ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百十三話:灯台で眺める景色
「ドーラ……大丈夫か?」
「う、うん……だいじょう、わわっ!」
灯台の階段を登る途中、躓いてすかさずヘンリーに支えられます。
「……ありがとう」
「いや。……やっぱり、抱いて」
「大丈夫!!恥ずかしいから、それは!!さすがに!!」
踊り子さんたちに、乙女チックなワンピースを基調として清楚可憐な美少女に仕上げられたのはいいんですが。
合わせて用意された慣れないヒールでも、身体能力の高さゆえに普通に歩けていた、はずなんですが。
この、灯台の階段が……!
また絶妙に私の歩幅と合わなくて、ちょっと気を抜くとすぐ躓く!
あまりに何度も躓くのを見かねてヘンリーがまたお姫様抱っこを提案してくれてますが、こんなところでそんなのいくらなんでも恥ずかし過ぎる!
第三者の立場で見たら、無理なら最初からヒールとか履いてくるなって話ですよ!
ちなみにスラリンとコドランは競争するようにキャッキャと先に登って行ってしまってますが、ピエールが後ろで警戒してくれてるため、妙な人にスカートの中を覗かれるなんて心配は無いのでそこは安心です。
「そうか。……やっぱり、戻るか?」
「ううん。スラリンとコドランが、先に行ってるし。ここまで来たからには、登り切る!」
もう、半分くらいは登ってきてしまってるので。
ここまで来て戻るというのも、なんだか悔しい。
「そうか。無理そうなら、すぐ言えよ。とりあえず、掴まってろ」
「うん。ありがとう」
無理とか言ったらお姫様抱っこの刑なので、それはしないと思いますが。
離れて気を張らせるのも逆に手間なので、差し出された腕にはありがたく掴まらせてもらいます!
というわけで、ヘンリーの腕にほとんどぶら下がるような感じでしがみついて、なんとか階段を登り切り。
灯台の展望台から、景色を眺めます。
「うわー!眺めがいいね!ちょっと、風が強いけど!海は船で散々見たけど、高いところからだとやっぱりまた違うね!」
「そうだな。町も見渡せるし、なかなかいい場所だな」
「そうだね!また、……カボチ村から戻ったら、来たいかも!」
「ああ。そうだな」
モモを連れて、また来たい。
という言葉にできない意思を汲み取ってくれたように、ヘンリーが微笑みながら答えます。
うん、こういう時に事情を知ってる相手がいるというのは、いいものだよね!
……って、いかんいかん!
いずれは別れる相手なんだから、こう、精神的に頼り切ってしまってはいかん!!
と、気を引き締めたところで。
「うわー!」
「ピキー!」
先に来ていたコドランとスラリンが、なぜだか縺れ合って床に転がってました。
「……てて……。わりー、スラリン。おいらも強くなったし、いけるかと思ったんだけど」
「ピキー」
「……コドラン?スラリン?どうしたの?大丈夫?」
「うん、だいじょーぶ。この望遠鏡、ってヤツ?スラリンにも見せてやろうと思って、抱えて飛んでみたんだけどー。力よりも、バランスの問題っていうの?なんか、ダメだった」
「ピキー……」
「スラリン、いいヤツだな!おいらがやるっていったんだから、気にすんなよ!こっちこそ、ごめんな!」
え、なにこの、小動物たちの友情。
……可愛すぎる!
和む!!
と、コドランとスラリンの可愛さに私が打ち震えている間にヘンリーがさっさと歩み寄り、スラリンを抱え上げて望遠鏡を覗かせます。
「お、ありがと、ヘンリー!な、スラリン、すげーだろ!?」
「ピキー!」
無事にスラリンが望遠鏡を見られて、喜ぶコドランとスラリン。
……また、負けた。
なんかもう張り合うのも馬鹿らしいほどに、ヘンリーが保護者すぎる。
……まあ、いいか。
イケメンが小動物を保護している図というのも、これはこれでニヤニヤできるし。
スラリンが満足した頃合いを見てヘンリーがスラリンを床に下ろし、コドランとスラリンが望遠鏡を通さずに直に見る景色を楽しみつつ、はしゃぎながら離れて行くのを見送って。
「ドーラ。見るか?」
「うーん。……ヘンリー、先に見て」
「わかった」
この望遠鏡を通して見られるのは、例の神殿のはずなので。
見ないで済ませたいわけでは無いけど、ノリノリで楽しめるものでも無い。
同じ立場のヘンリーに先に見せるのも、どうかという話ではあるが。
特に躊躇う素振りも無く望遠鏡を覗き込むヘンリーの隣に立ち、少し間を置いて問いかけます。
「……ヘンリー。……見える?」
「ああ。多分、これだな。……見るか?」
「……うん」
ヘンリーに場所を譲られて、私も望遠鏡を覗き込むと。
天高く聳えるセントベレスの山頂、覆われた雲の切れ間から、確かにそれらしいものが。
建造途中ながら既に完成時の荘厳さを思わせる、神殿の姿が見えました。
しばし無言で、食い入るようにそれを見詰めて。
「……本当に。あんな場所に、あるんだね」
「……そうだな」
あんな高いところから、あんな樽で落ちてきて、よく生きてたものだ。
ヨシュアさんの助けが無ければきっと逃げられなかったし、私たちでなければあんな手段では生き延びられなかっただろう。
私たちだから、逃げられたけど。
他の誰でも、逃げられなかったけど。
それでも、あんな場所に、置いてきてしまった。
私たちよりもずっと弱い、大切な人たちを。
「……みんな。……大丈夫、かな」
「……」
そんな疑問を、口にしたところで。
大丈夫だなんて、ヘンリーにだって言えるわけが無いのに。
こんなことを言って、私はどうしようと言うんだろう。
「……ごめん。なんでもない」
「……絶対に大丈夫、とは言えないが。これまでの十年も、この先の当分の間も。あんな場所でも居心地良くできたのはお前のお蔭だし、その先をやってく力が付いたのも、お前のお蔭だ」
「……」
そうかも、しれないけど。
良かれと思ってやったことが、必ずしも良い結果を招くとは限らないのに。
できることはやったつもりでも、まだ何か、本当はできたはずなのに気付かなかった何かが、あるかもしれないのに。
私たちだけこんなところで、楽しく過ごしていて。
現状であの人たちを助けられていないのに、それでも自分のしたことを誇るなんて、できない。
望遠鏡から目を離して俯くと、ヘンリーに後ろから抱きすくめられます。
「……絶対じゃ、無いけど。大丈夫だ。リンガーたちが付いてる。みんなだって、お前がいなけりゃ何もできないわけじゃない。信じよう、みんなを」
「……ヘンリー」
……そうか。
私は知ってるから、私はみんなよりも力があったから。
私が、何とかしないとって、そればっかり思ってたけど。
あそこにいる間だって、私ひとりの力で全部をやってきたわけじゃない。
みんなに色々教えながらも、みんなに助けてもらって、助け合ってやってきた。
少し未来の筋書きを、可能性を知ってるからって。
一人で全部を背負えるだなんて、そんなの傲慢もいいところだった。
前世の記憶があったって、血筋のお蔭で才能に恵まれてたって。
私だって所詮、一人の人間なのに。
「……そうだね。みんなも結構、強かだもんね。大丈夫だよね、きっと」
「ああ。大丈夫だ、きっと」
「うん。ありがとう、ヘンリー」
背後から肩に回された腕に、手を添えます。
「私も、もう大丈夫だから。もう、行こう」
「……本当に?大丈夫か?」
「うん」
ヘンリーが私を離したのを受けて、少し離れて見守っていたピエールが、はしゃぎ回っているスラリンとコドランに呼びかけてくれます。
「スラリン殿、コドラン。もう、戻るそうにござる」
「おっけー!おし、スラリン!また競争しようぜ!さっきはびみょーだったけど、今度こそ決着だ!」
「ピキー!」
また、キャッキャと先に階段に向かって行くコドランとスラリン。
……ああ、可愛い。
こんなにもスラリンと仲良くなるだなんて、コドランも連れてきて、本当に良かった……!
と、またニヤける私に、ピエールが声をかけてきます。
「ドーラ様。拙者も、先に進んでおりますゆえ。ヘンリー殿、前方には拙者が気を配りますゆえ、ドーラ様を」
「わかった。任せろ」
ピエールも階段に向かうのを見送って。
「ドーラ。俺たちも、行くか」
「うん」
少し離れていたヘンリーが差し出した手を掴もうと、私も歩き出したところで。
展望台の中を一際強い風が吹き抜けて、ブワッと舞い上がる淡いピンクの布地……って!
「……!!」
一瞬の後に状況を把握して、咄嗟に手で押さえつけて手元に目をやり、すぐに顔を上げてヘンリーの様子を確認しますが。
「……」
手を差し出した状態で固まり、目を見開いています。
……なんかダメそうだが、こっちはひとまず置いといて!
確認のために周りを見回しますが、私たちの他に唯一展望台に残っていた男性は、望遠鏡を覗き込んでいたために見られなかった模様。
よし、こっちはセーフ!
唯一の目撃者であるらしいヘンリーに、視線を戻すと。
ヘンリーも状況に理解が追い付いてきたのか、段々と顔が赤くなってきてます。
「……あの。……見た?」
上目遣いで、様子を窺うと。
「……そんなところも、今日は可愛いんだな……」
ふいっと目を逸らして、呟かれましたが。
「……誰が、感想を聞いたか……!!」
……確かに、下着も踊り子さん提供の可愛らしい逸品ですけれども!
白の総レースの、華やかでありながら清楚で可愛らしい、清楚可憐な美少女に相応しいアレですけれども!
普段の実用的でシンプルなのに比べたら、気恥ずかしいにも程がある品ですけれども!
だってそれ以外は、面積少なすぎだったんだもん!!
なんにしても、デザインまでしっかり確認したようなことを、わざわざ言うな!!
しかも前回との比較込みとか!!
「……もう!!前回といい、今回といい!!見なかったフリとか、できないの!?」
「いや……無理だろ、どう考えても。見えただろ、あれは」
「それでも!!そういうことにしてくれれば、無かったことにできるのに!!」
「いや、無かったとか。無理だから。見えたから」
「まだ言うか!!」
「……顔、真っ赤だな」
「ヘンリーだって!!」
「し、仕方ないだろ……男だし、俺だって」
「踊り子さんには反応しなかったくせに!!」
「いや、だからそれは」
「もういい!!一人で降りる!!」
「あ、おい」
差し出された手を無視して、一人で階段に足を踏み出しますが。
「わわ!?」
「ドーラ!」
一歩目から足を踏み外し、ヘンリーに腰を捕まえられて抱き止められました。
「……だから。危ないって」
「……ありがとうございます!!」
うう……なんという屈辱!!
なんで、こんな時に限ってこんな格好を……!
いや、こんな格好だからこんな状況に、ってよくわかんなくなってきた!!
「……でも、大丈夫だから!!一人で、降りられるから!!」
「いや、無理だから。どう考えても。さっきであれだけ躓いてたのに、そんなに動揺してたら完全に無理だろ。下りだから、余計に危ないし」
「うう……だけど……!!」
「抱いてくぞ、もう。恥ずかしけりゃ、また顔隠してろ」
「え、ちょ!待って!!」
「待たない。行くぞ」
逆らう間も無くまた抱き上げられて、ヘンリーがさっさと階段を降り始めます。
「あの……恥ずかしいんですけど……!!」
「だから。顔、隠してろって」
「隠したって事実は変わらないじゃん!!ヘンリーは恥ずかしくないの!?」
「……別に」
「嘘だ!!顔真っ赤じゃん!!ヘンリーだって!!」
「……それはさっきの」
「やだもう言わないで!!」
と、文句を言えば言うほど動揺が深まるだけであって、さすがにこんなんで自力で降りるのは本当に無理だとやっと認識したところで、また朝のようにヘンリーの首に抱き付き、顔を臥せて隠します。
……ああ、もう、早く着替えたい!
早く、この町を出たい!!
なんで私がこんな目に、ってアレか、よく考えたら自業自得ってヤツ!?
ヘンリーの意思を無視して、バネッサさんをぶつけたりしたからか!!
もうしないから、もう許して!!
羞恥プレイは、これで本当に、もう終わりにしてください!!
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