気まぐれな吹雪
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第一章 平凡な日常
10、なんやかんやと大騒ぎ
ヅーッヅーッヅーッヅーッ
金属同士を擦ったような、耳障りな音が、真っ白い世界に響く。
その中を、疾走する人物が一人。
「大変だぁーーー!!!!」
雲雀恭弥に何処と無く似ている銀髪の青年。
彼の特徴とも言える糸目は、今や普通に開かれ、むしろ怖い。
そんな彼、銀はとある人物のもとへ向かっていた。
「漣志~~~!!!」
勢いよくドアを開ける。
そこには、赤い髪の少年がパソコンに向かって座っていた。
凄まじい音に驚いた彼は、つけていたヘッドフォンをはずし、銀を見上げた。
「せ、せせセンパイ!? どう……したんスか……?」
「どうしたもこうしたもねえよ。お前、この警報が聞こえるか?」
ヅーッヅーッヅーッヅーッ
「は、はい」
「これ、なんの警報か解るか?」
「いえ……そこまではちょっと……ああ! パソコンのデータ消さないでください!」
答えを聞くや否や、すぐさま銀は漣志のパソコンのデータを削除し始めた。
その足にしがみつく漣志。
銀は、ちらりと彼を見ると、マウスから手を離した。
「お前、この間召喚魔法受けたよな?」
「3月のっスか? 受けましたよ」
ちなみに、漣志は魔法陣で呼び出せる神。
呼び出した人物を主とし、その願いを3つ叶える使命がある。
言わば、ランプの魔神的なやつである。
でもって、漣志は銀の直属の部下である。
「でさ、その召喚者どうした?」
「リボーンの世界に行きたい。生徒会長になりたい。マフィアとして力がほしい。ていう願いを聞き入れたっす」
「そんとき、送り込む世界確認したか?」
「………………(;¬ _¬)」
ピッ ガシャコンッ ピー
「初期モードは止めてくださいィィ!!」
大号泣の漣志だった。
「そいつを送ったその世界、オレが既に別のやつを能力付加して送り込んでるんだが?」
「そ、そんなぁ……」
「分かったか? この警報は、サーバーエラーだ」
それを聞いて、漣志は泣き出した。
こんな失態、バレたら降格どころじゃない。
下手したら、存在抹消なのだ。
銀がその口を塞ぐ。
息が詰まりそうになった漣志が、慌ててその手をはずす。
「上にはなんとかごまかす。安心しろ」
「せ、センパイ……」
「だが、状況挽回のために遣いっ走りにするから覚悟しとけ」
深紅の瞳が確実に漣志をとらえる。
「今からオレのラボに来い。力尽きるまでたっぷりしごいてやるからな」
「ふぇぇ~~~」
†‡†‡†‡†‡†‡
「と、言うわけなんだ」
家に帰ると何故かいた銀によって、事の経緯を聞かされた。
ん、何の経緯かって?
あいつだよ、生徒会長の長谷川やちるってやつ。
「取り敢えず今は、オレとそのアホでバランスとってごまかしてるけど、いつまで持つか分からねぇし、いつバレるかも分からねぇ」
「それ以前に、なんで同じ世界に複数の転生者がいちゃイケねぇんだよ」
オレにとっては、こっちの方が気になってしかたがないんだが。
「いや、正確には複数の異世界からの能力者だ。そもそも長谷川やちるは転生ではなく言わばトリップ。恐らく元の世界にはあいつの脱け殻があるだろうぜ」
「脱け殻?」
「たまに、幸せすぎて意識が飛んだとき“トリップした”って言うだろ? その状態が長期間に渡って起こっている、つまり元の世界のあいつは今や植物状態になってるはずだ」
「植物状態か……。下手したら家族の要望で延命中止だな」
「そうだ。トリップ者と転生者の違いは死んでいるか否か。トリップ者なら別世界で死んでも返る体はあるが、その体が死んだら返れない、言わば転生者になるだろうぜ」
なるほどな、全く面倒なシステムだぜ。
さらに話によると、サーバーエラーが発生しているのにも拘わらず、神ができるのは銀がやっているようにバランスをとることだけ。
それ以上手出しはできない、つまり、長谷川を強制的に元の世界に送り返すことはできない。
らしい。
「取り敢えず、後2年くらいは持ちそうだし、あいつの事は気にする必要はないぜ」
「それが、あるんだよなぁ。気にする必要」
「は?」
今度はオレが今日の経緯を銀に話した。
やつがオレのクラスにいること。
んでもって早速ドンパチやらかしたこと。
それを、オレを1―Aにした陰謀を仕返しながら、かいつまんで話した。
「お前さ、雲雀にも目ェつけられてること忘れんなよ? あと、痛い」
「それもあるから困ってんだよ。つか自業自得だ、席まで隣にしやがって」
「だって同じクラスの方が傍観しやすいじゃん! それにさ、家だって隣なんだから仲良くすりゃいいじゃん!」
「あいつと仲良くなるともれなくリボーンが付いてくるんだよ! ファミリーの勧誘なんてまっぴらごめんだ!」
「何もそこまで言わなくても……」
嫌なんだよ、とにかくさ。
「あそうだ」
突然、銀が何かを思い出したかのように手をポンと叩いた。
「聞くの忘れてたんだが、お前って月いくらぐらいで生活できる?」
「は? なんで?」
「仕送りしてやるよ。転生させたやつを全力でサポートするのがオレのモットーだ。ついでに、水道代電気代etc…さらにはローンも払っとく」
「はい!?」
バカだろ! と思ったそこのあなた、ごもっともです。
モットーとか言ってますが、銀は要に負けず劣らずお人好しなんです。
「遠慮すんなよ」
「いや、食費とかは自分で払うからさ、大体……月10万くらいか」
「え、それだけ?」
「は?」
「いやさ、今までオレが担当したやつ、『100万!』とか『1億!』とか言うやつばっかりだったから」
バカばっかりだろそれ。
別にオレはあんまり買い物行かないし(食糧除く)、ホントに欲しいものしか買わない主義だから。
「あ、授業料……」
「だからオレが払うって!」
ホントにお人好しなやつである。
オレは思わず、苦笑いしながらため息をついた。
「じゃ、任せるぜ」
「おうよ!」
銀がニッコリと笑う。
その笑顔を見たとき、胸の奥がズキリと痛んだ。
あのときと同じ。
転生するとき、最後に銀に声をかけられたときと……。
オレはこいつを知っている?
否、知っているはずがない。
じゃあどうしてオレはこいつに優しくされるたび、笑顔を見るたび、こんなに苦しく辛くなるんだ?
「要……?」
銀、お前は一体、誰なんだよ……。
お前の何がオレを苦しめるんだ……。
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