生還者†無双
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呉の姫
全く……まさか女を抱きながら山を下るとはな
顔をしかめながら歩を進めるが獣道よりも酷い道で非常に歩き難い
速度を出して歩ける訳もなく自身も額の傷口からの出血が止まっておらず
多量の出血で少々目眩がしてきた
こんな傷程度でこの様かよ……くそったれめ
もっと酷い状況だって潜り抜けてきた筈じゃあねぇか
自分の不甲斐なさに嫌気が差して顔がより一層強張る
その時
ヒュンヒュンッ!!
背後から放たれた弓矢が間近を掠めていった
相手が下手くそだったのと生い茂った草木が幸いし
矢が命中する事はなかったが遠巻きから立て続けに矢が飛んでくる
「手負いの人間相手に贅沢な戦しやがるぜ」
咄嗟に近くの巨木に身を隠しながら暁が呟く
逃げたした奴等が合流したか……面倒くせぇな
絶え間なく矢が飛んでくるのを見ると相当な人数だ
しかし近付いてくる様子がない
成る程……馬鹿は馬鹿なりに学習したらしい
接近戦では分が悪い、ならば遠くから弓で射殺せば良い
今の状況では中々効果的な戦術だ
お荷物抱いて尻まくれるような状況じゃあねぇな
「さて……此処からは自分で歩いてくれ」
「こう射たれては身動き出来ないわね」
「まだこんなに居たのかっ!」
甘寧が刀を抜いて突撃しようとするが暁は肩を押さえ止める
「馬鹿野郎っ!犬死にするつもりか!」
「馬鹿とは何だ!私が囮に……」
「ふむ……奥の手を使うしかねぇか」
背中からタボールを取り出しスライドを引くと
ジャキンと金属音がして初弾が装填される
弾薬の予備を取り出しポーチに放りこむ
更にバックから手榴弾を数個取り出し安全ピンを抜いて
腕を振りかぶっておもいっきり連続で投げる
野球ボールの様に一直線に飛び足下付近にめり込む……
ボン ボボン ボン!!
鈍く低い音が連続して森の中に響き渡ると同時に悲鳴が聞こえた
「ぎゃっ!」「うわらばっ!」「う……腕がぁ」
爆風が地面をひっくり返し無数の鉄片が賊の体に食い込み四肢引き裂く
呻き声、断末魔、爆発音、怒号が飛び交う森の中
何が起きたのか理解出来ず浮き足だった賊は闇雲に動き回っていた
良し頃合いだな、多少間引かせてもらう
近代兵器の力……見せてやるぜ
ジャキ
「おい、耳塞いでおきな」
「え……?」
「貴様!一体どう……」
バン!バン!バン!バン!
耳を突き抜ける様な鋭い爆発音
混乱に乗じてタボールを構え射撃を開始した
優先すべきは小賢しく矢を飛ばしてくる弓兵
発射された5.56mm弾は騒乱の森の空気を切り裂き
弾頭は賊の頭蓋骨を容易く食い破って脳髄を破壊し尽くす
割れたスイカの様に後頭部から血と脳ミソをぶちまける
次々と賊が糸の切れた人形の様に倒れていく……
暁はまるで射的をしているように淡々と射殺していった
「おい、耳塞いでおきな」
暁がそう言った直後、突然大きな音がした
あわてて耳を塞ぎ音のする方向を見た
大きく乾いた音……暁が妙な筒のような物を持っているが……
一体あれは何だ?細長い筒の先から火が出ている……?
それに鼻を刺す様な妙な臭いが
するが一体何だ?
コイツは何をしているん……だ
信じられない光景を目の当たりにした
馬鹿な……弓を放っている賊達の頭が弾けている……!
まさか!妖術か!?そうでなければ……
こうして考えている間にも次々と賊を葬っていく暁
この男は普通ではない……
得体の知れない恐怖が身体を支配していく
甘寧は無意識のうちに孫権の側に寄り守るように後ろに下げる
コイツはやはり危険過ぎる……
甘寧は更に暁に対する警戒心を強めたのであった
絶え間なく響く銃声と怒号
何処からそんなに湧いてくるのか?て思いたくなる程の賊
ひたすら弾幕を張り牽制するしかなかった……
バン!バン!バン!バン!カチン
スライドロックされ弾切れになるタボール
空の弾倉を投げ捨て忌々しく舌打ちする
切りがねぇ……このままじゃあ押しきられるのも時間の問題だっ
「おい!此処は俺が抑えるから逃げろ!」
弾倉をポーチから取りだしながら叫ぶように暁が言う
撃っても撃っても湧いて出てくる賊に形勢不利と判断した
くそったれ、数の暴力には敵わないか……
オマケに徐々に距離を詰められていやがる
銃1挺じゃあ火力が足らん!
いざ反撃をしようと身構えていると後ろが何やら騒がしい
おいおい……早く下がってくれないか
時間稼ぎも楽じゃあねぇんだよ
ガシャ、ジャッキン!
新しい弾倉を装填しスライドを引き
無防備に身体を晒す馬鹿な奴を撃ち抜いていった
【逃げろ】 この言葉が私の身体を、心を縛りつける
また逃げる、仲間を見捨て無様に逃げ出す
何も出来ぬまま……何もせぬまま……逃げる
嫌、嫌よ……絶対にっ
「嫌よっ!」
「蓮華様!奴の言う通りです!下がりましょう!」
「もう【家族】を見捨てるのは絶対に嫌よ!」
「蓮華様……」
甘寧は孫権の悲痛な表情に言葉を失う
それ以上、声をかける事が出来なかった
袁術の配下に置かれても孫家を信じて付いてきてくれた……
そんな部下達が命を捨て退路を切り開き
私を……生かしてくれた
私は……私はまた何も出来ないの……
此処まで来る間に部下を残し敗走して
そして……私はまた恩人を残し逃げようとしている
お母様や姉様なら……どうするのだろう?
目の前で闘う男の大きな背中を見ながら考えていると……
急にガシッと頭を撫でられた
ゴツゴツした堅い手だが……何故か凄く安心する
「心配すんな、こんな所で死ぬつもりはねぇ」
敵の方を見ながら暁が答えた
「でも……」
「お前達とはくぐり抜けた修羅場の数が違うんだよ、さぁ行け!」
そう言うと木から身体を半分出して射撃を開始した
「蓮華様!此方へ!」
「必ず……仲間を連れて戻るわ!必ず!」
半ば強引に甘寧に引っ張られながら孫権は離れて行った
「やれやれ、やっと行ったか」
フゥ~と深く息を吐いて……息を止め目標に集中した
光学サイトを覗いて敵の頭に照準すると躊躇いなく引き金を引く
薬莢が吐き出され硝煙の臭いが鼻につく
身を隠しながら次々と賊の頭を撃ち抜いていく暁だが……
ガキン!
「くそっ!ジャムった!」
連続射撃で銃に負担がかかってしまったか!
急いでスライドを引き挟まった薬莢を排除しようとするが
隙を見て距離を詰めた賊の数人が斬りかかってきた
即座にタボールを投げ捨て刀を捌き回し蹴りで吹き飛ばす
爪先が腹に食い込み吐血とゲロを吐きながら悶え苦しんでいる賊に
ジャンピングスタンプでとどめをしていると
後ろから斬りつけて来た奴を勢いを殺す事なく掴み背負い投げをして岩に叩きつける
更に地面の刀を足で蹴り拾い怯んだ賊を袈裟斬りに両断した
哀れ頭から真真っ二つになり臓物がドチャっと撒き散らされた
血を浴び悪鬼の如く仁王立ちする姿に賊達は皆肝を冷やし
ゴクリと生唾を飲み込んだ
「おもしれぇ……とことん殺ろうぜ」
装備を外し上着を脱ぎ捨てると黒いAM スーツが露になる
バキバキと人工筋肉が唸りをあげフル稼働の準備が整う
「ば……化け物だ」
誰かがそう呟いた
人間じゃあねぇ、人間であってたまるか
目の前の黒い男を見て誰もが思った
睨み合う1対多数
戦場らしからぬ静寂が不気味さを増す
暁が大振りのオリハルコンのナイフを取りだし構える
「ウオオオオオオオオオ!」
腹の底から響く様な雄叫びを上げて暁は駆け出した
「かかれぇ!!」
賊の大将であろう男の号令で一斉に矢が放たれ同時に刀を持った奴も突撃を開始する
唐突に静寂を破る咆哮
それを合図に戦闘は再開された
暁は両腕を顔の前にかざして矢を弾きながら突っ込む
雨の様に弓矢が降り注ぐが速度を緩める事なく突撃する
あっという間に距離を詰めると先頭の男の首をナイフで切り裂く
噴水の様に血が吹き出るが追撃の一撃を胴体に叩きこむ
間髪入れず顔に突き出された剣をナイフで軌道を反らしナックルガードで顔面をぶん殴る
ぐぇ!と一声だけ発し首から上がバラバラに吹き飛んだ
ふと弓兵が弓を構えているのが目に入りとっさに首なしの身体を片手で掴み盾にして姿勢を低くする
ズドドドドッ!
直後に大量の弓矢が雨の様に矢が降ってきた
グサグサグサと死体に矢が刺さる感触が伝わってくる
全く……下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとは良くいったもんだぜ……
針鼠の様な無惨な死体を放り投げると近くの奴等が怯んだ
チャンス!
両足に力を入れて木に回し蹴りを叩き込むと木の根元が粉砕し倒れ
棒立ちした数人を巻き込み下敷きにした
巨木は残り奴の退路を遮断するように倒れる
退路を断たれ1ヶ所に固まった所に手榴弾を投げこむ
「何だ?こ」
!!!!!!!!
一際大きな爆発音がしたが……何故だ?
パラパラと小石が降っている
砂埃が収まると其所には人間だった物が……
バラバラになった肉塊だけが残っていた
「いけね、これ破砕用手榴弾だった」
どうりで威力が強い訳だ
適当に投げては駄目だな、気をつけねぇと勿体ない……
ふと、暁は気がつく
何かがおかしい……静か過ぎる
大きな爆発で戦闘が一旦止まっていた
太陽は空に燦々と輝き場違いな程静かな森
木々の隙間から日の光りが射し込み舞い上がった砂埃が幻想的な光の道を映す
鳥のさえずりと死に損ねた奴の呻き声だけが辺りに響いていた
くそ……まだまだ随分残ってるじゃねぇか
木々や地面起伏で良く見えないが相当な人数が居る
弓を構える者、剣を握る者、槍を持つ者
暁と賊達が睨み合う
「さぁ……第2ラウンドだ」
額の布をギュッと絞め、覚悟を決めて駆け出す
己の死に場所を求め、猛者を求め、欲望のままに戦う狂戦士の如く
孤独な男の戦争が始まった……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煙と硝煙と血の臭いが鼻をつく
あれからどれだけ時間が経ったのだろうか……
疲労と出血で意識が朦朧としてはっきりと前が見えない
辺りの地面は真紅に染まり臓物、死体、武器などが散乱し
爆弾で吹き飛ばれた出来た穴や木々の弾痕が激しい戦闘を物語る
正に壮絶の一言に尽きる……そんな状態である
暁は大きな木に身体を預け座り込み空を見ていた
今が昼間なのか夜かすら分からない……
そういやぁ昨日からずっと動きっぱなしだ
「全く……年は取りたくないもんだぜ」
そう軽口を呟くと目の前が段々暗くなっていき
そのまま意識が遠のいていった……
「蓮華様!まだ危険です!」
「急いで思春!手遅れになる前にっ!」
手勢を引き連れ暁が殿で残った場所に戻っている孫権
腕利きの配下のほとんどを動員し暁との約束を果すべく先を急いでいた
しかし腹心である甘寧は複雑な心境であった
得体の知れない男……暁 巌
此処で死んでもらえば……始末する手間が省ける
孫家の厄災に成りかねない癌を手を汚さず処理出来るのだ
主人の思いとは裏腹にそう思っていた
「蓮華様……奴はもう死んでいるのでは……」
「2度も命を救われて……その上約束も破る恥知らずになれというの思春?」
「い……いえ!申し訳ありません!」
「血の臭いがするわ……もう直ぐよ!」
暫く進むと其所はまさに地獄絵図だった
血の河と死体、肉片、不自然に折れた木々や抉られた地面
もはや人間業ではない……化け物と戦したのではないか
その場にいた全員がそう思った
「こ……これ全部一人でやったのか?」
「すげぇ、ざっと見ただけで百人はいるぞ……」
兵士達が口々に呟く
辺りを手分けをして暁を捜索していると蓮華の目に見覚えのある巨木があった
もしかしたら……馬から降りて駆け寄ると
黒い鎧を纏った暁が火が出る筒を抱えて木に寄りかかっていた
「暁!大丈夫?!生きてる?!」
肩を掴んで凄い勢いでゆらしている孫権、少し遅れて甘寧もやってきた
「漆黒の鎧……まさか……!」
先程とは違う暁の身なりを見て驚いた
深緑色の服ではなく黒い鎧の様な物を着ている
黒い鎧、火の出る筒、大地をも抉る玉……
まさか……コイツがあの噂の天の御使いだと言うのか……!
甘寧は一人鋭い目で暁を睨んでいたのであった
頭が痛い……なんかガタガタ揺れて気持ち悪りぃ……
「誰だ……チキショウ……あ?蓮華か?何で此処に?」
「約束を果たしにきたわ暁、もう終わったみたいだけど……」
「次はなるべく早めに来てくれ……」
「受けた恩は必ず返すわ、孫家のな……きゃ!」
「若いのに堅いんだよ蓮華は、もっと気楽になれよ」
立ち上がった暁に頭をまた撫でられた
嬉し恥ずかしさから顔が真っ赤になっていく
自分でも良く分からない……感情が湧いてくる
「あ……ありがと……」
ようやく出た言葉は消えそう程小さな声一言だけ
だがしっかりと暁には伝わっていた
「そんじゃあ……帰ろうぜ?気張ったら猛烈に疲れた」
ふっとはにかみながら二人は笑い歩き出した
ようやく山から脱出できる
ボーみたいな事はもう懲り懲りだぜ
暁と呉の姫はこうして出会ったのだった……
後書き
脚が疲労骨折しました……
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