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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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妹達
  Trick59_美玲




今回の事後処理

1.上条当麻は入院
2.西折信乃は入院
3.御坂美琴は栄養不足や過労があったが問題なし
4.妹達10032号は入院
5.一方通行・・誰それおいしいの




上条当麻の拳により一方通行が沈黙した後、信乃は事後処理を急いで始めた。

優先すべきは怪我人の護送。
上条と御坂妹を診たところ、上条は大怪我ではあるが命に別条は無い。
だが御坂妹は左腕を損失している。その際の大量出血により危険な状態であった。

美琴がした止血処置では不十分だったため、応急処置を追加した。
そして一分一秒でも早く手術を行うため、美琴に上条を任せて
まずは御坂妹だけを運んだ。

移動手段はA・T。
A・Tで背中に乗せるのは体勢が安静しない。だから必然的にお姫様抱っこで連れて行った。

月夜に空を駆ける。高層ビルの屋上から屋上へ(トリック)をきめて移動する。
その移動中に一度だけ、御坂妹が意識を取り戻した。

「・・・・・夜風が、気持ちいいです、とミサカは、自分の人生最後の幸せを
 噛みしめ、ます」

「ふざけんじゃねーよ。

 赤の他人ならともかく、俺の知り合いがハッピーエンドにならないエンドなんて
 俺は許さない。
 
 お前は琴ちゃんの・・・いや、俺の自己満足のために助かってもらう」

「そうですか、と御坂は綺麗なお月様に見惚れて適当に返事をします」

「綺麗だと思ったなら、もう一度見たいと思わないか?
 思ったなら、もう一度見るために生きる気力を持て、いいな?」

「それも、悪くは無いな、とミサカは、やる気十分で・・・」

「・・・待ってろよ、もうすぐ病院だから」

改めて気合を入れ直す信乃。超高層ビルから超高層ビルへ超高層長距離の『エア』を繰り返す。
月夜も合わさり、その跳躍は幻想的だった。

この日、数人の歩行者に月をバックに飛ぶ人間がいるという都市伝説が生まれた。


****************************************



本日2度目になる病院への到来。

御坂妹は緊急治療にすぐさま運ばれた。

治療にはカエル顔の医者と助手や看護師、そして美雪が入っていた。

本来、美雪の担当は薬剤師ないしは内科だ。
手術という外科の分野は知識はあれど畑違いだ。

それをカエル顔の医者からの要望で同じく手術室へと入って行った。


美雪は絶対能力者進化計画(レベル6シフトけいかく)の概要を知っている。

信乃が自宅から計画の概要を知った時、不可効力ながら美雪に概要を説明した。
ショックを受けていたが、こういう方面で頑固な美雪が、何も話さずに納得するはずがない。

最低限の情報だけ教え、その中に『妹達(シスターズ)』についても話した。

連れてきた直後に、美雪から余計な質問がなかったので治療を早急に開始した。


手術を開始してから5時間後。ようやく手術は終了した。

扉を出てきた御坂妹は巻かれた包帯が痛々しく、点滴や生命維持装置など
多数の装置に囲われている。

カラカラとストレッチャーの車輪が音を立てながら手術室から運ばれていった。

その数秒後、手術着を身にまとったカエル顔の医者と美雪が出てきた。

美雪の足取りはフラフラと不安定だった。支えるために近付kと、
丁度足の力が抜けて、信乃へと倒れ込んだ。

「お疲れ。大丈夫か?」

「・・・・きつい」

「ベットには俺が連れていく、安心して寝てていいぞ」

「・・・・・zzzz」

「ははは、寝るの早っ。それだけ疲れてたんだな」

日付は変わって8/20。深夜なので眠いのも仕方ない。
更に美雪は昨日(8/19)の午前中までは入院していたし、学習装置の治療も行った。

夕方から夜にかけては信乃と一緒に潜入ミッションをこなし、
親友がいつ目覚めてもいいように、ベットの傍で看病をしていた。

そのあとの5時間もの大手術。疲れない筈がない。

「先生、彼女はどうでしたか?」

「生きて僕の元に連れて来れば必ず治す」

「フフ、さすがです、先生。本当にありがとうございます」

「美雪くんも労ってやるんだよ? 彼女のおかげという部分が大きい」

「・・・クローンを生み出す際に使われた薬品。
 確か美雪が作ったものですよね。

 それについて手術中に、コイツは何か悪い方向に感じていましたか?」

「美雪くん、スイッチを入れ替えるタイプの人間だからね。
 いくら疲れていてもスイッチが入っている時は表に出さないよ?

 それに美雪くんのメンタルケアは、信乃くんの仕事だよ?」

「・・ですね。俺の領分でした。愚問してすみません」

「今日、日付が変わっているから昨日か。
 昨日まで入院中に使った部屋に美雪くんと一緒に寝てきてくれ。
 病院(こちら)としても問題ない」

「あの、先生。問題はありますよ。あの部屋はベット1つだけですよ?
 俺も美雪と一緒に寝ろってこと?」

「そういってる。どちらにしろ、離れられないよ?
 美雪くんの手、見てごらん」

「あ~、服をガッチリホールドですね。
 確かに、こうなった美雪は離れない、離さない。・・・どうしよ?」

「だから一緒に寝なさいって言ってるんだよ。
 それじゃ、僕はまだ仕事があるから」

「いや、あの先生「おやすみなさい」 え~本当に置いて行ったよ」

最後の挨拶をいいながら、カエル顔の医者は廊下の奥へと消えていた。

「しゃーない、か」

声質は呆れや諦めが感じられるが、その口元は少しニヤけていた。


*************************


2/21 午前9時

「・・・ぅ・・・・ふぁ~~」

「お、ようやく起きたか」

「ん。おはよう。

 ・・・・あれ? 信乃?」

「そうだよ、信乃だよ」

呑気に挨拶している2人だが、場所は同じベットの中であった。

「ふ・・・・・ふぇぇぇえええええええ!?/////」

「うるさい、目の前で叫ぶなよ。よいしょ」

美雪にしていた腕枕をはずし、ベットから降りる。

「ほれ、もう10時過ぎているぞ。いつまで寝ているつもりだ」

「わ、分かった。すぐに起きるから、お願い、落ち着かせて」

≪ヒッヒッフー≫と深呼吸を繰り返す。

それは違う呼吸法だが、信乃はツッコまない。

「ん、大丈夫」

「そうか。で、俺は上条さんと『あの子』の見舞いに行くけどお前はどうする?」

「私も行く! あと、シノブちゃんの所にも行く!」

急いでベットを降り、扉に手を掛けた信乃を追いかけた。


美雪と上条は面識がない。だから先に御坂妹のところに行く事になった。
その病室へ向かって2人はエレベータに乗っていた。

「で、治療した本人として、『あの子』は大丈夫そうか?」

「・・・・命は大丈夫。優先して対応したから・・・」

「その言い方だと、代償を払ったみたいだな」

「投薬した薬の副作用で、多分今頃は・・・・意識が朦朧として気分が悪いと思う。

 それと、副作用じゃないけど怪我の影響でネットワークが・・・・」

「何のネットワーク?」

「琴ちゃんのクローン同士で情報を共有できるって先生が言っていた。
 信乃なら実験の資料を知っているからわかるでしょ?」

「ああ、ミサカネットワークのことか。同じ波長の電撃使いがいれば通信が出来るって
 理論上は昔からあったけど。確かに『あの子』たちなら同じ波長になるな。

 そのネットワークがどうした?」

「脳の怪我や、大量出血とか、それを優先していたから・・・脳を怪我した影響で
 電撃使いとしての波長が変わったみたい。
 もう、ネットワークに繋ぐ事が出来なくなっちゃたの」

「ネットワークに繋がないと命の危険があるのか?」

「生きる上では、問題ない。けど、今まで他の子たちと一緒だったのに
 急に繋げなくなったら、混乱すると思う」

「なるほど。急に環境が変わったストレスで精神的に大丈夫か不安だってか」

「ん」

エレベータが目的の階で止まり、今度は静かな廊下を進む。

「大丈夫、だとは言い切れないけど、俺は『あの子』が求めるなら助けるつもりだ」

「フフ。信乃は優しいね」

「別にそんなんじゃないよ。死なれたら後味が悪いだけだ」

「ツンツンデレツンデレツンツン♪」

「病院では静かにしろ。そして桜新○の町歌を歌うな」

表情は変わっていなかったが、頬が少し赤くなっている。
親しい人間から見たらバレバレであった。



関係者以外立入禁止の一室に御坂妹は横になっていた。

術後と同じく点滴や生命維持装置に囲まれたが、術後とは違い
目を僅かに開けて、荒い息遣いをしている。

見ていて痛々しい気持ちに美雪はなった。

荒い息は薬の副作用による朦朧とした状態が続いているからだ。
そして薬を作ったのは美雪。副作用を抑える方法は現状の所無い。

更に言えば元は食用クローン食品のために≪RIZ13≫を開発していた。
小さいとはいえ、彼女もまた妹達を生み出す要因となっていることに心苦しかった。

美雪はベットから少し離れたところで立ち止まり、それ以上近づく事に
躊躇していた。

「美雪、緊張しすぎるな。行くぞ。

 こんにちは」

美雪の頭をワシャワシャと撫で、背中を支えながら信乃が一緒に向かった。

「・・・あなたは・・・私を病院に・・つれてきた人で・・したね
 ・・とミサカは・・・・確認を取ります」

「はい。私の名前は西折信乃です。
 怪我の治療については看護師やお医者様から説明を受けたと聞いています。

 どうですか、体の方は?」

「体調・・・に問題はあ・・・りません、とミサカ・・は見てわ・・・
 かるだろと・・・・・皮肉を・・飲込み強がりを言います」

「そうですか。

 今日は様子を確認しに来ただけです。安定はしていますが、気分が優れないようなので
 戻ろうと思います。なにかあれば「いえ・・・」」

「話をしている方が・・・気が紛れ・・ると思うので少し話を・・・したいです、
 とミ・・サカは会話を続・・ける事を進言します」

半分開けている目だ気だるそうだが、しっかりと2人を見ていた。

「・・・分かりました。治療をした先生も話す程度なら問題ないと許可を貰っています。
 一応大丈夫だとは思いますが、苦しくなったらいつでも言ってくださいね」

「はい、とミサ・・カは言います」

「では、現状について説明します」

「そ・・・・の前に、あなた方に・・一言伝えたい事があります、とミサカは
 先にこちらの要件をすませ・・ます。

 西折信乃さん、私を病院・・まで連れて頂いて、ありがとうござい・・ます。
 美雪さん、でよろしいでしょう・・・・か。手術室にいたということは、
 ・・あなたも私の治療に参加したとお見受け・・します。
 救って・・頂きまして、ありがとうございます。

 と、ミサカは心の底から感・・謝の意を表します」

「いえ、どういたしまして」

「ごめんなさい。今話しづらいのは私の薬の副作用なの。ごめんなさい」

「命あっての・・物種です、とミサカは気にしないでい・・・いと首を横に振ります」

「・・・」

「美雪、お前が落ち着け。お前が泣いていたら話ができない」

「・・・・ん」

「すみませんね。こいつ、泣き虫なんですよ」

涙がこぼれそうだったので、信乃がハンカチでそれを拭う。

「大丈夫です。それよりも現状に・・・ついて教えてもらえるようです・・ので
 そちらを、とミサカは話を進める・・ように促します」

「わかりました」


その後、『実験』が中止になった事や妹達の個体調整などの今後の扱いについて話した。
ついでに信乃と美雪、御坂との関係も話した。

時折、御坂妹からの質問や返事を間に挟みながら進んでいった。
話が終わりに近づいてきた頃には、御坂妹も意識がはっきりとし始めて、先程より話せるようになっていた。

そして丁度、一通りの説明が終わった時、病室のドアが小さな音でノックされた。

御坂妹に目線で出て良いか確認し、美雪が入口に向かった。
来客は事件の当事者の一人、御坂美琴だった。

「あ・・雪姉ちゃん、来ていたんだ」

「信乃もいるよ」

「そ、そう。・・・・」

「どうしたの、琴ちゃん? お見舞いで来たんでしょ? 中に入ってよ」

御坂は元気ないようで、軽く頷き返した。

部屋に入り、御坂妹の状態、ベットの周りの機器を見て息を呑んだ。

「ごめん・・・・本当に、ごめん・・・守れなかった・・・
 なんなに助けるって言い張ったのに・・・ごめん・・」

「謝る必要はありません、お姉さま。
 あの時の私は足手纏いで、一方通行が私を直接狙いました。
 ツリーダイアグラムの演算で185手で負けるとなっていましたが、
 逆に言えば万全のお姉さまは184手まで負ける事は無いのです。
 それを覆したのは確実に私を守りながら戦っていたからに他ありません。
 ですから、お姉さまには罪はありません。

 それにミサカは計画の為に造られた模造品です。
 作り物の体に借り物の心。単価にして18万円の実験動物ですから」

他人事のように自分の現状を、当たり前のように自分の事情を。
いつもと変わらず『とミサカは言います』と話し続ける。

「っ! でも・・でもあんたは生きているのよ!?」

「それでも、です。とミサカにはインプットされている情報を・・・・

 いえ、もう自分をミサカとは言えません。
 ミサカネットワークにアクセスできないのですから」

「え、それってどういう・・」

「御坂さん、彼女は一方通行と戦ったときに頭を強打しました。
 その後遺症と言ったところですね。
 電撃使いとしての能力値は変わっていないと思いますが、
 ミサカネットワークの共通波長が出せなくなっているんですよ」

「そ・・そんな」

「生活には支障は無いそうです。御坂さん、落ち込みすぎないでください」

御坂は更に顔色を悪くなったので、信乃がフォローをしたが、あまり効果がないようだ。


「「「「・・・・」」」」

重い空気となり、沈黙となった。

「それなら・・・・ミサカじゃないっていうなら・・・・」

その沈黙を破ったのは、御坂美琴だった。

「ミサカじゃないっていうなら、御坂になりなさいよ!」

「? それはどういう事でしょうか、お姉さま?」

「簡単よ! アンタが戸籍上でも御坂って名乗れるようにするのよ!」

「養子、ですか?
 では美鈴さん、御坂さんの両親に相談するってことですか?」

「あ・・・・そうだった」

御坂は失念していた。御坂妹はクローン。
自分の娘のクローンが作られていると知れば、娘のために美鈴は動く。

あの母はかなりアグレッシブな人だ。
美琴や美雪を学園都市から連れて帰ろうとするかもしれない。

『実験』に学園都市が関わっている事を知っているため、学園都市に不信感を
美琴は持っていた。

だが、この不信感を除けば今の環境には不満は無かった。

学校、友人と人間関係に充実している。
学園都市から連れて帰られる事は、人間関係を全て捨てることになる。

また、美鈴は学園都市を告発する可能性もある。
それは学園都市全体の生活を壊すことにも繋がってしまう。

だから美琴は誰にも頼らず、知られずに『実験』を片付けようとしていた。

「・・・・」

「・・・おーい琴ちゃん、考えが浅すぎるぞ」

忠告を受けて固まっている信乃に、3人は苦笑いをしていた。

「お姉さま、確かに難しいと思います。
 今はその言葉だけで十分うれしいです」

「あなたも色々と大変だと思います。

 私に相談できる事だったら何でもおっしゃってください。お手伝いします」

「もちろん私も♪」

「・・ありがとうございます。信乃さん、美雪さん、お姉さま

 そうですね・・2つほどお願いしたい事があります」

「なんなりと」

「1つ目は・・・・私に名前を頂けないでしょうか」

「「「え?」」」

「私はミサカネットワークから外れてしまいました。
 それゆえに≪ミサカ≫とも、≪10032号≫とも言えません。

 ミサカネットワークから外れた事と比べると、自分の呼び名が無い方が
 なぜか不安を感じます。ですから、お願いできないでしょうか」

「名前を考えるのはいいけれど、どうしたのよ急に?」

首を傾げる美雪と美琴だったが、一人だけが納得していた。

「なるほどね。名前が無いって言うのは心理的にも不安定な状態になります。
 大抵の場合、物心ついた時には自分の名前はあります。
 ≪名は体を表す≫ということわざがあるくらいに、名前と本人とは
 当たり前でいて、強く繋がっている。
 
 名前が無いことは、自分という存在が曖昧に感じてしまうからなんですよ」

「よくわからないわね」「私も」

頷いたのは御坂妹だけだった。

「御坂さん馬鹿です」

「な、なんなのよいきなり! 理解力が低くて悪かったわね!」

次に美雪の方を向く。

「馬鹿です」

「・・・えっと、私も? 信乃、ひどくない?」

「さて問題です。名前を呼ばれて馬鹿と言われた御坂さんと、
 名前を呼ばれないで馬鹿と言われて美雪。

 どちらのほうが馬鹿にされた気がしますか?」

「「え? あ」」

「まぁ人それぞれとは思いますけど、名前を呼ばれた方が馬鹿にされた気がすると思います。
 名前を呼ぶ事は、名前がある事は、存在をハッキリさせる事になるんです」

「そっか。名前が無い『この子』は、常に呼ばれない状態になるってことか!」

「説明が下手で申し訳ありません。どうにか伝わったようで良かったです」

「ん♪ 私も大丈夫」

「それでは、名前を考えましょうか。
 あなたから何か要望は?」

「要望、はありますがその前にお姉さまにお聞きしたい事があります。

 お姉さまは私の事を妹として見て頂けるでしょうか?」

「そんなの当たり前じゃない。・・・まあ、この前はひどい事言っちゃったけど、
 今は大丈夫。はっきりと私の妹だって言える!」

「そうですか・・妹、嬉しいです」

「まあ、あなたにとっては、私の妹なんて不本意かもしれないけど・・」

「たしかにお姉さまは年齢にそぐわない幼稚な趣味で
 ガサツで 短期で 喧嘩っ早くて」

「ウグッ」

「そのくせ好きなものを好きと言えない天邪鬼ですが
 ミサカのために命も捨てようとした困った姉です」

御坂妹の厳しい指摘が美琴の心に刺さるが、最後の言葉を聞いて安心した。

「では要望としてですが、名前にお姉さまと繋がりが欲しいです」

「繋がり、ですか? 御坂家の女性3人は『美』の字が始めにある法則ですが、
 そういったことでいいですか?」

「そのような法則があるのですか。では、それでお願いします」

「あ♪ それだった良い名前があるよ。琴ちゃんとも繋がりがあるし♪」

「どんな名前なの、雪姉ちゃん?」

「ん♪

  美玲(みれい)

 『美』はさっき言った通り。『玲』は楽器の『玲琴』から。
 琴ちゃんの『琴』と合わせられるの」

「!・・その名前は素晴らしいです。今から美玲と読んでください、
 とミレイは大満足の笑みを浮かべます」

「その口調、変わらないのね。でも私も嬉しいな」

御坂は優しく笑った。

「なかなか良い名前です。今後ともよろしくお願いします、美玲さん。
 それでもう一つのお願いとは?」

「はい、2つ目。それは信乃さんのように空を跳びたい、とミレイはお願いします」

「・・・・理由を聞いても?」

「理由は単純な好奇心です。
 昨日の晩、信乃さんのビルからビルへの移動。空には綺麗なお月様。
 私もお月様と一緒に空を跳びたいとミレイは興奮を抑えています」

昨晩、信乃の(トリック)に一番魅せられたのは美玲だ。
お姫様抱っこの状態で走っていた、信乃の技は安定して不安など無かった。
むしろ地上の街灯、空のお月様を曖昧な意識ながら見ていた。

ああ、この都市はこんなに美しかったのか。
初めて地上に出た時と同じレベルの感動を美玲は受けていた。

「A・Tは特殊な訓練が必要です。それに危険を伴う。
 それをわかっているんですか?」

「はい、承知しています。それを考えたうえで、跳びたい!・・・飛びたいのです!!」

美玲のキャラに遭わない強い口調に、信乃たち3人は呆気にとられた。

「・・・とミレイは興奮しすぎてましたが、今は大声を申し訳ないと反省しています」

「ク・・・・ククク。
 面白い。面白いですよ、美玲さん。

 気に入りました。
 簡単にA・Tを許可するわけにはいきませんが、最低限の準備をしましょう。
 
 おまけで2つほど、私から美玲さんにプレゼントがあります」

「プレゼントですか、とミレイは期待を胸に抱いています」

「その無くなった左腕を私が作りましょう。先生でも問題ないですが、私からの気持ちです。
 もう一つは、名前です」

「名前は先程、美雪さんからいただきましたが、とミレイはこいつ健忘症ではないかと
 心配しています」

「誰が健忘症だコラ。

 名前は姓の方です。私の戸籍は御坂さんとは別。その戸籍には私だけしかいません。
 私が家長です。自由はある程度利きます。

 だから、俺の家族にならないかか、玲ちゃん?
 いや、西折 美玲さん?」

「ッ! ・・・・はい!」



つづく

 
 

 
後書き
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