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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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ジークレインの決断


ぱち、と。
ハッピーが大きな目を開く。
そして周りを見て・・・思わず目を見開いた。

「ネコーーーーーー!ネコだらけーーーーーーーー!」

ソファにクッションにぬいぐるみにランプに椅子に植木鉢に・・・その空間の全てがネコだった。
植木鉢に植えてあるのはねこじゃらし、本棚の本もネコに関するものばかり。
カーペットやテーブルクロス、引き出しは肉球模様で、天井からネコのぬいぐるみがぶら下がっていた。

「何だここは!?ナツー!どこー!?」

先ほどまでいたのはアカネビーチのカジノのはずなのに、目が覚めたらネコ空間にいた事にハッピーは戸惑いながらも、必死にナツを探す。
が、そこに現れたのはハッピーが探すナツではなく・・・

「みゃあ」

ミリアーナだった。

「元気最強?」

そう言って首を傾げるミリアーナに小さい声で「ネコ女・・・」と呟いてから、ハッピーは困ったように言い返す。

「元気最強?」
「みゃあー!喋るネコネコだー!」

ハッピーが喋った事に嬉しそうな笑顔を浮かべるミリアーナ。
すると、そこにウォーリーが現れる。

「ミリア・・・もっとダンディになりな」
「みゃあ?」
「お前は!?」

ミリアーナは知らなくても、カジノのルーレットでナツの口に銃口をぶち込んだウォーリーをハッピーが忘れる訳が無い。
が、ウォーリーはそんなハッピーを無視し、言葉を続けた。

「ネコが喋るんじゃねぇ。喋るからネコなんだゼ」
「そっかー」
「全然意味解んないし!」

ハッピーの言う通りだ。

「ここはどこだ!ナツはどうしたんだーーーーーっ!?」
「へい、キャーッツ。ボーイは今頃アスファルトに口づけしてるゼ。傍にいたボーイもな」
「!」

ウォーリーのその言葉に、暗闇の中で響いてきた2つの銃弾の音がハッピーの中で蘇える。

「ナツがあれくらいでやられるもんか!アルカだって!」

ハッピーが必死に言い返す。
すると、そこに慌てた様子でシモンが駆けてきた。

「ウォーリー!ミリアーナ!エルザが脱走した!」
「エルザ!?ここにいるのか!?」
「脱走ー♪なつかしいひびきー♪」
「シモン、ダンディになれよ。この塔から逃げられる訳ないゼ」
「逃げねぇだろうな・・・ジェラールを狙ってくるゼ」

余裕の笑みを浮かべていたウォーリーから笑みが消える。

「来い!」
「みゃあ!」
「全く・・・女ってのは、いつの時代も面倒だゼ」

ドドドド・・・と部屋から出ていく3人の背中を見送り、ハッピーは呟いた。

「一体・・・何が起きてるんだ・・・?」










「あははははっ!」

一方・・・楽園の塔の別の部屋では、ジェラールの笑い声が響いていた。

「ジェラール様?」
「ふふふ・・・やはりエルザはいい女だ。実に面白い」

そう言い、ニッと口角を上げる。

「俺が勝つか、エルザが勝つか。楽しもう。生と死・・・そして過去と未来を紡ぐ、楽園のゲームを」
「し、しかし・・・評議院の動きも気になりますな」

男の心配そうな言葉にも、ジェラールの笑みが崩れる事はなかった。








魔法評議会会場、ERA(エラ)

「Rシステムは人間の生と死の法則を無視した、極めて危険な思想が生み出した許されざる魔法」
「占拠しているのが何者だろうと『敵』とみなすべきだ!」
「ただちに軍を派遣するのじゃ!」

そんな意見ががやがやと飛び交う。
その騒がしく宙を舞う言葉を、ジークレインの一言が沈めた。

「・・・鳩共め」

その言葉に言い争いが止まり、全員の目がジークレインに向かう。

「!?」
「何!?」
「ジーク、貴様」

その呟きや叫びを無視し、ジークレインは勢いよくテーブルを叩いて立ち上がる。

「俺から言わせれば、軍の派遣程度ハト派を呼ばざるを得ないと言ったんだ。あれは危険だ、危険すぎる。アンタ等は何も解ってない!楽園の塔を今すぐ消すなら方法は1つだろ!」

そう叫び、ジークレインは言葉を続けた。








衛星魔法陣(サテライトスクエア)からのエーテリオン!」








その言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。
・・・否、正確にはヤジマとクロノ以外である。

「な!」
「超絶時空破壊魔法だと!?」
「正気か!?」
「被害予測は出来ているのか!?力加減で一国をも消せる魔法だぞ!」
「エーテリオンは我々の最終兵器じゃ!Rシステムより危険な魔法なんじゃぞ!」

ジークレインの発言に一気に反対意見が飛び交う。

「ふぅ・・・」
「エーテリオン、ねぇ・・・」

ヤジマは溜息をつき、その近くに立つクロノは薄い笑みを浮かべて呟いた。
ちなみに彼は評議員の10人の中にはいない。強行検束部隊の人間だ。
が、特別理由で会議参加を許されている立場だ。
その理由は後々説明するとしよう。

「しかし衛星魔法陣(サテライトスクエア)ならばこの地上全てのものを標的に出来る。そしてあの巨大な建造物を消すにはエーテリオンしかない」

ジークレインの意見は御尤もではあるのだが、エーテリオンは評議院の最終兵器。
下手をすれば・・・いや、確実に中にいる人間は全員死んでしまう。
便利で強力、故に最終兵器なのだ。

「賛成・・・ですわ」
「ウルティア!貴様まで」

そんな空気の中、ウルティアがゆっくりと手をあげる。

評議員(われわれ)は全部で9名。あと3人の賛成票があればエーテリオンを撃てる!」
「時間が無いんだぞ!Rシステムは絶対に使わせちゃいけねぇ!」

必死に叫ぶジークレインを、クロノはどこか不気味で歪んだ薄い笑みを浮かべて見つめていたのだった。







ふわっと、緋色が舞う。
と、同時に、凄まじい速さの剣が楽園の塔の見張り達を襲った。

「うわあああ!」
「エルザだぁ!」

1人の見張りの首根っこを掴み、エルザが問う。

「ジェラールはどこだ!?」







一方、楽園の塔のある島へ到着したナツ達。
が、塔までの階段には多くの見張りが立っていた。

「見張りの数が多いな」
「気にする事ァねぇ!突破だ!」
「うん!そうしようっ!」
「ダーメ!」

今にも飛び出そうとするナツをルーシィが、ルーをアルカが抑える。

「エルザとハッピーが捕まってんだ。ヘタに動けばエルザ達が危険になる。しかも塔らしきものはずっと先。ここでバレたら分が悪ィ」

近くの岩陰に隠れ、どうやって塔の中に入るかを考える一同。
すると、海の中からちゃぽっとジュビアとティアが姿を現した。

「ジュビア達は水中から塔の地下への抜け道を見つけました」
「マジか!でかした!」

グレイが声を上げる。

「褒められました。あなたではなくジュビアが・・・です」
「はいはい」

そしてやっぱりルーシィを恋敵として敵視するジュビア。

「水中を10分ほど進みますが、息は平気でしょうか?」
「ジュビア、聞くまでもないわ。そこの獣と露出魔は平気よ。問題はルーシィとルー、アルカね」
「今さらっと俺達の事バカにしなかったかお前」
「10分なんて無理に決まってんでしょ!」
「あー・・・悪いな、アルカさんは5分が限界だ」
「んーとねぇ・・・2分くらいならいけるよ」

ジュビアの問いにティアが答え、グレイがツッコむがスルーされた。
ルーシィがツッコみ、アルカとルーは少し考えてから呟く。
それを聞いたジュビアは右掌に水の球体を創りだした。

「これを被ってください。酸素を水で閉じ込めてあるので、水中でも息が出来ます」
「ほぉー、つーかお前誰だ?少しティアと声が似てんな」
「関係ない事言ってないで、ほら!行くわよバカナツ!」
「うおっ!?」

かぽっと水の球体を被ったナツの首根っこを掴み、水の魔導士だから水の球体が必要ないティアが海に飛び込む。
他のメンバーもジュビアから貰った水の球体を被り、海へと飛び込んでいった。





楽園の塔の地下。
ナツとグレイはそこに到着し、誰もいない事を確認する。
その後からルーシィ、ジュビア、ルー、アルカ、ティアが続く。

「便利ねこれ、マヌケだけど」

何故か水着姿のルーシィは、水の球体を右掌に持ちながらそう言う。

「ルーシィさんだけちょっと小さめに作ったのに、よく息が続きましたね」
「オイオイ!」

ジュビアにルーシィがツッコむ。
因みにルーシィの息が続いたのは、ルーシィの被る水の球体にルーが少しずつ自分の魔法を使って無くなった分の酸素を含ませて行ったからだったりする。

「ここがあの塔の地下か?」
「えぇ、間違いないわ」
「エルザとハッピーがこのどこかに・・・」

グレイの言葉にティアが答え、着ていた服をぎゅっと絞りながらルーシィが辺りを見回す、と。

「何だ貴様等はーーーーー!」
「!」

地下の見張りをする兵達に見つかってしまった。

「やば!」
「ここまで来たらやるしかねぇだろ」
「はい!」
「久々に派手にやっか!いいよな、ティア。ここなら更地にしたって問題ねぇし」
「なら、僕も手加減しないでいこーっと。いいかな?ティア」
「・・・ま、いいんじゃない?相手は愚者だもの。それに、塔を破壊して困る奴もいない。私達にはメリットしか来ないしね」

ティアの言葉にルーとアルカがニィッと笑う。
この3人が集って問題が起きなかった事はない。個々でも問題を起こすというのに、3人が集まってしまえば最悪の場合国が消える。
それを避けるべく、ルーとアルカはチームは別だが同じ元素魔法(エレメントマジック)を使い、3人の中で1番強いティアに訊ねるのだ。
手加減なし、容赦なし、派手にぶち負かしてもいいのか、と。

「何だ貴様等はァ・・・だと!?上等くれた相手も知らねぇのかヨ!」

そう叫びながら、ナツは炎を纏った右拳で兵達の立つ橋の柱の1本を殴り付ける。
それにより、グラッと橋が揺れた。

「うわっ!」
「ぬあ!」

揺れた橋が、一気に崩れ落ちる。




妖精の尻尾(フェアリーテイル)だバカヤロウ!」




ナツの叫びを皮切りに、他のメンバーも戦闘を開始する。

「ひぇっ」

ルーシィに剣を持った男が飛び掛かる。
振り下ろされた剣をギリギリで避け、くるっと側転し、構えた。

「開け!巨蟹宮の扉!キャンサー!」
「久しぶりエビ!」

呼び出されると同時にハサミを振るい、男の髪を綺麗にカットするキャンサー。
2人の男がジュビアに向かっていき・・・構えた剣がジュビアをすり抜ける。

「え?」
「何だコイツ!?」

ジュビアの体が水で出来ている事を知らない男2人は思わず振り返り、ジュビアは表情1つ変えず男を睨みつけた。

水流斬破(ウォータースライサー)!」

右腕を水の刃へと変え、自分を斬ろうとして失敗した男と近くにいた兵を一気に倒す。
崩れた橋の残骸から4人の兵を踏み落とすグレイ。
そこから造形魔法の構えを取り、冷気を集中させる。

「アイスメイク、大槌兵(ハンマー)!」

そこから氷のハンマーが現れ、踏み落とした兵や下にいた兵を一気に押し潰す。
一方・・・少し離れた所で、元素魔法(エレメントマジック)を使う3人は多くの兵に囲まれていた。
因みにうっかり囲まれてしまったのではなく、自分達がわざと囲ませるよう仕向けたのだが。
だってその方が――――――――

「面白れぇなァ・・・」

アルカが小さく舌を出し、舌なめずりをする。
彼は面白ければいいのだ。『面白ければ』。
面白いのなら何百人を敵に回そうと構わないし、世界中を敵に回しても構わない。
もし彼が面白いとさえ感じれば、彼は自力で理想の世界を創り上げる為、世界を滅ぼしかねないのだ。
ただ『面白さ』だけを求める・・・それがアルカンジュ・イレイザーなのである。

「さぁて・・・行くか、ルー」
「OK。援護しようか?」
「ん。攻撃力と防御力の判断はお前に任せる。とりあえず移動速度を頼む」
「了解っ!ティアは?」
「アンタに任せる」
「解った」

短く言葉を交わし、最初に動いたのはルーだった。

「任されたから全部を上げるよ!2人とも、準備はいいね!?」
「おうよ!」
「はいな」

その答えを聞いたルーは両手に淡い緑色の光を灯し、詠唱する。

「悠久なる空を駆ける天馬の如き疾風の俊足を・・・全てを無に存在させ永久に砕けぬ空の如き鉄壁を・・・空をも斬り裂く鋭く激しき風の刃を・・・」

閉じた目を一気に開き、3つの魔法陣が同時に展開する。
心地よい鈴の音が響き、ルーが吼えた。

大空俊足(アリエスバーニア)×大空防御(アリエスアーマー)×大空剛腕(アリエスアームズ)!」

両腕を広げたと同時に、アルカとティアの体を緑色の光が包む。
それを確認したアルカは少し歪んだ笑みを浮かべ、茶色の魔法陣を展開させた。
ドラムのように大きな音が響き、兵達の一部の足元にも魔法陣が現れる。

「な、何だ!?」
「気づかねぇ時点でオメェ等の負けさ、ヤロウ共」

そう言うと、アルカはゆっくりと両手を上げ・・・

「貫け、砂の軛・・・俺の視界から邪魔な敵を消せ」

勢いよく、振り下ろした。

大地貫剣(スコーピオンピアス)!」

その声と同時に、魔法陣から砂で構成された先の鋭い剣が一気に伸び、兵達の服を貫き、遠くへと投げ飛ばした。
それだけで兵の半分が消える。

「んじゃ・・・あとは任せるぞ、ティア」
「了解」

短く答え、ゆっくりと目を閉じる。
鐘の音と共に魔法陣がティアを囲むように展開し、詠唱する。

「・・・魔の海に魅入られし愚か者よ・・・蠱惑の海に裁かれ、天を舞え・・・」

魔法陣からジュビアがナツ達に渡したのと同じくらいの大きさの水の球体が無数に現れる。
両腕を横に広げ、ゆっくりと前に持ってきて・・・何かを押すように手を押し出し、勢いよく横に広げた。

大海無限球(アクエリアスインフィニット)!」

その動きと言葉に反応し、360度に展開した水の球体が一気に兵達に向かっていく。
一瞬にして兵達は倒れ、閉じていた目を開いた。

「ルー」
「うん。強化解除」

アルカとティアの体から緑色の光が消える。
ギルド追放者に権力者に闇ギルドに悪魔の復活を目論む者に実力は同じくらいのギルド・・・。
様々な戦いを繰り広げてきたナツ達に勝てる訳もなく、兵達は次々にやられていく。
そして数分後には、誰1人として残っていなかった。

「見て、通路が開いたよ!」

ルーがはしごの先の指さす。
上へと向かう通路が現れ、開かれる。

「上へ来いってか?」
「罠の可能性もあるが、四の五の言ってらんねぇな」
「道があるなら進むだけよ。何が待ち受けていようと、私の敵じゃないわ」

グレイ、アルカ、ティアがそう言い、ナツ達ははしごを使い上へと上がって行ったのだった。







「ジェラール様、一体何を!?侵入者を引き入れるなんて!」
「言っただろ?これはゲームだと。奴等はステージをクリアした。それだけの事」

ジェラールの行動に意を唱える男。
どうやらナツ達が上の階へ上がれたのは、ジェラールの手によるものだったらしい。

「面白くなってきやがった。ははは・・・」

ジェラールが笑い声を響かせる。
この男はどこかアルカに似た性格を持ち合わせているらしい。

「しかし儀式を早めなくては、いずれ評議院に感づかれますぞ」
「ヴィダルダス・・・まだそんな事を心配してるのか?」

長髪の男『ヴィダルダス』の言葉に、ジェラールは自信満々に答えた。

「止められやしない」





ナツ達がはしごを昇る。


エルザが鋭い目で塔内を見回す。


そろり・・・と、エーテリオン投下に賛成する手がまた1つ、上がった。

「あと2人だ!時間が無いぞ!」

ジークレインが叫ぶ。






「評議院のカス共にはな」

それを嘲笑うかのように、ジェラールは呟いた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
突然ですが、この小説ってタイトル長いですよね・・・(そんなタイトルを付けたのは私だ)。
という訳で、今度から「EMT」と呼びます。
時代は略語なんですよ(何じゃそりゃ)。

感想・批評、お待ちしてます。 
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