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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第52話 料理は大切です


~第53層 リストランテ~


 この層の主街区は、全体的に美しい山々に囲まれている。
 自然の叡智を受けたその街には、ある特性があるのだ。所謂ゲーム内での食事のレベルが非常に高いと言う事。デメリットとすれば、レベルが高い故に、NPCレストランのランクも遥かに高く《食料の宝庫》とも呼ばれている。勿論値段も高いからそこまで繁盛していないのも事実だろう。
 それに、料理のスキルを鍛えているプレイヤーも数える程しかいない。

 恐らく100人は入るであろうレストランの中で、フードを被ったままのリュウキとレイナが食事をとっていたが、他のプレイヤーは片手で数える程しかいなかったのだ。姿を晒す事を嫌うリュウキでも装備を外しても良いと思った程だった。
 正直に言えば、外さなかったリュウキにレイナは少し不満だった見たいだが。今は、それどころではなく、レイナは何やら緊張?しているようであまり会話も少なかったのだ。

 勿論リュウキは、緊張する意味がよく判っていなかった。知らない間柄と言う訳じゃないし、BOSS攻略も何度か一緒にしているし、と。


 話は変わるが、この層は山菜もあるが、極稀にA級の食材もよく出る。

 食材が良くても、料理のスキルを磨いているものじゃなければ大した味設定にはならないのだ。だからこそ、殆どのプレイヤーには、無縁のものなのだが。

「あのね、私とお姉ちゃんは、一緒に料理スキルも競っているんだよ?」

 笑顔でレイナはそう言っていた。
 少し緊張していたのは解けつつあるが、顔がまだ赤い。リュウキはと言うと、レイナのその言葉を聞いて驚いた。《料理》と言うスキル。

 この世界で生きてゆく為に必要か?と問われれば。

『必要ない』

 と、真っ先に返す筈だから。食事といっても所謂 脳、脳内の視床下部に存在する摂食行動を調整する満腹中枢に信号を送り、空腹感を紛らわせるもの。
 確かに味が違えば多少は楽しめるとは思えるが。そこまで重要視していない。食べなくとも生きていけるからだ。

「あっ! ……リュウキ君、今 料理を馬鹿にしてるでしょ?」

 レイナが、その反応を見て、ちょっと膨れながらそう言った。
 リュウキは、別に否定した訳じゃなく、相槌を打っていたんだが、僅かな 表情から読み取ったのだろうか。レイナのその指摘は多少だが、的を射ていた。何より、リュウキにとって、料理など行わなくとも、ここでも、標準クラス、十分良質な食事にありつける、多彩な味を楽しむのはいつでも出来ると思えていたからだ。

「……いや、別に馬鹿にするつもりは毛頭無い。食事とは実際には生きるためには必要不可欠なものだからな」

リュウキは真面目にそう返した。だがゲーム内ではそう言うわけでもないと、言いたい様だ。レイナは、それも察した様で。

「ちっがーうの! そんな難しいのじゃないよ。食事は元気の源なのっ。……それに誰かを想って作る料理って、素敵だし。今日一日をがんばろーって思えるの、それが美味しいものだったら、尚更……でしょ?」

 レイナは、満面の笑みを浮かべてそう言った。だからこそ、彼女は、彼女達は料理が好きなのだ。美味しいと言ってくれる人がいる。笑顔で料理を口に運んでくれる人がいる。そんな光景を見たら、絶対に幸せだと思うから。
 リュウキは、レイナの言葉を訊いて、少し考えた後。

「……ん、それも一理、ある……か?」

 と、答えを出していた。語尾が気になるレイナ。

「どうして、疑問系?」
「ふむ……。オレにはあまり、経験が無い事だからな」

 リュウキはそう答える。
 レイナは、この時……『しめたっ!』 と反射的に思った。

「なら……ならね……?」
「うん?」
 
 レイナは、少し……挙動不審?になっているようだ。だが、その次には更に表情を顔を赤らめて口を開いた。

「今度……私がご馳走してあげる、よ。……ほんとの美味しい料理……教えてあげるから、……どうかな?」

 リュウキにそう提案をした。噛まずに言えたのが奇跡だと思える程緊張をしていた彼女だった。

「そうか……」

 リュウキは、レイナからそれを聞いて、柔らかい表情を作った。
『自分の知らない何かを……教えてくれる』
 リュウキはそう言った事が好きだ。勿論、自分が興味を持つもの、と言うのが大前提な部分があるが、料理については爺やの料理は文句なく好きだった。殆どそれ以外は摂取した事が無い。別に不満があるわけでもないが、爺やはよく言い聞かせてくれていた事もある。
 爺や曰く。
『世界は広い。まだ見ぬものも沢山ある。外へと視野を広げてはどうでしょう? ……それに、食事にしてもまだまだ 底無しです。気持ちの篭リ方一つで大きく変わったりしますから』

 そう言う風に言って笑っていた。当時の自分は、……色々あって、恩人である爺やしか見れていない。爺やばかりだったから。リュウキにとって爺やが全てだった。だから他の広い世界など、あまり 真剣に聞き入っていなかった。
 全てであり、爺や以上の存在なんて、無いと強く思ってたからだ。

 でも……この世界に来て 本当に色々見ることが出来た。リュウキは、茅場のした事は決して肯定はしない。
 この世界がデスゲームじゃなくとも、こう言った思いは絶対していると確信しているから。それだけ……この世界には良い《仲間》がいるから。
 今までの現実とは程遠い程に。

「……リュウキ君?」

 レイナは、少し心此処あらずな感じのリュウキに声をかけた。

「ああ……。悪い」

 リュウキは、軽く頷くとレイナの目を見た。

「……楽しみにしているよ」

 そう言って、レイナに微笑みかけていた。

「ッ……///」

 突然そんな顔をされたら、どうしても赤くなってしまうレイナだった。

(――うぅ……いきなり、そんな表情……凄くずるいと思うよぉ)

 レイナは、そう思って思わず少し俯いた。
 リュウキの表情は基本的にポーカーフェイスだ。『ポーカーしたら強い!』と、比喩抜きで思える程に、表情は変わらず読みづらい。

 でも、……極稀にその表情が綻ぶ事がある。

 その表情、良い時、悪い時とある。良い時のリュウキの顔は レイナにとっては、不意打ちみたいなものだから、レイナは『ほんとにずるいよ!?』って思っている。
 自分の心にダイレクトに入ってくるようだから笑顔だから。
 そして、悪い時の表情の印象。

(―――……リュウキは本当に優しい……でも……いつも仮面を被っている感じがするんだ……)

 そうレイナは印象に残っていた。

 リュウキの事、極稀に綻ぶその顔が彼の素顔。悪い時の表情は 深い深い闇を背負っているって思える。
 リュウキの事を一生懸命見てきたレイナだからこそ。少し自信があるった。
 
 それでも、良い顔をしてくれる時は……、いくら沢山見てきたつもりでも、面向かって向けられたら……頬が紅潮するのが止められないんだ。

「……? 大丈夫か? 顔が赤いぞ」

 そんなレイナの心境を知ってか知らないでか…… リュウキはいつも通りそう聞き返した。

(――……こういう所もずるいよ)

 解らない……超絶鈍感男!鈍男!!
 よくアニメや漫画では、周囲にモテモテのハーレム主人公って、ほんっとに他人の好意に凄く鈍感だ。見ていてイライラするとも思うし、でも そこが可愛いって思う。……フィクションだけど 多分、そう言うものなんだとも思える。
 でも、いざ実際に自分が味わってみれば、全然違う。

「はぁ……」

 イライラよりも……その何倍も落胆してしまう事が多いのだ。どんなに頑張っても一方通行なんじゃないか……って思う気持ちが襲ってきて、 涙が出ちゃうそうになるのだ。
 だって、レイナだって女の子だから仕方ないだろう。

 
 表情を暗めていたレイナ。だけど、なんと、この後 千載一遇のチャンスが訪れる事になった。

「……何だか、稀にある、よな? レイナがそう言う表情をするのって。 顔を赤らめて、訳を問うと表情を落とす」

 なんと、リュウキが珍しく会話を自らつなげたのだった。

「……えっ!?」

 いつもは、語尾にクエスチョンマークを『?』だけをつけて 終わらせるだけだったのに、今回、リュウキからこう言われるのは初めての事だった。

「初めのは……十中八九、オレの顔を見て……だよな。レイナ。オレに何かあるのか?」
「ッッ!!!」

 どんどん繋がっていく会話。一言一言聞く度に、レイナの心臓は、ドキンドキンっ、と音を立て脈打っていた。

(――これって……ひょっとして、千載一遇のチャンス? 知ってもらう為に、神様がくれたっ!? 声っ……言わないとっ!)

 レイナは、動転しながらも必死に言葉を探した。
 そして、レイナとは対照的な表情をしているのがリュウキだ。

「不満なところがあるのなら……、遠慮なく言ってくれ。オレも……少しは変わらなきゃ前に進めないと思うから」

 リュウキのこの言葉、そしてその表情。
 その中に悲しみのようなものも含まれているが、この時のレイナには伝わらなかった。

 このアルマゲドン?をどう乗り切るかしか頭に無かったのだ

「あ……あっ! あのねっ!? りゅ、りゅうきくん、私っ……」

 食事に誘った時とは比べ物にならない程だ。だから、レイナがなけなしの声を、勇気を振り絞ろうとしたその時。


「はぁ……やっとここにこれた。」
「ほんとに上手いのか?ここって……」
「今までの層とは比べ物にならないだろうって、アルゴの本でもあっただろ?」
「……まぁ、それなら 信じるか。あいつの情報は確かだからな。」
「確かに……。」


 突然、このレストランに団体さんが現れたのだ。さっきまで閑古鳥が鳴きそうなお店だったのに、あっという間に賑やかになる。
 10人? 15人? 数えていないが、それくらいの数の人たちは入ってきた。どうやら、イベント等やNPCとかではなく、実際プレイヤー達だった。

「ッ……」

 リュウキは条件反射のように、深くフードを被った。その声が聞こえてきたその数秒後。あっという間に、更に空席が目立たなくなって、レストランの人口密度が増大したからだ。

「ぅえ……っ? ええっ……?」

 レイナは突然の事だったから驚きを隠せない。
 何よりも……残念だったのが、次のリュウキの台詞。

「……すまないレイナ。此処から出たいのだが」

 食事も終えているし、とりあえず問題ない、とリュウキから、そう提案されたのだ。
 千載一遇のチャンスだった筈なのに、出鼻をくじかれたのだ。

 でも、リュウキだったら、まず間違いなく、そう言われるのは判っていた。
 リュウキが今までどういう扱いを受けていたのかわかるから。でも……それでも。

「そう……だねぇ……」

 『雰囲気を壊された』って思ってレイナ自身は承諾した。
 そして、レイナは、入ってきた人たち全員を、まるでモンスターを見るかのように殺気立たせてにらめつけていた。


 ……勿論そこに入ってきたプレイヤー達(全員男)は 悪寒に襲われていたのだった。

 
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