永遠の今
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第一章
永遠の今
この国はまさに究極の独裁国家だった、国家主席の座にある独裁者が国の全権を握っていた。
この独裁者の名前をツネオローフ=ナベツネスキーという。魔女の様な顔に逆三角の獰悪そうな目に眼鏡をかけた髪の薄い男だ。
性格は傲慢であり自己中心て的だ、猜疑心は異常に深くそして謀略を好む。
国全体に恐怖政治を敷き少しでも異論を言えばそれだけで強制収容所行きとなる、国民に貧窮を強い軍と何よりも己の贅沢に予算を使っていた。
国民が食うや食わずやの中で苦しんでいてもナベツネスキーだけは肥え太っている、彼は血色のいい顔で言うのだった。
「俺は永遠に生きるぞ」
「はい、是非そうされて下さい」
「偉大なる将軍様が永遠にいて下されば我等は幸せです」
これがナベツネスキーの尊称だ、中にはこんな尊称を言う者もいた。
「人民の太陽、素晴らしき巨人」
「百戦百勝の鋼鉄の霊将、素晴らしき指導者」
「人類史上最高の天才にして全知全能のお方」
こんな尊称を実際に言わせているのだ。
そしてだ、傍に仕える者達はこれ以上ないまでに謙って恭しく言うのだ。
「ナベツネスキー様さえおられれば」
「我等は何も必要はありません」
「ははは、言うな」
ナベツネスキーはハバナ産の最高級の葉巻を吸い日本からわざわざ拉致してきた職人に作らせた寿司を食いながら言った。
「じゃあな」
「はい、薬の開発は進んでいます」
「不老長寿の薬は」
「早く作れよ」
黒檀の見事な机に両足を放り出しての言葉だ。
「そしてそれを飲んでな」
「偉大なる将軍様は永遠にですね」
「永遠に生きられるのですね」
「ああ、そうだよ」
そのつもりだった、ナベツネスキーは。
「それでずっとこの宮殿に住んで美味ものを食って綺麗な女を抱いてやるからな」
「では将軍様、今から」
「仕えさせて頂きます」
こう言うのだった、そして。
ナベツネスキーは女達を宮殿の奥に連れた、そうして。
その夜は酒に女だった、こんな有様だった。
国内では何も言えない、だがだった。
国外ではだ、ナベツネスキーをこう言うのだった。
「あんな奴がいると国も駄目になるな」
「ならない方がおかしいな」
「何処かの球団のオーナーみたいな奴だな」
「というかあいつそっくりだな」
実に忌々しげに語るのだった。
「あいつが死なない限りあの国はよくならないな」
「ああ、絶対にな」
「何でも永遠に生きるつもりらしいがな」
「おいおい、あんなのが永遠に生きてたらまずいぜ」
「最悪だろ」
それこそだというのだ。
「政治っていったら核兵器の開発に軍隊の拡大だろ」
「民生なんか全然考慮しないしな」
「馬鹿なマスゲームと拉致とスポーツチームの変な補強ばかりでな」
一応スポーツ大国になっている、とはいっても負ければそれで収容所行きなのだが。
「それで国民に一日何時間も練習させてマスゲームやらせてな」
「労働時間はブラック企業だしな」
それでも飯は食わせない、そうした男だった。
「馬鹿みたいな宮殿やドーム球場や凱旋門とか造らせてな」
「ああ、あの巨人が通るみたいな凱旋門な」
「巨人が観劇するのかよっていう歌劇場もあったよな」
権力者、それも独裁的な人物の常としてナベツネスキーは建築も趣味だった、そしてその建築がなのだ。
「手前の馬鹿でかい銅像とかな」
「金ピカのあれな、それで黄金の巨人とかも言ってるよな」
「江戸川乱歩かよ」
少年探偵団が戦う二十面相の変装した怪人みたいだというのだ。
「しかも美女ばかり何十人も侍らしてハーレム作ってな」
「喜び組とか言ったな、あれ」
「挺身隊じゃなかったか?」
名前は色々あった、ナベツネスキーがその時に付けるのだ。
とにかく国民を虐げ弾圧しそのうえで己だけは贅を極めている、国外ではそんなナベツネスキーに批判が集中していた。
無論国内でもだ、口に出しては言えないが。
それでもだ、彼等は心の中で話すのだった。
「早く死んでくれ」
「この国からいなくなってくれ」
「あいつがいる限りこの国は駄目だ」
「不老不死なんてとんでもない」
「若しあいつが不老不死になれば」
彼だけが望むそれが達せられればだった。
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