木ノ葉の里の大食い少女
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
ヒルマ
前書き
中忍試験からはタイトルのところにメインのキャラクターの名前が入るかと想われ。中忍試験以降はマナと関わらない部分もたくさん出てくることになりますので。
2-1
「どうしたどうした、もっと動け! 私に追いつけるようにならないと任務量を十、追加するぞ!!」
「無茶ゆーなミント野郎!」
「……どうせ追いつけてもつけなくても追加するんでしょう……」
びしびしびしびしびしびしびし。
素晴らしいスピードでハッカが泥まみれになりつつ田んぼに植えているのは苗だった。緑色の苗が猛スピードで、しかも一直線に等間隔をあけて植えられている。等間隔に、そして一直線に植えるのは中々難しく、マナもはじめもユヅルも悪戦苦闘している。三人の相談の結果、ユヅルはチャクラ網を放出し、その縦線と横線が交差する地点にマナとはじめが苗を植えていくということで落ち着いている。マナとしてはユヅルのチャクラ網を出せる能力は羨ましくてしかたないし、こんな苗育つまで待たなくてもそのまま食べちゃえばいいのにみたいな感じだ。
この分配はなんだか不公平な気もしたが、ユヅルは病み上がりなのでいいということにしよう。
今回の任務は田んぼに苗を植えるというもので、自分でやれよみたいな気もしないではなかったが、任務は任務だし、概ねハッカがこなしてくれるので問題ない。
「よし、完成だな!」
「え? もう?」
始まって十分で終わるとか、“木ノ葉の速いミント”の異名はやっぱり伊達じゃない。顔を引き攣らせる生徒三人に、さあ任務追加だ追加! と叫んで口寄せする。
口寄せで出てきたのは一匹の巨大なオニヤンマだ。すらすらっと走り書きしたメモをオニヤンマに持たせると、「火影邸の三代目火影さまによろしくな」と伝えた。こっくんと頷くなり、オニヤンマは瞬く間に飛び去っていった。
そして三分たったかたたないかのうちに、一枚の紙を抱きしめたオニヤンマが戻ってきた。さすがはハッカの口寄せ蟲、スピードすらハッカ譲りだ。
「……ん? 音々、どうかしたか?」
「ね、音々?」
「ゴ主人。三代目カラ、中忍試験ノコトニツキ、即刻火影邸ニ来ラレタシトノコト」
でっかい複眼のオニヤンマには凡そ似合わない音々という名にドン引きする生徒達には構わず、ハッカは音々の無機質な言葉を聞き取り、了解だと爽やかな笑顔で告げる。
「では行ってくるから、お前たち三人は修行でもしていろ、怠るんじゃないぞ!」
素晴らしい勢いで屋根の上に跳ね上がったハッカに、「ゴ主人、ワタクシガゴ主人ヲオ連レシマス」とオニヤンマの癖に若干顔を赤くしながらハッカに擦り寄り、ハッカをその肢で掴み上げ、羽をぶんぶん鳴らしながら火影邸へ向かって突進していった。
「何あのオニヤンマパネェ」
「ぱねぇ……?」
「あー、パネェってのはな、えっとそのなんだ、半端ないお姉さんって意味だ。因みにパネェの術ってのは、ナルトのおいろけの術みてーな奴だ。撹乱にはもってこいの術だぞ、ちゃんと覚えとけ。お前があれつかってもっと女らしく変化してみせりゃ、他の奴等もお前が女顔とは思わなくなるかもしれねえし」
「……しょ、承知した……。パネェの術……」
最後の一言が効を奏したらしい、はじめはぶつぶつと呟きながら修行を始める気満々だ。指先で小さく変化の印を結んでみたりしている。なんかいつか凄く大恥かきそうな気がするが、はじめをいじくるのも楽しいのでこのままにしておこう。
+
「シソ・ハッカ率いる第九班、一文字はじめ、狐者異マナ及びいとめユヅルを推薦する!!」
オニヤンマ共々窓から火影邸に突入したハッカの高らかな宣言に、そこにいた何十人もの担当上忍達が一瞬で硬直した。
「……イルカよ……カカシの班のことはカカシに任せておけ」
「……はい」
イルカとカカシ及び三代目のやり取りは継続され、完璧にスルーされるハッカだった。
「……とりあえず、ハッカ上忍、それには賛成しかねますね」
「……え?」
歩みでたのは日向ヒルマだった。彼は担当上忍ではないが、推薦された下忍の健康状況などの評価を努めるのは彼だ。
「皆さんも、ユヅル君が犬神を用いた戦闘を行ったことは承知の上と存知ます」
全体を見回して話しかけると、ざわざわと上忍たちの間で話し声がした。そのことは既に噂になって広まっていたが、多くの上忍は、所詮噂は噂と半信半疑であった。それがヒルマの言葉によって真実だと言われ、驚くのは当然なのかもしれない。
ヒルマは若いながらに卓越した医療忍術の才能をもち、今回の中忍試験では医療班を仕切ることになっている。
「ハッカ、あの噂は本当だったのか……!?」
「犬神持ちが木ノ葉に現れるなんてな……」
「いとめユヅル……成る程、あの子が……」
アスマ、カカシ、紅もそれぞれ視線をハッカに向けてくる。ヒルマが右手を上げた。数秒して、沈黙。それを見たヒルマは満足そうに笑い、次いで言う。
「それにより重傷を負ったため、病院に入院させていましたが……彼のチャクラが時折ひどく不安定になることに気付きました。また、犬神は犬神持ちの妬みや羨望などの感情以外にも、チャクラが不安定な時にも出てきやすくなります。もし犬神が試験中に出てきてしまったら、最悪の場合彼は一撃でも死ねます。彼を試験に参加させるのは些か不適切かと、一人の医療忍者として忠告します」
「ヒルマ殿、貴様が私の愛弟子を治療してくださったことには大変感謝しているが……彼等は私の部下だ。確かにユヅルにはそのような危険性があるかもしれないが、だからといって永遠に下忍でいさせるわけにはいかない。彼は傀儡師の才能を持っている、あのままにしておくのはもったいないし、犬神の力も使いようだ。上手く利用出来れば彼は素晴らしい忍びになれる」
「だからといってなんなんです? その前に彼が忍びになれなくなったり、死んでしまったりしたら貴方はどうするんですか? 犬神の力を上手く利用できなかったら? 生徒の無事を想うのも教師の務めです。あの犬神は本当に命取りになります。犬神の心臓を貫かれたら、即ちそれはユヅル君の死を意味しています。それに彼のあの不安定なチャクラ。あのままでは……! せめてあと一年待ってください!」
途中からヒルマの顔は、不安と焦燥、恐怖の入り混じった顔つきになった。口調も嘆願するものへと変じている。ハッカは眉根に皺を寄せたままだ。だからなんだとでも言わんばかりの顔をしている。この人本当にわかっているのか。ヒルマの声が震える。
「わたくしの母は、犬神持ちに殺されたんです」
ぞっとするような声がヒルマの喉から搾り出された。白い目がぎらぎらと異様なまでの光を放つ。忘れたことはない。母親のあの無残な死体を。何度も何度も夢にみた。今でもまだ、夢に見続けているあの無残な体。どくんどくんと、まだ完全に死んでいなかった母親は痙攣を繰り返していた。あの日ヒルマは恐怖に泣き続けたのを覚えている。
「ユヅル君が試験の間、他の試験生を殺されないと言い切れますか? 試験官達に影響を及ぼさないと言い切れますか? ねえ、ハッカ上忍。ユヅル君のあの不安定なチャクラはいつかきっと他人に害を齎します! ……火影さま、どうか……!」
もう見たくない。他の誰かがあのようにおぞましい姿にされてしまうのを見たくない。医療忍者になろうと決めたのは全てあの母親の死体を見たからだ。もう二度と誰もあんな姿にはさせたくなかったのに。
「それでも私は彼を試験に参加させます。私は彼には十分その能力があると信じている」
ハッカはあくまで冷静だった。やめてください、とヒルマが首を横に振る。マナさんやはじめ君だって被害に合いかねないのに! 悲痛な叫びをあげるヒルマに、三代目がトドメをさした。
「……よかろう」
「三代目!!」
「……ただし試験官には、その力が発揮された場合、即座にいとめユヅルを殺す許可を下す」
ハッカとヒルマは目を見開いた。言った三代目の顔も沈痛だ。彼とて木ノ葉の、輝かしい将来を持っているであろう下忍の死を望んではいないのだろう。ただ彼が里の脅威になるなら、彼は他の者達を優先せねばならない。数秒してから、落ち着き払ってハッカが言った。
「了解しました」
暫くしてから躊躇いがちに、ヒルマが口を開いた。
「……わたくしも了解致しました。……三代目、一つお願いがあります」
「言うてみよ」
火影に促され、ヒルマはキッと顔をあげる。その目には決意の光が閃いていた。
「わたくしに、いとめユヅルに封印術を施す許可を」
後書き
七班の歯車がゆがみだしたのって、中忍試験からなんだろうなあ、と、中忍試験を見返しながら想っています。もしかしたら最初からゆがんでいた歯車の進行が、回転を早くしただけなのかもしれないけれど。
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