ティーンネイジ=ドリーマー
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第一章
第一章
ティーンネイジ=ドリーマー
聴こえてくるのはあのメロディーだった。懐かしいハーモニカの奏でるメロディーだった。
今それを一人で聴いている。俺のほかには誰もいない。今は仲間達もいなくて俺一人だ。空港はあの時と同じで今の夜明けも同じだった。ハーモニカも音も同じだ。
違っていたのは俺が一人だということだけ。それだけだった。あの娘はいない。
「一人で見たってな」
俺は空港の方を見て呟いた。夜明けの空港じゃ今もジャンボが飛び立とうとしている。空港は昼でも夜でも動いている。フェンス越しにそれが見える。
翼が飛び立つ度にあの時のことを思い出す。他の時のことも。
あの娘がいてそうして話をしてきた。これからのことを。未来のことを。そんなことばかり話していた。
「この街を出たらね」
よく俺にこう話していた。
「私、そのまま外国に行くわ」
「おいおい、またそれはでかいな」
俺はいつもその言葉を聞いて笑った。俺にとっちゃその頃外国はとても遠い存在だった。この街のただの不良の俺にとっちゃ外国はそんな存在だった。
けれどあいつには違っていた。俺とは違って外国は何時か行く存在だった。それでいつも俺にそのことを話してくれた。
場所はこの空港の側の草原でだった。この何もない場所は俺達だけじゃなく街の不良連中の集まり場だった。バイクに乗ってここに来てそうして花火をやったり爆竹鳴らしたり馬鹿騒ぎやったりしていた。遊ぶって言ってもそんなのばかりだった。別に犯罪とかはしていないので警官も来なかったし学校の先公も何も言わなかった。ただそこにいて最悪煙草を吸うだけだった。これ位は見逃してもらっていた。
その草原でバイクの座席に腰を置きながら話をしていた。大抵煙草を吸いながらそうして話を聞いていた。目線はいつも同じだった。空港のジャンボ達だった。
ジャンボは夜の中で灯りを翼のところに点けて管制塔からの誘導を受けて飛び立とうとしている。空港の乗り場所や他の建物からの灯りも見える。空港は夜でも明るかった。
その明るい空港を見つつ俺は彼女の話を聞く。話はその自分の夢のことだ。
「それでね。外国っていっても」
「アメリカか?そこじゃないのか?」
「外国っていっても色々じゃない」
笑っていつもこう返すのもいつもだった。
「本当に。色々な国があるじゃない」
「それはそうだけれどよ」
「だから。その全部の国に行くつもりよ」
また俺に言うのだった。
「それが私の夢なのよ」
「またでかい夢だな」
俺はその話を聞いて笑うのが常だった。
「日本以外の全部の国かよ」
「そうよ。ギター片手にね」
彼女も目は空港にあった。俺と同じでジャンボを見続けている。そうして俺に話をしてきた。
「行くわよ。世界の人達に私の音楽を聴いてもらうわ」
「いいんじゃねえのか?」
俺はそのことに特に反対することはなかった。何処か実際の話に思っていなかったのも確かだがそれでも彼女の言うことに反対するつもりはなかった。
「それもよ」
「そう。応援してくれるのね」
「行くのはいいさ」
俺はまた言ってやった。
「それでもよ」
「何?」
「音楽はいいさ。金とかはどうするんだ?」
「今貯めてるわ」
もうそのことも考えているという答えだった。
「それもね。ちゃんとね」
「考えてるのかよ」
「そうよ。今からもうね」
また俺に言ってきた。
「だって。小さい頃からの私の夢だから」
「夢ねえ」
俺はその話を聞いて少しだけ笑った。
「いい言葉だよな。夢ってな」
「実現させてこその夢よ」
いつもこう言っていた。
「あんたにはそういう夢はないの?」
「俺の夢か?」
「そう、あんたの夢」
俺に顔を向けて尋ねてきた。
「それはないの?あんたには」
「あるって言ったらあるな」
俺もいつもこう答えた。
「それはな。あるぜ」
「じゃあ何なの?あんたの夢って」
「親父の店継ぐさ」
俺の家はバイク屋だ。バイクの他に自転車もやっている。こう言っちゃなんだが結構大きな店だ。俺はその店の長男で店を継ぐことになっている。
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