とある星の力を使いし者
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第109話
「当麻、俺達が敵を撹乱するから、お前は旗艦『アドリア海の女王』を目指せ。」
「で、でもよ、俺が行くより恭介が行った方が良くないか?」
上条は自分よりも格段に強い麻生が行った方が、確実に『アドリア海の女王』の核となっている魔術霊装を破壊する事が出来る筈だ。
上条が言っている事は一理ある。
だが、それを聞いた麻生は少し溜息を吐いた。
それと同時に取り囲んだ『女王艦隊』の砲弾が麻生達の乗っている艦隊に、向かって砲弾の雨がこちらに飛んできていた。
その場にいる全員が、ギョッ!と目を見開いた。
麻生は左手の人差し指で空中に何かを描く。
すると、艦隊の周りに無数の魔方陣が突然浮かび上がると、それが防壁となり砲弾の雨を防いでくれる。
「これを何とかできるって言うのなら俺が行くが、どうする?」
上条はその光景をただ唖然と見つめていた。
確かに上条の右手ならあの魔術で、できた砲弾を破壊する事ができる。
しかし、弾幕という言葉がぴったり合うくらいの、砲弾が飛んでくる状況で右手一本では防ぎきる事はまずできない。
「分かったか?
分かったのなら、さっさと行動に移せ。
俺は砲弾を防ぐから、建宮達は主戦力を相手をしてくれ。」
「分かったよな。」
「今から、魔方陣を反射に変えて砲弾を相手に撃ち返す。
その隙に近くの艦隊に移動しろ。」
麻生は左手でもう一度、空中に何かを描く。
それに呼応して、艦隊の周りに浮かんでいる魔方陣の形が少しだけ変化する。
砲弾の弾幕がその変化した魔方陣に触れた瞬間、まるでビデオを巻き戻すかのように、砲弾が全く同じ速度で艦隊に戻っていき、爆発した。
「行け!」
それを合図に上条達は動き出す。
建宮が素早く呪文を詠唱して、紙束を放っていく。
それらは木の橋へと変わり、近くの艦隊を繋ぐ橋になる。
彼らは橋を渡り、目的地を目指す。
(さて、どうする。)
魔法陣の防壁を解きながら、麻生は考えた。
同じ手は二度通じる相手ではないので、すぐさま魔法陣を解いた。
麻生が今、考えているのは能力使用時間についてだ。
麻生の能力である「星」は凄まじい能力だが、一日三〇分しか使えないのだ。
(残り使用時間は十五分。
こればっかりはどうしようもない。)
少しでも長く能力が使えるようにと、能力が必要ない所は能力の使用を控えているのだが、それでも限界がある。
今は艦隊の砲撃を防いでいるが、能力が使えなくなったら、自身の身体能力だけでこの場を切り抜けないといけなくなる。
(その前に当麻が決着をつけてくれると助かるんだがな。)
最悪、上条達が『アドリア海の女王』に到着すれば、麻生も『アドリア海の女王』に乗り込める。
なぜなら、『アドリア海の女王』はこの艦隊の要だ。
それに向かって砲撃をしたくても、できない筈だ。
それまでは、敵の砲撃を防ごうと考えた時だった。
麻生に突然、激しい頭痛が襲い掛かった。
(ッ!?・・・・何だ。)
と、周りを見渡しながら麻生は警戒する。
周りには海から上がってきた、シスター達が甲板に乗り込もうとしている所だった。
麻生は建宮が作った木の橋を渡りながら、考える。
(俺に干渉する魔術は全部、無力化される。
何より、この頭痛は・・・)
麻生にはこの頭痛に覚えがあった。
あの魔道書を見た時や、触手を見た時と同じ頭痛だ。
(どこかに、アレがいるのか?)
改めて周りを見るが、それらしい生物など見かけない。
珍しく訳が分からなくなったのか、首を傾げる。
背後からシスターの一人が剣を振り下ろしてくる。
それを確認をしないでかわすと、手刀でシスターの首を軽く叩いて気絶させる。
(今はそんな事を考える暇はないな。)
思考を中断して、建宮達のいる所まで走って移動する。
幸いにも、橋はまだ破壊されていないかった。
迫り来るシスターを迎撃しつつ、艦隊を移動していく。
しかし、麻生は気がつかなかった。
アレは艦隊でも空でもなく、海の中にいる事を。
建宮達が敵の主戦力を引き付けているおかげで、何とか旗艦の『アドリア海の女王』に無事に到着する事ができた。
その後ろにはオルソラとインデックスがついて来ている。
扉は固く閉ざされているが、上条の右手でその扉を破壊する。
すると、殴った点を中心に一辺が三メートルくらいの正方形に切り取られる。
そのまま中に入ろうとした時、氷の床から何十体もの西洋の鎧の形をしたのが生まれる。
それらは一斉に上条達に襲い掛かる。
「中へ逃げれば、追っては来ないでございますよ!
彼らは船を守る存在、中の構造を傷つけたくはないはずでございます!」
それを聞いて、上条はインデックスの手を掴んで自分で開けた穴に向かって走る。
途中、西洋鎧が持っている斧や剣が上条達の身体を切断しようと振り回してきたが、それを紙一重でかわして、中に入る。
此処までは追ってこないと一息入れようとした時だった。
鎧達は躊躇うことなく、中に入ってくる。
それを見た三人は驚きながらも、逃げる。
(敵さんは俺の右手を危険視している筈。
それなら・・・)
ちょうど道の交差点に近づいてきた時に、上条は二人とは別の道を選ぶ。
「とうま!?」
「行け!!
あいつらは俺の右手を狙っている筈だ!
後で、合流するから先に行け!!」
氷の鎧達のほとんどは上条に向かってきたが、インデックス達にも向かおうとしている鎧もいた。
それを上条は右手で壁を破壊する。
すると、自律防衛システムでも作動したのか、急に方向を変えて上条の方に向かってくる。
それを確認した上条は通路のを奥へと進んでいく。
上条の実力はそれほど高くはない。
勝てるのは一対一、一対二なら危うくて、一対三以上なら迷わず逃げる。
だが、それも普通の人間を相手にした時だ。
今回の相手は魔術でできた鎧だ。
右手で殴れば一撃で破壊する事ができる。
上条は逃げつつも、鎧を右手で迎撃していた。
「行き止まり!?」
通路を走っていた上条だったが、その先に道が続いておらず行き止まりになっていた。
後ろにはまだ二〇体ほどの鎧が追いかけている。
「うおお!!」
悠長に考えている余裕はなかった。
咄嗟に上条は右手で隣の氷の壁に触る。
氷の壁は立方体の形に砕け散る。
なりふり構わず、隣の部屋に飛び移る。
上条がその中へ飛び込むと、複数の鎧達が行き止まりに激突したのはほぼ同時だった。
凄まじい勢いと重さをつけて壁に向かった鎧達は、その衝撃で身体をバラバラに飛び散らせる。
上条はそれを確認するせず、まずは部屋を見回し、地形を把握した所でとうやく一息ついた。
劇場の二階席のような場所だった。
左右へ数十メートル単位で半透明の輝く座席が長く続いているのに対し、奥行きは数メートル程度。
意匠を凝らして手すりの近くまで行くと、階下が覗ける。
まるで華美なオペラハウスだが、遥か下にあったのは舞台や観覧席ではなく、扇状に並んだ多くの椅子と机だった。
テレビで見る議会に近い。
その時だった。
後ろでゴッ!!という轟音と共に上条の空けた大穴から氷の鎧が突っ込んできた。
「・・・・ッ!?」
これ以上は逃げられない。
上条は背後の手すりを意識し、それから拳を握る。
そして、上条の方から氷の鎧の懐へ跳ぶ。
対する、氷の鎧は同じ材質の大剣を水平に振るった。
「おおっ!!」
これに応じるように上条が右手で大剣を叩こうとした所で、氷の鎧の両足がひとりでに砕けた。
おそらく、先ほどの衝撃でひびが入っていたのだろう。
大剣の軌道はそれに呼応するように変化した。
水平に腹を狙う姿勢から、斜め下から上条の首を目掛けて突き上げるものに。
腹を守ろうとした右手から逃れるように。
(しま・・・・ッ!?)
上条の頬に浮かんだ冷や汗を、大剣の風圧が吹き飛ばす。
「うおおおおッ!!」
全力で身を屈めた。
髪のいくらかは大剣に接触する。
抵抗なく切断されたというよりも、頭皮を丸ごと引っ張られたような激痛が走った。
それでも避けた。
痛みを堪え、上条は身を屈める動きを殺さず、そのまま身を倒すように体重を乗せて右拳を振るう。
自ら足を折って後ろへ倒れつつある氷の鎧の胸板へ、床にぶつかる前に一撃を叩き込む。
動きを止めた鎧は、落下と同時に砕け散った。
後書き
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