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クラディールに憑依しました

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彼の養殖が始まりました

 第四十六層迷宮区。

 アスナと合流し、キリトの気力が続く限りパワーレべリングと称して迷宮区を駆け巡る。
 月夜の黒猫団に、正確にはサチの添い寝に付き合ってたキリトは、攻略組としての適正レベルはギリギリだった。


「おい、もうへばったか?」
「…………ま、まだまだ」
「携帯食料も片手剣の予備も大量にあるぞ、街に帰れると思うな――――お前が次に街の土を踏めるのは上の階層だ」
「――――わかってるさ」
「なら一匹そっちにくれてやる」


 鍔迫り合いで押さえ込んでいたモンスターをキリトの方向へ蹴り飛ばす。


「え――? うわッ!?」


 キリトは咄嗟にソードスキルを発動させて、飛掛かって来たモンスターをどうにか倒した。


「おー、これはおもしろい。次は二体同時に送るぞ」
「キリト君ー。わたしからも一体送るねー」
「――――ちょっと待てーッ!?」


 二体同時と時間差の一体を何とか捌き、キリトは息も荒く、剣を杖代わりに身体を支えた。


「――――流石に……ちょっと待ってくれ」
「…………まだまだ余裕そうだな」
「……そうね」


 俺とアスナは確認を取ると――――目の前の敵を全て放置して奥へと走り出した。


「――おおぃ!?」
「――――新しい敵をトレインしてくるから、それまでに倒して置いてくれ」
「いっぱい連れてくるから、待っててねキリト君」
「ちょっと待ってくれッ!? アスナ、クラディールっ!?」
「そろそろ回復ポーション一回分のダメージ量だろ――――ちゃんと飲んでおけ」


 キリトのバトルヒーリングスキルの回復量と俺達の往復時間を考えれば、HP八割の回復で戻って来れるな。
 奥に進むとガツンガツンと重い金属を叩く音が聞こえてくる。大盾二枚を重ねて両手剣の閂で塞いだ袋小路だ。

 更にその手前にはトラップ部屋が二部屋、ドアを開けると部屋の中からモンスターが寄ってくるタイプだ。
 アスナは右の、俺は左のドアを蹴破り、メニューから大盾と両手剣を消して袋小路のモンスターを開放する。


「――――おお? 思ってたよりもいっぱい居るな」
「まぁ、倒すのはキリト君だし――――全部連れて行きましょ」
「了解~」


 合計三箇所の狩場からモンスターをトレインしてキリトの所に戻ると、リズが遊びに来ていた。
 アスナが先行してリズに駆け寄る。


「リズー。黒猫団のみんなは?」
「ちゃんとエギルに預けて来たわよ、キリトにもその報告をね」
「シリカちゃんは?」
「…………相変わらずね、帰ったら一緒にお風呂に入って様子を見るわ」

「あー、良いなー、リズに時間が出来たら交代しない? シリカちゃんも心配だし、わたしもお風呂入りたいよ」
「そうね。ボス攻略までまだ時間があるなら、なんとか時間を作れるかもしれないけど」
「本当に? それならボス攻略の少し前に来て貰っても良いかな? ゆっくりお風呂に入りたいから」

「それじゃあ、時間合わせて交代ね」
「りょーかい」

「おーい、リズ、暇ならデカイ奴に一撃入れてから帰ってくれ、後はキリトがやる」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」


 メニューを操作してリズがメイスと盾を装備した、俺とキリトが戦っている間をすり抜け大型へと駆け寄った。


「はい。まずは一匹目」


 リズがソードスキルを発動し、大型のHPを六割削る。


「雑魚が邪魔ね」


 寄って来た雑魚を盾で薙ぎ払い、二匹目の大型を吹き飛ばす。
 それから次々と六体の大型にキッチリ一撃入れて戻ってきた。


「はい。あたしのお仕事おしまい。次は明日の朝にでも来るわ」
「了解、おつかれさん――――そろそろ迷宮区のモンスターがリポップ時間だな。
 キリト、狩り残した雑魚とフィールドボスを時間内に狩り尽くす、リズを送るついでに入り口まで走るぞ」

「あー、大丈夫よ。入り口付近は他の攻略組も多いからリポップも少ないし、狩場を取られたら駄目でしょ」
「そうか? それなら途中までだな、どちらにしろ一度は中腹に戻る必要がある」
「そう? それじゃあ――――」
「悪い、流石にちょっと休ませてくれ………………――――――ッ!?」


 メニュー画面を開いたままキリトが硬直した。


「どうした? 装備の切り替えなら早くしろ、次のリポップに間に合わんぞ? それとも、本気で休憩が必要か?」
「――――いや、何でも無い。悪かったな、次は中腹からだったか」
「ああ、行くぞ」


 迷宮区の中腹でリズと別れ、俺達はキリトの養殖を再開した。



………………
…………
……


 第四十六層、血盟騎士団ギルドホーム。
 シリカは『メールで済ませたくない話』として、アルゴを呼び出していた。


「…………そうカ、ピナを失ったカ」
「……はい――――それで蘇生クエストの存在について聞きたいんですけど……」
「――――今あの馬鹿が調査に出ていル。オレっちは足手纏いだから同行できなイ」

「…………アルゴさんでも足手纏いになるなんて…………迷宮区――――ボス戦ですか?」
「……察しが良いナ、消去法で考えれば当然ではあるカ――――次の階層だナ、確定ではないガ、ピナが復活する可能性はあル」

「――――でも、クラディールさんは何も言ってくれませんでした」
「……不確定な情報で希望を持たせたくなかったんだろうナ、悪いニュースも確定しそうダ」
「悪いニュース?」
「他のビーストテイマーが使い魔を失ってからドロップしたアイテム『心』だガ、約三日で『形見』に変わるそうダ」

「――――もし、『形見』に変わったら」
「文字通りダ――――復活不可能だろうナ」
「…………そう、ですか」
「――悲観するナ、あの馬鹿は必ずやるサ。携帯食品を多めに買い漁った情報が来ていル、この街に戻る心算は無いのだろうナ」

「あたしに出来る事は何か無いですか?」
「何時でも出られる様にして置くんだナ、時間切れギリギリまデ、諦めるナ」
「――――はい」


 ノックと共にドアが開かれた――――リズとサチだ。


「シリカ、起きてる? あ、アルゴも来てたんだ――――お風呂まだでしょ? サチも連れて来たから、みんなで入りましょ」
「リズ。やっぱり遅い時間だし迷惑だよ、アルゴも迷惑だよね?」
「――――いヤ、別に構わんガ――――シリカ、背中を流してやろうカ?」

「え? ………………はい。お願いしますね! ――――サチさんもお風呂まだでしたか?」
「さっきまで資料の整理してたから、今日はゆっくり休んで明日にしようかなって、思ってたんだけど…………」
「駄目よ。一日の疲れは明日に持ち越さない――――明日はたぶんボス攻略、朝から忙しくなるから、今入っちゃいなさい」

「――――レイドの枠が埋まるカ」
「ええ、明日の朝にはキリトのパワーレベリングが終わる筈よ」
「聞いたナ?」
「――はい」
「――――さあ、お風呂お風呂。アスナの分まで入るわよ」


 深夜の入浴が終わった後、シリカはピナが、サチはキリトが居ない夜だが、
 リズとアルゴが一緒に泊まったおかげで、少しだけ安心して眠ることが出来た。 
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