フロンティア
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一部【スサノオ】
七章【依頼】
「ハハハッ、なんだ零、羨ましい体験してんじゃんか」
「まったくですわ。私もその…なんでしたかしら?」
「ヒトガタのことですか?」
「そう、それですわ!闘ってみたかったのに!」
あれから一週間後、フロンティア1のカフェエリアで3人は談笑していた。
「いやぁ…無理だと思いますよ。俺達なんかじゃ太刀打ちできないっていうか…」
「なんですの?私の実力をなめてますわね!」
「どんだけの実力だよ。どうせ、ラット3匹も討伐しましたわぁ的な感じだろ」
「し、失礼ですわねっ!」
(この反応は図星だな…)
結局、この2人に再開できたのはあの騒動から一週間も経ってからだった。
が、なんやかんやで2人とも訓練を受け直してもうアーカイヴを持っていたと知らされた時の悲しさたるや…。
一応受け渡しはしたからクエストは完了扱いだが、あまってしまったチップはどうするんだよ、といった感じだ。
「ところで、お二方の進行状況はどんな感じですの?」
「あぁ、とりあえず俺は適当にクエストこなして金稼いでる感じかな。零はどうなんだよ?」
「俺はよくわかんなくて…取り敢えず外のネイティブ倒してチップと報酬金かせいでる感じですね」
「マジか!絶対クエストやった方が儲かるって!」
「そうですわね。その辺りの化け物を倒したってたかが知れてますわよ」
「つか、クラウリーはどうなんだよ?」
ジャックが聞くと、クラウリー得意気にフフンと笑って見せる。
「私はクエストも討伐も順調ですわよ。昨日なんて外の草原の大型ネイティブも倒しましたわ!」
「そいつはすごいな!そんときもキャラ崩壊してたのか!?」
「してませんわよっ!というか、これが素ですわよ!!」
「この間なんか素みたいなしゃべり方してませんでした?」
「してません!まったく、失礼ですわよ!」
…こうして馬鹿みたいな普通な話をしているとこの間の出来事が嘘のように思えてくる。
初日から変なGMと出会い、変な化け物に襲われ…いまでもまだこのゲームを続けているのが自分でも不思議なくらいだ。
「そういや聞いてくれよ!俺、訓練受け直したっていったじゃん?」
「あぁ、はい」
「そうしたらよ、そんときのGMがまた違う人でさ。なんつーか、すごい普通だったんだよ!」
「あー、ですわね。あのGMみたいな乱暴な話し方じゃなかったですし、なにより丁寧に教えてくれましたわね」
「え?そうなんですか?」
「そうそう。あとからベテラン様に聞いたら、やっぱあのGってGM相当変わり者らしいぜ?この間みたいに、はじめてのプレイヤー脅かして辞めさせたりさ。初日からあんな変な人に教わるとか本当、俺たちも運が悪かったよな」
やってられねぇ、と頭の後ろで手を組み背もたれに寄りかかるジャック。
「うーん、確かに変な人でしたけど、そんな悪い人でもなかったような…」
「はぁ!?マジかよ?…まぁ、感じ方は人それぞれだわな」
ふと、最後にGに言われた言葉が零の頭をよぎる。
『哲二には気を付けろ』
初日からあの人に会ってないけど…どういう意味だったんだ?
「ま、こうして3人とも無事ゲーム続けてるわけだし!零にクエストの良さをわかってもらうためにも3人でクエストいかないか!?」
「ちょっと、私貴殿方と組むのはこの間が最後って言いましたわよね?」
「まぁまぁ、そう言うなよ。この間倒したって言う大型ネイティブのエクステンドも見てみたいし、なっ!」
ニカッと、零へ相づちをうつジャック。
「そうですね。クラウリーさんの華麗に戦う姿もみてみたいな」
もちろん、本当はそんな姿見たいわけでもないけど…。
クエストの受け方はおろか、なにも分からない零にとってジャックの申し出はこの上なくありがたいものだった。
「まぁ…そこまで言われたら仕方ないですわね」
「ほんとは嬉しいんだろ」
「そんなわけないでしょっ!」
ニヤニヤしながらからかうジャックにクラウリーは耳まで真っ赤にして怒鳴り付ける。
「さて、いこうぜ!」
「絶対に嬉しいわけではないのですからねッ!」
「はいはい、わかったわかった」
必死に言い訳をするクラウリーを適当にあしらいながら、3人はカフェエリアから歩き出す。
ジャックが言うことには、目的地はフロンティア1の南東に位置する『商業区』にある『依頼斡旋所』らしい。そこそこに広いフロンティア1の道程を、他愛もない世間話やお互いをからかいながら歩く。
それは久々に楽しい、と零にとってそう感じた貴重な時間だった。
今までネット越しにチャットでこういった会話はしてきた零だが、自分の声で母親以外と他愛のないことを話し、相手の表情が見える…そんな経験は本当に久しぶりの事だった。
そんな話をしていく中で、ふと零は気になった…
「そういえば、ジャックさんやクラウリーさんはなんのためにこのゲームへ?」
「俺はもちろん金だな。こんな遊んで金もらえる仕事なんてないしな!」
「ゲスな考え方ですわね」
ジャックの動機に、あきれ声になるクラウリー。
「悪かったな!世界を救うために~なんて真顔でいって見せる勘違いの偽善者野郎よりはマシだろ?つか、クラウリーの理由はなんなんだよ?」
「私?そうですわね…まぁ私もおんなじような感じですわね」
歯切れの悪い答えに、ジャックは顔をしかめる。
「なんだよ、適当な感じだな」
「存在が適当な貴方に言われたくないですわ」
「存在が適当てっ!」
クラウリーの毒舌に、思わず零は吹き出した。
それを見てジャックはさらに顔をしかめる。
「あのなぁ…」
「ほら、着きましたわよ!」
ジャックの言葉を待たず、クラウリーは楽しそうに声をあげる。
目の前には、よりこじんまりとした建物。
看板には『依頼斡旋所』と書かれていた。
「思ったより建物小さいんですね?」
「まぁな。ま、でも最初のうちは大体こんなもんじゃないか?」
拍子抜けながらも依託所のドアを開けると、流石にと言うべきか小さく気づきにくい造りながらも中はプレイヤーで賑わっていた。
「取り敢えず零はカウンターに行ってライセンス登録してこいよ!俺達はその間に面白そうなクエスト探しとくからよ!」
「あら、じゃぁ私は討伐依頼がいいですわ」
「調度良いのがあればな」
そういって、二人は人混みをかき分け『検索カウンター』と書かれた場所へと向かっていった。
「さて、と…」
俺がしなければいけないことは…
あたりをきょろきょろ見渡すと、それらしい受付が1ヶ所。
『登録カウンター』
カウンターには受付嬢と思われる女性が一人。
「あの、初めてなんですけど…」
「はい。では、ご登録のお手続きですね」
にこっと笑う受付嬢。
「当『依頼斡旋所』の説明をお聞きになられますか?」
「あ、はい。おねがいします」
再びニコッと笑うと、受付嬢は浅く会釈し説明を始める。
「では僭越ながら…当『依頼斡旋所』は『ログイン支部側』と『ゲームマスター側』と『他ユーザー側』の依頼を仲介させていただいております。基本的にはユーザー様がログインしている支部からのご依頼ですと『一般クエスト』、ゲームマスターからのご依頼ですと『特務クエスト』他ユーザー様からのご依頼ですと『フリークエスト』となります」
淡々と機械的に説明を続ける受付嬢。
その姿を見ると、この受付嬢も現実にログインしてこの役割を演じている人がいると思うと感心する。
「ここまででご質問はございますか?」
「あ、いいえ大丈夫です」
「では続きましてご依頼の請負方法をご説明させていただきます。ご依頼はあちら、奥にございます『検索カウンター』にてユーザー様ご自身に請け負いたい依頼を検索していただき、請負者人数や請負者のユーザーネームなどご登録ののち、そちらの内容を同検索機より送信していただきますと、こちらの方でご依頼主様の方へとその旨をお伝えさせていただきます」
「なるほど…」
毎日こんな感じでとんでもない人数に説明しているのだろうか?
よくよく考えるととんでもない仕事だ…。
「最後に報酬物及び報酬金についてご説明させていただきます。報酬に関しましては依頼達成を依頼主様が確認後、その請負者の代表者様へと報酬物及び報酬金が振り込まれます。…以上で説明を終了させていただきますがなにかご質問等ございますか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、登録手続きの方へ移らせていただきます。こちらの登録機の方へとユーザー様の腕輪をかざしていただけますか?」
「あ、はい」
言われた通り、カウンター脇に設置されていた機械へと腕輪をかざすと、腕輪が起動し電子パネルが出現する。
《依頼斡旋所登録確認…》
《ユーザー登録データ報酬金項目とユーザー様用斡旋所報酬データボックスを統合開始…》
「ありがとうございます。以上で零様の手続きは完了となります」
深くお辞儀をする受付嬢。
「ところで零様」
「は、はい?」
不意に受付嬢に話しかけられ驚く零。
「ゲームマスターの『ウォルター』様より零様あてに特務クエストをお預かりしておりますが受諾いたしますか?」
「え、と…ちょっと仲間がいるんでその人たちと話してみないと…」
「かしこまりました。では、零様の腕輪の方へと登録内容を送信しておきますので受諾の際はそちらの腕輪の方から送信をお願いいたします」
「あ、わかりました」
ぺこりと頭を下げると、足早にジャック達の元へと向かう。
「お、来たな零!登録の方は無事に終わったか?」
「あ、はい何とか…」
「もう、遅いですわよ!」
腕を組んでふてくされてるクラウリーを見た零は苦笑いするしかなかった。
「結構待たせちゃいました?」
「んや、こっちも難航しててな。中々良い依頼がないんだなぁ」
「ですから、さっきの討伐依頼を受けとけばよかったんですのよ!!!」
機嫌が悪い原因はそれか…。
ふてくされていた理由と、それが自分のせいでは無かったという事がわかり、零はホッと胸をなでおろす。
「だから、あれはまだ無理だっつーの。大型ネイティブ5体なんて今の俺たちに相手できるかよ!」
「私がいれば何とかなりますわよ!」
「どっからくるんだよその自信…」
「あ、あの…」
二人の口論の中、なかなか特務の事を切り出せない零。
その様子に気が付きジャックが「どうしたんだ?」と振り向く。
「実はGMから特務来てたみたいで…いい依頼がなければこれにしませんか?」
「特務!?」
「なんですって!?」
ジャックとクラウリーが驚き目を見開く。
「マジかよ…。あの変なGMの特務はともかく、こうやって斡旋所介して名指しで特務来るなんてエライことだぞ!?」
「そ、そうなんですか?」
「当然でしょう!?本来特務は上位…フロンティア4のユーザーにのみ依頼されるものなんですのよ?」
はやく依頼を見せてみろ、と二人に急かされ腕輪を起動させる零。
特務ミッション【調査協力】
ミッション内容【GMウォルターを目的地まで護送及び目的地での調査協力】
報酬【エクステンドチップ】
依頼主【ウォルター】
「マジだな」
「マジですわね」
顔を見合わせる二人。
だが数秒後…
「「これを受けよう!!」」
仲のいいのか悪いのかわからない二人の声は完全にシンクロしていた。
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