フェアリーテイルの終わり方
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開幕前 湖底の亡霊
前書き
妖精は湖底の住人に出会う
水色のネグリジェをゆらめかせて、少女は湖の底へ底へと沈んでゆく。
沈む。沈む。沈む。冷たい水の奥へ。暗い水の深みへ。
(これでいいの。もともと はパパにはイラナイ子だったから。パパはお姉ちゃんだけいればいいから)
幼い少女が知っていたのは二つ。
少女が望まれて産まれた子ではないコト。
父親が少女を憎んでいるコト。
だから、ついに、やっと、少女はこうして湖に己を葬ることを選んだ。
(……おねえちゃん……ぱ、ぱ……)
最期まで父と姉を無垢に慕い、湖底の骸になるはずだった少女は。
ふわ、と差し伸べられた透明な両腕によって、そっと抱き留められた。
“大丈夫? ……って訊くのもおかしいね”
少女を抱き留めたのは、青年だった。
父よりは幾分か若く、父よりずっと優しそうな青年。ツンツンと跳ねた黒い髪。琥珀色の目。水の中でゆらゆらと浮く白衣。
本来人が生息できるはずのない場所に青年が居ることを、少女は疑問に感じない。幼い感性にとってそれは不思議でも何でもなかった。
“どうしてこんな所にいるんだい。ココは君みたいな子が来ていい場所じゃないのに”
見た目を裏切らない、優しい声。
( 、いちゃめーなの?)
“そうだよ。だから早くお家にお帰り”
家。自分をイラナイと言う父親がいる、家。
(かえれない。かえったらパパにおこられる)
“怒られる……パパに?”
すると青年は厳しい面持ちで考え込んでしまった。どうしよう、困らせた、と少女は怯える。青年も父のように少女にイナクナレと願うのだろうか。
そんな。ココを追われたら今度こそ少女に行き場はないのに。
“一つ聞かせて。君のパパは、黒いスーツを着て、いつも仮面を着けてる人?”
こくん。
“その人が、君が家に帰ると怒るの?”
こくん。
今日の出来事だ。少女は水際の花を摘もうとしたが、届かなかった。代わりに姉が花を摘もうとして、湖に落ちた。それを父親に咎められて少女は折檻された。
そもそも家へ来た日から父親は少女を疎んでいた。家に母親がいないのは少女のせいだと父親に言われたことがある――
語る内に青年の顔から厳しさが消えていった。けれど代わりに悲しみが青年へとやって来た。
青年は両手で顔を覆って体をくの字に折った。
“そ、んな…… …君は何てことを…こんな小さな子…せっかく授かった新しい命を…君は…”
少女は慌てて青年に謝った。謝って、許しを求めた。
(ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、わたしがキズつけてしまったならアヤマルから、だから)
どうかココから追い出さないで。
“ちがう…違うよ。君のせいじゃないんだ…君は悪くないんだよ……ごめん、ごめんね…”
青年の両腕が再び少女を抱いた。人生で一度も抱擁された経験がなかった少女は、青年の腕が氷より冷たいことも気にせず思いきり青年にすり寄って甘えた。青年はさらに少女の頭もなでなでしてくれた。少女はますます青年がスキになった。
“本当に取り返しのつかないことをしてしまったんだね。僕らも、彼も”
(カレ、は、パパ? あなたはパパのなに?)
“トモダチだよ。いや、トモダチだった、かな。僕だけじゃない。みんな君のパパのトモダチだったのに”
青年がふり返った先には、藻に紛れてしまいそうなほど水底と一体化した、黒い煙がぶわぶわと広がっていた。黒い煙は時折思い出したようにカタチを成した。
それは女の子の嘆きの目であったり、懺悔を求める老人の手であったり、少女の父親に呼びかけるだけの男の口であったりした。
(アレ、みんなパパのオトモダチ?)
“そうだよ。最後まで残ったのは僕だけだった。僕らがこわい?”
(よく、わかんない。でも、 ももうすぐナカマイリすると思うから)
“……だめだよ。君はこんなとこに入ってきちゃいけない”
青年が少女の顔を固定し、額に額を重ね合わせた。
“この力が少しでも君の助けになりますように”
後書き
性懲りもなく第二作目連載に入りましたあんだるしあです。
たまに自作タイトルを検索すると評価が載っていたりして一日中舞い上がるあんだるしあです。
今回もまた性懲りもなく捏造子世代です。といってももう誰の子かはバレな気がします
もう一度最初からエクシリア2を、前作とは違うテイストでやるのは大変ですが、それでもやってしまうのが物書きの性でしょうか。さささっと上げてしまいました。
今回は前作オリ主のように秘密秘密の子ではなく、内面もきちんと等身大に成長していくストーリーになればと思います。
皆様の応援を心待ちにしつつ。
あんだるしあ
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