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銀色の魔法少女

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最終回 

 side ALL

 話を聞いた守護騎士たちが駆けつけるのに、そう時間はかからなかった。

「さて、大体そろったようね」

 それに加えリンディやクロノ、ユーノに刃、そしてアルフ、プリム、アリシア、フィリーネもこの場にいる。

 しかし、今しがた眠ったばかりのはやてを起こすのはかわいそうということで、彼女だけいない。

「では、なぜ私が消えなかったのか、どうして彼女の体を借りているのかについて話しましょう」

「そうだよ! なんでここにいんだよ! あん時確かに消えたはずだろ!!」

 ヴィータが思い出したように怒鳴る。

「ヴィータちゃん、今から彼女がお話してくれるから、ちょっと落ち着いてね」

「…………う、仕方ねえな」

 シャマルにそう言われて、大人しくなるヴィータ。

「しかし、ヴィータの気持ちも分からなくはない、術にも発動方法にも問題はなかった、途中、主が現れるというイレギュラーがあったが、それが原因とも思えん」

 シグナムの意見に、リインフォースが深く頷く。

「将の言う通り、何も問題はありませんでした、本来なら私はあのまま分解され、この世界から消えていたでしょう」

 しかし、と付け加えて彼女は言う。

「それを良しとしない人間が、彼女が私に細工を施したのだ」

 それを聞いて、一部の人間ははやてを思い浮かべるが、すぐにそんなことはない、と否定する。

 はやてにはそんな技術も知識もない。

 なら、誰がやったのか。

 分かりきった答えだった。

「まさか、遼が…………」

 クリムがそう呟く。

 リインフォースはそれに頷き、話を続ける。

「彼女は暴走が終わった後も私の中で君を助ける方法を探していた、あなたの選別を消し去るために」

 自分よりも他人を優先する彼女に、事情を知るクリムやなのはたちは何とも言えない気分になる。

「遼、あなたという人は……」

 彼女らしいといえば彼女らしいが、それが病からきているものとなれば、簡単に喜んでいいことではない。

 場が静まる中、フェイトがそっと手を挙げて尋ねる。

「えっと、それで遼はその方法を見つけたんだよね? それって今あなたがここに居るのと何か関係があるの?」

「あ!?」

 それを聞き、皆は我に返る。

 プログラムに細工して彼女がここにいることがわかったが、どうして遼がそんなことをしたのか?

 リインフォースはまだ大事なことを話してはいない。

「彼女が見つけた方法は私でないと実現不可能だった、けれど、マスター以外の人物がブリュンヒルデに干渉しようとしても弾かれるのみ」

「……確かに、私の中の自動防御プログラムにそういった機能があります」

 それに、とリインフォースは付け加えて言う。

「この体の侵食率は95%を超え、いつ暴走してもおかしくない状態だった」

「……だった?」

 ユーノはその単語に疑問を覚える。

「ええ、もう暴走の心配はありません」

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」

 それは、事情を知る全員を心の底から驚かせるには十分だった。

 あんなにクリムたちが苦労した暴走、それがあっさり解決してしまったのだから、当然の反応だった。

 皆がそのショックから抜け出せずにいる中、ユーノだけがその答えにたどり着く。

「そうか! 今彼女中にいるのはリインフォースさんだから……」

「あ!?」

 それを聞いて、クリムも理解する。

「え、何? 何?」

「アリサちゃん、わかった?」

「全然、フェイトは?」

「私は、なんとなくだけど……」

「俺は全くわからん」

「あんたには聞いてない! フェイト、そのなんとなくで教えて!」

 皆に注目されて、フェイトが恥ずかしがりながら答える。

「えっと、多分、侵食は遼を遼だと認識して進んでたと思う、だから、遼がいない今、侵食は止まってる、はず」

 そこまで言ったところで、フェイトはチラリとリインフォースを見る。

 それに彼女はニコリと微笑む。

「ええ、その通りです、フェイト・テスタロッサ、現時点で侵食は完全に止まっています、もう、これ以上進むことはないでしょう」
 
 よかった、と何人かが喜びの声をあげるが、同時に険しい表情を示した人たちもいた。

 その中の一人、クロノがリインフォースに問いかける。

「侵食が進まなくなったのはなによりだが、それは君が彼女の中にいる間だけだ、ということは彼女はずっと自分の体には戻れないという事に他ならないのだが」

 喜びのムードが一転、静寂がこの部屋を包む。







 せっかく助かったと思ったのに、肝心の本人がいないのならばそれは意味がない。






 そう思っていた。













               「彼女は、旅に出ました」












 リインフォースがそう告げる。

 皆、その意味が分からず、代表してリンディが彼女に尋ねる。

「旅、というと?」

「遥か彼方、記録された記憶の奥深く、初代の主の記憶を巡る旅だ」

「……なぜ、遼さんはそのようなことを?」

 訳がわからないといった感じに、提督が尋ねる。

 しかし、それに答えたのはリインフォースではなかった。

『詳しいことは、わたしから説明しましょう』

「誰!?」

 皆の視線が、声があった方に集まる。

「え、ええ、え?」

 そこには皆の視線に戸惑うすずかと、空中に浮くエアの姿があった。





「あなた、話せたの?」

『ええ、と言ってもこのように自由になったのは三時間ほど前ですが』

「ええと、それよりも遼ちゃんがどうしてそんなことをしたのか、教えて欲しいの」

 なのはの言葉を聞いて、エアが本題に戻す。

『そうでした、私の元マスターは侵食の原因について考えましたが、結局最初からこうなっているとしかわからなかったようです、
 闇の書のように改変されたものではなく、最初から自滅するように仕組まれた、と彼女は考えました』

 闇の書は、悪意のある改変を受け、変質した。

 しかし、ブリュンヒルデは今の今まで、プログラムには誰の手も加わっていない。

 それは歴代の主の多くが力に飲まれ自滅し、それを耐えた少数の主も自我を保つので精一杯だったからだ。

 加えるなら、歴代のまともな主はほとんどが頭脳系でなかったことも、一因だろう。

 そう、ユーノは結論づけた。

「……元々、選別からしておかしかった、あれで主が死んでしまえば元も子もない」

 クロノも同様に、遼の考えに同意する。

「だから、なんでそうなったかを知るために、彼女は行ってしまったのね」

『ええ、詳しいことはまた後日私がお話しましょう、リインフォースには驚かせる意味も含めて最低限のことしか伝えていませんですし』

「遼ちゃん……」

 すずかは静かに笑う。

 遼はすずかにとって理想の人で、


 
 何よりも欠け難い親友で、


 

 そして、みんなのことを大切に思っている、普通の女の子だ。



 彼女がリインフォースに仕掛けたいたずらは、普段の彼女のイメージからはかけ離れたものであったが、普通の女の子なら、それくらいよくあること。

「ねえ、遼ちゃんはいつになったら帰ってくるの?」

『おそらく、5年ほどだと思われます』

「5年!? それってもう私たち中学生じゃない!」

 信じられないとアリサは叫ぶ。

『その通りですアリサ嬢、だからこそ、その間の肉体の保護を兼ねて彼女を宿らせたのです』

「なるほど、元管制人格の彼女なら安心して任せられる、か」

 ユーノはそう呟く。

「けど、ちょっと寂しいな」

「なのは?」

 沈んかに話すなのはに、心配したフェイトが声をかける。

「ちゃんと、シグルドさんの時のお礼もまだ言ってなかったのに…………」

「なのはちゃん」

「遼ちゃんの手助けも、何もできなかったし「なのは!!」、ふぇ!?」

 なのはが呼ばれた方を向くと、アリサが彼女の額に力強いデコピンをぶつけた。

 激しい音がして、なのはが額を押さえて後ずさる。

「な、なな、何を?」

 若干涙目である。

「なのはは難しく考えすぎなのよ! 5年なんてあっという間よ」

「そうだよ、5年と言っても予定だからもしかしたら少し遅れるかもしれないのに、落ち込んでいたら後々大変だよ?」

「アリサちゃん、すずかちゃん…………」

 少し目を閉じて、

「そう、だよね5年なんてすぐだよね」

 落ち着いて話す。

「その間に私、もっと魔法をうまくなるの! 今度は遼ちゃんに負けないように!」

 そう話す彼女の瞳には強い意志が宿っていた。

「私も、今度は遼に本気を出してもらえるように頑張る」

「私も手伝うよ」

「わ、私だって、それまでにデバイス手に入れて、魔法を使えるようになるんだから!」

 フェイトにすずか、アリサもそれに続く。

「だってよ、執務官殿、どうする? 言っても聞きそうにないぜ、あれは」

 苦笑いでクロノに話す刃。

「一般人に魔法技術を渡すのは違反なのだが、彼女はもう既に魔法に触れすぎた、大体リンカーコアがなければ魔法は使えないのだから、僕が決めることじゃないな」

 諦めたようにクロノが言う。

「では、私がレクチャーしよう、この体にも慣れておきたいからな」

「あなたはその前にはやてさんの所に行くのが先でしょう、(本当なら反対だったけど今遼が無事なのはこの娘のおかげでもあるし)、私も手伝います、あと、あなたは一応遼なのだから、これからは私たちの家に住んでくださいね」

「いや、しかし、そこまで世話になるわけには」

「いいですよね!(遼の体を他の家になんて、とんでもない!!!!)」

「……分かった、しばらく世話になる」

 クリムに急かされ、リインフォースはゆっくりと歩き出す。

「なんか、僕たちなんというか」

「うん、空気になってるっぽいね」

「仕方なかろう、今水を差すわけにはいくまい」

「そうよね、……あれ? ヴィータちゃんは?」

「…………ついさっき、廊下に向かって疾走する赤い何かが見えたが」

「守護騎士と言っても、やっぱり子供なのね」

 ユーノたちはなのはたちを優しく見守り、フィリーネがそう呆れたように話す。

 誰もが幸せそうなその様子を、煌く彼女の愛剣だけが見つめていた。 
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