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戦国異伝

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第百四十五話 安土築城その十一

 それでだ、彼は今こう言うのだ。
「むしろだ」
「むしろですね」
「あの家とはですね」
「避けたい」
 こうはっきりと言い切ったのだった。
「何があろうとも」
「しかし織田家はそう思っているでしょうか」
「実際に」
「織田信長はですね」
「彼がどう思っているかですね」
「それが問題ですね」
「右大臣が」
「そうだ、拙僧は織田家とは揉めたくはない」
 顕如は言い切った。何もな。
「だからだ」
「ひあ、ここはですね」
「ここはどうすべきか」
「それですね」
「こちらからは仕掛けぬ」 
 決してだというのだ。
「挑発にも乗らぬ」
「では檀家制度は」
「織田家が進めているあれは」
 それにより寺社を弱めているそれはどうかというのだ。
「どう思われますか」
「あれは」
「あれか。そうじゃな」
 どうかとだ、顕如は一呼吸置いてから答えた。
「よく思わないがな」
「それでもですか」
「織田家が言うのならば」
「受け入れてもよいだろう」
 最大限の譲歩だった、顕如にしても。
「檀家にしても本願寺は衰えぬ」
「だからですか」
「受け入れてもよいですか」
「うむ、僧兵がいなくなるのは不安だが戦になり多くの者が死ぬ様にするのは仏門ではない」
 僧侶としてだ、こう考えて言うのだった。
「だからな」
「では公方様からの文は」
「あれは」
「受けるつもりはない」
 はっきりと言った言葉だった。
「理由をつけてお断りしよう」
「わかりました、そのことも」
「そうされるということで」
「うむ」
 顕如も頷く、彼は今は信長と戦うことはおろか衝突することも望んではいなかった。この考えは確かだった。
 そのうえでだ、彼は側近達に信長のことを問うた。
「それで織田信長だが」
「はい」
「右大臣殿ですね」
「御主達はどう思うか」 
 彼についての見解だった、問うことは。
「あの者については」
「かなりの人物かと」
「戦も政も見事です」
 彼等は口々にそれぞれ信長から見て感じるもの述べた。
「民のこともよく考えています」
「悪しき者ではないかと」
「そうじゃな、この摂津も治めておるが」
 顕如もここで言う、既に本願寺の治める場以外は全て織田家の治める場となっている。他の寺社も国人も織田家に入ってしまっているのだ。 
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