戦国異伝
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第百四十四話 久政の顔その三
その信興にだ、こう告げたのである。
「彦九郎、御主は本陣を守れ」
「はい」
「頼んだぞ」
こう告げてだった、そして。
自ら南蛮のマントの様な陣羽織を大きな動作で羽織りそのうえで前に進む、それに他の者達も続く。
家康も陣を後にする、その際に言うのだった。
「信興殿でしたな」
「はい」
信興は微笑み家康の言葉に応えた。
「今回より参陣しております」
「左様ですか」
「兄上にようやく初陣を認められまして」
「それはよいことですな」
「この本陣を無事に守ってみせます」
それが彼の今のすべきこととわかっての言葉である。
「では」
「はい、頼みますぞ」
「それがしも勘十郎兄上達の様になりたいです」
信行達の様にだというのだ。
「兄上の力となりたいです」
「左様ですか、それでは」
「今はですな」
「本陣をお守り下さい」
十万を超える大軍の本陣を守り崩さないことにもまた力量がいる、初陣の若武者にしては厳しいものがある。だが信長は彼を見込んであえてそれを任せたのだ。
そのことは家康もわかっている、それで彼にも言うのだ。
「信長殿は彦九郎殿に期待されています」
「その期待に添ってみせます」
「是非共」
家康は信興の手を取りそのうえで彼に告げた、そしてだった。
家康は信広と共に小谷城の本丸の周りを囲み信長は信行と主力を率いて京極丸に攻め入った、信長は大軍で京極丸を囲むとすぐにだった。
鉄砲隊を前に出してだ、こう彼等に命じた。
「城の壁を崩し去るまで撃て」
「そこまで、ですな」
「徹底的に」
「そうじゃ、撃て」
千丁を超えるその鉄砲でだというのだ。
「よいな、そうせよ」
「はい、それでは」
「今より」
鉄砲を持つ足軽達は信長の命に応えてだった、その鉄砲を上に向けてそしてだった。
城の壁を撃つ、一撃撃ちそれからもう一度弾を込めて撃つ。それを繰り返してだった。
城壁とそこを護る浅井の兵達を撃っていく、城の壁は壊れ兵達は退いていく。それを見てだった。
信長は兵達に城の壁を登る様に命じる、それだけではなく。
門にも向かわせる、無論門を守る櫓にも鉄砲を放たせる。千丁を超える鉄砲をこれでもかと使い攻めていた。
それを受けて京極丸は織田家の大軍に雪崩れ込まれた、信長もその中に入るがその横には今は信行がいた。
信行は攻め入りながら信長に驚きの顔でこう言った。
「まさか鉄砲をあそこまで使われるとは」
「思わなかったか」
「はい」
そこまではとてもだったというのだ。
「こうしたやり方もありますか」
「鉄砲はただ迎え撃つだけではない」
普通のこの使い方だけではないというのだ。
「待ち伏せや城の護りにも使いな」
「こうしてですか」
「城攻めに使うこともある」
今の様にだというのだ。
「だからじゃ」
「では」
「うむ、これより久政殿の前に行く」
そうするというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
「今より」
竹中と黒田も信長の傍にいる、そしてだった。
織田家の軍勢は京極丸に雪崩れ込んだ、それを見た浅井の兵は一気に浮き足立つがその彼等に対してだった。
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