戦国異伝
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第百四十四話 久政の顔その十二
「よいな」
「では」
「どうしてもというのなら頭を剃れ」
つまりだ、出家しろというのだ。
「暫しな」
「勘十郎殿の様に」
ここで信長のすぐ左手に控える信行を見た、彼もまた信長への責で暫し出家していた、その彼を見たのである。
そのうえでだ、あらためて信長に言ったのである。
「そうされよと」
「うむ、これでどうじゃ」
「では」
信長のその言葉を受けてだ、長政はあらためて答えた。
「右大臣様がそう仰るのなら」
「堅苦しい言葉もよい」
右大臣、その呼び名もだというのだ。
「これまで通り呼ぶのじゃ」
「では義兄上と」
「そうじゃ、そう呼ぶがいい」
微笑みを浮かべて長政に言った言葉だ。
「わかったな」
「はい、それでjは」
「ではこれより宴としようぞ」
今場には皆いる、織田家だけではなく徳川家や浅井家の者もだ。それでこう言ったのである。
「猿夜叉達も戻った、ではな」
「はい、それではですな」
「今より」
皆それに応えてだった、そうして。
酒に馳走が運ばれそうしてであった。
彼等は宴をはじめた、無論長政や浅井家の者達の席も用意された。そのうえで楽しい宴となった。
宴は進んでいった、皆しこたま飲み顔を赤くさせている。それは陣中の者達も同じで足軽達も信長が出した酒に馳走を楽しんでいた。
その中でだ、急にだった。
信長は酒を飲んでいない、茶を飲んでいる。その中で浅井家の者達の中の先頭にいる長政にこう問うたのだ。信長の横には家康がいて長政は信長のすぐ右手の傍に控えている形だ。
その彼にだ、こう問うたのである。
「御主、髑髏を知っておるか」
「髑髏とは」
「そうじゃ、髑髏じゃ」
それを知っているかというのだ。
「どうじゃ、それは」
「髑髏が道に落ちているとか」
「違う、黄金のじゃ」
「黄金の髑髏とは」
「あれを持て」
信長はいぶかしむ長政を見ながらすぐ後ろに控えていた小姓の一人にこう声をかけた。すると程なくして。
場に黄金の髑髏が持って来られた、その髑髏を見て。
徳川家の者達が絶句した、織田家の者達も知らない者達が。
そして浅井家の者達もだ、彼等もだった。
言葉を失っていた、そして長政もだ。
あまりにもおぞましいそれを見て眉を顰めさせている。信長はその彼の顔を見てわかった。
「知らぬな」
「これは一体」
「久政殿の部屋にあった」
そうだったと述べた。
「この髑髏はな」
「左道のものでしょうか」
浅井家の家臣の一人がここでこう言った。
「これは」
「ふむ、そう思うのだな」
「そうとしか思えませぬが」
これがこの家臣の言葉だ、長政も怪訝な顔になりそのうえで織田家の家臣達の中にいる雪斎に顔を向けた、天下でも名高い高僧である彼にだ。
「それがしも左道に思うのですが」
「拙僧もです」
こう答える雪斎だった、だが彼はこうも言うのだった。
「ですがこの様なおぞましいものは」
「御存知ありませぬか」
「はい、この髑髏からは唯ならぬ妖気を感じますが」
それは感じる、だがだというのだ。
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