| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Ep2ようこそ海鳴市へ~Family and friend~

†††Sideなのは†††

自己紹介を終えた私たちは、さっきまで犬さんと戦っていた神社の境内、その石段に座って話を始める。

「ねぇ、シャルちゃん。やっぱりシャルちゃんも魔法使いなの?」

シャルちゃんって愛称をさっそく使わせてもらうことにした私は、そう首を傾げながら私たちを助けてくれた外国の女の子、シャルちゃんへそう聞いてみた。

「魔法使い? まぁ、そういう言い方もあるけど、どちらかと言えば魔術師が普通かしら。そういうなのはは魔法使いなのよね? 少しばかり変わった装備をしているけれど・・・」

シャルちゃんは少し考える仕草をして、透き通るような可愛い声で答えてくれた。

(でも変わった装備? レイジングハートのこと、だよね? 変なのかな・・・?)

興味深そうに“レイジングハート”の柄の部分に触れるシャルちゃん。さっきもじーっと見てたし。

「うん、そうだよ。ちなみにユーノ君も魔法使いだよ」

「僕たちは、魔法を使う人を魔導師と呼んでいます」

「魔導師・・・ね。例えば魔法ってどんなことが出来るの?」

シャルちゃんはユーノ君へ質問して、2人?は楽しそうに魔法談義に花を咲かせ始めました。

「その、魔術の魔力運用技術と、僕たちが使う魔法には少なからず共通点があるね。攻撃手段だけど、魔力付加による直接攻撃、放射する射砲撃。前者はベルカ式、後者は僕やなのはのミッドチルダ式だね」

「魔法には、他にどんな種類があるのかしら?」

「えっとね――・・・」

にゃはは、魔導師歴がたった数日な私にとって、ユーノ君とシャルちゃんのお話はかなりのレベルの高さ。だから全然ついていけなくて、ちょっぴり寂しいかもです。

「ねぇ、シャル。もっと魔術の話、聴かせてもらっていいかな?」
 
「あの~、お話中大変申し訳ないのですが、そろそろ帰らないとまずいと言いますか何と言いますか・・・」

「え!? あ、そっか。確かにそろそろ帰らないとダメだよね。ごめんね、なのは」

「にゃはは。ううん、こっちこそゴメンね、ユーノ君」

大変心苦しいことなんだけど私は、シャルちゃんと2人だけの世界に行ってしまっているユーノ君を現実に連れ戻すことに。ユーノ君は話を中断しないといけないことにかなり落ち込んじゃってる。連絡先とかもらえればいいんだけど、外国の子みたいだからすぐにお別れしちゃいそうなんだよね。とにかく、シャルちゃんに向かって改めて感謝の言葉とお別れの言葉を口にする。

「それじゃシャルちゃん、今日は本当にありがとう。またどこかで会えると良いね」

ユーノ君を肩に乗せてその場を去ろうとしたとき、「なのは。あなたのお父上から何か聞いていない?」って、今度はシャルちゃんが私を呼び止めてきた。でも、なんでお父さんのこと? 理由も解からず、最近のお父さんとの話を思い出してみる。考えることおよそ10秒弱、2つの単語を思い返す。

――そうだ、みんな。うちにドイツからの留学生をホームステイさせたいんだ――

「・・・留・・・学生、ホームステイ・・・。あ! もしかしてシャルちゃんって・・・!」

そう、それは1週間くらい前。お父さんがドイツからの留学生をホームステイさせたいって言っていたことを思い出した。ホームステイに関してはお母さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんも快く承諾していた。もちろん私もそう。同い年で、同じ学校、私立聖祥大学付属小学校に通うって聞いたから。
驚いた私はシャルちゃんを見つめる。するとシャルちゃんは右手を差し出してきた。握手を求められているんだってすぐに判って、私はその握手に応える。

「クス。改めてよろしくね、なのは、ユーノ」

「うん! うん! よろしくね、シャルちゃん!」

「よろしく、シャル!」

ユーノ君も私と同じようにすごく嬉しそうに言った。新しいお友達、シャルちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんともお友達になってほしいな。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

どうやら本当になのはの家へ留学生としてホームステイすることになるらしいのよね。衣食住の確保。肉体を持った以上はどうしても必要となる、人間としての生活。それを保証された。全く、この世界の“界律”は用意がいいというか何というか、少し呆れてしまうわ。

「それじゃ案内するから付いて来てね、シャルちゃん」

「ええ。よろしくお願いするわ」

荷物を持ち、なのはを追って神社を後にする。夕陽の眩しさに目を細めながらも街を見渡す。綺麗な街並みだ。もしここが滅ぶような事態に陥るというのなら守りたい。この世界に来て僅か30分弱。それなのに、私はこの街が好きになり始めていた。珍しい。今回の契約に、私はやっぱりどこか期待しているようだ。

(・・・殺戮破壊者の私が言うようなことではないわよね・・・)

何を期待するというの。日常なんて今更求めていいような存在でもないのに。あぁ、本当に愚かしい。私に、日常なんて必要ない。享受してはいけない。それが・・・私の背負う十字架だ。

「う~。やっぱり怒ってるかなぁ・・・?」

住宅街を歩く中、なのはが溜息を吐いた。確かに陽は落ちているけど、なのはみたいに魔法が使えれば、たとえ悪漢に襲われようとも難を逃れられそうな気もするのだけど。なのはの肩に乗るユーノが「ごめん、なのは。僕がシャルと話し込んじゃったから・・・」申し訳なさそうに謝った。

「それってつまり、私にも責任があると言うことよね? 」

「え? や、違う! シャルには責任はないよ! 僕が時間を気にしていれば良かったんだから!」

慌てふためくユーノ。なにやら小動物を苛めているようで、少し自己嫌悪を抱く。この世界に召喚されてからというもの、人間らしい感情が再び私の中に戻ってきている。最悪な兆候だわ。せっかく感情を殺せていたのに、また戻ったりでもしたら、これからの契約に耐えられないかもしれないのに・・・。

「えっと、私も早く時間のことを伝えれば良かったわけで・・・」

「ううん。なのはは、僕のことを気遣ってくれたんだよね? だったらやっぱり僕の所為だ」

ここまで帰りが遅くなったことに対して責任を負おうとするなのはとユーノ。どちらにしても「ユーノは小動物なのだから怒られないわよね」なのはの家族にとって怒れる対象はなのはだけだわ。

「あぅ・・・」

「ご、ごめん、なのは! 本当~~にごめん!」

ガクリと肩を落とすなのはと、器用に前脚を合わせて謝るユーノ。仕方ないわね。そんな2人に「いいわ。私も怒られてあげる」そう伝えた。

「でもシャルちゃん・・・」

「これから一緒に過ごそうというのだから、こういうことは一蓮托生よ。それに、私も一緒に居たということにすれば、ご家族もそう厳しくは怒らないでしょ?」

客人の前でそうそう怒鳴るような真似はしないはずよね。あとで改めて怒られるかもしれないけれど、私と一緒に遊んでいたなどの理由をつければ、おそらくは問題ないはずよ。

「うー。けど、お父さんってこういうことには厳しいから・・・」

「だから、一緒に謝って、一緒に怒られましょ。それが私が高町家の一員となる最初の行為よ」

「シャルちゃん・・・。うんっ」

「ごめん、なのは、シャル」

そういうわけで、いよいよ到着した高町邸。玄関前にまで入ったその時、「父さん、少し辺りを見てくるよ」男の声と、「え、じゃあ私も一緒に行こうかな」女の声が扉の奥から聞こえてきた。どちらも若く、おそらく10代後半から20代前半ほどの人間の声。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんだ」

なのはがぼそりと、声の主である2人との関係を教えてくれた。道すがら家族構成は聞いていたから私は頷いて応えた。そして私は「あくまで、申し訳なさそうに言うのよ」そう改めて確認する。この国には帰宅した際に家族に伝える、ただいま、という挨拶があるらしい。出掛ける際には、いってきます、とのこと。元気よく挨拶するより、申し訳なさそうな挨拶の方が少しはご家族の心証も優しくなるはず。

「う、うん。じゃあ・・・」

なのはが扉の取っ手に手を掛け「た、ただいま~」そろ~りと開けた。開かれた扉の先、そこには男性2人、女性2人の計4人が今まさに家を出ようとしていた。

「「「「なのは!!」」」」

その4人がなのはの名を一斉に口にした。なのはは真っ先に「ごめんなさい!」頭を下げて謝った。なのはの兄という青年が「お前な・・・!」叱ろうとしたのを見、「申し訳ございません!」私も家の中へと入り、頭を下げて謝罪した。

「え?」

「あ・・・、お友達も一緒だったのかい・・・?」

「わぁ♪ 綺麗~♪」

「あらあら」

青年は怒りの出鼻を挫かれたことで立ちすくみ、なのはのお父上の表情も怒りのものから困惑へ。姉という少女は私の外見を褒めてくれた。そして、姉だと言われても可笑しくない程に若い女性はお母上なのでしょうね。頬に右手を添えて困惑顔。

「あの・・・ね、お父さん。それにお母さん達も。紹介するね、今日からホームステイする留学生のシャルちゃん・・・です」

「こんな夜分での訪問失礼いたします。初めまして、高町家の皆様方。私はシャルロッテ・フライハイトと申します。突然での訪問で大変申し訳ないのですが、今日からお世話になります。どうぞ気軽にシャルとお呼び下さい」

スカートを摘みあげての一礼をしての自己紹介。なのはのご家族は少しの間、どういう理由か呆けてしまっていた。なにか変な真似をしてしまったのかしら。これから世話になるというのに何か失礼をしてしまったのではないかと思い、「あの・・・」尋ねようとした。

「あ、いや、すみません! 君がシャルロッテちゃんなんだね! ごめん! ホームステイの紹介者から連絡が入っていなくて、まさか今日からだったなんて! いや、迎えに行けなくてごめんね! あ、俺は高町士郎! 歓迎するよ、えっと・・・シャルちゃん!」

界律よ。私をこの世界に潜り込ませるように仕組んでおきながら、その詰めの甘さはあんまりだわ。とにかく私が突然来たことより、迎えに行けなかったことに慌てる士郎さんに「お世話になります」と改めてお辞儀をした。

「初めましてシャルちゃん。なのはの母の桃子です♪」

「初めましてシャルちゃん。俺はなのはの兄で恭也だ。困ったことがあったら何でも言ってくれ」

「初めましてシャルちゃん。私はなのはのお姉ちゃんで美由希っていいます。よろしくね♪」

「ようこそ高町家へ!」

とても温かな笑顔で迎え入れてくれた。本当に久しぶりに人と話が出来たかもしれない。

「はい、よろしくお願いします。士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん」

でも、その分恐怖が私を襲って来る。この契約が終わればまた、私はこのような温かな家族を殺すような真似を何百回と繰り返す。その都度、この光景を思い出しては自己嫌悪に陥るに違いないわね。

「でも、迎えに行けなくて済まなかったね、シャルちゃん。連絡が無いから今日来るとは思わなかったんだ」

「いいえ、私の方こそ連絡を出来なくてすみませんでした。ですが偶然なのはと会うことが出来たので大丈夫でした。ね、なのは?」

「うん! それでお話していたらこんなに遅くなっちゃたの。ごめんなさい」

「私からも謝ります。ごめんなさい」

「まぁ、大丈夫だったんだから、良いよな・・・?」

恭也さんが頭を掻きながらお咎めを無しにしてくれた。

「さぁ、シャルちゃん、どうぞ上がって。今すぐ夕御飯を用意するから♪」

「そうだ、シャルちゃんの分の御飯がない。なら張り切って美味しいものを作ろう。あはは、腕が鳴る!」

桃子さんが私のスーツケースを持つと、「こっちよ♪」と私を家の中へ招き入れてくれて、士郎さんは私の分の食事を用意しようと張り切ってくれた。まともに人の食べられる食事を摂るのもまた久しぶりだ。これまでの契約を思い返せば、私は人としての生活なんて送って来なかったわ・・・。

「あ、お母さん。私がシャルちゃんをお部屋に案内するから、お父さんを手伝ってあげて」

「ちょっとなのは。シャルちゃんの荷物忘れてるよ~」

桃子さんからなのはへと代わる案内役。私がなのはに手を引かれて家の奥へと案内されそうになった時、美由希さんが桃子さんから私のスーツケースを受け取り、私たちの元へ駆けて来た。

「それじゃあ、シャルちゃんのご飯を作ろうか」

「そうですね♪」

「えっと、俺は・・・道場で瞑想でもするか」

そして私たちは士郎さんや桃子さんと分かれ、ひとり残された恭也さんは、道場とやらに向かうのか玄関から出て行った。
なのはと美由希さんの案内で私が使うことになる客室に着き、そこで明日の予定を決めるために話し合うこととなった。なのはが言うには私をいろいろな場所を案内したいとのことで、彼女の親友であるアリサ・バニングスと月村すずかも紹介したい、とのことだ。

「なのは、シャルちゃん、美由希、夕食にしようか!」

部屋の外から高町家の主、士郎さんが私たち呼んでいる。

「行こうか、なのは、シャルちゃん。お父さんとお母さんの料理、すごく美味しいんだよ♪」

「そうなんですか? それはすごく楽しみです」

「期待してもいいよシャルちゃん! お父さんとお母さんって喫茶店を経営してて、料理のプロなんだから♪」

美由希さんがそう言って立ち上がる。それにしても喫茶店のオーナーだったのね、士郎さんと桃子さん。確かになのはの言うとおり期待してもいいかもしれないわね。
なのはと美由希さんの案内でダイニングへと移動した私の目に、テーブルに並べられたとても美味しそうな料理の数々が入った。
私のための椅子も用意してもらい、そこに着く。そして「いただきます!」と、この国の作法の挨拶を告げ、食事を始める。家族で一緒にご飯を食べる。私にとってそれは初めてと言っても過言じゃないほどの経験だった。

「おい・・しい・・・、美味しい・・・美味しいです・・・!}

生前、私は独りだった。両親は忙しく、私と違って騎士ではなく、どこかの爵位の家に嫁ぐための存在とされた姉もまた、花嫁修業と言う形で屋敷を空けることが多かった。そして騎士団に入ることになって屋敷を出るその日もまた、私を見送る家族はいなかった。送り出してくれるのは使用人だけ。悲しいとは思わなかった、それが当たり前だと。だからなのはの家族と、騎士団の同僚とはまた違う誰かと一緒にご飯を食べたのがすごく嬉しかった。

「「「「「シャルちゃん!!?」」」」」

みんなが私を見て、何故か驚いている。

「はい、何でしょうか?」

「何でしょうか?って、シャルちゃん泣いてるよ・・・!」

「料理に何か問題でもあったのかな?」

なのはが泣きそうな顔で私を見て、士郎さんが自分の作った料理を前に何か考えている。桃子さんや恭也さん、美由希さんも心配そうな顔で私を見ている。私はあまりの嬉しさに涙を流してしまっているようだった。暖かな食事と言うのがあまりにも嬉しくて、いつの間にか流していた涙にさえ気付かなかった。目を擦って涙を止めようとするけれど、全く止まらないどころかさらに溢れてくる。

「ち、違うんです。料理は・・・すごく・・・美味しくて。そうじゃなくて・・・こうして誰かと一緒に食べるのが初めてで、それが・・・嬉しくて・・・だから・・・」

堰を切ったかのように私は泣き出してしまった。まるで外見通りの子供のように。何よこれ? “界律の守護神テスタメント”である私には涙はもう必要ないのに、嬉しいなんて思ってはダメなのに。今、胸にあるこの感情は・・・これだけは失いたくない。

(そうか、これが、心の壊れたかつての“彼”を元に戻した想い、“幸せ”・・・なのね)

未だ泣き続ける私の元に、なのはを始めとした高町家の人が集まって来た。

「寂しかったのねシャルちゃん。この家にいる間は、ううん、そのあとでも私のことを本当のお母さんだと思ってくれていいのよ」

そう言って桃子さんは私を抱きしめて、両腕の中に私を包み込む。温かい。そしてほのかに香る優しい香り。これが・・・母の温もり・・・? 生前も死後も知ることの出来なかったものだ。

「私のこともお姉ちゃんだと思ってね」

美由希さんは私の左手を取り、私ごときのために泣いてくれている。

「俺のことは本当のお父さんだと思ってくれ」

士郎さんも桃子さんみたいに、私を大きな体で包んでくれる。

「そうだな。なら、俺もお兄ちゃんだと思ってくれ」

恭也さんは少し照れた顔をしてそう言ってくれた。

「シャルちゃん、私は・・・」

なのはが私の右手を握りながら続きを話す前に、「フフ、妹よね」少し意地悪をする。

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

高町家になのはの声が響き渡る。

「キュキュイ」

ユーノが肩まで上ってきて頬をその小さな手で叩いてくる。慰めてくれるのね、あなたも。

「ありがとう、ユーノ。なのはも、士郎さんも、桃子さんも、恭也さんも、美由希さんも本当にありがとう」

私はもう大丈夫だ。いつか別れる日が来るけど、それまではこの幸せに甘えていたい。そう思った。
その日の夜は、1つの布団に私となのはと桃子さんが入り、右側に敷かれた布団には美由紀さん、左側に敷かれた布団には士郎さんがいる。ちなみに恭也さんは部屋に入りきらず、自分の部屋で寝ることになった。ごめんなさい。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

昨日の夜、私はシャルちゃんの抱える心の闇を知った。いつも独り。それは以前の私にもあったものでだった。
お父さんが仕事で大怪我をしたとき、お母さんとお兄ちゃんは経営し始めたばかりであまり繁盛していなかった翠屋の仕事が忙しく、お姉ちゃんも病院へお父さんのお見舞いに行ってよく家を空けてた。

(だからシャルちゃんの想いには共感できた・・・)

夕ご飯を食べ終えた後、シャルちゃんは泣き疲れたのか座ったまま眠ってしまった。お父さんがシャルちゃんを抱えて、お父さん達の部屋へと連れて行く。今日は一緒に眠るつもりのようだったから、私は何の迷いもなくハッキリと・・・

「私も今日はシャルちゃんと一緒に寝る!」

そう言った。だって、あんな話を聞いたらそうしたくなってしまったから。シャルちゃんを1人にしておきたくない。その時はそんな思いでいっぱいだった。

「そうね。なら今日はみんなで一緒に寝ましょうか♪」

お母さんは微笑みながらみんなを見渡す。

「うん。私もシャルちゃんと一緒に寝るよ」

お姉ちゃんも笑顔で賛成してくれた。そしてお兄ちゃんは「俺はどうしようかな?」って少し迷っているみたい。けど今日くらいは一緒でもいいと思うんだけど・・・。

「恭也、布団がもう入らないから俺と一緒の布団で寝ることになるが・・・」

戻ってきたお父さんの開口一番のそれを聞いて、「じゃあ自分の部屋で寝るよ」拒絶の言葉を一切の迷いなく即答したのでした。あ、お父さんの表情が一気に残念そうなものへと変わってく。

「恭也、もう少し父と子のスキンシップというものをな・・・」

「いや、さすがにこの年で親と同じ布団というのは少し・・・というか嫌だ」

お父さんとお兄ちゃんの会話を聞きながら、私はお風呂に入るべく自分の部屋へ着替えを取りに向う。それと今日の“ジュエルシード”探索は、ユーノ君と相談してしないことにした。今夜くらいはシャルちゃんと一緒にゆっくりと過ごしたいから。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

ゆっくりと意識が覚醒する。朝日が部屋の中へと差し込んでいる。いつの間にか私は眠ってしまっていたようだわ。睡眠という人間らしい行動を取るのも何百年ぶりくらいかしらね。辺りを見渡すと、昨日案内してもらった私の部屋でないことに気付く。同じ布団の中には、なのはが可愛らしい寝顔で眠り続けていた。

「ここは・・・?」

何故知らない部屋で寝ているのか判らないため、昨晩のことを必至に思い出す。そして夕食時の私を思い出し、恥ずかしさのあまりに一気に頭に血が上る。今の私の顔は恥ずかしさの所為でとんでもないくらい赤くなっているに違いない。

「やってしまった。まさかあんなことになるなんて・・・」

いくらなんでもあんな子供のように泣くなんてどうかしている。ハァ、軽く・・・いいえ、かなりヘコんでしまうわ。いい大人があんな泣きじゃくるなんて。そういえば“彼”が以前教えてくれた言葉がある。

(精神は肉体に引っ張られる・・・か)

最初、その言葉の意味がサッパリ解からなくって、何よそれ?と鼻で笑ったことがある。今ではもう体験した後だから嫌というほど理解できた。“彼”もこんな思いをしたのかしら。全く、私はこんなにも心が弱かったのか、鍛え直す必要がありそうだわ・・・。

「「おはようシャルちゃん」」

声が聞こえた方に顔を向けると、そこには士郎さんと桃子さんがいた。

「おはようございます、士郎さん、桃子さん」

そう返すとお2人の表情が少し残念そうに変わる。ん? 私は何かおかしなことを言ったかしら。今の言葉におかしいところがないか考えようとしたところで・・・

「シャルちゃん。お母さんって呼んでもいいのよ?」

「そうだぞ。俺のこともお父さんと呼んでくれていいぞ?」

士郎さんと桃子さんがとんでもないことを言い出す。どうしてそういう話になってしまったのかが解からない。そういえば昨夜、お2人が自分たちのことをそう思ってくれていいって言っていたような・・・。

「え? あ、いえ・・・そんな・・・えっと・・・」

「「さぁ♪」」

(そんな笑顔で言われても困るわ!!)

返答に詰まっていると、お2人の後ろに救世主が現れた。

「シャルちゃん、起きた~?」

なのはの姉である美由希さんだ。

「あ、美由希さん。おはようございます」

助かった、とそのときは思った。けれど美由希さんの顔が、士郎さんと桃子さんのと同じ残念そうな表情へと変わったことに気付いてしまった。あぁ、そうなのね、美由希さんも私の敵だったのね。

「シャルちゃん、お姉ちゃんって呼んでいいんだよ?」

もう折れるしかないのかしら。でも、それも少し悪くない気がし始める。

「あの・・・」

覚悟を決めて言葉にしようとしたその時、部屋に軽快な音楽が流れ始める。私の隣でモソモソと何かが動く気配。

「うぅ~~ん、シャルちゃん?・・・おはよう、シャルちゃん」

グッドタイミングなのかバッドタイミングなのかは微妙だけど、なのはが目を擦りながら起き始める。けど、今になってちょっと残念だったかしら。なんて思っている私もいることに驚きだわ。

「おはようなのは、今日はいい天気よ。それで士郎さん、着替えたいので、その・・・」

私はそう士郎さんに向けて、着替えをするから出ていってくれますか、と言外に告げる。今は子供でも実際は大人なのだから許してほしい。

「ああ、それはごめんよ。もう朝食は出来ているから用意が終わったらおいで」

「なのは、シャルちゃんを洗面所に案内してあげて」

「待ってるからね~」

士郎さんは苦笑しながら部屋を後にする。桃子さんと美由希さんもそれに続く。

「それじゃあシャルちゃん、顔を洗いに行こうか」

「ええ、そうね」

なのははそう言って着替え始める。さあ、この世界で初めての朝を迎えましょうか。“界律”に用意されたスーツケースの中から、ブラウスにプリーツスカートを取り出して着替える。そして案内された洗面所で顔を洗い、「お待たせ~」なのはと、「お待たせしました」私は急いでダイニングへと向かい、椅子に腰掛ける。

「おはよう、なのは、シャルちゃん」

恭也さん達が私たちにそう挨拶してきてくれた。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはようございます、恭也さん」

「よし、みんな揃ったことだし食べようか。いただきます!」

高町家を代表して士郎さんが元気よく手を合わせる。

「「「「「いただきます!」」」」」

それに倣って私たちも手を合わせて、美味しい朝食を食べ始めた。今回は昨夜のように泣くことはなく、何事もなく朝食を終えることが出来たわ。そして朝食後、桃子さんに「シャルちゃん。お風呂に入っていらっしゃい」と、お風呂に入ってないからということで私は入浴を勧められ、これまた何百年ぶりかの入浴を堪能した。

(ふぅ。気持ち良かったわぁ♪)

「それでなのは。今日はどうするんだい?」

入浴し終えて上がった後、美由希さんに髪を乾かしてもらってからダイニングへと戻ると、そんな士郎さんの声が聞こえてきた。士郎さんがなのはに向けて今日の予定を聞いているみたいね。

「うん? えっと今日はシャルちゃんにこの街の案内をして、それからアリサちゃんとすずかちゃんも紹介したいから・・・」

どうやら街の案内となのはの友人を紹介することになっているよう。そういえば昨日、夕食の前にそんなことを決めていた気がする。

「そうか。それとシャルちゃんは明日からなのはと同じ学校に通うことになるから、一応学校のほうも案内してあげるんだぞ?」

そうだった。ここへは留学生という設定で来たんだったわ。この世界の“界律”も面倒なことをしてくれる。もう少し簡単な設定は無かったのかしら?とそう思う反面、私は心の片隅で期待していたりするのよね。学校に通うなんて生前ですらなかったのだから。

「なのは、途中まではお母さんも一緒に行くから。シャルちゃんの制服をお店まで取りに行くことになってるの。いま準備してるから少し待ってて」

桃子さんの声が廊下のほうから聞こえる。少し気になることが生まれた。私の制服の寸法とかいつの間に測られたのかしらね、と。測られた記憶は無いため、召喚時にすでに寸法を測れてしまったのかしらと考える。

(界律よ。これは少々ご都合主義にも程があるのではないかしら?)

私は“界律”のあまりに万能かつ無駄な労力に、敬意と、それ以上の呆れた思いで胸が一杯になってしまう。本当に一体何をさせたいのか。まさかこのまま何事もなく生きていけ、とでもいうのかしらね。

「は~い。それじゃ、少し待ってよっか」

「ええ」

5分ほど待っていると、綺麗に身支度を整えた桃子さんがやって来た。大きな子供の居る母親であるにも関わらず、とても若々しい。

「お待たせ~。行きましょうか、なのは、シャルちゃん」

「うんっ。お父さん、いってきます!」

「あなた、いって来ます」

「いって参ります。・・・士郎・・・父さん」

「ああ、行って・・・へ?」

顔から火が出そうだわ。士郎さんも、私の突然の言葉に呆けてしまっていて、私の隣に居るなのははすごく嬉しそうに笑っている。それと桃子さん。そんな顔で私を見ないでください。あとで、ちゃんとお母さんと呼びますから。もうこれ以上この場に留まることは出来そうになく、振り返らずに高町家を後にした。

「――大体こんなところかな。どうかな? シャルちゃん」

「良い街ね。空気は良いし、静かでのどか。とても暮らしやすそうだわ」

家を出てからの2時間弱、途中で桃子母さんと別れて、士郎父さんが経営する喫茶翠屋など大体の場所をなのはに案内してもらったわ。そして今はなのはが通い、明日から私が通うことになる私立聖祥大付属小学校の校門前に立って、なのはと、なのはの肩に乗ったユーノと一緒に校舎を眺める。

「ここが明日から私の通う学校・・・」

「どうしたの、シャルちゃん? 何か学校が珍しそうに見てるけど・・・?」

「え? いいえ、何でもないわ。場所は大体判ったからもう大丈夫よ。それに通学用のバスもあるんでしょ? なら迷えって方が難しいわ」

「そっか。うん。なら次はお待ちかね♪ 私の友達を紹介するね♪」

「わっ? 危ないわ、なのは!」

そこからなのはの手に引かれて案内されたのは大きな屋敷。私の過ごした屋敷もそれなりだったけれど、目の前の屋敷もまたそれなりの大きさだ。門を潜り屋敷の前まで歩いていく。なのはは扉の横に付いた呼び鈴のボタンを押す。

「いらっしゃいませ、なのはお嬢様、シャルロッテお嬢様」

扉が開き、私たちにお辞儀をする1人の女性が、なのはと私の名を口にする。

「あ、シャルちゃんのことはもう教えてあるんだ」

顔に出ていたのかしら。なのはが私の耳元で囁く。なるほどね。それなら知っていて当然だわ。

「シャルちゃん。こちら、月村家メイド長のノエルさん」

「どうも初めまして、シャルロッテお嬢様」

「初めまして。シャルロッテ・フライハイトです」

自己紹介も済み、私たちは屋敷の中へと案内された。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

「あ、なのはちゃん。いらっしゃい!」

「やっと来たわね、なのは」

「うん、ゴメンね~」

ノエルさんに案内された先の客室に、すずかちゃんとアリサちゃんが待っていてくれた。昨夜のうちにシャルちゃんのことを連絡していたから、2人の視線はすでにシャルちゃんの方にばかり向いてる。

「その子が昨日のメールで言ってた・・・」

「あ、うん! この子がシャルロッテ・フライハイトちゃん。昨日メールした通り、ドイツからの留学生で、今は私の家にホームステイしてるの」

「初めまして、アリサ・バニングスよ」

「初めまして、月村すずかです」

「初めまして、シャルロッテ・フライハイトよ。シャルって気軽に呼んで」

「そう。ならよろしく、シャル」

「よろしくね、シャルちゃん」

良かった。シャルちゃん、アリサちゃんとすずかちゃんと打ち解けてくれたみたい。そうして私たちは遅くまで話に花を咲かせた。シャルちゃんも楽しんでくれたようだし、本当に良かったよ。
夜、自分の部屋のベッドに入っても、明日からの学校生活のことを思うと興奮してなかなか寝付けなかった。

「シャルちゃん、友達がたくさん出来るといいな」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧