久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十八話 大刀その三
「残念だけれどね」
「それは何よりです」
高代はコズイレフのその言葉にまずは安堵した様に言葉を出した。
「私にしても」
「ということは貴方は」
「はい、私も今の攻撃で力を使い果たしました」
見れば顔から汗を滝の様に流している、力が尽きたことは明らかだった。
「今はこれ以上は戦えません」
「そうだね、それで」
コズイレフは大石も見て彼に問うた。
「神父さんでいいよね」
「はい」
カトリックだからそれでいい、大石はコズイレフに答えた。
「そうです」
「神父さんもかな」
「そうです、私もです」
その通りだと言うのだった。
「今の攻撃で」
「力を使い果たしたね」
「ではこれで」
大石から言った。
「今日は終わりですね」
「うん、また今度だね」
コズイレフは素朴な口調で大石に答えた。
「会おうね」
「ところで」
高代はコズイレフが去ろうとしたところで問うた、コズイレフもその言葉を受けて踵を返そうとしていた足を止めた。
「お聞きしたいことがあるのですが」
「何かな」
「貴方の戦われる目的ですが」
問うのはこのことについてだった。
「それは一体」
「皆と幸せになりたいからだよ」
「皆さんと」
「家族の皆とね」
それでだというのだ。
「ずっと幸せに過ごしたいからね」
「国家や権力やお金の為ではないのですね」
大石もコズイレフに問うた。
「そういったものの為では」
「そういったのには興味がないんだ」
「そうなのですか」
「うん、僕はモスクワに生まれてね」
生まれ故郷の話も出た。
「お父さんは工場の労働者、お母さんは主婦でね」
「普通の家庭に思えますが」
「うん、普通だよ」
至ってだというのだ。
「僕も弟や妹達も普通に育っているよ」
「それで何故剣士に」
「普通だからね。普通のままで幸せに暮らしていきたいんだ」
これが彼の望みだというのだ。
「平凡にね。何も嫌な騒ぎのない幸せな家庭のままでね」
「そのままでいたい為に」
「そうだよ、僕は戦うんだよ」
「そうだったのですか」
「喧嘩とか戦いは好きじゃないけれど」
それでもだというのだ。
「僕は家族の皆とずっと幸せに過ごせるのなら」
「戦われますか」
「そうするよ、絶対にね」
「わかりました」
「僕が戦う理由がだね」
「それがです」
わかったというのだ。
ページ上へ戻る