別に問題があるわけじゃないしな」

ジャックもクラウリーも、ウォルターとティティの表情に既に気持ちを固めていた。
そして、零も…

「俺も……俺も入ります」

零の言葉に、にっこりと笑顔を見せるティティ。

「ありがとう…」

「い、いえ…」

照れを隠し顔を背ける零。

「僕からもお礼を言うよ。…ありがとう。君達なら引き受けてくれると信じていたよ…」

と、ウォルターは腕輪を操作し『多人数転送システム』を起動させる。

《ゲームマスター権限、多人数転送システム起動確認…》

《対象のユーザーの強制転送開始…》

「えっ!?」

「ちょっ、いきなり転送って!?」

いきなりの事に驚く零達だが、すでに転送は始まり身体の半分はすでにナノマシンにより分解されていた。

「大丈夫だよ。これから君たちが向かう先は、僕たちの特務ギルドブラザーフッドの拠点さ」
 
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