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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第113話

「あと、五分だけって。
 そんな短い時間で倒せるのかよ!?」

麻生から聞いた言葉を上条はまだ信じられないのか、声を荒げながら言う。
それを聞いた麻生は珍しく苦笑いを浮かべる。

「大きさ的には数十キロメートルはある。
 それらを海から引きずり出すのに五分という時間は短すぎるな。」

「それなら、一度陸地に降りて体制を整えればよろしいのではないでしょうか?」

「確かにその手が一番有効だろうな。
 だが、あの魔物は俺達を追ってくる。
 ここで一番近い陸地はキオッジアだが、あの魔物は上陸して無差別に人間を食いに行くだろうな。
 それでもいいんなら、艦隊を移動させるが。」

その言葉にオルソラは何も言いだせなくなる。
キオッジアは彼女がずっと住んでいた、言わば故郷のようなもの。
そこには親しい人などが居るに決まっている。
何も知らない彼らを巻き込む事など彼女にはできなかった。

「でも、どうするんですか?
 あと五分もすれば、この艦隊は沈んでしちまうんでしょう。
 そうなれば、その魔物は・・・・」

「ああ、近くの街を襲うだろうな。」

その言葉を聞いてオルソラは大きく目を見開く。

「だからこそ、此処であいつを殺さないといけないんだ。
 人を襲い喰らえば、魔力を貯蔵する。
 そうなれば、誰も止める事はできない。」

麻生はそのまま空中に浮かぶ。

「アニェーゼ、お前は他のシスター達に指示を出せ。
 そうすれば勢いは取り戻す筈だ。
 建宮達にはとにかく耐える事を伝えろ。」

すると、麻生は上条に近づくとそのまま肩で上条を担ぐ。

「ちょ!?
 恭介、何をするんだよ!!」

「騒ぐな、あいつの存在は異能そのもの。
 もしかしたら、当麻の右手で倒す事ができるかもしれない。」

麻生の説明を聞いて納得したのか、とりあえず騒ぐのを止める。
指示を聞いたアニェーゼ達は、別の艦隊に移動する。
インデックスは艦隊を移動する前に当麻に言う。

「とうま、必ず帰ってきてね。」

それだけを言ってインデックスはオルソラ達の後について行った。
上条を抱えて麻生はクラーケンに近づいていく。
近づくと、クラーケンの足が四本、海面から出てくる。
片手で上条を抱えながら、もう片方の手には大剣が握られていた。
二人を捕まえようと攻撃してくるが、それをかわしながら大剣で足を斬り裂いていく。

「おい、俺はいつ動けばいいんだ!?」

「今だ。」

「へ?」

ちょうど二人の真下の海面から、数十本の足が伸びてきた。
それらは周りを囲み、二人を取り囲む。
だが、次の瞬間にはその足の檻は空気に溶け込むように消滅していく。
上条は天に向かって手を伸ばしていた。

「そう言うのは事前に言えよ!!」

上条は突然の麻生の指示に不満の声をあげる。
麻生の方はその上条の声を全く聞いておらず、消滅した足を観察していた。

(やはり、消滅するのは足の一部分だけか。
 完全に消滅させるには、身体本体に触れる必要がある。)

そう考えたが、それは自殺行為に他ならない。
上条の右手は麻生の星の力すらも打ち消してしまう。
つまり、麻生の補助を受ける事が出来なくなってしまう。
本体に近づけば近づくだけ、反撃は強くなるはず。
補助を受ける事ができない上条では海の中で息を止めるにも、限界がある。

(時間も残り四分を切っている。
 あれを倒すには、海から引きずり出し、一撃で本体を消滅させる攻撃をしなければいけない。)

麻生は考える。
この現状を打破する術を模索する。
そして、この現状を打破する方法を思いつく。

(この方法は分の悪い賭けだ。
 失敗すれば俺は確実に死ぬ。
 だが・・・・それがどうした。
 俺一人犠牲になるくらいなら安いものだ。)

何としてもこの魔物は今ここで倒さないといけない。
何故か麻生はそう思った。
誰かに言われた訳でもない。
麻生の心の底で確かにそう思った。

(何に換えてもこいつはここで俺が殺す。
 それが・・・それが!)

星の守護者としての使命なのだから。





上条を抱えていた麻生だったが、一番近い艦隊に降りると上条を降ろす。

「どうしたんだよ。
 何か別の作戦でも思いついたのか?」

何の前触れもなくいきなり降ろされた上条は麻生に聞く。
ちょうどその艦隊には建宮達も乗っていたらしく、麻生に近づいてくる。

「あれを倒す方法でも思い浮かんだのか?」

上条の言葉を聞いたのか、期待しながら麻生に聞いてくる。
建宮も分かっているのだろう。
この中であれを倒せるのは麻生だけという事に。
全員それを分かっているのか、自然と麻生に視線が集まっていく。

「ああ、たった今思い浮かんだ。」

それだけ言うと麻生は左手を軽く上条の頭の上に乗せる。
力のない笑みを浮かべて言う。

「後の事は頼んだぞ。」

上条だけにしか聞こえない声でそう言うと、風を纏い一気に上昇していく。

「恭介?」

何故か、その笑みを見た上条は少し嫌な予感を感じた。








風を纏った麻生は低空飛行しながら『女王艦隊』から離れていく。
すると、クラーケンの影は『女王艦隊』から離れ、麻生について行く。

(やっぱり俺を狙うの優先しているみたいだな・・・・好都合だ。)

どんどん、スピードを上げながら海の沖に向かって移動する。




「おいおい、一体どこに行くつもりよな?」

建宮は自分達からどんどん離れていく麻生を見ながら言う。

「何か嫌な予感がする。」

アニェーゼ達は麻生が艦隊に降りるところを見て、気になったのか様子を見に来た。

「とうま、どういうこと?」

「俺のよく分からない。
 けど、何か嫌な予感がするんだ。」

「そ、その、私も同じ事を嫌な予感を感じます。
 恭介さんのあの笑顔。
 何だか、どこかへ行ってしまいそうな、そんな風に感じ取れました。」

上条と同じことを思ったのか不安そうな表情を浮かべる五和。

「五和まで、心配し過ぎよな。
 あいつは我らが思っているよりも強い。
 すぐに戻ってくるよな。」

建宮は五和の肩を叩きながら心配するな、という。
しかし、二人の胸の奥にはその嫌な予感が一向に晴れる事はなかった。






麻生は周りを見渡す。
周りには海しか広がっておらず、島や船などは見当たらない。
それを確認すると、一気に急降下して海の中に入って行く。
クラーケンは麻生の速度に追いつけていないのか、後ろから麻生を追う形になる。
依然と、変わらずの速度で海の中を潜って行く。
本来、海を深く潜れば潜るだけ水圧が大きくなる。
深海まで行くと人間など、一瞬で圧迫され、死んでしまう。
だが、麻生は星の力を使い海でも呼吸ができ、さらに水圧などでは死なない。
残り使用時間は二分。
ついに海の底が見え、そこに足を下ろす麻生。
そして、自分の後を追い駆けているクラーケンを見つめる。
麻生の視界にはクラーケンしか映らない。
それだけ巨大なのだ。
麻生の足元に半径四メートルの魔方陣が出現する。
その魔方陣は複雑な紋章を浮かべていた。
此処にインデックスが居れば、この魔法陣を見た瞬間、これらが何を意味するか分かった筈だ。
この魔法陣には、周囲の魔力を増加させ、集める意味を持つ魔方陣を重ね重ねた陣である事を。
麻生の周りに莫大な魔力が集まっていく。
さらに能力を使い、魔力を高めていく。
手を地面に置く。
その地面は大きく歪む。
歪みから現れたのは一本の剣だ。
いや、剣と表現するのは間違っているかもしれない。
剣というより円柱状の刀身を持つ突撃槍のような形状だ。
だが、この表現も間違っている。
何故なら、これができた時は剣などいう概念は存在しなかった時代だからである。
周囲にある魔力、自信にある魔力など片っ端からそれに注ぐ。
円柱状の刀身は三つに分かれており、魔力を注ぐとそれぞれが別々に回転する。
その回転は風を起こし、やがて暴風へと変貌していく。
それでも、麻生は絶えず魔力を注ぎ続ける、
注ぐ魔力に呼応して、風はどんどん強くなっていき、いつの間にか海水を巻き上げる。
それは台風の様だった。
麻生を・・・正確にはその『剣』を中心に風を巻き起こし、海水を押し退けていく。
それをクラーケンは黙って見過ごすわけがない。
さっきよりも速い速度で麻生に突っ込んでくる。
だが。

「天の鎖よ。」

突然、クラーケンの周りから鎖が現れる。
一本、二本ではない。
何十本もの鎖がクラーケンの身体や足に巻き付き、動きを止める。
天の鎖、またの名をエレキドゥ。
「神を律する」と謳われる鎖。
伝承において神獣「天の雄牛」を捕らえた事のある鎖だ。
相手の神性が高い相手ほど制約・拘束力が高まるのだが、クラーケンには神性があるように思えない。
それなのにクラーケンは動きを封じられている。
これも麻生の能力が天の鎖を最大まで強化しているのだ。
それでも長く封じる事はできない。
神性を持たないものにとっては少々頑丈な鎖だからだ。
暴風はどんどん大きくなっていく。
やがて、クラーケンの身体を超えるほどの大きさまで台風は大きくなっていく。
つまり、クラーケンは海の中にいないという事になる。
麻生はこの状況を作る為に、被害が及ばない海の沖に向かい、さらに深海まで潜ったのだ。
『剣』を持つ左手の内側から血が噴き出す。
『剣』が放つ暴風や魔力など、人としての限界を超え、身体に影響が出ているのだ。
何よりこの『剣』は人には扱えるモノではない。
左手だけではない。
身体の至る所から血が噴き出している。
だが、治している暇はない。
治療に専念してしまえば、鎖の拘束は弱まり、海水を押し退けている暴風も弱まってしまう。
そうなってしまえば、麻生は何も出来ずに死んでしまう。
朦朧とする意識だが、それでもクラーケンを見据える。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

クラーケンは叫ぶ。
本能が悟ったのだろう。
この一撃は自分の身体を完全に消滅させるモノだと。
渾身の力を込め、鎖の拘束から逃れ、麻生に向かって身体ごと突撃する。
しかし、その前に一つの声が聞こえた。

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

その言葉と同時に限界を超えた身体に鞭を撃ち、莫大な魔力を溜めた『剣』を突き出す。
そこから撃ち出される天地を分けた一撃を受けたクラーケンは塵一つ残すの事なく、消滅した。 
 

 
後書き
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