とある星の力を使いし者
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第112話
麻生は自分よりも大きな大剣を持ち、近くの『女王艦隊』まで移動する。
その艦隊は三本の足に攻められていて、ボロボロになっていた。
(この艦隊が沈み、海に投げ出された時点で終わりだ。
確実に捕まり、餌にされる。
そうなる前に・・・・)
両手で剣を持ち、近くの足を切断する。
シスター達は突然の麻生の救援に戸惑っているようだ。
麻生は気にすることなく、二本、三本と足を切断していく。
切断された足はすぐさま、海中へと戻っていく。
「ど、どうして、私達を助けたのですか?」
近くのシスターがそう呟いた。
大剣を肩で抱え、ゆっくりと降りていく。
そのシスターの眼をしっかりと見据えて言った。
「どこぞのシスターが皆と笑い合いたい、何て事を口にしたから少しだけ手伝っているだけだ。
だが、それはついでみたいなものだ。
お前達を助けた本当の理由は、あの魔物に人間が餌にされることに腹が立っているだけだ。
だがら助けた、それだけだ。」
それだけ言うと、麻生は背を向けてまた近くの艦隊に向かって飛んで移動する。
それらを見たシスター達は、頷き合い、行動する。
彼女達も分かっているのだ、そのどこぞのシスターは自分達が良く知っている人物だという事を。
だからこそ、今は争っている場合ではない。
彼女達は急いで艦隊を再生させて、他の艦隊の救援に向かう。
麻生は空を飛びながら、次々と足を切断していく。
しかし、刻一刻と能力の使用時間が無くなっていた。
麻生の顔に焦りの色が見え始める。
なぜなら、切断した足は海中に引っ込むが数分もすれば、切断した箇所は元通りに再生しており、再び近くの艦隊を襲う。
(きりがない。
能力使用時間も七分を切っている。
もうじき、空も飛べなくなる。)
眼を閉じると、自分の眼を直死の魔眼に切り替える。
足の死の線を捉え、それになぞるように切断していく。
どれだけ再生できても、死の線になぞって切断されれば、再生する事は不可能だ。
そう麻生は確信していた。
だが、次の瞬間だった。
海に引っ込んだ足が数秒もしない内に、復活して麻生の身体に巻きついてきた。
それも先程、死の線をなぞって切断した筈なのに完璧に再生していた。
(どうなっている!?
確かに死の線をなぞって切断したはずだ!?)
驚いている内に麻生は海の中に引きずり込まれる。
海の中には数十キロメートルに及ぶ巨大な影があった。
眼は二つではなく何十個も存在していた。
口の大きさは直径でも、数メートルくらいは余裕である。
さらに、頭部の辺りにはごつごつした甲殻を纏っていた。
生物としてみたら一番近い生物はタコだろう。
しかし、それは地球の生物で最も近い生物に例えたらの話だ。
麻生が見た生物はこの世の中にどこにも存在しない。
クラーケン、と麻生は言った。
だが、おとぎ話などで出てくるクラーケンの方がまだましだ。
それだけ、目の前にいる魔物は異質で異様で恐ろしいモノなのだ。
麻生はそのクラーケンの本体を見て、驚きの表情を浮かべる。
(こいつ、死の線が見えない!)
直死の魔眼は死を理解できないモノ、その時代において壊す(殺す)ことが不可能なモノ、そもそもいつか来る終わり(死期、存在限界)の無いモノは、その死も理解できないので線も点も視えず、殺すことはできない。
その時点で対象の死が理解できない場合、殺すことは出来ないのである。
(ッ!!)
能力を使い、自信の周りに剣を具現化させ、操り、足を切断する。
死なないと言っても、足などは普通に切断する事はできる。
数秒もしない内に、足は再生して元に戻る。
(艦隊を襲っていた足にはちゃんと死の線が見えた。
それなのに、今はその影すら見えない。
どういう事だ・・・・)
麻生は考えながら、海の中から出る。
海の上では艦隊同士が連携を組み、何とか足の攻撃を防いでいた。
その足にはしっかりと、死の線が見えていた。
そこでようやく、麻生は気がついた。
(そうか、こいつは海の中にいる時だけ死という概念が無くなる。
こいつを殺すには海の中から引きずり出す必要がある。)
クラーケンの大きさは数十キロメートルもある。
この巨大な生物の身体を海から引きずり出すなど、容易ではない。
その時だった。
麻生の近くの艦隊が突然、ひびが入った。
そのひびは徐々に侵食していき、やがて艦隊全部に広がる。
その艦隊だけではなかった。
どの『女王艦隊』も同じような状態になっていた。
そして、艦隊は崩れ始めていく。
急いで麻生は近くの艦隊に降りると、能力を使い、崩壊を防ぐ。
「どうなっている、どうしていきなり崩壊し始めるんだ!」
「わ、分かりません!
ですが、可能性を挙げるとしたら旗艦である『アドリア海の女王』に、何かがあったとしか考えられません!」
この『女王艦隊』は核となる霊装があって機能している。
つまり、その霊装が破壊などされたりすると、それを核としている『女王艦隊』は崩壊していくのは必然と言える。
つまり、その核であるその霊装に何かがあったという事。
この状況で霊装に何かがあるとしたら、それは一つだけだろう。
そう、上条当麻の幻想殺しがその霊装を破壊したのだろう。
旗艦の中なら、外の状況は分からない。
ビオージアと戦っていれば、霊装が破壊されるのは仕方がない事だろう。
(それにしてはタイミングが悪すぎる。
どうする・・・どうする!
考えろ、この『女王艦隊』の崩壊を防ぐ方法を!)
今、麻生がいる艦隊は麻生自身が干渉して崩壊を防いでいる。
これは麻生の能力使用時間が無くなってしまえば、そこで終わってしまう。
残り時間、六分半。
この六分で『女王艦隊』の崩壊を防ぎつつ、あの魔物を殺さないといけない。
(今から『女王艦隊』全部の崩壊を防ぐには時間がかかってしまう。
俺が一人でやるには時間がかかる。
俺が一人で駄目なら、何かを利用すればいい。)
そこまで考え、ある事を思いつく。
麻生は周りを見渡し、ある艦隊を探す。
それを見つけた麻生は、迷うことなくその艦隊に高速移動する。
(間に合え!!)
麻生が向かった艦隊は『女王艦隊』の旗艦だ。
本体のとなる霊装はビオージアが持っているのは間違いない。
だが、あの旗艦がこの『女王艦隊』の核である事もまた事実だ。
それなら、あの旗艦に干渉してそれを触媒にして、一時的に核の霊装の代わりに作り変えればいい。
そうすれば、麻生の能力使用時間が切れるまでは崩壊を防ぐ事はできる。
旗艦の甲板に移動した麻生は、両手を氷の床に置く。
眼を閉じ、自身の演算能力と魔術の法則をフルに使い、旗艦を霊装に変換していく。
すると、崩壊を始めていた旗艦や艦隊が徐々に再生していく。
どうやらギリギリ間に合ったみたいだ。
麻生はそれを見て一息をついた時、目眩が起こった。
それもそうだ。
本来、麻生が行った作業は人間の脳では計り知れない負担がかかる。
普通なら脳の機能がおかしくなっても不思議ではないくらいに。
星の力があってこそできる技なのだ。
突然の目眩に麻生は後ろに倒れそうになるが、誰かが後ろから支えてくれる。
視線を後ろに向けると、そこには上条当麻が立っていた。
「大丈夫か、恭介!?」
「ああ、軽い目眩がしただけだ。
それより、アニェーゼは?」
上条から離れて後ろに視線をやると、そこにはオルソラとインデックス、そしてアニェーゼが立っていた。
「どうやら、上手くいったみたいだな。」
「何とかな。
それより、あの海から出ているタコの足みたいなのは何だ?」
海面から幾つも出ている足を指さして上条は麻生に尋ねる。
麻生の代わりにインデックスが答える。
「あれはクラーケンかな?
でも、私の知っているクラーケンとはちょっと違う気がするかも。」
「クラーケンってあのクラーケンですか!?
そんな生物いる訳がねえですよ!!」
インデックスの言葉を信じたくないのか、アニェーゼは声を荒げる。
それでもインデックスは冷静に情報をまとめ、説明する。
「うん、現代には存在しない生物だよ。
それに、あれはクラーケンだけどクラーケンじゃない。」
「どういう事でございましょうか?」
「つまり、あれは神話で出てくるクラーケンとは違うという事だ。
おそらく、誰かが作った偽物だろうな。」
「そんなのはどうでもいい。
あの化け物を倒さないと駄目って事だろう。」
「その通りだ。
そう言えば、ビオージアはどうなった?
できれば、あいつが持っている霊装に少し用があるんだが。」
麻生がそう言うと、上条は何かに気がつき、言いにくそうな顔をする。
「どうした?」
「多分、ビオージアはあの足に捕まったんだと思う。
しっかり見た訳じゃないけど、何かの影に捕まってそれから見ていない。」
「そうなると、ビオージアは今頃あの魔物の腹の中か。
となると、霊装は諦めた方が良いな。」
「何を話をしているのですか?」
厳しい表情をしている麻生を見て、アニェーゼは聞いてくる。
「ビオージアが持っていた霊装はあの魔物の腹で消化されたんだろうな。
だから、それを核としている『女王艦隊』は崩壊を始めた。
艦隊という船が無くなれば、俺達は餌になるだけだ。
それを防ぐために、俺は能力を使い、この旗艦を一時的に核の霊装の代わりに変換させた。
だが、これは俺の能力使用時間が切れるまでの間だけだ。」
「その時間は残り何分なのでございましょうか?」
不安そうな表情をしながら、オルソラは質問する。
少しため息を吐いて、麻生は言った。
「残り五分といった所だろうな。
それまでに、あの魔物を殺さないといけない。
さらに悪い情報だが、あいつは海の中にいれば死ぬ事はない。
殺すには奴の身体を海から引きずり出さないといけない。」
その言葉を聞いて、四人は驚きの表情を浮かべるのだった。
後書き
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