旗手
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第四章
「機銃をやり過ごせ、一緒に来い」
「は、はい」
「旗を持っていてもな」
それでもだというのだ。
「いいな、中に入ってだ」
「機銃掃射をですね」
「少なくともここにいたら的になるだけだ」
こう判断してだった。
「いいな、中に入ってな」
「はい、わかりました」
「とにかく避けろ」
生きて旗を護る、その為にはというのだ。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
マルゴットは連隊長の言葉に頷いた、そしてだった。
その厩の中に飛び込んだ、連隊長はその彼の手を引く様にしてまずは彼を中に入れてから彼も中に入った、その時にも。
マルゴットはその旗を手放さない、だが狭い厩の中では大きな旗は邪魔だった。
だがそれでもだった、彼はポールからその旗を素早く外して折り畳んで。
それから己の身に抱いた、その彼にだった。
連隊長は今度はだ、こう彼に言った。
「おい、中に入ったがな」
「まだですね」
「万全じゃない、もうスツーカの爆弾はないにしてもな」
このことは確認済みだ、どのスツーカも既に急降下爆撃を行っている、それにより多くの将兵が犠牲になっている。
「機銃があるからな」
「それですね」
「草の下に隠れろ」
馬の寝床に使っていた干し草達の中にだというのだ。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
「そうしたらずっとましな筈だ」
こうして厩の中に立っているよりもだというのだ、外にいるより厩の中、そして厩の中にいるより草の中だった。
「入るぞ、いいな」
「はい、じゃあ」
「そして隅に行くことだ」
部屋の隅にだというのだ。
「それでいいな」
「はい、わかりました」
こう話してそしてだった。
二人はすぐに厩の隅に行き干し草を深く被った、そしてだった。
部屋の隅で屈んでやり過ごそうとした、その厩の中に。
スツーカが機銃掃射を仕掛けてきた、機銃は厩を次々に潰していく。
その機銃の威力は凄まじく厩の柱も撃った、それでだった。
厩は崩れた、スツーカはそれを見届けてからその上から去った。
暫くしてからだった、その壊れた厩から。
まずは連隊長が出て来た、その次にマルゴットが。
その彼に対してだ、連隊長はまずはこう言った。
「生きているな」
「はい、この通り」
「それも五体満足な様だな、俺もだが」
「運がよかったですね」
「部屋に隅に行ってそこで干し草を深く被ったのがな」
それがだというのだ。
「幸いだったな」
「そうですね、連隊長の仰る通りにして」
「厩は潰れたがな」
だがそれでもだというのだ。
「俺達は無事だったな、けれどな」
「旗ですね」
「そっちは大丈夫か?」
「はい、この通り」
マルゴットは腹に抱えていたそれを出した、連隊旗は厩が崩れた中でしかも干し草を被っていたので汚れ草や木の破片がついていた、だがだった。
旗は無事だった、彼は連隊長にその旗を見せて言った。
「無事です」
「護りきったな」
「何とか」
連隊長に微笑んで言う、そしてだった。
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