八条学園怪異譚
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第四十七話 洋館ではその一
第四十七話 洋館では
今クラスでは一人の女の子が愛実の席の前にいた、そのうえで彼女の手元を心配そうな目で見ていた。見れば愛実は制服の上着にあるものを縫っていた。
手には針と黒い糸がある、愛実は糸を口の中に入れてから針に通しそれから丹念に縫っている。それを見てだった。
クラスメイトの娘は心配そうな顔でだ、愛実に問うのだった。
「いけそう?」
「ワッペンね」
「そうなの、折角自分で縫ったのに」
見れば制服の裏地に縫っている、可愛らしい白猫のワッペンをだ。
「それが取れて」
「糸持ってなかったのね」
「針もね。というかね」
「学校に持ってきてないのね」
「いつも家に置いてるの」
クラスメイトの娘は困った顔で話す。
「だから困ってたけれど」
「普通は持って来てないからね、針と糸は」
愛実は縫いながら言っていく。
「私が持っているだけで」
「けれどそんなの私がするのに」
「いいのよ、ついでだから」
構わないとだ、愛実は縫いながら言う。
「それに私裁縫とか刺繍って好きだから」
「そうなの」
「お姉ちゃんが得意だからね」
憧れている愛子がだというのだ。
「だからなのよ」
「ああ、いつも言ってるお姉さんね」
「そうなの、お姉ちゃん刺繍が物凄く上手だから」
裁縫もだというのだ、今彼女がしているそれも。
「私もね」
「負けていられないの?」
「少しでも近付けたらなってね」
そう思っているというのだ、勝てずとも。
「だからいつもする様にしているうちにね」
「好きになったのね」
「そうなの、趣味の一つなの」
刺繍や裁縫もだというのだ。
「だからやらせてね」
「そうなのね」
「そうなの、もう少しで出来るからね」
見れば裁縫の手はかなり速い、しかもその縫い方も見事なものだ。
制服の裏地に的確に縫っていく、針を表に出させることもない。
そうしてだ、裁縫が終わってからだった。愛実はクラスメイトの娘に対してにこりと笑ってそのうえで言った。
「はい、出来たわ」
「えっ、もうなの」
「ええ、自分で確認してみて」
彼女に制服の上着を返してから言った言葉だ。
「出来てるかどうかね」
「凄いわね、ちゃんと止めてるし」
縫った最後に糸を丸くさせてだ、そこもちゃんとしていた。しかも縫った跡が実に綺麗だ。クラスメイトの娘も感嘆している。
「プロみたいよ」
「それは言い過ぎじゃないの?」
「言い過ぎじゃないわよ、凄いわよ」
こう愛実に言うのだった。
「何かお母さんみたいよ」
「お母さんなのね」
「うん、愛実ちゃんのお母さん属性炸裂ね」
「私よくそう言われるわね」
「だって、お料理とかお掃除得意でね」
このことからだった、愛実が母親属性が強いと言われる理由は。
「お裁縫もそこまで凄いし面倒見もいいから」
「だからなのね」
「ええ、愛実ちゃんはお母さんね」
そのタイプだというのだ。
「皆がいつも言ってるけれどね」
「何かお母さんって言われるとね」
愛実は困った顔でその娘に返した。
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