問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 あるお盆の物語 ⑨
「光也からの連絡ではこの辺りなんだけど・・・」
一輝は光也から伝えられた、神が出現した地点についていた。が・・・
「どこもかしこも火の海で、何にも見えねえな・・・」
そう、見渡す限りの火で覆われていて、上空からでは何も見えないのだ。
「まあ、光也が張った結界があるし、その下は無事なんだろうけど・・・原因が見つからないんじゃ、対処のしようもないしな・・・仕方ない。無理矢理引きずり出そう。」
一輝はそう言って倉庫を開き、その中に詰め込んでおいた大量の水を、砲弾のようにして乱射する。それはもう広範囲に、火の海を余すところなく。
結果、一輝に向かって大量の、炎の砲弾が飛んできた。
「死ぬ!これあたったら間違いなく死ぬ!久しぶりに操れないし!」
で、一輝は必死になってその砲弾を避けて避けて避け続け、避け切れそうになくなると同時に、
「吼えよ、ベル!」
「ウォォォォォオオオオオオオオオン!!!」
その火の玉に犬神の遠吠えが当たり、霧散する。
「悪い慈吾朗。助かった。」
「気にせんでよい。おんしのおかげで向こうさんが起きてくれた様じゃしのう」
慈吾朗が見る先では、広がっていた炎が一点に収縮していく。間違いなく、この炎の原因は一輝たちを認識している。
「あー・・・もしかして、向こうが寝てる間にどうにかするべきだったか?」
「相手が神である以上、それは間違いなく無理だろう。そもそも、どうやってあの炎に攻撃をする気じゃ?」
「確かに、それは無理だな。そして、向こうさんもあれ以上の攻撃は、この状態じゃできない、と。」
一輝はそう言いながら、倉庫から日本刀、その他形無き物を大量に取り出し、武装する。
「二人で勝手に始めようとするな。普通、こういうときはトップを待つものだろう。」
「お前が遅いのが悪い。」
「じゃのう。遅刻はよくないぞ、白夜。」
「命令違反者を二人ほど、連行していたのだ。仕方ないだろう。」
そして、第一席の白夜もあのバカ二人を光也に引き渡し、この場に到着。霊獣殺し三人が集合した。
「でだ。二人は神相手にどうなると考えている?」
「ワシは、一瞬でも油断したらその場で命が尽きると考えておる。ここまで派手なことが出来る神ならば、かなりの実力者じゃろうしのう。」
「まあ、この炎から大体の名前の予測は立ってるんだけどな。ちなみに、俺はこのメンバーならなんだかんだでどうにかなる気がする。」
実際、先ほど一輝は危険なところを慈吾朗に助けられている。
あのようにお互いがお互いを助け合えば、誰も死なずに倒せる、と言う考えだろう。
「それに、白夜が奥義を使えばかなりいい戦いに持ち込めるのは間違いないしな。」
「ああ、それだがな。まだチャージができていない。」
「オイ待て。そう言うことは前もって準備しておくべきじゃないのか?」
「・・・夜露が、だな・・・」
「相変わらずじゃのう。だが、将来はいい陰陽師になりそうじゃ。」
そんな話をしながらも、三人の目は収縮していく炎から離れない。
一切警戒は緩めず、お互いの状態を確認するためにこうして言葉を交わしている。
「・・・幾百年ぶりの顕現だろうか。それに、よく分からぬ結界で覆われておる。」
そして、炎が集まってできた人型の神は、そう言葉を漏らす。
「しかも、我が眠りを妨げるものがいると思えば、霊獣殺しが三人いる。」
そして、一輝たち三人を視界に捕らえ、明らかな戦意を見せる。
「では、我が眠りを妨げた罰と、霊獣殺しという存在。まとめて消させてもらおうか!」
そして、三人を余裕で飲み込めそうなサイズの火の玉を放つ。
が・・・
「雄々しく吼えよ、ベル!」
「ウォォォォォオオオオオオオオオン!!!」
今までのものとは比べ物にならないレベルの遠吠により、打ち消される。
「行くぞ一輝!」
「おう!」
そして、その隙に一輝と白夜は神に向かって走り出す。
「ここまでは来させぬぞ!」
「悪いんだけど!」
「そうも行かないのでな!」
神は二人に向かって火の玉を放つが、一輝は様々な無形物を足場にし、三次元でのトリッキーな動きによって避け、白夜は妖刀で切り裂き、先に進む。
そして、攻撃圏内まで入り込むと、
「鬼道流剣術、走交叉!」
「走斬!」
二人はその刀で神を斬る。
しかし、相手は神。二人の攻撃では表面を少し切る程度で止まった。
「な、これは・・・」
「その程度か、陰陽師よ!」
白夜が切れなかったことで一瞬固まり、神がその隙に攻撃をしようとするが、
「ぼけっとすんな、白夜!」
一輝がすんでのところで白夜をつかみ、その場から離脱する。
「ああ・・・すまん、助かった。」
「そう思うんなら、もうぼけっとしないでくれ。かなりギリギリのところだったんだからな。」
そう言う一輝の服は若干こげている。一瞬火がついたところに慌てて水をかけたのだ。
「どうじゃ二人とも。勝てそうか?」
「普通に考えたら無理そうだな。今の攻撃が一切効いてなかった。」
「だな。やはり、あれが使えないのでは無理があるか・・・」
白夜が妖刀を見て唇を噛む。
「とはいえ、この場を投げ出すわけにも行かんしな。おそらく、一人でも離れたらその瞬間に負ける。」
「じゃのう。はてさて、どうしたものか。」
「まあ、まず一番の目標は白夜の奥義を使える状態にすることだよな・・・となれば、最善の策は・・・」
一輝はそう言いながら辺りを見回し、最後に神を見る。
「あの炎のせいでこの辺りには妖怪がいないし、ひとつしかないよな。」
「じゃのう。となると、作戦も一つのみか。しかたない、光也には少々無茶をしてもらうとしようかのう」
「すまんな・・・俺がしっかりと管理をしていなかったばかりに・・・」
「そう思うなら、白夜は今回、これ以上の失敗禁止な。」
一輝は神相手に少々無茶なことを言いつつ、飛んできた火の玉を避ける。
当然のことだが、相手がこうして話している間に攻撃してこない道理はない。
ここまでの会話も、飛んでくる火の玉を避けながらのものだ。
「やけに身のこなしがよいな・・・人間。貴様らの名を教えよ。」
「面倒だな・・・どこに教える義理がある!」
「神の攻撃をここまでかわし、我に二太刀刻んだものたちだ。気になって当然であろう?」
どこまでも自分中心な考えにうんざりしながら、三人は名乗りを上げる。
「寺西一輝。白澤殺しで、家の名すら失った半端者。」
「犬神慈吾朗。牛頭天王殺しの、現犬神家頭首じゃ。」
「夜刀神白夜。武鳥夷殺しの、現夜刀神家党首。」
そして、三人が名乗ったことで、神も名乗る。
「では我も名乗りを上げようか!我が名はカグツチ!日ノ本の火の神よ!」
こうして四つ目の、最も大きな戦いが、始まった。
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