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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 あるお盆の物語 ④

さて、時間を遡り場所も変わって第二部隊のところである。

「さて、何か聞きたいことはあるかのう?」
「質問も何も、まだ何も決めていないだろう。誰がどう行動するか、どのペースで移動していくのか、作戦を決めろ。」

豊はそう慈吾朗に言うが、

「そんなものはない。本人が一番よいと思ったことをする。それをワシがフォローし、全体のバランスを取る、これでよいじゃろ。」
「慈吾朗の言うとおりです。このメンバーでそのようなことを考えても、何の意味もありません。」
「『犬神使い』、『化け狐』、そんなてきとうでいいはずがないだろう。もう少し真面目に考えろ。」
「豊はもう少し頭をやわらかくしなさい。そのように硬い考えでは、臨機応変に対処できませんよ?」
「前のいうとおりじゃ。これくらいのことを受け入れられないのでは、霊獣殺しは不可能。自らの力も上昇せんぞ。」

一切聞き入れられることはなく、そう返される。
まあ、この妖怪大量発生では何が起こっても可笑しくないので、作戦は立てないほうがいい。一輝が作戦を伝えたのは自分が臨機応変に動けば言いという考えからだし、それでもかなり簡単なものだ。

「はあ・・・こんなことならばあの場でメンバーチェンジを頼むべきだったな。『降神師』のところなら、まともな作戦が立っていただろうに・・・」
「いや、それはないじゃろ。あやつはワシ以上にそのあたりはてきとうじゃ。」
「作戦が立っているとすれば、一輝のところぐらいでしょう。」

そんな話をしているうちに、日付は変わり・・・妖怪の大量発生が始まる。

「はあ・・・始まってしまったのなら仕方がないか。白澤図よ、汝が内に在りし異形を、今我がために開放せよ。ここに記されしは、歴代の粂神が集めし、その功績なり。」

豊はそう言霊を唱え、手に持っていた古びた本を掲げ、

「今ここに再臨せよ。全ての妖怪よ。そして、我が命に従え。」

そこから、大量の墨を放射していく。
それらは少しずつ集まり・・・白黒の妖怪軍を形成し、そのまま妖怪の群れに突っ込んでいく。
そこに一切の自我は感じられず、ただ使命を全うするというだけの、機械のような動きではあるが、それでも勢いよく妖怪を倒していく。

これが粂神に伝わる奥義、『白澤図』だ。
これは、過去に一輝が殺して封印した霊獣、白澤が残したといわれる蒐集本で、自らの手で殺した異形のデータが記載されていく、この世に一冊しかないものだ。
ゆえに粂神には奥義を使えるものが一人しかおらず、常に滅びと背中合わせとなっている。
その力は単純で、記載されている異形から意識を奪い、ただ自分の思いのままに動く人形とする。一輝の奥義、妖使いに似ているようで、全く違うものだ。

「あら、抜け駆けとは酷いですね。先に始めないでください。」
「何を言っている。この状況で何もしないほうが間違っているだろう?」
「まあ、豊の言う通りじゃな・・・ほれ、早くせぬと前の出番もなくなるぞ?」
「く・・・まあいいでしょう。」

そう言いながら、前は腰に下げた九つの刀を取り、右手に五、左手に四をつかむと言霊を唱えていく。

「今ここに、われは力を使う。汝、その核となれ。」

そう言いながら両手から四振りずつの刀を投げ、残った一振りを媒介として力を流し込む。

「我が込めしは狐の力。今、汝らは管狐となる!」

言霊が終わると、投げられた刀は三尾の狐の姿となり、妖怪を喰らい、切り、燃やしていく。
そして、前自身も刀を構えて走り、管狐が喰らった妖気を使った妖術や剣術を持って妖怪を殺していく。

これが、前の継承した奥義の一部だ。
前の一族は美羽と似たようなもので、化け狐の血を引いている。
その狐は、一輝の先祖が殺したのとは別の九尾で、一輝側の悪妖とは違い人々を守り、実りを与える豊穣の神である。お稲荷様、とかその辺だ。
その結果、美羽の狐バージョンのような奥義を使う。狐の大将として小さい狐を使い、その力を自らのものとする。
まあ、美羽の力も前の力もこの程度ではないのだが、それを披露するのはもう少し先だろう。

「さあ、慈吾朗も早くなさい!この後の酒会、一番戦果の少ないものの驕りです!」
「待て『化け狐』!未成年が大体なのに酒会となるはずがないだろう!」
「はっはっは!なに、このメンバーでの集まりでそのような法律が通用するはずもなかろう!」

国としてもこのメンバーの力を失いたくないので、その程度であればもみ消されるだろう。
それに、下手に敵に回したらこの十人によって日本が潰されかねない。規格外の集まりなのだから。

「さて、そういうことならばワシも少しばかり働こうかのう。」
「少しではなく全力を出せ!これは遊びではないんだぞ!」
「まあまあ、ワシのような老輩は、若き者たちのためにも手を出さんほうがよいのじゃ。」

そう言いながら、慈吾朗は和服の懐から和笛を取りだし、それを吹く。
すると、慈吾朗の体から青いもやが出てきて、それが巨大な犬の姿になり、吼えた。

「ウォォオォォオオオオオオオオオオン!」

それだけで一部の妖怪は消え去り、消えなかった妖怪も力が抜けたようにその場に崩れる。
そうして弱った妖怪は巨大な青い犬・・・慈吾朗の使う犬神によって噛み砕かれ、踏み潰されて消えていく。

「よくやったのう、ベル。これからもその調子で頼む。」
「ウオン。」

さて、第二席の説明に入ろう。
慈吾朗は笛を吹くことによって自らの体に住んでいる犬神を呼び出し、使役することができる。
慈吾朗の体に住んでいるのは青い巨体を持つメスの犬神、ベルだ。
この犬神は誰かから継承したのではなく、生まれつき慈吾朗の体に住んでいたもので、慈吾朗と共に成長していく(最初は子犬程度のサイズからはじまる)。
その体質のため、犬神の一族は生まれたその瞬間から、奥義を習得した陰陽師なのである。
次に、妖怪を消し去り、弱めた力についての説明に移ろう。
まあ、特に難しい理由はない。ただ古来より犬の鳴き声には御払い、お清め、そういった効果があるというだけだ。こんなもの、犬神の犬という属性に付属したおまけみたいなものなのだが、慈吾朗はそれすらも伸ばし、霊獣を消し去れないにしても隙を造ったり弱めたりすることはできるほどだ。そして、その隙に犬神の真骨頂を使い、霊獣殺しに成功した。

「さて、まだまだおるでのう。前に豊、隙は作るからその隙に消してゆけい。吼えよ、ベル。」
「ウォォォォォオオオオオオオオオン!!!」

慈吾朗の命令に従い、ベルは先程よりも大きな声で吼え、より広範囲の妖怪を消滅、ないし弱らせた。

「これでは慈吾朗より大きい成果を上げるのは難しそうですね・・・仕方ない。豊、貴方に奢らせてみせます!」
「まだそんなことを言っているのか・・・これは仕事だぞ。そんなことを」
「あら、逃げるのですか?」

前がそう挑発すると、豊はその口を閉じ、前を睨みつける。

「あら、黙っているということは図星なのでしょうか?」
「・・・・・・どういうことだ?」

前に言われて返す豊の声は、今までよりも低い声だった。

「あら、先程ので分からなかったと?では分かりやすく説明して差し上げます。
 貴方は私との勝負に勝てないと思い、恐れ、勝負を引き受けない腰抜け野郎なのですか、と言ったのです。」
「ハハハ・・・いいだろう。その喧嘩買ったあ!」

豊はそう言いながら白澤図に全ての妖怪もどきを戻し、自らに向けると、

「鬼道の奥義を、妖怪の意識を奪うことによってより効率化した俺の奥義!見さらせえ!」

言霊を唱え始める。

「今この書に蒐集されしは数多の異形!ここに宣言する、我は汝らの力を我が物とする!今、我が命に従い、わが身に宿らん!」

唱え終わると白澤図から大量の墨が豊に吹き出され・・・否、豊に入り込み、そのデータを豊に書き込んでいく。
それが終わると、豊の服装は白黒の和服に変わり、さらには豊自身が白黒へと変わる。
これは豊自身が鬼道の奥義の文献を参考にして作り出した新たな粂神の奥義、“取り込み”だ。
これは“憑依”を元とした技だが、他の奥義を元にしたものも、もちろん存在する。
もっとも、神のデータがなければならない“神成り”や一輝が箱庭で作り出した“百鬼武装”などを除けば、ほとんどの奥義が、だ。

「おらあ!妖怪ども、かかって来いやあ!」

切れて妖怪の惨殺を始めた豊を見て、前と慈吾朗の二人は

「相変わらず、扱いやすいですわね・・・」
「うむ。あの短気はやつの武器だが、同時に弱点でもある。もう少し感情のコントロールができるといいんじゃがのう・・・」

そう言いながらも、妖怪退治に参加した。
そしてほとんど退治しきり、豊と前がどちらのほうが多く倒したのかを口論していると、

日本で三箇所に、霊獣が出現した。
そして、ある場所ではより強い存在が、目を覚まそうとしていた。
 
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