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最後列

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第二章

「大きくなりたいしそれ以上にね」
「列の一番後ろにいてなの」
「そうして」
「皆を見てみたいわ、見られるんじゃなくてね」
 これが朋子の願いだった、もういつも一番前で後ろにずらりと並ばられて見られているのが嫌だったのだ、そうだったのだ。
 だがある日のことだ、クラスの担任の先生が皆、勿論朋子にもこう言ったのだった。
 ホームルームの時にだ、先生は明るいが何処か首を傾げさせる感じで先生に対して話した。
「実は今度の集会の生徒集会の時に」
「って明日のですか?」
「明日の生徒集会ですか?」
「はい、そうです」
 まさにその時にだとだ、若い男の先生は言うのだった。
「一度テストでやってみようってことで」
「テスト?」
「テストっていいますと」
「列の並び方を逆にしようと」
 そうしようというのだ。
「校長先生の提案でそうしてみました」
「っていうと一番背の高い人が一番前ですか」
「一番低い人が一番後ろで」
「そうしてみるんですか」
「一応は」
「そうです、確かに背が低いと後ろからだと見えにくいですが」
 この問題もあった、だがだというのだ。
「座って体育館の舞台を観れば皆同じだろうということで」
「それで逆にするんですか」
「背の高い順に前に並ぶんですね」
「明日の生徒集会では」
「そうするんですか」
「そうです、ではそれでいきますので」
 もうこのことは決まっているというのだ。
「皆さんそれで御願いします」
「うちの校長小さいからな」
「池乃めだか師匠みたいな感じだからね」
「いや、めだか師匠より小さいでしょ」
「男の人にしてはかなりな」
「音楽家のラヴェル位じゃないの?」
 ラヴェルはかなり小柄で一四五程だったと言われている、相当な洒落者でかなりの数のシャツを持っていたという。
「そのせいか?」
「そうよね、それで一度ってことになったのあkしら」
「そうかもな」
 こう皆話す、男子も女子もだ、だが朋子はその話を聞いて先生が教室を後にてから皆に満面の笑顔でこう言ったのだった。
「何か校長先生がね」
「大好きになったっていうのね」
「そうなのね」
「前から親近感があったけれど」
 自分と同じく小柄だからだ、しかも自分よりもまだ低いからだ。
「けれどね」
「今回の決定は、っていうのね」
「朋ちゃんにとってはね」
「最高っていうのね」
「これこそ英断っていうのね」
 こうまで言う朋子だった、満面の笑みで。
「明日が楽しみだわ、本当に一度でいいから」
「一番後ろになりたかったって言ってたもおんね、いつも」
「だからよね」
「そう、明日になれば」
 また言う朋子だった、その笑顔で。
「願いが一つ適うわ」
「あれっ、願いってまだあったの?」
「それ何なの?」
「ホークスの日本一だけれど」
 野球ファンとしての言葉だった。 
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