ゲルググSEED DESTINY
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第七十二話 揺らめく情勢
アークエンジェルとクサナギ――――その二隻が合流したのは補給や整備の関係上、施設を使わねば修理しきれないものも多かった為、アメノミハシラに来ていた。本来なら門前払いされてもおかしくないのだが、ロンド・ミナ・サハクは彼らの受け入れを許可していた。
「まずは貴殿の寛大な施しに感謝したい。礼を言わせてくれ、私のような立場の人間をここに立ち入らせてくれたんだ」
「なに、元々ここはオーブの所有施設であったことに変わりはないのだ。その位の融通はするのが当り前であろう。それに、オーブの獅子の姫である貴女の意志は我が宣言した『天空の宣言』に当てはまる。そういった人を支持するのもまた我々の役目でもある」
ファクトリーほど新鋭機に対応した施設ではないものの、アメノミハシラは現在アークエンジェルとクサナギが活動する事が出来る拠点として最も充実した設備があることは間違いない。何せアークエンジェルもクサナギも、リゼルやムラサメ、アカツキといった艦や機体は殆どオーブの系譜から生まれたものだ。そしてアメノミハシラもまた元とはいえオーブの施設の一つ。整備や修復にこれ以上うってつけの場所はそうそうないだろう。
「僕からも礼を言わせてください。フリーダムの修復はファクトリーかオーブ本国でないと出来ないと思っていたんですが、ここの技術者や施設なら何とかなりそうです」
「フム、キラ・ヤマトか……礼を言われるほどの事でもない。元より我々は二年以上前の話とはいえオーブからこの施設を奪った略奪者でもあるのだ。本来ならばそちが礼を言うよりも先に我が非礼を詫びねばならんのだからな」
事実、以前のカガリならばプラントのアーモリーワンにいた時のように返せと要求してきたことだろう。しかし、今の彼女にそのような発言を言える権限はなく、さらに言えば彼女自身もそこまで要求する気はなかった。だからこそ、それを機敏に覚ったミナはそのような発言を行ったのだし、カガリは自分よりも遥かに格上だと理解して深く追及しようとはしない。
「それで、そちらさんはどう動くつもりなのだい?まさかとは思うが天空の宣言のようなものを打ち出しておいてデスティニープランは容認するとでも言う気かい?」
「砂漠の虎よ、そちは少々相手の意図を酌むという事を覚えた方が良いのではないかね?時を惜しむのも良いが短慮なものは損をしてしまうぞ」
不敵な笑みを絶やさぬままバルトフェルドの問いかけを上手く躱す。しかし、答えを出さない限りは最低限の信用も得ることが出来ないと判断し、ミナはあっさりと答えを返す。
「確かに、我の天空の宣言はデスティニープランとは相容れないものだ。だが、我はそれを強要するつもりもなく、かといってデスティニープランを享受することもない。良くも悪くも我らのアメノミハシラはこれまで通りであり、それはこれからも変わるつもりはない」
「つまり、自身らの信念が脅かされるまで動きはないと?」
「否――――ただ停滞を望むこととなれば他者の外圧に耐えることが出来なくなる。我としても最善と言える手を探しているのだよ」
その発言を聞いてカガリは驚きを露わにする。オーブの影の軍神とまで呼ばれる様な目の前にいる人物ですら最善の手が何なのかを探し、手をこまねいているのだ。
「ギルバート・デュランダル――――どうもあの者はまだ何か真意を隠しているように見える」
「それじゃあ、彼の本当の目的は別にあるって事なんですか?」
キラが思わずといった様子で問いかけ、ミナもそれに対して自身の予想を応える。
「やもしれぬ。どちらにせよ、我の勝手な推測に過ぎないがな」
ミナのその様子からして、アメノミハシラの今後の動きは少なくともただ静観するというわけではないようだという事が分かった。
「もし動くという事になったなら、その時は私達に手を貸してほしい」
「――――いいだろう。確約は出来ぬが機会があるならば手を貸そう」
◇
連合部隊が壊滅し、コロニーレーザーの危機も去ったことからプラント防衛の為に展開していた部隊は一度部隊を集結し直していた。いよいよデスティニープランを実行するためにザフトの部隊を動かし始めていたのだ。
「これがデスティニープラン最大の要となるメサイア――――」
アスランは厳しい顔つきをしながら戦闘が終わり、実際にデスティニープランを実行するために用意されたメサイアと呼ばれる要塞のデータを確認する。遺伝子解析のシステムを担う殆どの技術は軍事要塞内部にあるらしい。アスラン自身はそのメサイアに搭載されているシステムやデスティニープランにおける準備よりも、外部から見て要塞の中央部に存在する一つの砲口に目が向いていた。
「これは……まさか?」
「ネオ・ジェネシス――――メサイアに搭載された最大火力の防衛兵器。かつてのジェネシスが地球圏すら滅ぼすことの出来る威力を求めて造られたのに対して、運用性を重視した兵器さ」
「クラウか、何故ここに?」
アスランはミネルバにシン達と共に後方で待機していたが、クラウは前線に出てザフトの大型MA――――ノイエ・ジールⅡの護衛にあたっていたはずである。
「ミネルバにはメサイアに向かうよう指示が渡されてね。マーレや議長の乗っている旗艦は既にメサイアに向かって出航している。通信でも問題はないんだけど手間を考えると俺がミネルバに行って伝えた方が楽だからさ。後、君らフェイスのパイロットはミネルバがメサイア周辺部に到着後に議長の所まで行くようにとのことだって」
どうやらアスラン達ミネルバの部隊はメサイアの防衛部隊に回されるようだ。当然と言えば当然だろう。既に連合の部隊は多数がその戦闘力を失った以上、目標地点はデスティニープランの情報が仔細に存在すると言われたメサイアにでも向けざる得ない。
余裕があったならばプラントを狙って、交渉権をもぎ取る等の手段も取れたかもしれないが、戦力は最早連合にもデスティニープランに対して否定を唱えた勢力にも不可能に近い。その為、戦闘があるとするならばメサイアが最も可能性が高いのだろう。戦力を集結させるのは当然と言えた。
「ああ、分かった。グラディス艦長や他のクルーにこのことは?」
「艦長には既に伝えてあるよ。ミネルバの航路もすぐに変更するはずさ。他のクルーに関してはまだ報告はしていないよ」
「ならシン達には俺の方から伝えておこう。クラウは前線に出て疲れてるんじゃないのか?少し休んだらどうだ」
「なら、ありがたく――――報告に関しては任せるとするよ」
そう言って予め用意していた報告に関する資料をアスランの分と他のパイロットの分に分けて渡される。資料にはメサイアにて受領される武装、後々の配置予定、そしてデュランダル議長と会う為の許可証などと多岐にわたる。間違っても一技術士官が持っていて良いような代物ではないが、クラウはある意味議長の部下同前とも言える存在なので問題はないのだろう。全て正規の手続きを踏んで用意されたものである。
「だが、議長はジェネシスを再び持ち出してくるなんて……これで本当に戦争を終わらせるというのか?いや、平和な世界を創れるというのだろうか」
クラウが離れた後、そんな独り言をつぶやきつつ、アスランは受け取った資料を他のパイロットであるシン達に渡す為に艦内を移動する。ミネルバも艦の航路をメサイアに変更したことが放送され、現在メサイアに向かって移動中だ。
「ハイネ――――フェイスへの指令だ。シン達にも後で話すことになるが俺達はメサイアに直接移動することになる。これはその際に必要になる資料だ」
「おう、サンキュー」
資料を受け取り、ハイネは休憩室の備品である自販機から出てきたカップコーヒーを飲みながら礼を言う。
「ハイネはこのデスティニープランに対してどう思ってる?」
アスランは聞きたいと思いつつも聞く機会が無かった為に先延ばしにしていた質問をする。実際、今を逃せば聞く機会はデスティニープランが実施されてからになってしまうだろう。そう考えればアスランの聞くタイミングは最適といえた。
「あー正直な所、全面的に賛成してるわけじゃないがこれで戦争が終わるっていうんなら歓迎だな」
「だが、折角終わりそうだった戦争が、この計画でまた起ころうとしてるんだぞ」
ハイネはこれで戦争が終わると、アスランはデスティニープランが原因で戦争が継続すると発言する。どちらの意見も間違っているわけではない。アスランの言うようにデスティニープランが提唱されなければ連合とザフトは今頃終戦協定――――悪くとも停戦協定は結べたはずだ。そうすれば時代は新たな復興を迎え、平和へと向かう明日に進むはずである。
しかし、一方でハイネの言うように戦争が終わるというのも間違いではない。アスランの主張によって得られる平和はあくまでも前大戦のようなザフトと連合の終戦協定に過ぎず、いつか互いの戦力が回復し、きっかけが生まれれば戦争が再び起こり得ることとなる。
更に言えば、議長が言ったようにデスティニープランが成功すれば戦争そのものが無くなるかもしれない。とはいえ、その先に待っているのは自由の存在しない遺伝子に定められ、束縛された人生となるのだろうが。
「結局俺達は軍人だからな。何でもかんでも上の命令に黙って従えってわけじゃないが、だからといって首を横に振る権利はないさ」
嫌だから、納得できないからといって命令に従わないなどというのは軍の秩序を守る上で確かに無理な話だ。アスランもその言葉に一応の納得を見せ、他のパイロットにも資料を渡しに行くためにハイネとの会話を切り上げてその場から離れた。
◇
デスティニープランを提唱したことによる各国の影響は時を過ぎるほどに大きなものとなっていた。提唱した当初は地球上においては親プラント地域と即刻拒否を示したスカンジナビアを除けば殆どの国が対応に手をこまねいていたといえるだろう。とはいえ、地上の殆どは反ロゴス思想やブルーコスモスへの反発からデュランダル議長に対し支持をえているのも事実であり、どちらかといえばデスティニープラン賛成へと傾倒し始めていた。
「さて、オーブはこれからどう動くべきか……これの対応次第でオーブの今後が決まると言ってもいいと思う。これは我々だけでは対処できないと、或いは我々だけで決めてしまった場合の不都合を考慮して皆さんのご意見を聞かせていただきたい」
オーブで行われた緊急会議――――氏族が中心となり国の政治を行うオーブは未だかつてないほどに大規模な会議を行っていた。上位の氏族だけでなく、下級氏族や氏族以外の国家を運営する上級の役人や官僚、国営であるモルゲンレーテ社の上層部の数人、軍を統括する将軍職の関係者。
司会進行役はユウナが執り行っており、これまでになかった規模のこの会議に殆どの者は浮ついた様子を見せる。
「デスティニープランを受け入れるべきではないだろうか?オーブは連合の一部に加わっていたとはいえ、コーディネーターも多く存在する。それを考慮すれば我々は親プラント派として支持すべきだと思うのだが?」
「何をいう!そのような安易な賛同は危険すぎるぞ!そもそも、徹底的に反対勢力であった連合をレクイエムで屠ったのはザフトではないか!そのような相手に従うなど、危険すぎるぞ!」
「それは反対するにしても同じではないかね?」
氏族や役人の多くは賛成や反対に熱く議論を交わす。時間が多くあるならいくらでもやってもらって構わないのだが、今はそんな猶予はない。ユウナは一つ咳払いをし、発言する。
「みなさんのご意見は理解しています。ですがここは一旦静粛に――――デスティニープランへの対応は賛成にせよ反対にせよ、様々なメリット、デメリットが存在しているはずです。そこで、各々の代表的な意見を参考にこの議会で多数決を取りたいと思っております」
ユウナのその言葉に益々騒然とする。代表や上位の氏族によってこれまで政治は取りまとめられてきた。かつてのオーブの獅子であるウズミならばきっと一人で決めたことだろう。しかし、現在国を立て直しているユウナやウナトにはウズミやカガリ程のカリスマはなく、自ら決めたのでは下手すれば内乱が発生してもおかしくない。
「し、しかし……我々も参加して良いのでしょうか?これはオーブのこれまでの政治体系を大きく覆すことになってしまいますよ……」
「だが、僕らがこのデスティニープランに対する批評を行っても、国全体の信頼が低い今の状態では儘ならない。それならば一同を介してどう対応するかを話し合った方が建設的だ」
一度例外というものを認めてしまえば、以後例外というものは繰り返されてしまう。そうならないようにするのが優秀な政治家の仕事だが、ユウナは自分の実力というものをきちんと測れていた。この会議はさながら江戸時代の幕末に徳川家が黒船への対応をどうするべきか各藩に尋ねた時の様子と似ている。
最終的な決定権は上位の氏族に与えられているが、この議会における意見は大いに参考になるはずだ。そのような思いを持って議会を推し進める。
「我々軍部としてはデスティニープランに対する意見は反対を取らせていただきたい。そもそも意思決定のない職業選択によって平和が得られるとは思えないのです。軍において士気の差が戦況を分けるように自らの望む職や生活によって得られるものもあるはずです。なら遺伝子によって決まるなど不可能に近い事だと」
軍部の上層部の一人であるトダカ准将を中心に軍部はそう意見を言う。周りの軍人の内、陸軍を除いた人はほぼ全員同意見なのか首を縦に振るだけで否定しようとする様子はない。陸軍の方も海軍出の将官であるトダカの意見に対して肯定しないというだけで否定という事もないようだ。
「モルゲンレーテとしての意見は賛成だ。確かにそういった危険性は孕んでいるが大局の情勢は既にザフト優位になっている。機を見誤れば何もかも失うことになってしまう」
そうやって互いの意見が交わされ、オーブの今後が決まっていく事となった。
後書き
そろそろこの作品の終着点を模索中……やっぱり勢いだけで書いてるとどう終わらせるべきか悩むね(笑)
それぞれの勢力の終わり方が必要だろうから悩む……ザフトが勝つべきか、ファントムペイン残党が一矢報いるのか、オーブが漁夫の利を取るのか、はたまたアークエンジェルが介入してくるのか……。
まあミネルバはメサイア防衛に配属が決定したし、なるようになるさ!
ふと思いついたおまけ
エルザ・ヴァイス「美しさが戦いに役立ったことってある?」
イライジャ「何だ、それ?そんなのあるわけないだろう」
ルドルフ「いや、美しいということは、それこそが素晴らしさなのだよ。この僕は、美しいが故に強い!」
エルザ「誰、こいつ?」
イライジャ「俺に聞かれても……」
ルドルフ「君のような存在は酷く勿体ない。その野暮ったい髪も磨けば輝くだろうに!」
ダンテ・ゴルディジャーニ「全くだな。その前髪もいい加減な切り方をしやがって、折角の美貌を何だと思ってる?」
エルザ&イライジャ「「だめだ、こいつ等……」」
マーレ(……むしろこいつ等こそ誰だ?)
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