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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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1st Episode:
すべての始まりはここから
  Ep1海鳴に舞い降りる力~Testament~

全てが白に染まる広さも何も判らない空間。
ただその空間にあるのはまず、淡く碧く輝いている直径が5m近い光球。そして、光球を囲むようにして存在している11脚の玉座。

玉座1つ1つで色が違い、半透明、白銀、黄金、純白、漆黒、桃花、翡翠、真紅、橙黄、蒼穹、銀灰の11色。
背もたれの上にそびえ立っている十字架の形も様々で、聖アンデレ、マルタ、ロレーヌ、葡萄、ケルト、ラテン、聖ペトロ、カンタベリー、ギリシャ、アンセイタ、ロシアとある。
その玉座に座っている11の人影も、玉座に対応した色の外套を羽織っている。

ここは“神意の玉座”、またの名を“遥かに貴き至高の座”と呼ばれる最高位次元。
あらゆる世界の意思、“界律”が交差する、全てが在って、全てを識る究極の根源。
その玉座の1つ、純白の玉座に座する者、名を3rdテスタメント・シャルロッテ・フライハイトがふと顔を上げた。

†††Side????†††

また何処かの世界の意思、“界律”が界律の守護神(わたしたち)を求めている。私たち“界律の守護神テスタメント”は、あらゆる世界の“界律”が交差する最高位次元であるここ、“神意の玉座”に座する概念存在だ。
まぁ早い話が、幽霊&精霊&天使&神様モドキだ。どれを取っても普通の存在じゃないわね。でも霊格に関しては神霊クラスであり、状況によってはそれすら上回ることもある。
その存在意義は、これより起こりうるであろう世界自身、または人類の滅亡を回避するために、その世界の“界律”から協力を求められることでその地へと召喚されて、その“界律”からの契約を執行するという、究極にして絶対たる抑止力となっている。

「まぁ時々、世界や人類を滅ぼすこともあるのだけどね」
 
ひとり呟く。たった今も、別の世界に召喚されている私の分身体が1つの国を潰し、何千万という命を刈り取った。だけどその代わりに、何億という命を救うことが出来た。多を生かすために少を排除する。そうしないと世界はバランスが取れない。自嘲気味な笑みを浮かべていると・・・

「どうかなさったのですか、シャルさん?」

横の玉座に座する者から声を掛けられる。桃色を基調としたフード付きの外套(マント)神父服(キャソック)を身に纏う、“賢者と愚者は紙一重”の二つ名を有する、5thテスタメント・マリアだ。外見は10代半ばあたりの女の子だけれど、私と同じ存在で、歴とした“テスタメント”の一柱だ。

「ん? ここ最近、私の契約率が上がってきているのよ。全く、世界はどれだけ人を殺せば気が済むのだか・・・」

思わず溜息が出る。ま、その命令とは言え殺戮の実行者である私たちには、文句を言う権利はないのだろうけど。

「えっと、その、頑張ってください。私た――」

「何なら代わってやろうか!」

いきなりの大声に、近くにいるマリアの声がかき消された。

「どうよシャルロッテ。代わってやっても良いぜ?」

私が座する純白の玉座から右斜め前に位置する、黄金の玉座に座する男がこちらを見る。
 
「お生憎様、あなたのような破壊神の出る幕じゃないのよ」
 
「んだよ。つまらない契約なのか」

私とマリアの会話に無粋にも割り込んで来たのは、破壊と殺戮の権化とされる、“死と絶望に微笑む者”の二つ名を持つ、2ndテスタメント・ティネウルヌス。
私たちと同じデザイン、でも色違いである黄金色の外套のフードを被り直したアイツは、私のぶっきら棒な対応には何も文句は言わない。

「あーあ、もっと殺しとか壊しの契約が来ねぇかな~。なぁ、どいつでもいいからよぉ、殺戮と破壊を俺に寄越してくれよ~」

どうやら本当に私たちの会話から興味を無くしたらしいわね。そもそも最初から話しかけてこないでもらいたいわ。あなたが“テスタメント”の中で一番嫌われているって、少しは自覚してほしいものね。

「私、あの人苦手です。どうしてあのような方が・・・」

もっとも優しいマリアですら嫌悪感を抱くほど。正直な話、私も苦手というより大嫌いだ。元がどこかの世界における悪魔の王ということもあり、その戦闘力はかなり高い。それにカリスマ性もある。しかし思考は短絡的。頭の悪い強者ほど面倒なやつはいないというわけね。

「仕方が無いわ。神意の玉座の意思は、力があり、なおかつ取引に応じる連中が欲しいだけ。性格的な問題は二の次なのよ」
 
言ってて悲しくなる。結局のところ私たちは単なる駒でしかない。“界律の守護神”という大層な肩書きの割に、やっていることはただの使いっ走りなのだ。そんな今さらな馬鹿馬鹿しい考えを巡らしている中、ようやく玉座から私の分身体と意識の欠片が乖離するのが判る。
 
「さてと、次の契約はどんなことをするのかしら? 少しはゆっくり出来る簡単な契約が来てほしいわね」

私、“剣戟の極致に至りし者”の二つを冠した3rdテスタメント・シャルロッテ・フライハイトは、(ちから)を求めているであろう世界へと自分の分身を送り込んだ。さて。今回の契約は、いったい何を殺し、壊し、奪えばいいのかしらね。ホント、気が滅入るわ。

 
§海鳴に舞い降りる力§
  
 
“神意の玉座”に在る本体から切り離された分身体(わたし)は、召喚先の世界へと通ずる光の奔流の中を進む。いつも通りの工程。だけど突如、私という概念に干渉するほどの力が流れ込んできた。

「なっ!? これは一体どういう・・・!?」

人間として死して“テスタメント”になってからのこれまでの6千年間。私は様々な召喚に応じてきたわ。けれど、こんな外から干渉されてしまうような事態は初めてで、さすがの私も混乱の極みに達していた。
私を構成する概念が解体されるのが判る。けれど、今の私にはそれに抗う術は無く、されるがままに意識が消えていった。  

†††Sideシャルロッテ⇒????†††

学校が終わって、私は友達のアリサちゃんやすずかちゃんと別れて家路についていた。その家へと帰る途中に、“ジュエルシード”が発動した気配に気付く。私は急いで“ジュエルシード”の発動した場所、近所にある神社へと走って向かった。

「なのは!」

「ユーノ君、お待たせ!」

“ジュエルシード”の反応があった神社の境内には、フェレットのような姿をしてる、秘密の友達であるユーノ君がすでに居た。私はユーノ君と合流して、「今回のジュエルシードがお願いを叶えたのって・・・」目の前に居る大きな犬のような魔獣と対峙する。
“ジュエルシード”っていうのは、願いを叶えることが出来ちゃう魔法の石っていう物らしいんだけど、どこか妙な形でその願いを叶えるみたいなの。

「なのは、気を付けて! この子も気性が荒い! 問答無用で攻撃を加えてくるよ!}

「あ、うん!」

ユーノ君からの警告を受けた直後、いきなりの突進攻撃が私に迫って来た。間一髪でラウンドシールドっていう魔法の盾が生み出されて事なきを得たけど、かなりの距離を吹き飛ばされちゃった。

(あ、私、高町なのはは、魔法少女・・・やってます)

私たちの生きる世界・地球とはまた別の世界からやって来た、魔法使いのフェレット・ユーノ君から、世界に混乱をもたらすほどに危険な“ジュエルシード”の回収をお願いされた。最初はいろいろ混乱したけど、困ってる人は助けてあげなさい、っていうお父さんの教えを胸に、私はその協力をすることを決めた。

「すごい迫力だったな~」

「なのは!? 大丈夫、なのは!」

“ジュエルシード”を回収するためには同じ魔法の力が必要とのことで、私はユーノ君から魔法を貰った。それにデバイスっていう魔法のサポートをしてくれる杖、“レイジングハート”も貰った。インテリジェントデバイスっていう、人格を持つすごいデバイスらしくて、さっきのように私に危険が迫ったら、魔法で私を守ってくれる。

「うん、大丈夫だよ、ユーノ君。レイジングハートが守ってくれたから」

心配そうな声を掛けてきてくれたユーノ君に返事をする。

「レイジングハート!」

≪stand by ready. set up≫

魔法戦に必要なバリアジャケット、えっと、魔力で作られた服へ着替える。

「ユーノ君は危ないから離れてて!」

間違った願いの所為で怪物のように酷い姿にされちゃった犬さん。突進を何とか避けたり防いだりするけど、「どんどん速く、強くなってる気がするよ・・・!」次第に動きの速さが上がっていく。私はただ防御と回避に精一杯になる。えっと、どうすればいいんだろう(泣)

†††Sideなのは⇒????†††

(一体どうすればいいんだ!?このままじゃなのはが危ない!)

僕は思考をフル回転させて、魔獣の足を止める方法を模索する。足を止めることが出来れば、目の前の動物が魔獣となった原因である“ジュエルシード”と呼ばれる、ロストロギアを封印することが可能になるはず。だけど、焦れば焦るほど冷静な判断が出来なくなってしまって、自分の無力さに怒りを覚える。

「僕はなのはを助けることも出来ないのか・・・!」

なのは。高町なのはという名の少女は、僕ユーノ・スクライアに協力してくれた優しい女の子だ。僕のミスで、”ジュエルシード”っていう危険物を失ってしまった。調査の果てにようやく見つけたのは、地球という第97管理外世界にある、日本と呼ばれる一国家の、海鳴市という一都市だった。

(管理外世界への無断渡航は違法だ・・・)

それでも責任として“ジュエルシード”の回収のため、僕は1人で回収活動を頑張っていたんだけど、その最中にケガを負って動けなかった。そんなところに僕は、なのはと知り合った。なのはは一般的に魔導師と呼ばれる資質を持っていた。しかも天才的に、だ。だから僕は、なのはに協力を仰いだ。仰いでしまった。絶対にやってはいけないことなのに。

――いいよ。ユーノ君、困ってるんだよね? じゃあ手伝う――

でもなのはは僕が困っているからって、僕の使命である“ジュエルシード”回収を協力してくれるようになった。危ないことなのに。でも協力してくれるって。だから僕はなのはを守ってあげないとダメなんだ。それくらいのことはしないと、魔導師の先輩として、協力を仰いだ者として。なのに・・・。

「僕は無力だ・・・!」

そう自分の情けなさに打ち拉がれていると、魔獣は今まで以上の速度と威力の突進でなのはに襲い掛かる。それは回避が不可能なほどの速さを持っていて、確実になのはへ直撃するコースだった。

「なのは!」
 
「ぅく・・・!」

なのはは自分に襲い掛かるであろう衝撃を覚悟して、魔導の杖“レイジングハート”を前方に構える。僕はなのはに起こる最悪な結果が脳裏に浮かんで「逃げて!」って叫んだ。でもなのはは動けない。当たる。そう思って目をつむろうとした瞬間、離れた所から魔力が発せられたことが判った。

 
風牙真空刃(レーレ)・・・!」


どこからともなく聞こえた声と共に、よく見えなかったけど魔獣の足元へとたぶん、風の斬撃が着弾。魔獣はそれに驚いて、なのはにぶつかる前に後ろへ飛び退いて、警戒しながらさらになのはから遠ざかって行った。

「「え?」」

そんな突然の状況に呆けるなのはと僕。斬撃の衝撃で尻餅をついているなのはと、安堵で一杯の僕は声のした方向、攻撃の主へと振り向く。声のした方には確かに僕たちを助けてくれたであろう人が居た。そこに立っていたのは・・・

「状況はいまいち判らないけど、助けてもよかったんでしょう?」

ふくらはぎ辺りにまで伸びる水色の髪を風に靡かせた、右手にはその子の身長と同じくらいの長さを誇るピンク色をした剣(ううん、カタナって呼ばれる物かな?)を携えている、凛とした1人の少女。

「それにしても、こんな危険生物が住んでいるのね。ちょっと残念だわ。平和っぽかったのに・・・」

その少女は僕たちと魔獣を見比べながら仁王立ちしていた。とても凛々しい顔をしていて、そしてあまりにも堂々としているから、僕はうまく思考が働かず声を掛けることも忘れて、その女の子を見つめてしまっていた。

†††Sideユーノ⇒シャルロッテ†††
 
意識が覚醒し始める。召喚先であるこの世界に来るまでに体験した異変を思い出しながら、ゆっくりと目を開けて周囲を確認する。目の前に広がる光景に少し戸惑いを感じる。何せそこは・・・

界律の守護神(テスタメント)を求めるくらいだから、どんな荒廃した世界かと思ったら・・・随分と平和な世界ね」

どこをどう見ても血で血を洗う戦場なんかじゃないんだから、拍子抜けもいいところだわ。私は血生臭さのない自然に溢れた気持ちのいい空気を吸いながら、この世界の“界律”との精神接続(リンク)を開始する。そこで初めて自分の起こっている異変に気付いた。

――肉体の構成を確認、身体年齢を9歳に設定、この世界に於ける戸籍を確認。世界名:地球、国名:日本、その一都市である海鳴市に在住している高町家にホームステイすることが確定済、契約内容の提示はなし――

「はあ?・・・うそでしょ、何これ? こんなことって・・・」

あまりの情報に混乱する。本来なら私たち“テスタメント”は召喚先に生きる存在に一切干渉することなく、召喚された理由である契約を果たすのものなのだ。だというのに、契約内容を明かさない? 肉体を構成? 9歳の子供? 戸籍? 泣きたくなってくる。ふざけるな、この野郎と愚痴を漏らしたい気分よ。

(落ち着かないわね。それだけ戦いに慣れてしまっているのね私は・・・)

のどかな空気を肌に感じ、妙にそわそわする。もう何千年と殺し殺され、壊し壊されといった戦場ばかりの契約を続けてきた。それが一転こんな平和な世界。すでに気が滅入ってしまっている。

(それ以前に召喚するなら、きちんと契約内容を提示してほしいものだわ)

それならこの落ち着きのなさもどうにか抑えられるはずなのに。そもそもこういう理解に苦しむ契約は、“天秤の狭間で揺れし者”の名を冠する4thテスタメント、“彼”が主に担当することになっているはずなのだけど。

「しかもまだ何かあるし・・・」

多からず提示された情報はまだある。解放できる能力値が最大10%、使用できる魔術もほとんどが制限されていることになっていた。

「戦闘専門みたいな私に対して妙な制限ね、これ。戦わせたいのか戦わせたくないのかどっちなのかしら?」

どちらにせよ、この世界を見る限り魔術を使う必要性があるとは思えない。それほど平和に見えるのだ。一体何なのかしら、この状況は・・・。

「ハァ、考えていても仕方ないわね。まずは高町家というのを探そう。まずはそこからだわ」

何時の間にか側にポツンと置いてあった、キャスター付きスーツケースとやらの中身を確認する。着替えに財布に・・・パスポートって何? この世界は私に何をさせるつもりなのか一切不明だ。 少し涙目になりながら、私を呼びつけたこの世界の“界律”を頭の中で罵る。

「なんて面倒な・・・」

荷物を確認し終え、その場から去ろうとしたとき、「あら?」そう遠くない場所で魔力が行使されているのに気付いた。意識だけを戦闘モードへと切り替える。やっぱり戦闘絡みなのかしらね、今回の契約も。別に期待していたわけじゃないけど、それでも少しは、ね。

「魔力行使? 思考に夢中で気付のに遅れたなんて。とにかく行ってみましょうか」
  
荷物を手にし、魔力が行使されている場所へと向かった。辿り着いたそこには白い服を着て、杖らしき物(なんか機械っぽいわ)を携えた少女と、その少女に向かって喋る小動物(フェレットというやつだったかしら?)が居た。それだけでなく、少女の目の前には4つ目の大型犬のような生物が居て、その白い少女と対峙していた。

「さっき感じた魔力反応はあの子たちからね。それにしても・・・」

少女は逃げては防御といった後手の動きだけしかしていない。どういうつもりなのか反撃しようというアクションを一切取ろうとしないわ、あの子。少女の味方であろう喋る小動物はただ焦って喚いているだけだし、話にならない。

(・・・全然なってない。戦闘経験無しのど素人というわけね)

あれではそう長くないでしょうね。だからこそさっきから危ない動きを見せているわけね。そう考えた瞬間、先ほどの予想が当たる。あの犬っぽいのが少女に向かって再度突進する。紛れもない直撃コース。
あれは避けきれないし、あんな幼い子供には防ぎきれないでしょうし。一直線とはいえ速度はあの子以上で、力もそうね。それにあの犬の巨体さ。あれが威圧感を押し上げているわ。戦闘の素人じゃあの威圧感を真正面から感じれば身が竦んでしまうのも道理。第三者の助けが無ければゲームオーバー。

「仕方ないわね・・・見捨てるわけにもいかないし手を貸しましょうか」

右手に愛刀、刀身が桜色に煌く長刀である“断刀キルシュブリューテ”を魔力で現実へと再構成させ、さらに軽く身体を強化する。

風牙真空刃(レーレ)・・・!」

“キルシュブリューテ”を振るい、威力を最小限にまで抑えた真空の斬撃を放って、犬の行く手を妨害した。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

「状況は判らないけど、助けてもよかったんでしょう?」

女の子がそう言ってこちらに歩いてくる。私は尻餅をついたまま女の子に向かって「あ、えっと、助けてくれてありがとうございます」お礼を言う。と、その子が無言でじーっと私の顔を見て、全身を見て、最後に“レイジングハート”を見た。とても綺麗な目をしていて、私は視線を外すことが出来なかった。

「・・・大したことはしていないわ」

その子は私のところにまで来て、左手を差し出してきてくれた。立たせてくれるんだ。そう思ってその子の手を取って、立ち上がらせてもらいながら「ありがとう」ともう1度お礼を言う。

「それで? あの犬っぽいのは一体何なのかしら? 知っているのなら聴きたいのだけど」

「え~と、なんと言いますか、あれは・・・その・・・」

私が説明に困ると、ユーノ君が代わって「ジュエルシードと呼ばれる、古代遺産ロストロギアによるものです」って説明を始めてくれる。その子は「古代遺産ロストロギア?」って左手を顎に添えて考える仕草をした。

(なんか、大人っぽい・・・)

同い年と思うんだけど、雰囲気はずっと大人って感じでなんかカッコいい。
私はその子の顔から右手に向かって視線を移して、その小さな手に握られている長い桜色の刀を見る。その子の身長と同じくらいの長さなのによく片手で持っているなぁ、って思いながらユーノ君の説明を聞く。

「はい。ジュエルシードは本来、手にした者の願いを叶えるという魔法の石なんですが、単体での発動は不安定で、暴走しやすいんです」

「単体ってことは複数あるということよね――っと、少し待ちなさい」

「「うわっ!?」」

刀を空に向かってにポイッと放り投げたことで空いた右腕で私を脇に抱え上げると、ユーノ君を左手でガシッと鷲掴んだ女の子は、「話の途中に無粋な。まぁ獣に言っても仕方ないわね」突進してきた犬さんを跳んで避けた。

「「わわっ!」」

「舌を噛むから口は閉じてなさい」

犬さんはそのまま止まらずに進行方向にあった木にぶつかって、グルルって痛そうに唸る。なんかごめんなさいって謝っちゃいたいくらいに。女の子は「続きの説明をお願い。何も知らずに手を出すのは私の経験が許さないの」って、ユーノ君に説明の続きをするように言う。

「あ、はい。えっと、暴走してしまうと、使用者を含めて周囲に危害を加える場合もあるんです。それに、たまたまジュエルシードを見つけた人や動物が間違って使用・発動してしまうと、その人や動物を取り込んで、さらに暴走したりもします」

「なるほど。今あなた達が対処しているあの犬っぽいのも、そのジュエルシードという物を間違って発動させてしまったことで変異してしまったもの、と考えていいのね・・・?」

「はい。そういうことです」

私とユーノ君を地面に下ろした女の子が「そういうことね」と頷いて、「もっと詳しい話を聞きたいから、まずはアレをどうにかしましょ」って、まるで今から自分も参加するようなことを言った。私とユーノ君が「え?」と聞き返すと・・・

「アレの動きを止めれば何とかなるのよね?」

女の子は空高く舞っていた刀を見ることもなくキャッチした。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

私はフェレットの説明を聞き、願いを叶えるという“ジュエルシード”の存在に少し引っ掛かりを覚えた。

(まさか、その“ジュエルシード”というのが、今回の契約に何らかの関わりがあるのかしら?)

気にはなるけれど、今はとにかく変異した犬をどうにかするのが先決か。少女とフェレットに向けてそう確認を取りつつ、空に向かって放り投げた“キルシュブリューテ”を予測落下地点で待ち、そしてキャッチした。

「はい、そうです。あの、協力してくれるんですか?」

フェレットがそう聞いてくるから私は一切の迷いを見せずに「ええ。今は関わった以上は力を貸すわ」と答える。すると「そんな危ないですよ!?」少女が驚いた顔でそんなことを言う。それはこちらのセリフだわ。あなたの動きの方が断然危ないのだから。 
   
「問題ないから安心しなさい。それじゃ、さっさと片付けましょうか」

そう断言し、少女を黙らせる。するとフェレットがその子に向けて声をかける。

「なのは、今は手伝ってもらった方がいいよ。今の僕たちじゃ無傷じゃ終わらせられないんだ」

「・・・うん、判った。えっと、それじゃあ、よろしくお願いします!」
 
沈んでいた表情から一転、元気な声でお願いされた。なら、それに応えるのが大人の役目よね。まぁ、今の私は少女と同じ歳のほどの子供の外見をしているのだけどね。

「そうと決まったら、行くわよ!」

「はい!!」

そうして、こちらを様子見していた犬に向かって私は駆け出す。犬もまた私に向かって突進。刃を返して峰を犬に向ける。これで必要以上にダメージを与えることはなく、殺すこともない。咆哮を上げる犬の突進を半身横に移動することで回避。

「せいっ!」

すれ違いざまに犬の首に“キルシュブリューテ”を差し入れて引っ掛け、思いっきり振り上げる。犬は自分の突進力の強大さによってその場で宙返り。背中から石畳に落下・・・することなく体勢を整えた上で着地した。

(身のこなしはまるで猫のようね・・・!)

私を威嚇するかのように牙を剥いて唸り声を上げている。そして懲りずにまた突進してきた。体勢崩しではなく、打撃による身動き封じにしようかしら。少し可哀想だけれど、下手に時間を延ばして苦しませるよりかはきっとマシだわ。

「来なさい。解放してあげるわ」

突進してくる犬を見据えじっと待っていると、「危ない!」って叫ぶ少女、名をなのはが叫んだ。今までの私の動きを見れていれば、そう心配することもないでしょうに。“キルシュブリューテ”を肩に担ぎ、突進をまた半歩分横に移動して回避。そして“キルシュブリューテ”を、今度は首に差し込むのではなく目と鼻の間を峰で殴打する。すると、ぎゃん!と苦痛の鳴き声を上げ、前足で殴打された場所を押さえてうずくまった。

「今よ!」

「うんっ。なのは!!」

フェレットが叫ぶ。なのはは“ジュエルシード”なる魔法の石を封印するために杖を、未だに痛みで動けない犬へと向けて封印作業に入る。
 
「ジュエルシード、シリアルⅩⅥ・・・封印!」

なのはがそう告げる。と、犬から蒼い宝石(ジュエルシードというやつね、アレが)がスッと音もなく抜けて、なのはが持つ杖の赤い宝石部分の中へと消えていった。なのはもフェレットも安堵の息を吐いていることから、これでひとまず大丈夫らしい。

「もう大丈夫のようね」

戦闘終了と言うことで“キルシュブリューテ”を魔力の粒子へ戻して、体内にある魔力を生み出し、供給する器官・“魔力炉(システム)”へと還す。この場でやることはなくなった。“ジュエルシード”のことは気になるけれど、契約が更新されない以上は気には留めながらも放置の方向で行くつもりだ。

「やった!」

「良かった!」

喜び合っている彼女たちを改めて眺めた後、踵を返す。そのまま立ち去ろうとすると、背後から「待って!」と私を呼び止める声。立ち止まってから「何かしら?」と振り向いて、私を呼び止めたなのはの顔を見る。

「手伝ってくれてありがとう! 私はなのは、高町なのは、っていいます!」

自己紹介と共に、私に感謝の言葉を言った。別に礼なんて構わない。どうせもう会うこともないのだろうし。

(ん? ちょっと待って。高町なのは・・・高町?)

ふと、さっき確認した情報の中に、高町、というファミリーネームが出てきたことを思い出す。それですべてが繋がった。
あぁ、なるほど。この出会いはおそらく、いいえ、間違いなく必然だったのだ。初めから私を“ジュエルシード”に関わらせるために、“界律”はこの場へと私を召喚したのだ。

「高町なのは、ね。私はシャルロッテ、シャルロッテ・フライハイト。みんなからはシャル、もしくはロッテと呼ばれるわ。個人的にはシャルがお気に入りよ」

これから先も関係を保つことになるだろうから、こちらも名乗り返す。

「それで、この子はユーノ君っていいます」
 
「ユーノ・スクライアです。先ほどは助けていただきありがとうございます」

フェレットはユーノという名前らしい。うん、なかなかに可愛らしい。

「どういたしまして、なのは、ユーノ」 
 
・―・―・―・―・―・

こうして魔法少女・高町なのはと、抑止力・界律の守護神テスタメントが一柱、3rdテスタメント・シャルロッテは出逢った。
これより先に待ち構えている幾度の困難を乗り越え支えあう友人として共に過ごす。
いずれ必ず訪れるであろう、回避することの出来ない永遠の別れのその日まで。  
 

 
後書き
どうもお久しぶりです、Last testamentです。今回からはEXも付きますが。
初めてお会いする方には、はじめまして。にじファンから移転してまいりました、Last testamentという者です。
にじファン閉鎖に伴い、自作サイトを作って連載再開を、と公言したのですが自作サイト制作が思うように捗らず、少々困っていたところに本サイトを発見、登録、投稿再開に至りました。
しばらくはこの『暁~小説投稿サイト』様のもとで、活動するつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。 
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