我が剣は愛する者の為に
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子は母に似る
師匠の後について行きながら、俺は初めて入る城に驚きつつもテンションが上がっていた。
何せ城なんて、俺が前生きていた世界ではなかなか入る事はできない。
師匠は後ろで俺が城を見て嬉しそうにしている表情を見たのか、話しかけてきた。
「縁は城は初めてか。」
「はい。
こういったのには入ると、こう気分が昂って。」
「ははは、私も最初の頃はそうだったな。
だが、慣れておけよ。
いずれはお前もこれよりもっと大きな城で、働く事になるのかもしれないからな。」
そんな会話をしていると玉座についた。
城自体はそれほど大きい訳でもなく、数分もすれば玉座に着く事ができた。
周りの兵士は師匠の顔を見て、玉座にすんなりと通す。
どうやら、ちゃんと話は回っているみたいだ。
玉座に着くと、おそらく一番偉い王様が座るであろう王座の前に一人の女性が立っていた。
髪は桃色で腰くらいまで伸びている。
少し焼けた肌に額には何やら紋章?みたいのが書いてある。
右手には一振りの剣が持ってある。
全体的に赤い服を着た女性は師匠の顔を見ると、嬉しそうな表情を浮かべてこっちまで走り寄ってくる。
その顔はまるで懐かしい友に似合うような、そんな言葉がぴったりの表情だった。
「烈!
久しいな!」
女性は師匠に飛びついて抱きしめる。
師匠はそれを受け止めて言う。
「堅も元気そうで何よりだ。」
「お前こそ、元気そうで良かった。」
てか、師匠の真名を言ったって事はそれなり、というかかなり親しい仲みたいだな。
孫堅は師匠から離れると後ろにいる俺の事に気がつく。
「ん?
その子は?」
孫堅が師匠に俺について聞く。
「わ、私は姓は関、名は忠、字は統と申します。
この度は、孫堅様にお会いできて誠に光栄でございます。」
俺は腰を90度曲げ、頭を下げる。
相手はこの城の王、つまり一番偉い人だ。
思いつく限りの丁寧語で話す。
それを聞いた孫堅はぷぷぷ、と笑いを噛み殺す声が聞こえた。
その声を聞いた俺はゆっくりと顔をあげる。
「あははははは!!
嫌だね、そんなに緊張しなくてもいいのよ。」
「えっ?
でも・・・・」
少し笑いながらも孫堅は言う。
「見た限り、烈の弟子って所ね。
てことは私の弟子って事よ。
そんなにかしこまらなくてもいいのよ。」
「でも、貴女はこの城の主でですね。」
あまりにフレンドリーすぎるので俺は戸惑いながら、間違ってはいない筈の正論を口にしようとする。
しかし、それを孫堅が止める。
「確かにあなたがどこかの城か、どこかの使者だっていうなら話は別だけどそうじゃないでしょ?
烈は友人として私に会いに来た。
なら、弟子であるあなたもそんなに気にしなくていいのよ。」
「ですが・・・・」
「だぁ~~!!
私が気にするなって言ったんだから、気にするな!!」
「師匠・・・・」
俺は堪らず、師匠に助けを求める。
師匠はその光景を見て少し笑いながら言う。
「諦めろ、縁。
堅はそういう奴だ。」
「あっ、何かそれ馬鹿にしているでしょう。」
「そんな訳がない。
むしろ、尊敬している。」
本当か~?、と疑わしい視線を送る。
二人の会話を聞いて、俺は少し唖然としていた。
これはあくまでイメージなのだが、俺は孫堅はもっと、こう、堅物というか、そんなイメージを抱いていた。
だが、実際に出会ってみると、そんなイメージとは180度真逆の人間だった。
俺が唖然とした表情をしていると、孫堅は言う。
「分かった?」
「は、はい。」
俺は勢いに負け、ゆっくりと頷く。
軽いカルチャーショックだ。
「よぉ~し。
とりあえず、移動しますか。
此処じゃあ話しにくいでしょ。」
孫堅はそう言うと、先頭を切って玉座から出て行く。
師匠はその行動を見て変わらないな、と呟きながらその後ろをついて行く。
当然、俺もその後に続く。
廊下を歩いていると、外は中庭の様だ。
よく本とかで読んだけど、城の中に庭ってあるんだな。
そんな事を思いながら、中庭にある廊下を歩いて行く。
「雪蓮!!
危ないから、そこを降りろ!!」
と、女性の声が聞こえた。
どうやら、中庭から聞こえる。
師匠と孫堅も聞こえたのか、中庭に視線を向ける。
「大丈夫よ、冥琳!
ほら、貴女も来ればいいじゃない!」
「それではお前を止める人が居なくなるだろう!」
そんな会話が聞こえる。
孫堅はその声に聞き覚えがあるのか、はぁ~、と重いため息を吐く。
「すまん、ちょっと待ってくれるか。」
そう言って孫堅は中庭に足を運ぶ。
「行くぞ、縁。」
師匠はそれだけを言って、孫堅の後について行く。
あれ、待っといてくれ、って言われてなかった?
俺の疑問なぞ知らずに、師匠は孫堅の後ろをついて行く。
この場に残っているのもあれだったので、俺もついて行く。
少し歩いた所のある一本の木に彼女達はいた。
一人は孫堅と同じ髪の色をした女性が木の上に登っていた。
顔立ちも孫堅によく似ている。
口元にほくろが見える。
その木の根元では女性を必死に降りろと、一人の女性が説得している。
短い黒髪に赤いフレームの眼鏡をかけている。
彼女には泣きほくろがついていた。
孫堅はそんな二人を見て、もう一度ため息を吐く。
「おい、雪蓮!
さっさと降りないか!!」
「げぇっ、母様!?」
突然の孫堅の言葉に驚いたのか、足を滑らせ、木の上から下に落ちていく。
「雪蓮!」
黒髪の女性がそう叫ぶと同時に、師匠が木の上から落ちる女性を抱き留める。
「大丈夫かい?」
「は、はい。」
突然の師匠の助けに戸惑いながらも、返事をする。
その後、孫堅はその女性の元に近づき、げんこつをする。
「雪蓮!
前々から何度も言っているだろう!
お前は私の跡取りなんだから、もっと孫呉の王として気品のをだな。」
孫堅を話を聞いていないのか、全く反省している様子が見られなかった。
それどころか、師匠に興味を抱いているらしい。
「ねぇねぇ、母様。
この人は?」
「全くお前は人の話を。」
ぶつぶつ言いながらも、孫堅は説明をする。
「この人の名は丁原。
私の親友だ。
雪蓮、助けて下さったお礼は?」
「ありがとうございます、おじさま。」
しっかりと頭を下げて、お礼を言う。
「ありがとうな、烈。」
「なに、気にすることはない。
それにしても・・・・」
師匠はしゃがみ込んで、その女性の顔をしっかりと見据える。
「堅にそっくりだな。
顔も性格も。」
「ちょっと待て、それはどういう事だ。」
師匠の発言が聞き捨てならないのか、軽く睨みつける。
すると、その女性は後ろにいる俺の事に気がつく。
「ねぇ、あの子は?」
その女性が言うと、師匠は俺を呼ぶ。
「この子の名前は関忠統。
私の弟子だよ。」
「ふ~ん。」
その女性はジロジロと俺の顔を見る。
何かついているのだろうか?
何十秒か俺の顔を見つめて、にっこりと笑みを浮かべる。
「関忠ね。
私は孫策、この子は周瑜。
よろしくね。」
俺はその二人の名前を聞いて内心、物凄く驚いていた。
それもその筈。
孫策といえば孫権に続く呉の武将で有名な一人。
周瑜は諸葛孔明に並ぶ天才軍師だ。
二人とも女性だけど。
孫策は俺に手を差し出してきたので、俺も手を差し出して握手する。
うおおお、あの孫策と握手しているぞ。
女性だけど。
「ねぇねぇ、母様。
私、関忠と一緒に遊んでもいい?」
握手し終えると、孫策はいきなりそんな事を言い出した。
それを聞いた孫堅は少し驚き、師匠の顔を見る。
師匠は笑みを浮かべながら、小さく頷く。
「烈も良いと言っているし、まぁいいだろう。
正し、危ない遊びは駄目だぞ。
そもそも、お前は後の孫呉の王としてしっかりと皆を・・・」
「やったぁ!
関忠、冥琳、行きましょう!」
孫堅の話はまだ終わっていないのに、それを最後まで聞かずに俺と周瑜の手を引いて中庭を走って行く。
「だからな、お前にきつく説教するのは、お前の為を思って「おい、堅。」・・・・何だ?」
「孫策ならいないぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・話を最後まで聞かんかああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
後ろから、そんな声が聞こえたが孫策は全く気にせず、周瑜は大きくため息を吐いて言う。
「付き合せてすまない。」
「あ、ああ。
まぁ、気にする事ない。」
俺達はそんな会話をしながら孫策に引っ張られるのだった。
後書き
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