とある星の力を使いし者
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第111話
奇妙だと、上条は旗艦の通路を走りながら思った。
ビオージアが謎の影に攫われてから、氷の鎧が一切出てこなくなった。
何か仕掛けているのかと思ったが、上条の右手は異能に対しては絶対の効果を持っている。
放置している方が危ないので、迎撃に向かうのが当然だろう。
現にビオージア自ら、上条の相手をしようとしていた。
(ともかく、インデックス達と合流しないと。
でも、一体どこを目指せば・・・・)
適当に通路を走りながら考えていた時だった。
旗艦が大きく横に揺れる。
いきなりの震動にバランスを崩した上条は、咄嗟に右手を氷の床の上に置いてバランスを取る。
「あ。」
そう呟いた時には遅かった。
幻想殺しに反応した氷の床は正方形に切り取られる。
そのまま、真下に落下していく。
「うおおおおおお!!!!!」
さっきと似たような状況に陥った経験があったからなのか、今度はうまく受け身を取る事ができて、身体の痛みはさっきと比べて比較的にマシだった。
一応、身体に異常はないか調べながら周りを見渡す。
すると、目の前に両開きの扉があった。
よく確認すると、上条のいる所はホールのような広い部屋だった。
如何にも、ここは大事な部屋ですよ、と言わんばかりの作りだった。
(ここにアニェーゼが。)
目の前の扉に触れる。
すると、扉は正方形に切り取られ、上条は中に入る。
中は一辺が二〇メートルに近い正方形のような部屋だった。
実際は違い、四方の壁はほんのわずかに内側に傾いている。
立方体ではなく、四角錐なのだ。
その部屋の中央には、氷の球体があり、その前にはインデックスとオルソラ、そしてアニェーゼがいた。
上条がやってきたのを見て、アニェーゼは信じられないような表情をしている。
「な、何であなたまで来たんですか!?
私はあなた達に「法の書」の一件で、何をしたのか知っているでしょう!?
それなのに、どうして!?」
その言葉は上条だけでなく、オルソラやインデックス達にも向けた言葉なのだろう。
上条は頭をかきながら答えた。
「どうして、って言われてもな。
ルチアやアンジェレネがお前を助けたいって言ったから手伝いたいって思ったし、何よりお前はあの時、俺とオルソラを逃がしてくれただろう。
そんな奴を見捨てる事なんてできない。」
「私も同じでございますよ。
ルチアさんやアンジェレネさんは自分達が安全な所にいるにも拘わらず、それでも貴女様を助けると言いました。
また、皆で笑いたいとおっしゃっていたのでございますよ。
だから、そんな彼女達の思いを叶えたいと思ったのでございます。」
「私も同じかな。
手を差し伸べる事ができるのなら、私はできるだけ手を差し伸べる。」
三人はそれぞれ自分の思いを口にする。
三人とも別々の思いを言っているように聞こえるが、根本的な所はほとんど一緒だ。
それはアニェーゼを助けると言う所だ。
そこに気がついているのか、まだ信じられないような顔をしている。
オルソラは手に持っている天使の杖をアニェーゼに渡す。
「これは貴女様の杖でございます。」
それを受け取ったアニェーゼは愛用の杖を強く握りしめる。
「さぁ、行きましょう。
きっと、皆さまもアニェーゼさんが戻ってくるのを待っているでございますよ。」
アニェーゼはローマ正教の人間だ。
ローマ正教の敵である学園都市などを潰す為なら、幾らでもこの身体を犠牲にする覚悟があった。
だが、それ以上に大きな思いがあった。
それはルチアやアンジェレネ、他のシスター達の面倒を見ていきたいという思いだった。
彼女達と過ごす生活は大変であったが、楽しい毎日だった。
アニェーゼは上条達の後について行く。
自分の仲間達と出会う為に。
「私が出てきた所で、ビオージアが健在な限り、彼女達がどう動くかは分からねえですよ。」
氷の通路を走りながら、アニェーゼは言う。
彼女はイタリア語だと丁寧な喋り方になるのだが、日本語だと少し荒っぽくなる。
「その事なんだけどな。
ビオージアはよく分からない影に攫われたんだよ。」
「どういう事でございますか?」
一同は上条の説明を聞いて、足を止める。
「インデックス達と別れてから、何とか合流しようと走っていたら、ビオージアが俺を襲撃しに来たんだよ。
まぁ、色々あって下の階に落ちて上を見上げたら、何かの影に連れて行かれたんだ。」
上条はあの時の状況を三人に説明する。
「もしかして、天草式の皆さまが何か魔術霊装を使ったのでございましょうか?」
「それなら、『女王艦隊』に接近する時に使っている筈だよ。」
その時、旗艦が大きく揺れる。
「それにこの揺れ。
一体何が起こっているんだ?」
「外に出て確認した方が早いと思うですよ。
ここで考えていても答えは出ねえと思いますよ。」
アニェーゼの言葉に頷き、再び走り始める。
外で何が起こっているのかを確かめるために。
「おいおい、どうなっているのよ。
これもビオージアが用意した霊装なのか?」
建宮は海面から出てきている足を見て呟いた。
その足は近くにある『女王艦隊』を襲っている。
艦隊の方も、その足に向かって砲弾を放っている。
「どうなっているのです。
アレは何ですか!!」
ルチアは近くのシスターに近づいて問いただす。
そのシスターも何が何だか分かっていないのか、ルチアの質問に答える。
「わ、私達も知らない。
ビオージアからはあんな霊装があるとは聞いてない。」
その眼は嘘を言っているように見えなかった。
誰もがあの足について分からない状況で麻生はこめかみを押えながら、言う。
「クラーケン・・・海の魔物。」
麻生の言葉を聞いたのか、建宮は眼を見開く。
「何かの冗談よな?
クラーケンと言えば、過去に出てきたと言われる神話生物だ。
それがこの世に存在する訳がねえよな。」
「あれはこの星に住んでいたクラーケンじゃない。」
「ど、どうしてそんな事が分かるのですか?」
「俺にもよく分からない。
何故知っているのか、ただ言える事はあれを野放しにしていたら全滅するという事だ。」
そう言うと、麻生の身体はゆっくりと浮かぶ。
「もう争っている暇は無くなった。
あれは無差別に襲い、人を喰らう魔物だ。
争っている間に、どんどん仲間は喰われていく。
どうするかはお前達の勝手だが、後悔しない道を選ぶんだな。」
その言葉を残して、麻生は近くの『女王艦隊』に向かって移動する。
麻生が向かった艦隊は足の攻撃を受けて、沈みかけている。
建宮は麻生が助けに行くのを見て、近くのシスターに言った。
「おい、お前さんら。
もう争っている暇はねえよな。」
「な、何を言っている!?」
「このままだったら、お前さんらの仲間はよく分からない生物の餌にされるよな。
だったら、今だけでいい、協力するぞ。」
建宮の言葉に誰も否定はしなかった。
それだけ、あの足が危険だという事が分かっているのだ。
誰も否定しない事を確認すると、建宮は他の天草式のメンバーに指示を出す。
「ですが、シスター・アニェーゼはどうするのですか?
あのビオージアが霊装の準備をしているのですよ。」
アニェーゼの事が心配なのか、ルチアは言う。
ビオージアがアニェーゼをどう使って魔術を発動させるかは分からない。
だが、間違いなくアニェーゼの身が危ない事は分かる。
「それは上条達に任せるしかないよな。
あの足は我らのいる艦隊も狙う。
助けに行くというのなら、この橋の紙を渡しておく。
どう使うかはお前さんらの勝手だ。」
ポケットから紙の束を取り出して、ルチアに渡す。
ルチアはその紙の束と依然、襲い掛かってくる足を攻撃している艦隊を見比べる。
「シ、シスター・ルチア。」
アンジェレネは彼女の名前を呼ぶ。
彼女自身、どちらを選ぶか迷っている。
ルチアは眼を閉じて、深呼吸すると紙の束を袖の中に入れる。
「他の仲間を助けましょう。
不本意ですが、シスター・アニェーゼは彼らに任せましょう。」
「は、はい!」
アンジェレネは強く返事すると、近くのシスターに話しかける。
最初はアンジェレネに話しかけられ、警戒するシスターだったが、アンジェレネと会話を続けるとその警戒が薄れていく。
ルチアはその光景を見て、小さく笑みを浮かべ、ルチアも他のシスターに話しかけ作戦を考えるのだった。
後書き
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