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戦国異伝

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第百四十四話 久政の顔その七

「わしのせいで浅井の家は・・・・・・」
「戻られたか」
 信長がその久政を見て言う。
「久政殿も」
「貴殿はまさか」
「織田信長」
 自ら名乗って久政に告げた。
「お会いするのははじめてですな」
「はい・・・・・・」
 久政は力のない声で信長の言葉に応える。
「左様ですな」
「して、ですが」
「全てはわしの責」
 久政は虚脱した顔だがそれでもこう答えた。
「わしがこの戦を起こした、ですから」
「どうされますかな」
「誰かおるか」
 久政は周りを見回して人を呼んだ。
「誰か、一人でな」
「はい」
 やがて一人の武者が来た、浅井の紺色の服を具足を身に着けている。
 その彼を見てだ、久政は微笑んで言った。
「残っていてくれたか」
「はい・・・・・・」
 武者は沈痛な面持ちで久政に答えてきた。
「では大殿」
「頼めるか」
 介錯、それをだというのだ。
「今からな」
「わかりました、それでは」
「うむ、ではな」
 早速服の前を開けた、そうして。 
 小刀を出す、そうしながら前にいる信長にこう言った。
「では織田殿」
「うむ」
 信長は久政の言葉に小さく頷いて応える、
「猿夜叉、そして浅井家のことですな」
「全てはこの久政の責」
 こう信長に言うのである。
「それがしが惑わされたとはいえ引き起こしたこと、ですから」
「その責を取りですな」
「猿夜叉にも他の者にも罪はありませぬ」
 それ故にだというのだ。
「ですからどうかあの者達の命だけは」
「最初からそのつもりはありませぬ」
 実際にそうである、信長は長政を何としても助けるつもりだ、浅井家も滅ぼすつもりは毛頭ないのだ。そのうえで久政に応えている。
 だからこそ久政の言葉を聞いているのだ、久政はその信長に対してさらに述べる。
「御願い出来るでしょうか」
「承知致した」
 これが信長の返事だった。
「猿夜叉も他の者も決して無下には扱いませぬ」
「そしてあの者達にどうか」
 まだ言う、そのこととは。
「お伝え下され、生きよと」
「その言葉をですな」
「はい、お伝え下さい」
 どうかというのだ。
「浅井家を支えていって欲しいと」
「確かにお伝え申す」
「それでもうそれがしの願いはありませぬ」
 久政はその右手の小刀を構えている、後ろにいる武者も刀を抜き構えている。もう準備を整っていた。それでだった。
 久政は最後にこう信長と織田家の者達に告げた。
「おさらばです」
「立会い、務めさせて頂きますぞ」
 信長も久政に彼への最後の言葉を返した、久政はその言葉を受けて静かに微笑みそのうえで。
 その小刀を己の腹に刺し左から右に一気に引いた、それから。
 今度は上から下に、十字に切った。そのうえで衣をなおしてからだった。 
 後ろにいる武者にだ、死相を浮かべながら言った。
「頼む」
「はい」
 武者は久政の言葉に応えその刀を振り下ろした、そうして。 
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