アマガミという現実を楽しもう!
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第6話:小学生卒業
時は流れ、再び春。俺は、輝日南小学校を卒業し中学へと進学した。
輝日南小の卒業の時は、小学校生活もこれでおしまいか、と学校のタコの滑り台に昇って学校を見つめて感慨にふけっていたな。学校で塚原響に出会い、スクールで川田知子と七咲逢と出会った。「有害図書委員会」の同志達と橘、梅原の2人にも出会った。もう一度、水泳を楽しむことができた。前世では真面目すぎて出来なかったバカなことも思う存分楽しめた。
そうそう、こんな風に感慨にふけっていたら授業を抜け出してきた橘と梅原が俺の傍に走ってきたな。梅原は「ししょ~!」って叫びながら、橘も「せんぱーい!」って声を掠れさせながら。まさか原作のキャラとこんなに仲良くなれるなんて、数年前の俺が見たらびっくりするだろうな。タコの滑り台に着いた二人は、少し時間を置いて乱れた息を整えていた。整えた後、二人は滑り台上の俺を見上げた。
「師匠!本当にこの学校から卒業しちまうんですか!?」
「遠野先輩がいなくなると、僕たち寂しいです!」
うれしいこと言ってくれるじゃないの!俺だってお前らみたいな面白い奴らと別れたくないさ。校内の隠し場所を探しに一緒に行ったり、この水着はどのアイドルが一番似合うのか論争を延々とやって授業をサボったり、一緒に市民プールに行って夏の風物詩・水着のお姉さんを眺めたりとか・・・どれもいい思い出だよ。
「たった一年間だけじゃないか。もう一年すれば同じ学校で会えるじゃないか。何も今生の別れというわけじゃないぞ?」
「「だけど・・・」」
二人は俺から目を離し、そのまま地面を見つめている。やれやれ、困ったものだな。俺みたいなチート存在にそんなにこだわってどうするよ。全く、お前ら、は。
俺は滑り台から降り、二人の前に立つ。二人はまだ俯いていた。出会った時よりも背が高くなったかな?来年中学に上がってきた時、どれだけ背が伸びているんだろうか。俺は項垂れた二人の肩をぽん、と手を置く。二人の顔が上がり、俺の方に向かう。
「梅原、橘。お前らは俺にとって弟のような存在だ。だから俺はお前たちが心配でたまらんし、隠してあるお宝本の存在が公になるのはごめんだ。だから、たまに会いに来てやる。それでいいじゃないか。」
「「・・・」」
無言。校庭に植えてある桜の花びらが一枚通り抜ける。さらに一枚、二枚と次々と俺達の間を過ぎ去っていく。
「わっかりやした。師匠、絶対、ぜぇったい俺達に会いに来て下さいよ!」
「そうですよ!遠野先輩、待ってますからね!」
梅原と橘が俺に軍隊式の完璧な敬礼を行う。同志達と共に、何度も何度もミリタリー映画の敬礼の仕方を見て勉強したからな。特にドイツ軍潜水艦の艦長と連合軍駆逐艦の艦長同士が敬礼しあうシーンは何度も見た。俺も彼らに対して返礼する。「有害図書委員会」の中で決まった合図みたいなものであった。
スクールも残念ながら卒業と同時に辞めることになった。理由は、数年前のバブル崩壊による経済の悪化の余波がとうとう俺の家族にも押し寄せたために、スクールの代金を捻出できなくなったからである。スクールは続けさせてくれ、と親に何度も何度も懇願した。授業も真面目に出るようにするし、家の手伝いもアルバイトもするから、と。親父もお袋も決して折れなかった。いや、折れることができなかったのだ。親が留守の間、こっそりと家計簿を見たとき、最近の状況でも相当苦しかったようだ。俺のスクール代や試合へのエントリー代、水着代金などの捻出も親父が残業をすることで何とか出せていたようだ。そんな状況を知ったら俺が折れるしかないだろ。ただし、中学・高校では水泳部に所属するからその活動費だけ何とか捻出してくれ、との条件を出し、親父達はそれで納得してくれた。・・・父さん、母さん、ありがとう。
俺はスクールの先生・コーチに辞める旨を伝えた。先生方も残念そうであったが、俺が将来JO(ジュニア・オリンピック)やインハイ(インターハイの略)での活躍していることを楽しみにしていると激励の言葉をくれた。餞別にスクールのビート版とプルブイを貰った。
その日の練習前のプールサイドにて、先生方はスクール生に対して俺が辞めることを伝えられた。スクール生も俺を見て、びっくりし、残念そうな顔を向けられた。面倒見のいいお兄ちゃん、って言われていたし、それなりに慕われていたと思っていたからな。
知子や響も驚きようは凄かったな。知子なんか伝えられた瞬間、「え、え、どういうこと?」という感じで先生の横にいた俺にズカズカと詰め寄ってきたしな。壁に押し込められて「たっくんいなくなったら、男子の後輩の練習指導は誰がするのよ!」「春一番の試合も出ないっていうの!?」「帰り道、一緒にスクールへいけないじゃない!」「あたしとスクールで会えなくても寂しくないのもいいの!?」とか語気を荒げつつ、俺の腕を掴んで男顔負けの力で俺の身体を揺すってきたな。壁に頭ガンガンぶつかって痛かったぞ、あれ。それに質問の内容。前二つのような状況に関する問いは理解できるが、後二つのような質問は意図が分からんから答えられんかったぞ。寂しいか、一緒に行けなくなってもいいのか、と問われたらそりゃあ凄く寂しいし、お前とバカ話しながら行けなくなるのは凄く寂しいさ。ここでお前と俺は出会ったし、スクールの中で一番長く一緒にいたかもしれないからな。それでも最終的には俯いて、俺から手を離してスクール生の集まるところへズカズカ歩いて戻っていった。響も困惑した様子であったが、俺の家計の事情を伝えたら「そう、拓君が辞めるのは残念だけど、家のことなら仕方ないわね。お疲れ様。」と俺に笑顔を向けてくれた。俺も「分かってくれてありがとう。響もスクールでの成果を期待してるぞ。」と言葉を返した。響は目を瞑って、「ありがとう。でも、おそらく時間はかかるわね。だって、おまじないをしてくれる人がいないんだから。」と後ろに手を組みながらつぶやいた。最後の方はもう声が小さくて聞こえなかった。何だって?、と聞き返しても、何でもないわ、と笑顔を見せて俺に背を向けてプールの中に入った。その笑顔はいつもの微笑とは違った。いつもの微笑には、目尻が何かに光を映すようなものが見えたりしないのだから。
一番驚いて困惑していたのは逢だったな。取り乱して、「拓お兄ちゃんがいなかったら、わたし何もできないよっ!」と駄々っ子のような言い草で俺の身体に抱きついてきたな。あのとき、腹筋周りにふにっ、という二つの微小な柔らかい感触を感じたな・・・、って違う違う、俺はロリコンじゃない。外部が、「もうあきらめろよ、お前がロリコンなのは周知のことだぜ?」「著者が先日友人にこの小説読まれてロリコン乙、って言われてたぜ?w」とか言ってるような気がするが全然気にしない。何を言っても逢は「やだやだ、辞めちゃイヤ!」と首を大きく横に振るだけだった。逢の少し長くなった、原作の七咲逢に近い髪が首を振るたびに当たり、くすぐったさを俺にもたらした。
「逢。」
「やだやだ、私許さない!辞めたら、わたしお兄ちゃんのこと嫌いになる!」
これ何てエロゲ?という変な考えが浮かんだけど、直ぐに思考を元に戻す。嫌われるのはイヤだなぁ、とか思いながら次の言葉を紡ぐことにした。
「いいから、聞きなさい。」
「ヤダ!」
「逢!!」
「っ!」
俺は聞き分けのない子どもに対して叱るように、語気を強めて逢に言った。俺は基本怒らない人間で、このように語気を強めた俺の顔はスクールでは始めて見せた顔だったかもしれない。逢は語気を強くした俺を見て、びくっと身体が跳ねた。それから徐々に大人しくなる。それでも抱きつくために使った腕を戻そうとはしなかった。
「逢、郁夫君も生まれて君はもうお姉ちゃんだろ?だったら、そろそろ俺を卒業して立派なお姉ちゃんができるようにしないといけないよ。いつまでも俺に頼ったり甘えてばかりしていたら、郁夫君が大きくなった時にお姉ちゃん甘えてばかり、って言われるようになっちゃうよ?それに、来年から逢も新しく入ってくる子を助けてあげなくちゃいけない。今の逢を見ていると、俺はちゃんとお姉ちゃんを出来るかどうか、どうしても心配なんだよ。頼むよ、分かってくれ、逢。」
「・・・うん、分かった。」
しぶしぶ、と言った感じであったが、逢は俺から腕を離した。俺は、分かってくれたことにほっとした。
「・・・ごめんなさい。わたしのこと、嫌いになったでしょ?」
「全然。応援には行くつもりだから、一生懸命な逢の姿を見せてくれよな。」
「うん!・・・じゃあ、わたし頑張るから、しっかりお姉さんできるように頑張るから・・・その、頑張れるように、おまじないをして欲しいの。」
・・・おまじない、って昨年の夏の、アレか?・・・なんかあのレースの後の記録会とかでも「してちょうだい」とねだられる様になったんだが・・・。今は人の目があるしなぁ・・・。逢は、・・・駄目だなぁ、そんな頬を赤らめて上目遣いされたら断れないじゃないか。お前は将来、世の男性を虜にする才能があるよ。
「分かった。おでこ出して。」
「うん!」
逢の白いおでこに俺はそっと口を触れた。周囲からの好奇の視線と後輩の女の子達の黄色い声、野郎共のひゅーひゅーと囃す声が痛い。しかし、これがスクールで出来る最後のことなら構わないかな?と俺はそんな視線を無視して、できる限り長くデコチューを続けた。
中学の入学式が済んで一週間経過した今、俺は学生服に身を纏って学生鞄を持って自宅を出た。外には、セーラー服を着た響と知子が自転車を止めて待っていた。入学式の後でも思うが、セーラー服を着た女の子って雰囲気変わるよな。二人とも大分大人になったようだぞ。
中学に上がってから、俺の家に彼女らはチャイムをならしにやってくるようになった。今日も同様である。いつものように親父達は、青春だよなぁ、両手に花よね、と我が子の様子をニヤニヤしながら抜かしやがる。何を返しても、若い若い、と笑いながら更に返されてしまうので最近は「それがどうした!」と一言発して家を出るようになった。外に出てから、二人とも何で朝こうやってチャイムを鳴らしにくるんだ、と聞き返した。知子は「朝寝坊が得意のたっくんをあたしが面倒見なくてどうするのよ」という自分の細い腰に手を当ててドヤっと返し、響はいつものように微笑を浮かべて「あら、私達とは一緒に登校したくないのかしら」と仰る。一緒に行くこと自体に文句も何も無いので、「はいはい、感謝してますよ~」っと右手をひらひらさせて、俺は自分の自転車を取りに行く。後ろで、「ちょっと!もっと感謝しなさいよぉ~!」という知子の声が聞こえるがスルーだスルー。
自転車に乗り、三人仲良く中学まで登校だ。小学校までは徒歩でいける距離であったが、中学だとそうも行かず自転車を使うようになった。しかし自転車での登校は、それぞれ距離が離れていた三人の家の移動を楽にしてくれるようになったので、こういう両手に花での登校が実現するようになったのである。
入学してから一週間、今日は入部届けを提出するときだ。既に三人とも水泳部に出すことで一致していたので特に問題も無かった。俺なんか、入学式当日に練習用具を持ってプールに行って練習させてくれ、って言って練習に混ぜてもらったくらいだし。スクール辞めたし泳ぎたくて仕方がなかったんだよ!いやぁ、やっぱり水の中はいいよなぁ・・・。先輩方もいい人ばかりだったし、中学もまた面白くなりそうだ!
「いや~、あたしらもさっきの自転車の三人組みたいにあんな青春送りたいね~、なあ愛歌」
「右に同じ」
(次回へ続く)
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