【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第六十幕 「因果応報の彼方」
前書き
今回は長いです。多分このシリーズで一番長いと思います。軽く魂削りました
2/19 誤字、ミス修正
前回のあらすじ: ※繰り返しますが作者はシャルロットに恨みがあるわけではありません
シャルは知っている。簪の判断能力が鈍っていることを。
シャルは知っている。勝負の流れが向こうに傾きつつあることを。
シャルは知っている。鈴の切り札とやらが自分を打ち破るに足る物であることを。
だがそれでも尚、シャルは笑顔でこう言うのだ。最後に勝つのはこの僕だ、と。
鈴が双天牙月を盾のように構えながら瞬時加速を使用する。シャルが可能性として考慮していた3通りのミサイル突破方法の内の一つだ。1つ目が衝撃砲を使用した強行突破。2つ目が事前にミサイル対策に用意していた武装類による状況打開。3つ目がいま彼女が行っている方法。甲龍は確かに防御力も高いが風花の様に物理的に衝撃を和らげる装備は無い。だからどうあってもミサイルは潜り抜けなければならない。つまりその時点で彼女の行動は絞ることが出来る。
爆音、硝煙。煙を突き破って姿を現す紅の装甲。
あの剣は随分丈夫なようでミサイルの爆発を受けても原形を保っているようだ。が、そんなことは予想通り。シャルは既に甲龍が瞬時加速で速度を保てる距離を完全に見切っていた。だからミサイルの弾幕を突破したところでタイミングと距離を誤らなければ何の問題もない。CⅡにはまだ結構な量の弾薬が残っているから弾切れの心配はないし、ユウは簪の相手で手一杯だからこちらにちょっかいを出す余裕はない。勝利のラインは完成しているのだから、焦る要素も最初から存在しない。
ただ作業的に距離を測り、機械的に後退し、事務的に高速切替で武器を“グレムリンチェイサー”から“ムーランナヴァン”に切り替える。同時にスラスターを操り必要な距離だけ後退。彼女は距離を詰めることとミサイルを掻い潜ることを両立させなければ勝ちへたどり着けないが、僕は武器を展開して後退するだけでこの戦いに勝てるんだ。
「残念だったね、鈴?」
「残念なのは、アンタの方よ、この残念美人!!」
瞬間、ISが警告を放つか放たないかの刹那の瞬間に背筋が凍りつくような悪寒が走った。シャルは弾かれるように急速回避機動を行い、撃墜のチャンスを棒に振る。僅か一瞬感じた違和感を呑みを根拠に回避動作を取ったシャルは、次の瞬間自分の判断が正しかったことを悟った。同時にそれが自分の簪から聞き出した“切り札”ではない事に驚愕する。
―――その瞬間、観客たちは、シャルは目を疑った。
彼らは見てしまったのだ。
甲龍の非固定浮遊部位、“龍咆”・・・
・・・その隣に、何故か先ほどまで“風花”が従えていたはずの浮遊部位“鳴動”がふよふよ付随し、粒子砲をぶっぱなしている所を。
「「「「「な、なんじゃそりゃぁぁぁーーーーー!?!?」」」」」
誰もがそう言った。大人も子供もお姉さんも、大統領や大富豪でさえ全く同じセリフを吐いた。だってそりゃそうだろう。ISの非固定浮遊部位はIS本体のPIC値と言う設定で常にその稼働空間と方向を定められているのだ。間違っても「やべ、付いていくIS間違えちゃった♡」なんてことは起きないし、武器の様にホイホイ譲渡できるものでも断じてない。
では、何故にこのような事態が起きているのか?それはギャグなどではなくれっきとした理由があるはずだ。
時は、3日前に遡る―――
「ねぇ、鈴」
ホロボード(ホログラムキーボードの事)をタップして切り札の調整をしていたユウがぽつりと隣の鈴に話しかけた。
「なによ、アタシ今忙しいんだけど」
「僕だって同じくらい忙しいよ。いいから耳だけ傾けてね?」
同じく猛スピードでホロボードをタップしている鈴が顔を向けずに続きを促す。彼女もまた切り札の調整をしていたが、二つの策の内一つがアリーナでとった実戦データを用いても3日では形にならないと躓き、もう一つの方を優先で調整していた。
態々このくそ忙しいときに意味のない問答をするほどこの男は馬鹿ではない。だから作業はそのまま耳を傾ける。
「シャルの下に簪がいる・・・ってことは、僕達の手札切り札もシャルにばれる可能性あるよな」
「そりゃ・・・確かにね。で?」
「だからこっちも切り札出すまでに何枚か向こうにとって予想外の札を用意するべきだと思わない?」
「一理あるわね。で、具体的にはどんなの?」
奇策を考えさせるなら鈴よりユウのほうが得意分野だろう。実際一夏との試合では随分器用な立ち回りを見せていたことを覚えていた鈴はユウに策の内容を丸投げした。どっちにしろ提案してきたという事はいくつか考えがあるに違いない。
「そうだね・・・例えば風花の武装を最初からそっちが持っておくとか」
「・・・アンタのISの武装ってイロモノばっかじゃん」
「対IS手榴弾をしこたま投げつける」
「撃ち落とされたら目も当てられないわよ?却下」
「甲龍が風花を抱っこして移動砲台。龍咆、鳴動、残り4本の手に火器を・・・」
「究極的にダサいから却下。風花が後ろだから噴射加速が使えるのが微妙にムカつくところね」
よくもまぁ訳の分からない策ばかり思いつくものだ。こっちはドッキリをしに行くわけではないのだからもっと他にないのだろうか。
「非固定浮遊部位って使用許諾して譲渡出来ないかな?」
「・・・・・・・・・何所から捻り出したのよその発想」
非固定浮遊部位は立派な機体の一部とされる。ただし腕や足などの密接部分の展開と異なり、非固定浮遊部位だけは拡張領域と同じ領域に量子化されている。つまり機体の拡張領域は元の容量-(マイナス)非固定浮遊部位という数式が成り立つ。ラファールが大きな拡張領域を確保できているのも非固定浮遊部位を廃止した構造を取ったことが大きい。
要約して重要な事だけ言うと、非固定浮遊部位はデータ的な視点から見れば通常武装と同じエリアにいる訳だ。だから可能不可能で言えば・・・PIC固定値をあらかじめインプットしておけば―――可能だった。
―――そして現在
「これは推進機能碌にないから風花から貰っちゃっても問題なし!非固定浮遊部位にはそれ自体にバランサー機能もあるから機動も安定する!!」
「・・・すっかり忘れていたよユウ。そういえば君は承章と同じ血が流れてたんだったね・・・」
しかしこの組み合わせは笑ってしまうほどに有効な手だ。飛び道具が2つから4つに増えるばかりか、彼らが初戦で見せた合体攻撃も一人で行えるようになる。エネルギーの問題もあるが、どうにもユウは鈴のためにシールとエネルギーをいくらか鳴動に乗せてプレゼントしたようだ。何所までも憎い演出だが、ただでさえ不利なのにさらにエネルギーを減らすとは馬鹿としか思えない。
その馬鹿の思い付きが、シャルの計算を決定的に狂わせてしまった。この距離、鈴は間違いなく“アレ”を使ってさらに距離を詰める気だ。だが、それでもシャルの自信は一ミリたりとも揺らぐことは無い。それは、自分の技量への絶対の自信と執念。たとえここから追いつめられても必ず逆転”する”という恐ろしく固い意志が、シャルの平静を確りと支えていた。
そしてついに、その時がやってくる。爆風に煽られスライドアーマーが破損して尚動き続ける”龍咆”の発射口が定められるままに狙いを定めた。―――真後ろに。
瞬時加速とはエネルギーの爆発による加速。ならば衝撃砲のエネルギー性質を弄って「砲身内で爆発させると」・・・どうなるだろうか。そう、そこには疑似的なスラスターが完成する。
これが鈴の切り札。瞬時加速から減速せずにさらに距離を詰める、つまり瞬時加速の飛距離を2倍に増やす掟破りの二段加速方。その名も―――
「衝撃加速!!いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
本来攻撃にしか使えないはずの武装が内包していた全く別の可能性。二つの砲身が同時に火を噴き、甲龍はその速度を落とさずトップスピードを保ってシャルに肉薄した―――
―――かに見えた。
あ、と観客の誰かが声を漏らす。
その言葉こそが、鈴にとっての絶望でありシャルにとっての通過点の一つを現していた。
鈴が衝撃加速を行うのと寸分の狂いもなくピッタリのタイミングで―――シャルは機体を翻し、後方を向いて瞬時加速を発動させた。
衝撃加速は瞬時加速よりわずかに飛距離が短い。それは想定された使い方ではない事と調整不足が相まっての事であり、事前に調整をしていれば何とか解決できた問題点。そしてシャルの瞬時加速と鈴の衝撃加速が同時タイミングで発動したのならば、鈴は、シャルとの距離を詰めることが出来ない。
「分かってたんだよ、悪いね鈴。・・・アデュー」
既にシャルは“ムーランナヴァン”の照準をこちらに向けている。給弾機構がまるで風車のように見えるそのミサイルガンは、その引金と共に甲龍の装甲を打ち砕かんと発射される―――筈だった。
しかし、現実にはそれは起きなかった。シャルがミサイルを発射しようと照準を定めた正にその瞬間、甲龍が更に加速したのだ。空を裂き猛然と風を食まんと牙を剥くように、それは未だシャルを追い続けていた。
「なっ・・・!?」
有り得ない。そう考えたシャルはそこであることに気付いた。瞬時加速が連発できないのはエネルギーチャージの時間を確保できない事にその主たる原因がある。ではもしも。もしも鈴が「衝撃加速と同時に通常スラスターのチャージを始めていた」としたら。そしてそれが間に合ったとしたら。
「カーテンコールには早すぎる。だって、アタシとアンタのドッグファイトが始まったのは―――
今、この瞬間なんだからッ!!」
甲龍は・・・エネルギーと体力の続く限り、無限にトップスピードを保つことが出来る―――
――― 交互加速を可能とする。
迫る鈴の目を見る。いつでも眩しくて直視するのが辛いほどに真っ直ぐな瞳は、今日もぶれることなくたった一つの未来を映していた。撃破、勝利。今でもいつ隙を見せて敗北するかもわからない、ISだって決して軽傷とは言えない損傷を負いつつあるのに、彼女は”そんな些事は気に留めていない”。
それは打算まみれの戦闘を行っていたシャルとは対極に位置する思考で、しかし力で奪い取ることの出来る確かな”勝利”の二文字を掴み取ろうとする気迫は、理屈をこじ開ける無限の可能性を垣間見せた。
「凄いよ鈴・・・素直に賛辞の言葉を贈らせてもらうよ・・・・・・
・・・・・・でも!それでも!!最後に勝つのは僕なんだよッ!!」
シャルは知っている。既に甲龍のシールドエネルギーは度重なるミサイルでレッドゾーンに差しかかる寸前だったことを。風花から幾らエネルギーを貰ったかは知らないが、そう多くは渡せなかっただろう。つまり、交互加速を使い過ぎると鈴はこちらに止めを刺す余力など無くなる。それがシャルの導き出した残酷な真実だった。
そしてシャルには未だ鈴から距離を離す手段が存在していた。度重なる機体のカスタムとフレキシブルスラスターが齎した、リヴァイブ以外にはアメリカの試作機にしか実現不可能な大技。そして―――「もしかしたら鈴はまだ何かするかもしれない」と心のどこかで疑い、事前に仕込みをしてあった最高の曲芸。成功確率は40%を切ると言われる超難度加速。
「言ったでしょ、場数が違うって・・・僕にも奥の手はあるんだよぉ!?『個別連続瞬時加速』っていうとっておきがぁぁぁぁ!!」
先ほどシャルは瞬時加速で後退する際に4つのスラスターウィングのうち一つだけで加速を行っていた。それこそが布石。4つのスラスターにチャージしたエネルギーを任意のタイミングで次々に開放することで4段加速を可能とした世界レベルの難易度を誇る加速法である。
シャルの勝ち誇った顔が鈴の瞳に映る。まただ。また彼女に届かない。これだけ手を尽くしても出来ないのなら、いったいこれ以上何をすればいい?鈴は己の胸に内に自問し、即座に回答を弾きだした。
「このッ・・・ここまで追いすがってもまだ札を持って・・・ッ!負けるかぁぁぁぁぁッッ!!!」
考えている暇があったらさっさと追いすがれ!!それこそが、彼女の導き出したシンプルな答えだ。
ラファールが2段目の加速を行うと同時に甲龍が再び衝撃加速を使う。衝撃砲への負荷が看過できないレベルに達しつつある綱渡りの追跡。
3段目と瞬時加速。互いの機体が想定していない加速に悲鳴を上げるが、もはやここまで来て後退するという選択肢は存在しない。
4段目と衝撃加速。2回の衝撃加速でラファールは若干ながら鈴と距離を離していた。目算にして1メートル弱、射撃戦においてはさしたる問題にならない開きだ。
シャルに5段目の加速は無い。対する鈴には瞬時加速が残されている。
だが、ここで甲龍のハイパーセンサーに無情なる警告が鳴り響いた。
《シールドエネルギーがレッドゾーンに突入!!》
「あはっ!馬鹿みたいに加速するから!!」
「馬鹿で・・・悪かったわねッ!」
鈴はシャルの言葉に静かに俯いた。甲龍のシールドエネルギーは残り50弱。ラファールCⅡのシールのエネルギーは残り500強。既にこの差は埋まらない。『龍鳴鼓咆』も既にエネルギーが足りないため使えない。この勝負―――既に勝敗は決していた。
「そんな馬鹿だから、武装が馬鹿みたいでも許してよね」
「――――!?」
そう、既に鈴には―――勝利の道筋が目前に迫っていた。シャルが見せた一瞬の慢心を全て突き崩すために、”それ”を瞬時加速と同時に振り抜いて、トリガーを引いた。
ゴ ガ ン ッ ! !
「あがっ・・・か、はっ・・・!?」
言葉にならない嗚咽。シャルの身体が”く”の字に折れ曲がる。甲龍の右手に音もなく展開されていたそれはずっとその出番を待っていた。
後付型炸薬式鋼貫手“義聖”・・・ユウからもらったプレゼント。鳴動とは別に「最初から」受け取っていたそれは瞬時加速の運動エネルギーを乗せてにシャルの腹に叩き込まれ、六九口径パイルバンカー「灰色の鱗殻」を上回る衝撃を炸薬と共に爆発させた。
伏せていた札が1枚とは一言も言っていない。武装交換の案を却下したとも言っていない。つまりはそういう事だった。甲龍のある程度余裕のある拡張領域には風花の武装が試合開始時点で既に納まっていたのである。
直撃と共にシールドエネルギーが大きく減少する。灰色の鱗殻・・・俗称シールドスピアーは連続で直撃させれば並のISのシールドエネルギーを根こそぎ持って行くほどの破壊力を発揮する。今の一撃は威力を上昇させる条件がいくつか重なった結果、のべ150のシールドエネルギーを瞬時に消滅させた。これでラファールCⅡのエネルギーは初期設定値の半分を切る。
ただ、シャルは機体と“義聖”の間に高速切替で弾を撃ち尽くした“グレムリンチェイサー”を盾代わりに滑り込ませていた。結果として粉々に砕け散りはしたが、それでもこの咄嗟にしては上出来な防御のおかげで僅かながら衝撃を吸収できた。その“わずか”が・・・シャルにとっては十分すぎる時間になる。
機体を襲うバンカーの衝撃に全身を振り回される中でもシャルはその手を鈴に向けていた。その手に・・・ガトリングミサイルランチャー“プロミネンス”を出現させる。それはいついかなる状況でも敵を攻撃する手を完全に失わないための執念の形の一つ。
会社のために。夢のために。鈴にはここで、砕け散ってもらう。
「・・・勝つんだ僕は・・・証明するために、勝つんだぁぁぁーーーーーッ!!!!」
高速切替の利点は展開の速さはもとより、展開直後に発射できるという切り替え後のアクションの速さにある。通常なら展開から発射まで若干のラグがあるガトリングと言う兵器も展開した時点ですぐさま弾を発射することが出来るのだ。
量子化を終えて姿を現した”プロミネンス”の砲身はすでに回転を開始しており、その回転が「残念だったな」と鈴を嘲笑った。
鈴は思わず天を仰ぎそうになった。
ここまで食らいついて、ここまで足掻いて、ここまで追いすがってもなお・・・シャルは強い。この戦いで確信したが、シャルの実力は明らかに他の代表候補生たちに比べ抜きん出ている。おそらく学園内の2,3年生を含めても殆どの代表候補生を大きく突き放す卓越した技量と判断力。1年生最強と名高いセシリアでもシャルに勝てるかは分からない。場数、と言っていたが彼女のそれはまるで十年以上空を飛び続けていたかのような動きだった。
“義聖”を振り抜いてから戻すまでの刹那の間にシャルは武器をこちらに向けた。さしもの衝撃加速もここで瞬時に機体を別方向に加速させられるほど器用な真似は出来ない。あとはもう、奇跡でも起きなければ避けられない。そう考えざるを得ない状況に陥った鈴は、非常に不本意ながら所在も存在も分からない神様とやらに祈ってみることにした。
天からの贈り物でもなんでもいいから、アタシを勝たせられる”何か”を――――
「ちょっと失礼するよ」
「あっ―――」
「えっ―――」
言葉を発するのはほぼ同時だったろう。
ガァン!!とラファールCⅡに衝撃が走り、“プロミネンス”の発射が中断された。衝撃による暴発を防ぐために安全装置が働き、その瞬間だけ“プロミネンス”の銃爪が固定される。ある種それは誘爆の危険性があるミサイルを扱うがために安全性を重視したことが生んだ悲劇だったのかもしれない。
それは偶然半分、故意半分の出来事だった。シャルと鈴が空中で壮絶な連続加速を繰り返していたころ、既にユウと簪の勝負は決着を迎えていた。代償としてシールドエネルギーを使い切り、戦闘不能になったユウの風花は本来ゆっくりと地表に降り、そのまま審判員の指示に従って退避するはずだった。
競技用ISのシールドエネルギーはMAX750とルール決まっているが、実際には表示されない余剰エネルギーが存在する。でなければエネルギー切れで落下、若しくは不幸な事故で操縦者に大怪我を負わすような事態が起きた時に対応できないからだ。その750のエネルギーが無くなった際にその余剰エネルギーを納めたENセルが起動する仕組みになっている。・・・のだが、ここで問題が起きた。
風花のENバイパスが激しい戦闘で一部破損したため余剰エネルギーが流出、結果として落下速度を緩めるための措置ではなく絶対防御維持に努めなければエネルギーが足りず操縦者を守れないと判断したISが、着陸用の減速PICコントロールを全カットしてしまったのだ。そしてその落下の途中、どうにも鈴がピンチに見えたユウは空中で器用に方向転換をし、結果として・・・・・・ラファール・リヴァイブCⅡに自由落下式体当たりを敢行したのであった。
なお、既に戦闘不能判定を受けたISが故意に戦闘に参加するのは立派な反則行為なのだが、生憎シャルと鈴が激しく移動しまわった結果偶然ユウの落下ルートに引っかかっただけとされ故意とは認められなかった。
・・・辛うじて、が文頭に付くが。
まぁ、何にせよである。思わぬ空の贈り物は、シャルの勝利という筋書きを根元から折ってしまったようだ。
「駄目じゃないシャル・・・チームマッチなんだからこういうのも想定しておかなくちゃ!!」
「こんなのって・・・ありなのぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
そんな隙を晒しては格好の的になる、そんなことは確認するまでもなく分かりきったことだった。鈴は“義聖”を投げ捨て、その手に25m特殊鋼アンカーワイヤー“鎌首”を握り、投擲。まるで本物の蛇の様にうねりながら空を切った“鎌首”はラファールCⅡのフレキシブルスラスターを器用に縛り上げる。途中でそれを撃ち落とそうと動いた腕も纏めて拘束し、シャルは完全にその動きを封じられた。
こうなってしまえばミサイルも形無し、背部コンテナからミサイルを撃つことは可能だが、文字通り手綱を握られていては当たるものも当らない。必死でもがきながらヒステリックに叫ぶシャルの姿はいっそ哀愁を感じさせた。
「これは何かの冗談だよね!?嘘だ、こんな!こんな間抜けな敗北は嫌だぁぁーーーーーーッ!!!」
「安心しなさいシャル・・・アンタには一番相応しい敗北を与えてあげる」
「僕に、相応しい・・・!?」
完全に形勢が逆転した鈴は嗜虐的な笑みを浮かべながら“鳴動”をポンポンと叩く。
「荷電粒子砲ってさぁ・・・中に入ってる粒子加速器で荷電粒子を加速させて発射すんのよねー」
その言葉と同時にラファールCⅡがシャルに警告を送る。
《“鳴動”内部に異常な粒子加速を確認 臨界突破の恐れあり》、と。
「じゃあさ、発射しないで中身をずーっと加速させたらどうなると思う?」
そんなのは決まっている。加速器が負荷に耐えられなくなり内部から・・・そう考えた所でシャルは漸く鈴が何をしようとしているのか気がついた。だが世の中には分かったところでどうしようもない事と言うのが存在する。例えば、目の前で起きている事の様に。内部の粒子加速は止まらずどんどん“鳴動”そのものの熱量が増加してきている。既にキャパシタを開放しても反動による自壊は免れないほどに。
「それをISに全力でぶつけたとなれば、さぞかし面白い光景が見れるでしょうねぇ?・・・どうしたのシャル、ここは笑う所なんだけど?」
「は・・・はは・・・」
「ノリがイマイチね・・・まぁいいわ。それで、実は“鳴動”に面白半分で簪のマイクロミサイルの誘導システム組み込んだことがあるのよ。これが思いのほかよく飛んでねぇ・・・」
懐かしむように語る鈴とは裏腹に、いつ爆発するかもわからない二つの爆弾を突きつけられたシャルの恐怖も加速する。あれはいつ自分に放たれる?あれを食らうと自分はどうなる?そもそもあれはいつ爆発する?1秒先か、10秒先か、それとも1分先か。目の前でひたすら風船を膨らまされるような、いつ訪れるともしれない恐怖に涙を浮かべるシャルを見た鈴は満足したように手を翳す。
今回はこの辺で勘弁してあげよう。―――脅かすのは。
脅しは脅し、罰は罰。勘弁すると言ってもお仕置き自体は一切やめる気などない。エネルギーが臨界を迎えた“鳴動”は、鈴の指示に従う様に真っ直ぐシャルの方を向き―――
「ミサイル大好きなアンタのためにとっておきのオシオキよ。多分世界一高価なIS用ミサイルだから、その身で存分に威力を味わってね?」
「ま、待って、そんな大きいの叩き込まれたら・・・!やめて、やめてよ鈴!!」
―――非情にもPICによる固定から解放され、二筋の矢と化した。
「再见、シャルロット!」
「壊れる、壊れちゃうよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!」
粒子加速機丸々二つを使用した人類史上初の粒子加速爆弾は、まるで初めからそう造られたミサイルの様な弾道を描きながら涙を流して逃れようとするシャルの下へ奔り、着弾と共に臨界を突破、滅ぼすべき敵をその身と代償に吹き飛ばした。
ゴバアァァァァァァァァァァンッ!!!
木端微塵になったのではないかと疑いたくなるほどの閃光と衝撃に、拘束されたシャルが耐えられる筈もない。悲鳴ひとつあげる間もなく彼女の意識は粒子と爆炎の中に消えた。
IS同士の試合で操縦者が意識を失った場合、通常は戦闘不能と見做される。無論、例えラファールCⅡにシールドエネルギーが残っていても。よってこの瞬間、シャルロットの脱落が決定した。
《勝者!残間・凰ペア!!》
「アタシ達の・・・勝利よ・・・!!」
高々と掲げられた甲龍の右腕は、その日の中国で新聞の夕刊の一面を飾ることとなる。
その大見出しにはこう書かれていた。『年轻的龙吼道(若き龍が吠えた)』、と。
後書き
対シャルロット戦、これにて終幕。ジョウの話を差し引いても5話分は文字を使いました。
戦闘場面書いててつくづく思うんですけど、自分ちょっと奇策使い過ぎなんじゃなかろうか?実力全開のガチバトルって一夏・箒戦の途中まで位だよね?
それはそれとして、年末年始は忙しいんでこれから来年の2月初めにかけて更新のペースがさらに落ちます。気合入れて本筋書く→疲れる→茶番→新しい展開思いつく→長引く→気合入れて(ry
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